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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
⭐︎六つ目のラビリンス編⭐︎

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第42話 少年と英雄の一騎打ち

「魔導兵士のパーツをつけて戦う奴は初めてみた。技術の進歩か。俺が死んでから随分経ったと見える。どれくらい経った。それとも俺を知らんか。少年、こちらの言葉がうまいようだが異国人だろう」


「通じている理由は不明だが、普通に話してるだけだよ。お前のことも知ってる。千年近く前に滅んだ国の英雄だ」

「千年――、そんなにか」

「俺も答えたんだ。お前も質問に答えろ。ここに女がきたか。歳は俺と同じくらい。四人組だ」


「四人組は見ていない。しかし女は見たぞ。屈強な男でも振り回すのに苦労しそうな大斧を容易く振り回す娘で、死に場所を探していた」


「死に場所だと? 嘘をつくな。次ついたら殺す!」

「嘘を言った覚えはないな」


 レーザーが二発、バルムンクの顔に向かって放たれ、剣に弾かれ消える。


「少年、魔導兵士の武器では俺を殺せん。そこの勇者を頼れ。女でしかも子供というのは意外だったが、強いのだろう。天使の魔法ならば俺も殺せる」

「……、勇者ってやつの記録は、全くと言っていいほど残ってないんだよ。聖女みたいなやつだったか」

「笑わせてくれるな。そんなものとはほど遠い馬鹿な男だ。しかし不憫な奴だ。だとしたら俺も大して覚えられていないのだろうな」


「お前は山ほど残ってる。英雄バルムンク。どうして悪魔の手先に堕ちた。神だったなんて話もさっき聞いたがな」

「神に違いない。俺は死後、確かに会った。その時未練はないか、怨みを晴らしたくないかと言われたが、どうでもいいと断ったのだがな。気付けばここだ。囚われの身となった。あれは邪神か。俺に目をつけるとは慧眼だな」


「最後に聞きたい。どうして姉さんを斬った。お前は自分を制御できないような感じもない。殺さない選択も、あっただろ!」

「そうか、あの娘、お前の姉だったか。ここに来る前に既に腹に致命傷を負っていてな。俺とて女子供など斬りたくはなかったが、情けをかけたつもりだ」


「だから殺してやったと。それで墓まで立てて……」

「そうだ、少年。お前には俺に復讐を果たす権利がある。無抵抗ではいてやるが、先に忠告しておいてやる。死期を早めるだけとな。俺の身は、俺が使わなくとも強いぞ。恐らくそうなる」


「レトリ! 二人を連れてここから離れてろ!」

「は、離れてろって、一人でやる気! 無茶だよ!」

「俺を信じるんだろ。なら最後まで信じろ。お前らがいたら思いきりやれないんだよ。頼むから」


 彼の身から迸り、放たれる怒りに圧倒される形で、彼女は口を閉じ、渋々二人を両脇に抱え、飛んでいく。


 射殺すように彼の両目が引き絞られ、レーザーが次々射出される。

 振り回される剣で順に叩き落とされていき、バルムンクは両目を閉じた。その身からは瘴気が立ち昇り、覆われていく。


「やはりこうなるか。少年、奇跡が起こることを祈ろう。さらばだ」


 完全に覆い尽くされると、一度剣がしまわれ、直後に抜き放たれて横一閃。斬撃が飛ぶ。

 彼はそれを船刀で弾き上げ、器用に受け流す。

 しかし次の瞬間には、眼前まで踏み込まれており、鋭い突きがきた。


 上体倒しで躱し、すると身の上を通過した剣が跳ね上がって、今度は上から体を真っ二つにするような振り下ろしがきて、機械の脚で後ろに下がりつつ、受け止めその反動を利用して、彼は一気に距離を離した。


 レーザーで牽制して斬撃飛ばしを封じ、傍まで引き込んで、船からとび降りる。

 追いかけてきた。狙い通り。


 浜の方が広く使える上、足場の悪さもある。生身の脚なら機動力も落ちよう。

 周りを高速で回って、狙いを取り辛くもする。


 平行して、休むことなくレーザーも打ち続けていたが、バルムンクの剣が円形に振り回されるや、斬撃も円の形で飛び、受け止めることはせず、身を倒して躱す。


 起こすと同時、次の一発が進行方向に先打ちされていることに気が付き、彼は咄嗟にガード。

 縦の斬撃に歯向かうことはせず、わざと押し込まれて威力を落としはしたが、刃こぼれは起こし、また次だ。今度は身を捻って躱す。


「チッ、この野郎! 手ぇ抜いてたか!」

 

 斬撃を飛ばす際、剣を鞘にしまう必要があるように思っていたが、なかったようで、ばんばん飛ばすようになってきて、たまらず後退。


 すると飛ばさなくなったが、初めて見せる構えを取った。

 今から突きこみます、と言わんばかりに刃先を前に向け、駆けてくる。


 大した速さではない。どころか遅いとすら感じ、レーザーを撃ちこんだ次の瞬間、前にいた。

 かなりの距離があったはず。なのに、そこに着くまでが全く映らず、剣が腹目掛けて突きこまれ、捻る回避が僅かに間に合わず、腰の傍を抉られ、そこまで伸びる脚パーツも同時にやられた。


 動かない足の方であり、片足一本での制御などしたこともなく、うまく扱えずにごろごろ転がるようにして、距離を離す。


 すぐに身を起こし、立て直しはしたが、高く持ち上げられた剣が振り下ろされて、斬撃が来る。

 まずいと思った。まともに受ければ刃が持つかは怪しい。避けることも不可。


 求めに求めた姉の仇を前にして、一太刀も浴びせることなく死ぬ。

 そのことに彼は猛烈に怒りを感じ、自らの不甲斐なさを呪いながら奥歯を噛み締める。


 まだ、まだ俺は何もと心の中で叫んだその瞬間、視界が急に白くなった。

 花畑と天使が映る。白炎上がる剣を向けられ、突きつけられた。


『何をしている。立ち上がれ。自らを責める暇があったら立ち向かえ。君の勇壮な戦いぶりをまた見たいと思い、手を貸してやったのだから。もう立てない足ではないだろう』


 そうだ、そうだったと、天使と会った時のことを彼は思い出す。

 君を気に入ったと告げられ、ここまで導くことを約束されて宣言を返した。


 必ず仇を打ち倒し、姉を連れ帰ると。視界が戻る。


「パージ」


 身を重くするものは全て外し、両足に力を込めて、彼は横っとびして斬撃を躱す。

 砂の上を一回転して、立ち上がり、剣を両手で握る。すると刀身から白炎が上がり、纏う。


「サービスかよ。サンキュウ。ご期待には添えさせてもらおう」


 軽く動かしてみた動かなかった足に違和感もない。

 まるで初めから動いていたかのように、命令通りによく動き、足元の感触をよく伝えてくる。

 跳ね、ステップを踏んだ。今ならできるか、紙一重の見切り。


「両足動かすのが夢だったんだ。いくぜ、バルムンク。第二ラウンドだ」


 次々飛んでくる斬撃を薄皮一枚のところで避け、彼は前に進む。

 集中は極限にまで達しており、互いに剣が届く距離までくれば、斬撃ももう飛んではこない。


 斬って、斬られてのただの斬り合いとなり、激しく刀身をぶつけ合う。


 大人と子供。リーチの差は大きい。膂力にも大きな差があるが、身が小さく当て辛いというのも厄介で、天使の力が宿った剣を振り回すというのもこれまた厄介だろう。


 始めは互角、しかしバルムンクの剣にひびが入って、折れると同時に一太刀入る。

 下からの斬り上げであり、骨を断つほど深くは入っておらず踏み込んで、振り下ろし、もう一太刀浴びせた。


 二段目も同様、深くは入れさせて貰えなかったが、二回も斬ったなら致命傷だ。

 血こそ噴き上げなかったが、後ろに大きくとび退いていたバルムンクは白炎に身を巻かれており、決着はついた。纏う瘴気が剥がれていく。


 素顔を覗かせた。笑っていた。


「ハハ、言い訳をするつもりはない。見事としか言いようがないな。少年、名を聞かせて貰えるか」

「ゴルゴラ・ビスターレだ。姉さんの仇、取らせて貰ったぞ」

「強い響きのする良い名だな。魂に刻み込む前に、これを贈ろう」


 バルムンクが折れた剣を鞘に戻し、腰を落として構える。抜き放って、斬撃を飛ばした。

 と、同時にその場から姿を消す。背後から声がした。


「これが俺の本来の剣だ。あの世でまたやろう。我がライバルよ」


 振り返れば、バルムンクは既に白炎に呑まれており、言葉を返そうとすると天使の力を宿した船刀が折れて、斬撃が横を抜けていく。軌道がずれていたのは知っていた。


 しかし自分で受けるとは想像もしておらず、その一撃で白炎諸共姿を消す。

 声だけが内に響いた。


 ――まだ勝負はついていないのだからな、と。

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