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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎二つ目のラビリンス編⭐︎
5/50

第5話 次の町へ。でもお呼びでないのも現る

 それから日も落ち、夜。

 森を出た二人は街道を進み、少し外れた川の畔で、野営の準備を行う。


 暑いと感じるくらいの昼とは一変、冷え込む顔を見せ始め、細木を集めて火を起こし、暖を取る。


「火打石なんてよく持ってたね。わたし手で木をこう、ぐるぐるって擦って、火を起こそうと思ってたんだけど」


 空の元気を見せて、空の動作をしていたレトリだが、すぐに溜息を落とす。


「はぁ、でもお腹空いたねー。魚いないし、木の実も全然なかったし」


 茸だけは手に入り、串に刺し焼いてはいるが……。

 食欲は湧いてこない。


「わたしキノコ好きじゃないんだ。あのぐにっとした食感が、嫌で。残したことはないんだけど。贅沢言うわけにはいかないし」


 さっきから独り言を言う見たくなっており、隣に目を向ければ、ゴルのムスっとした顔が映る。

 

「言いたいことがあるなら言ってくれなきゃわからない」


 やはり返事はない。腕を組んで瞑目しており、「おーい、ゴルくーん」と顔の前で手を振ってみても微動だにせず、ふとこう思う。


「もしかして寝ちゃった?」

「アホか。お前という奴は。人が気を使ってやっていれば」

「あ、起きてた。知ってる。ゴルくん結構良い奴だよね♪」


「黙れ。いつまでついてくるつもりだ」

「へ?」

「へであるか。町へ戻るようそれとなーく促してただろ。俺の努力を無駄にしやがって。いい加減帰れよ」


「それが、そういう訳にもいかないんだって。聞いてよ、ゴルくん」

「聞くか、帰れ」

「聞いて、帰らない」

「やかましい! もう俺についてくるなああああ!」


 できない相談だ。ラビリンスが見えなくなるまで立派に役目を果たし、帰ることをシスターには誓っている。


 それをすぐに戻っては、何の為に魂の解放者となったのか。

 見定める必要も出てきた。

 この行いが、正しいのかどうか。

 もし、悪だとしたらすっぱりやめるつもりだ。


 自由に使えるお金を手に入れたら、欲しい物は沢山あり、出発前から膨らませていた妄想も全部パァとなるが、自身には帰る場所があり、いつもの暮らしに戻るだけ。


 星を見上げる。今日はどこか違って見える。

 隣にいる人が違うから、そう思うのかもしれない。

 気分も大分良くなり、自然と鼻歌がもれた。


「おいブタ」

「ブタ?」

「なんで今歌えるんだよ。図太い神経しやがって。食わないのか。好きなトリュフは置いてないがな」

「トリュフを美味しいと思ったこと、ないよ? わたしはいいや。先に寝るね」


 横になるなり、即座に微睡みの中。寝息を立て始めた彼女を見る彼の表情とくれば、呆気の二文字。

 言葉もないと言った様子。

 少しして、がしがしと頭を掻く。


「今のうちに出て、置いていくか? 無理か。恐ろしい足の速さだしな。匂いで追ってきそうでもあるし、とんだブタ犬を拾ったもんだ……」


 明朝に目を覚まし、二人は立つ。

 今日も良い天気で、爽やかな空気を吸い込みつつ、伸びをすると小鳥が囀る。


「おはようってさ」

「鳥の言葉がわかるのか。流石はブタの心を持つ犬だな」

「豚の心? 鳥と犬は関係ないじゃん」

「全部動物だろ。お前と話してると疲れてくるな」

「もう?」

「黙れ」


「ここでも変身できたらいいのにね。そしたらひとっ飛び」

「だとしたらこんな杖なんて必要ないだろ。それだけで持ってるわけじゃないがな」


「わかった。武器にするんだ。爆発するんでしょ♪」

「するか、アホか。中に剣が収まってるんだ」

「へぇ、見せて」

「機会があればな」

「ケチ!」


 会話を弾ませ、快調に進めていたのも最初の内だけ。ゴルが早い段階で息を上げ、昼が近付いてくる頃には、大分ペースも落ち、よく立ち止まる。


「はぁ、はぁ……」

「大丈夫? やっぱり町でお医者さんに診てもらった方が」

「何でもない。行きたきゃ先に行け」

「そんなこと言ってないじゃん。強がり」

「うるさい。昨日はあまり眠れなかったから、疲れが残ってるんだ」


 どう見たってその程度には映らない。

 どうしたものかと困っていると、馬車が通りがかったのは幸運だったろう。

 乗せても貰えた。顔見知りだったから。


「ありがとう。助かっちゃった。おじさんは向こう町に戻るところ?」

「ああ。しかしまさか、レトリちゃんが魂の解放者になっていたとはねぇ」

「自分でもびっくり。もう一つラビリンスを突破したんだよ」


「そういえば、あの町の傍にできたと。変わった様子がないからただの噂話かと。大人には見えないものだからねぇ。凄いじゃないか」


「でも救おうとして、わたしが追い出しちゃった魂は、わたしのこと怨んでた」


「なに気にすることはない。レトリちゃんは正しい行いをした。それに今頃、その怨み言を言っていた魂も、天国で涙を流しながら感謝しているさ。私は救われた。天使のような少女よ、ありがとうって」


「絶対ない」

「いやいや、それはおじさんが保証しよう」

「おじさんに保証されても」

「はっはっは、これは手厳しい」


 それはそうと、そっちの彼はと尋ねられ、


「ゴルくん」

「ゴルゴラ・ビスターレです。世話になります」


 紹介する場面なんかもあり、揺られている内に、気付けばもう隣町は目前。入り口の所で降ろして貰う。


「ありがとー! また手伝いに行くねー! 三年後とかになるかもしれないけど」


 片手を上げて返され、歩き出す。

 初めてくる町ではない。案内しようと彼の手を引こうとすると、払い除けられ、何故か不機嫌そうだ。


「教会の所まで送って貰えよ。できただろ」

「案内してあげようと。あっ、そっか! ゴルくん怪我してるから」

「してない。しててもかすり傷だ」

「なんでそんな無理するの? わたしわからないよ」


「お前には関係ない」

「ゴルくんて急に冷たくなるよね。落差が激しいっていうのかな」

「ずっと俺は冷たかったと思うがな。俺の気のせいか」

「ううん。ゴルくんは優しかったよ。あの時」


 チッ、と舌打ちされてももう慣れっこだ。

 手を引いて案内する。今度は振り払われない。


「諦めも大事と思う」

「黙れ。うるさい」

「あはは。わたしさ、よくお節介とか、厚かましいって言われるんだ」

「自覚あってやってんのか。余計タチ悪いな」


「シスターにそれは良いことだって。誰かを放っておけないのは、あなたの美徳だって言われて」

「何が美徳だ。悪徳の間違いだろ。大体どんなものでも度が過ぎれば」


「あ! あそこのパンすっごく硬いんだよ。こんなの武器だってみんな」

「そういうところもお前の悪いところだな。もしかしてこっちもわざとなのか」

「たまにね♪」


 その言葉を聞けば、もう文句も出ない様子。

 呆れ切ったような大きな溜息だけを返され、彼女の目は街並みへ向く。


 どこも煉瓦、歩く道まで。


 こっちはあっちより大きな町で、その分荷馬車や行き交う人も多く、嫌な人間もいたりする。


「おい、あいつじじいみたく杖なんかついてるぞ」

「ほんとだ。だっせー。歩けないのかよ」


 そんなからかう声が聞こえ、見れば、三人組の男の子達。

 カチンときており、彼女はきつく睨み返す。

 押し黙った。気圧されたような顔だ。

 ふん、とそっぽを向く。


「気にすることないよ。いこ、ゴルくん」

「俺は別にどうでもいいんだが」

「なんで、どうでもよくなんかないよ! ああもう、ムカムカするう。なんであんなこと言うかな。信じられない」


「だからなんでお前が。お前は俺の姉さんか」

「言われてもわからない。わたしその人知らないし」

「確かにな。悪い」


 この町ですることは、ラビリンスの情報集め。

 場所を尋ねるのなら、教会が一番。

 魂の解放とは、言わば浄化の役目であり、そこの管轄である。


 真っすぐ向かう気もなかったが、優れない彼の顔色を見て、結局そうせざるをえなかった。


 到着。彼女は駆け、中にいた若い司祭(※神父様のこと)の元まで行って、事情を話す。

 するとうーむと唸り、渋い顔を見せた。


「前の老司祭なら、でもほら、少し前にぽっくりと――」


 もしかして、知らないのだろうか?

 そんな風に期待を寄せていた彼女の瞳に落胆の色が覗くや否や、オホン、と咳払いが入った。

 威厳を醸し出すような大仰な動作も入り、告げられる。


「今啓示が降りました。魂の解放者達よ、西を目指しなさい。西の町ニャムテーへ向かうのです」

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