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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
☆最後のラビリンス編☆

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第45話 メシアと『セラ』

 四人は真っ白な世界に放り込まれており、同じように動揺走らせ、辺りを見回す。


「天界?」

「確かに似てるが。天使と会った場所に」

「ゴルくん、思い出した?」


「まあな。直近で会ってるからな」

「ちょっきん?」


「二人で分かり合ってないでよー。私達は初めてなんだから。にしたって何もない場所というか、殺風景でこれが天界って」

「昼寝してる時みたいだ」

「何がよ」

「あったかい」


「セラ、ここわかる?」


 そう尋ねた直後に地面が大きく揺れた。無数の大蛇の首が下から覗き、ぼこぼこ出てきて、その身で天を覆っていく。皆仰天し、思わずペンダントを掴む。


「ううう、うそ!? なんでこいつがここにっ!」

「変身は、無理か。まさかハメられたのか……」

「嫌なこと言わないでよ。メシアじゃなくて邪神ローズルだったって言いたいんでしょ。神だからって、そんなのアリ。ナシって言いなさい、誰か」

「こいつ、なんか違うぞ。大きいだけだ。はり、はりぼた?」


 魂焼き尽くす深淵の炎と、聞き覚えのある声がして、大蛇が白い炎に包まれ、灰になる。と同時に耳障りな嘲笑がこだました。


「アッハハハハハ、みんな久しぶりねぇ。元気にしてたぁ?」


 クリフォトが蛇の後ろから現れ、白いステッキを振り回す。宙に投げ、消した。


「この服に合ってないのよねぇ。今のも深淵の炎じゃないし。でも力を借りてる相手は似たようなものなんだけど」


「クリフォト、なんでお前がここに……、わたしがやっつけたのに!」

「知らないわよ。気付いたらここにいた。今生み出されたみたいよ。案内役として」

「どういう意味」


「ついてきたらわかるんじゃない。ブスなレトリ」

「ぶ、ブスじゃないよ! ブスって言った方がブスなんだよ!」

「よく吠える犬だこと」

「ワン! バカ。可愛いってよく言ってた癖に。それにビーティの方がずっと綺麗だよ。あ、セラは綺麗だよ。クリフォトとは違うからね」


「アホな弁明してんな」

「アホじゃないよ。言いたいことわかってよ」

「でもいいこと言ったわ。もっと言ってやりなさい。あと百億回は言ってやるべきね」

「あいつクリフォトだけど、たぶんクリフォトじゃないぞ。悪いって感じがしないんだ」


「可笑しなことを言うアホオオカミ。撫でてあげてもいいんだけど、早くついてきなさい。案内役って言ったのをもう忘れたのかしら、お馬鹿なレトリは」


「うーわ。口の悪さが増してる。初めのころのゴルくんじゃん」

「俺を引き合いに出すな。悪かったよ」

「え?」


 和らいだ顔でフっと笑い、初めて見せるような顔をしたかと思えば、クリフォトは身を返し、歩いていく。

 きょとんとした表情で、四人は顔を見合わせ、ついていった。


 しばらくすると、白い世界に色がつく。


 足元に急に花畑が現れ、色取り取りの花びらの舞うその中で、ぽつんとあるテーブル席に腰掛け、カップを傾ける男がいた。


「よく来たね。来るのは視えていた。僕は未来が視えるんだ。どうしてだと思う」

「神様だからでしょ。クソメシア」

「ハッハッハ、即座にネタバラシ。流石は聖女と祀り上げられ苦しみ続けてきた哀れな娘の裏の人格。性格がひねくれまくっていて、笑うしかないほどだよ。なぁ、セラ」


「あの、セラがやめてくださいって。もう天使長に言い付けましたって。剣で突き刺してもらいます? うわぁ」

「こっちがうわぁだよね!? 表の人格も中々バイオレンスじゃないか。今だからだろうけど。君はその素顔を誰にも見せることはできなかった。親にさえ、聖女としての自分を求められた」


「すごくセラが嫌がってて。お願いですからもうやめてあげてください。メシア様」

「別にいいよ。あとは二人の問題だからね。セラ、受け入れることができなければ君は前へは進めないよ。死ぬことになると言っておいてあげたのに。また繰り返すつもりじゃないだろう。肉体の枷から解き放たれようと、魂が別れたままでは力は発揮できない。それじゃ、頑張って」


 メシアがカップを置いて、指を弾く。セラが姿を現わして、クリフォトと一緒に光に包まれた。共にこの場から消える。


「さて、君達は特にやることもない。何か僕に聞きたいことがあるなら、今のうちに聞いておくことをお勧めするよ」


 四人は前まで行き、まずあの二人に何をしたのか、何をさせようとしているのかを尋ねる。


「表と裏を併せ持つのが人だよね。一つになって、初めて彼女は人として成長できる。受け入れ、天使の力と悪魔の力を操るようになった時、果たしてそんな人間を君らは何と呼ぶ。聖女かな、それとも魔女かな」


 遠く離れた場所で、二つの力が激突する。

 クリフォトがぶっ放した魔法をセラが光の障壁で防いでおり、必死に耐える彼女の後ろにワープして、けつを蹴り上げた。前に転ぶ。


「バーカ。何その無様な格好」


 彼女もワープして、背後を取り返すが、しかしもう前にはおらず、また後ろからけつを蹴り上げられた。再びすっ転ぶ。


「滑稽ね。なんで私の動きが読めないの。私は全部読めるのに」

「…………」

「私はあなた、でも認めたくない。あなたなんか私じゃないって、いつまで下を向いて這いつくばってるわけ?」


 彼女は睨み返し、拒絶するように全面に障壁を張るが、クリフォトはその障壁をすり抜け、胸倉を掴み上げ起こす。


「学習なさいよ。認めなさいよ。あなたは誰、私は誰」


 パシン、と高い音が鳴る。

 クリフォトの頬を平手で彼女が打っていたが、「痛いわよ」の言葉のあとに頭突きをお見舞いされ、怯んだところにステッキを向けられる。


「魂焼き尽くす、深淵の炎」


 炎が走って、絶叫がこだました。


「ああああああああああああああ」

「耳障りな悲鳴上げてないで、早くどうにかしたら。自分の炎なんだから」


 どうにもできず、ただ苦しみに耐え、炎が収まってくると、どさり、と倒れ込む彼女をクリフォトはまた掴み上げ起こす。


「魂溶けるまでやってあげる」


 何度も、何度も、炎が彼女の身を焼いた。痛みで朦朧とする意識の中、ふと目に入った自らの手は綺麗なもので、疑問も浮く。


 どうしてこんなに痛いのに、焼け爛れもしていないのか。直視もしにくい状態のように思っていたのに。

 気付けば痛みもすぐ収まり、炎が放たれ、意思の力ではね返す。クリフォトの身を焼くが、痛がる素振りもない。初めて笑い返された。


「私達は魂を共有する者同士。私の力は、あなたの力。そうでしょ」

「……、ずっと嫌だった。聖女って呼ばれるのが。みんなと違う目で見られるのが」

「そうそう、すごく嫌だった。何もかも放り出して、逃げてしまいたいっていつも思ってた」


「天使が嫌いだった。大嫌いだった。なんで」

「なんで私なの、私を選んだのって、いつも思ってたわよね。四人も入って、人の身では持て余すその大きな力に、ずっと苦しめられてきた」


「病弱で、熱ばかり出して」

「人は治せるのに自分は治せない」


「なんで?」

「天使は自分だけは救ってくれないの」


「私も普通の子に生まれたかった! みんなみたいに外で遊んで、笑い合って」

「普通の子達が羨ましくて、妬ましくて」


「私も普通がよかった。特別なんて」

「嫌だった。最悪だった」


「私は、世界なんて救いたいわけじゃなくて、ただみんなと同じように自由になりたくて」

「無理してみんなの言いなりになって、最後は命を落とした」


「怨んだ」

「呪った」

「この世界が憎くて憎くて、みんなみんな、死んじゃえって!」

「だから私になった。心の闇を振り撒く深淵の魔女クリフォトに」


「あの時は目が覚めたと思った。誰かのためなんかじゃなく、これからは自分のために生きようって。でも、罪は償わないと……」


「多くの普通の子を殺した。それが何」

「…………」

「まだ聖女でありたいの」

「わからない。でも自分のしたいことをするつもり。それが人を救うことになるのなら、少しでも罪滅ぼしになるのなら、一番じゃないかなって」


「どう思う?」

「私が言おうとしてたのに」

「何か問題でも」

「ない。全然ない。だって、あなたも私だから。心の内を全部曝け出して、もう天使達は私に失望しちゃって、力を貸してくれないかもしれないけど」

「私を頼ればいい」

「私だもんね」


 二人は互いに伸ばした手を合わせ、身を一つにし、魂を重ね合う。

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