第44話 最終決戦見据え、首都へ
「ララ、ミザリー、ティア、パム。見ていたか。ゴルが仇を取ってくれたぞ。無念を晴らしてくれた」
「そういや、あいつらそんな名だったな。忘れてた」
「……、ショックでだろう」
「いいや、嫌いだったからだよ」
「そんな風には見えなかったがね」
「気のせいだろ。人を玩具か人形みたいに扱いやがって。ずっと暑苦しい奴らだって思ってた」
「そうかね。なら今はそういうことにしておくとしよう」
「おう。そうしとけ」
「ゴルくんってさ、どんな時でもゴルくんだよね」
「だからその妙な言い方やめろ」
「だって、ゴルくんだし」
「そうね。ゴルって感じがしたわ」
「オレも思った。わからないが、ゴルだって」
「お前らな」
「ハハ、気持ちの整理もやっとついた。そろそろ墓を立ててやらねばな。怒られそうだ」
「まだだよ。まだ立てんな」
「……、それは、自分で立てたいという意味で」
「違う。まだ姉さんを連れ戻してない。あいつらもだ。あの中にはいなかった」
脱出の際に見た霊達は、皆大人だった。彼は隣のレトリを指す。
「詳しくはこいつに聞いてくれ」
「そんないきなり。えーとですね、ラビリンスで死んだ子達は、悪戯の神ローズルに魂を囚われていて、あ、ローズルっていうのはロキのことで、その悪戯が原因で天界から落とされることになって、ラビリンスの悪魔に――」
途中で止めたのは、ウィルの顔を見た感じ、話についてこられていないような気がしたからで、平気なのか尋ねれば、こくっと頷かれる。
「ほんとに?」
「ハッ、何度も驚かされて慣れてきた感じもあってね。普段なら荒唐無稽に思える話も今ならすっと信じられる。それは君に宿る前の聖女から聞いたのかね」
「わたしじゃなくて、核にです。中にいたのは別人格? クリフォトっていう名のセラなんですけど」
ペンダントを引っ張り出すと、手のひらを向けて返される。
深いしわを眉間に寄せ、険しい顔付きを彼は見せており、一つ大きな溜息が吐き出されると、どこか疲れたような笑みを浮かべた。
「なるほど。そこには天使が宿っているものと勝手に思い込んでいたが、違ったか」
「はい。最初にわたしを選んだのがさっき言ったローズルの力で深淵の魔女クリフォトと変わったセラで、今のセラとは全然別人で」
「あー、わかったわかった。そういう魂胆なのかね。君は私を混乱させまくって楽しんでいるのだろう。これはもうそうに違いない」
「ち、ちがいますよ!」
「違わなくはないと思うのだがね。もはや何がなんだか……、頭が痛い」
「ウィル。そういう時はこう言うんだ。ウルフ、今の話わかったか」
「わからないぞ」
「そういうことだ。今は理解を放棄しとけ。そのうち理解もする。次は死の谷へ行く。まだ帰るわけにはいかないんだ。お前らはどうする。そのローズルって邪神がいると噂の地に行こうって話だ」
「いくでしょ。ここまできたら。世界を救わせて貰うわよ♪ 窮地に陥ってる感じもないけど」
「ね。世界を救うって感じでもないけど、当然わたしも――、あ、待って」
「セラが話しかけてきたか?」
「オレもそう思った」
「二人共当たり♪ このまま行っても絶対勝てないから、しょだいおう? のメシアに会いにいけって」
「メシアだあ!?」
「まさかの建国者!? それって過去に飛べってこと? 天使の力なら可能?」
「ううん。まだいるみたい。生まれ故郷に」
「ならば私に任せておきたまえ!」
「うわ、急に元気」
「丁度世界を救う気があるかどうかを尋ねようと思っていたが、必要なくなった。首都なら交通の便も良い。キップを用意しよう」
大した負傷があるわけでもなし、明くる日にはここから立つことになる。
カシムナを筆頭に世話になった集落の人間達に礼を言い、首都を目指して一度町の方まで戻る。
神が相手となれば、もっともっと助力が必要。
協力を仰ぎに行くと言うウィルと手前の所で別れ、そこからは彼の召使い達に案内役が引き継がれた。
二人おり、一人には見覚えがある。
ホテルにいた男で、エレベーターで気絶させた三人は特によく覚えていた。
あ、と思わず口から出もする。
「ビゼンテと申します。教会の人間が捜し回っておりますので、我々の子のフリをして、ついてきてください」
「私はシアンね。みんな似てないから、お互いの連れ子みたいな感じで合わせてくれると助かるかな」
「シアン、口調が乱れていますよ」
「そんな丁寧にやる方が怪しまれるって」
「……、それもそうか。ほらいくぞいくぞ、チビ共。さっさとパパの車に乗り込めえっ」
「いやそれはちょっと砕きすぎなような。言い方も気持ち悪いし。ごめんね、ビゼンテって器用なタイプでもないから」
ウィルのとは別の車で送って貰い、小屋のような所へ連れていかれて着替えを行うことになる。ピシっとした服を着せられて、身嗜みも整えられた。
そうしたら、次は駅だ。
煙を上げて列車がくれば、初めて見る乗り物にゴルを除いて目も丸くなり、よくわからないまま中に案内されて、席に着く。ほどなく、動き出す。
「おぉおおおお、走り始めたみたいだよ! 外見て!」
「動いてるだけだろ。しかし盲点だった。そんな金がないから端から移動手段として外してたんだよなぁ。金があるならこれが一番早くて楽だよな」
「ゴルは、はじめてじゃないのか?」
「まあな」
「そもそも頭になかった人間の身にもなってくれる。こんな近代的乗り物、田舎じゃ無縁よ」
「ビーティもよくしらないものなのか?」
「多少は知ってるわよ。石炭を食べて走るのよ」
「せき、たん。おいしいのか?」
「そうね。食べてみたらわかるかも」
「食わそうとすんな。大体こいつだって食ってるわけじゃなくて、確か石炭燃料を燃やすことで発生する蒸気を利用して、シリンダーだかピストンだかいう部品を稼働させて動力を得て走っている、らしい。俺も詳しくは知らん」
「あんたマニア?」
「ねぇ、ビゼンテ。子供の会話してないわよ。ゴルくんのことは前から知ってたけど、こんなに利口だったの? 私子供のころもっと馬鹿だった」
「クソ生意気な子とは思ってた」
「あんた、大人げない」
「すいませんね。クソ生意気で」
出鼻から妙な雰囲気になるも、喧嘩になるようなこともなく、二週間弱の長旅を経て、東の首都アンジェル・メシアに着く。
この都の歴史は古く、その古風な町並みを今に残しつつ、近代化の波も一番受けており、よく目を凝らせば、田舎ではまず目にしない電気機器や家電に溢れ、人の数も桁外れ。
駅に降りれば、まずその数に圧倒される。
「うわ、うわぁー、いっぱいだ」
「流石は首都だな。ここを杖つきながら歩いてたら、かったるかったろうな」
シアンが前に出て、皆を引っ張っていく。
「みんなはぐれないように。ほらこっち。お母さんについておいで♪」
「オレの母さんはオオカミだ。ニンゲンだとそうは思えない」
「慣れよ、慣れ。慣れるべし」
「君は、あまり口を開かない方がいいかもな。ボロを出しそうだ」
「チッ、嫌ですわね。言葉を選ばずズケズケ言う大人って。ウルフもそう思うわよねー」
「わからないぞ」
「く、これだから生意気な子供は。口の減らない」
「何やってんのあんた! 子供達連れてさっさと来る!」
「わかってる! 今いくとこだ」
用があるのは、建国者メシアを祀る祠。代々の王族が眠る大聖堂の中にあり、触ったりはできないが、一部一般向けに解放されており、傍で見ることは可能だ。
途中、広場に立つ彼の雄々しい姿を模った石像を眺めていると、カメラマンに声を掛けられ、流れで一枚。
撮ってすぐに現像可能なポロライドカメラであり、その場で写真を受け取る。
それを見て全員、しばし固まった。
カメラマンはにこやかに手渡してきたが、写真をよく見ていなかったか、見ないふりをしたか。写ってはならないものが写っており、しかもはっきりとわかるほど鮮明にだ。
「嘘でしょ。ビゼンテ、あんた何か怨まれるようなことでもした?」
「俺じゃないだろ。流石は魂の解放者だな。幽霊が写り込むとはな」
「写りたかったのかな? あれセラだよ」
「見ればわかる。正直クリフォトそっくりで血の気が引いたんだが」
「まあ当たり前っちゃ当たり前なんだけど、心臓には悪いわよね」
「ぜんぜん違うと思うぞ。目がやさしいんだ」
子供四人の会話は少し離れた場所で小声で行われており、大人二人には聞こえておらず、向かうのを再開しようとしたその時、
――待っていた、と四人にだけ聞こえ、次の瞬間姿を消す。
シアンとビゼンテの目には瞬きの間に起こった出来事であり、動揺も走る。
「ちょっと、消えたわよ!」
「騒ぐな。旦那様が俺を行かせたわけだ。俺はいつも余計なことはしない。旦那様もそれは理解してる」
「そんなこと言ってる場合?」
「だから落ち着け。目立つ。ただ黙って待っていればいいんだ。それが俺達の仕事だ。無事に戻ってこいよ。でなきゃ今度こそ俺はクビだ」




