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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
☆最後のラビリンス編☆

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第46話 神は語る

 ふっ、とその姿を見守っていたメシアの口から笑みがこぼれ落ちると、口に運びかけていたカップが下ろされて、呟きがもれる。


「大きな壁を乗り越え、本来の力を取り戻すこともできた。いいや、自分自身にやっとなれた、と言った方がいいのかもね」


「お前はどこ見て何言ってんだ」


「はて、何の話をしていたか。悪いね、歳で。軽く四ケタとか超えてるから。もっと敬った話し方をしてもいいんじゃないかな」


「お前がイラつく話し方しかしないからだろ。ジョブってのは神様からその時与えられたものじゃなく、お前の血から発現したものとか言ってたろ。質問しろとか言っておいて勝手に好き放題喋りまくってな」


「あ、そうだったそうだった。そうだ、勇者とか呼ばれてた男のせいで一人の女の子の人生が悲惨なことになった話を今からしようと思う」


「すんな。そんな奴だったのかよ。お前はさっきから何なんだ」

「聞きたいと思っていることを話している感じかな」


「そんなの別に――、俺も何聞きたいのか忘れちまったよ」

「姉の所在ならローズルの所で間違いないよ。ただ覚悟しておくことだ」

「……、モンスターにでも変わってるってのか」

「だったら顔もわからずに倒せるんだから。現実はもっと非情だよ」


「俺は――、俺のやることは変わらない。魂を解放して連れ戻し、天国へ送ってやることだ」

「志は素晴らしいけど、できるのかな。君にそれが」

「やるだけだろ。できるできないなんかじゃない」


「そうか。僕は全部仕留めたつもりだったんだけどね。逃げ果せたのもいてね」

「だから唐突に話を変えんな」


「ローズルの話だよ。主神の怒りを買い、身と魂をばらばらに砕かれ地に落とされようと、神ゆえ死なず、その怨みを募らせ災いを振り撒くようになった彼の討伐を命じられたのが、四人の天使達であり、僕だ。神に似せて創られた人という種の最高傑作」


「要は自慢話かよ。それで、その功績で召し上げられ、今は神とか、そういうことを言いたいのか」

「それもある。けど僕がどれほど凄い力を持った人間だったかを理解してもらう為でもある。もはや異常者だよ。自分で言うのいやだなぁ」


「じゃあ言うなよ。超優れた人間とかでよかったろ」

「それじゃ理解できない。その程度ではないからね。僕の拳は大岩を砕き、足で地面を蹴れば地が大きく割れた。そういうことができる人間が身近にもいないかい。技術でじゃなくて純粋な力でだよ」


 皆の視線がレトリへ向かい、困惑浮かべた顔となる。


「わ、わたし?」

「他に誰がいるんだ。異常な筋肉持ってるだろ」

「それはそうだけど――、わたしも?」


 その言葉でハっと気が付き、彼が首の向きを戻せば、メシアのにやついた顔が目に入る。怪訝を示す。


「こいつもって言いたいのかよ」

「いやいや、最高傑作というのは唯一無二を表す言葉だからね、それが二つもあってはおかしいように思わないだろうか。ただ僕は人間だったんだ。何事にも旺盛な男児で、子供の君には少し早かったかな」


「……、いや、よくわかった。今のが答えだろ。子供」

「正解。君も、彼女も、そして横の君もだ。君達は僕の子孫で、だから特別な力を持ってる。ああ、君だけは違うよ」


 省かれたのはビーティであり、何故か目力込めた頷きを何度もされ、青筋立てた。


「だから何って感じなんだけど。煽ってんのかしら」

「そんなまさか! でも不憫には思っていてね。一人失敗作共の血しか混じっていない特別さの欠片もない凡人だなんてねぇ、嫌だよねぇ」

「うっざ。殴る」


「あ、ストップストップ。でも高貴な人間の生まれ変わりではあるんだよ? 前世は狂乱の時代に悪逆非道の限りを尽くし、最後は首を刎ねられた公爵令嬢なんだけど。未来風に言うと転生悪役令嬢だね。嬉しいかい?」

「お前そろそろ歯を食いしばれ」


 メシアの顔目掛け、おらぁ、と振るわれた拳は虚空へ抜けて、眩い光に包まれる。

 ハッハッハ、と大きな笑い声がした。


「彼女も戻ったことだし、名残惜しいがここまでとしよう。あとは全部頭に叩き込んであげるよ。最後にレトリ、また会おう。ここで。君が世界を救うんだ」


 気付けば四人は元の場所に立っており、頭に膨大な量の情報が流れ込んで、脳が悲鳴を上げて、意識の混濁を起こし倒れ込む。


「出てきたぞ」

「何が起きたのよ。ちょっとみんな、大丈夫!?」


 シアンとビゼンテが駆け寄り、皆を抱き起こす。

 回復は早く、すぐに四人は意識を戻すが、揃って頭を押さえており、呻く。


「いったー……、百年分くらい無理やり勉強させられたみたい」

「マジふざけやがって。誰がバーバリアンだ、誰が。俺かよ。俺なのかよ。パワー系過ぎる姉さん引き合いに出されたら何も言えねぇだろうが、クソッタレ」


「あんたそんなこと言われたの? 私はあの場で散々言われたからか、セラの話とか勇者のこととか、世界のことが主ね。全ての歴史の黒幕はローズル。どんだけ闇深い神なのよ」


「えーと、ありがとう、ゴザイマス。ビゼンテ」

「ハッ、呼び捨てか。仕事をしたまでだ。礼ならシアンに言え」

「シアンもありがとうゴザイマス」


「いやぁ、こんなことしかできなくてごめんね。ビゼンテも照れちゃって」

「照れてなどない。頭を叩くぞ」

「ほら、こんな風に照れ屋なのよ」


 シアンを睨みつける彼の前にビーティが行き、見上げた。


「なんだ、言いたいことでもあるのか。生意気娘」

「あなた、ツンデレ惑星だったのね。デレの引力出てるわよ」

「何を言ってるんだ。意味がわからない」


 横から大きな笑い声が上がる。

 その後、せっかく首都まで来たのだからと少し観光していく流れとなり、都を巡った。

 焼けたタレの良い香りが漂う場所で、ビシっと親指が出元の店に向けられ、前の列に並ぶ。


「アンジェル・メシアの名物と言ったら、これだからな。精がつくと肝料理を初代王のメシアが好んでよく食べたそうでな。特にここのたれ焼きは旨い。別格と言って過言ではないだろう。勿論、凝った料理もあるがな、高いからな。いやしかし高いだけあって人生一度は食べてみるべき味の最高峰とも言えるもので、舌の上で肝の旨味がほどけていくというか、庶民料理のガツンとくるのとはまた違った味わい深さがあってだな」


「ごめん、こいつマニアなのよ。度し難いほどのグルメマニア」

「肝って時点でうげって気分なんだが。でもそういや、あいつ王様だったな」

「はは、敬う心とか、ちょっと忘れてたよね?」

「すごくいい匂いだ。口の中がよだれでいっぱいだ。待つのはつらい……」

「マテよ。ウルフ、まだマテ。私がイイと言うまでは駄目だからね」


 レトリの瞳の奥、その光景を微笑ましく見守るセラがいて、そんな彼女に声が掛かる。

 心の内で、ひっそりと。『一緒に食べようね』と。

 返事は『うん』で、花咲くような笑みも浮く。


 同じ頃、ウィルが交渉のテーブルについており、前には敵意剥き出しの子達が座る。

 場所は古都。会議小屋。言ったら生徒会室のような所まで、金の力で押し通っており、その金を今も撒く。手から滑り落として卓へ。

 高価な品も山ほど持参してきており、人の心を掴むには、まず物だ。次に言葉である。


「他に欲しいものはあるかね。望むものを望むまま用意しよう。世界の救世主達よ。力を貸して欲しい」

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