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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
⭐︎六つ目のラビリンス編⭐︎

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40/50

第40話 腐敗の女神

「ラビリンスの中で海を見るってのも不思議な気分になるが、わりと何でもありな所だしな。海にまつわる怪物と言ったら何だ。クラーケンか?」


 言いつつ、ゴルは船へ向かうが、誰も付いてはこない。振り返って気が付く。

 疲労困憊の顔が映り、腰を下ろして一休み。


「はぁー、もうくたくた」

「オレもだ。なんかどかんてきた」

「やっぱり追ってはこない感じ? そんな気はしてたけど」

「魂をあの階に縛られてるんじゃないか。知らないがな」


「あんたは平気そうね。その脚だから?」

「まあな。小刻みに動くのは難しいが、長時間走っても疲れ知らずな良い脚だ」

「便利ね」


「いいな。あ、これ素直な気持ちで言ったもので、悪い意味でというか、変な意味で言ったものじゃ」

「何に気ぃ使ってんだよ。それより海にまつわる怪物だ。想定しておいた方がいいだろ」


「ヨルムンガンド? 海の底に横たわる大蛇で、神話の怪物だよ」

「レヴィアタン。どんな武器も通じないこっちも神話の怪物。出てきて欲しくない筆頭って感じね」

「他には」

「……、みんななんでそんなに知ってるんだ? オレさいしょは変に思わなかったけど、いまは変に思う。なんでだ?」


「何が言いたいのか、もう少しはっきり言葉になさい」


「毎日勉強してるわけでもないのに、俺達だけが色々知ってるってことが、変ってことなんじゃないか。ウルフ、人間の世界には学校っていう色々教えて貰える場所があるんだよ。俺はそこの元教師に昔教わっててな。ウィルにつけられたんだが」


「わたしはシスターがいたから。ウルフにとってのバッシームさんみたいな」


「ビーティはどうしてた?」

「外で遊ぶなんてことしたらぶたれるから、有り余るほどあった本を読むくらいしかすることなかったの。目を盗んでよく拝借してて。博識なのはそのおかげってとこ」


「本か。本はいいな。知らないことをたくさん知れる」

「そうだな。お前はまだまだ人間の世界のことを知らない。まあ無知やろうってことだ」

「これから学んでいけばいいってさ。ゴルくん言い方ぶきっちょだから」


「うるさいな。お前は俺の母さんか」

「お母さんよりお姉ちゃんかな? わたしの方が背高いし♪」

「気のせいだろ。第一そんなこと言ったらな、隣見ろ」


 四人の中で一番背が高いのはウルフであり、頭一つは違う。丸い目が二人を見る。


「あー、ウルフお兄ちゃんになるね」

「ないない。あんたはみんなの弟。世話の焼けるね」

「オレ、兄だ。アッシュの」

「うそ、じゃあ私のお義兄さんになるの?」

「いや、そうはならないような」


「バカなこと言ってないでそろそろ行くぞ。船に乗る為の板橋もご丁寧にかけてくれてるしな」


 向かい、斜めに架かったそれを登って、乗り込む。

 帆が独りでに上がっていき、張られるや船が出る。

 三階とは一変、四階の空は真昼を映し、下の海と同じ青を広げて、穏やかな風も吹く。


「ここはいい天気だな。でもくさいぞ」

「潮の香りのこと言ってんのか?」

「さっきまでのことが嘘みたいというか、のどか」

「見て見て! こっち!」


 縁から身を乗り出し、水面を上から覗き込めば、澄み渡り、色取り取りの枝を伸ばすサンゴ礁が船底を彩る。見ているだけで心も弾む。

 

「海ってさ、すごく綺麗」

「花畑の上でも進んでるみたいだよな」

「何あんた、急に詩人みたいなこと言って。似合わないけど」

「うるさいな」


「これ花なのか? 蜜はあるのか?」

「どうなんだろ?」


「とび込むなよ。何が出てくるかもわからない」

「ねぇ、セイレーンってことはない?」


「しまった。そいつがいたか。美しい歌声で船乗りを惑わし、船を沈めてしまう鳥女の怪物。穏やかな海ってのもぽいな。難破するはずのないこういう海で実際聞こえてくるそうだぞ」


「ならさ、耳塞いでおこうよ」

「オレ、塞いでても聞こえる」

「そのマントでも巻いておいたら?」


「待て。まだ何が出るかわからない。冷静に、まずはあそこを開けてみるべきじゃないか」


 船室のことであり、ノブを掴んで回し、回せない。押しても引いても開かない。

 レーザーをぶち込んでもびくともしなかった。


「入れないってことな。入られたら困るってことか?」

「音を壁で遮断されたら困るってこと」


「決まりだな」

「決まりね」

「えぇえっ!?」


「レトリ、どうしたんだ?」

「過剰なんだよ。なんだそのオーバーなリアクション」

「わざとらしすぎではある」


「違うって、セラと話してて。さっき話し掛けてきて」


「何を話してたんだ。俺はまだ信用してないんだが」

「私もよ。でもどうしてもってあんたが言うから」


「すごく謝ってるから、それ以上は言わないであげてくれると。あのね、女の怪物かもって」


「女の怪物? やっぱセイレーンか!」

「早計。根拠は?」

「言葉を話す狼、空を覆うほどの大蛇、次は腐敗の女神だよね」


「はあ?」

「もしかして、ロキの子供達のこと言ってる?」


「うん。本当はローズルって名前なんだって。ラビリンスの悪魔は実際は天界から落とされた神様で、名前をローズル。子供を攫って遊び相手にする悪戯の神」


「はああ!?」

「やばいやばいやばい、急に爆弾発言ぶっこんでこないで。今思考が全部ぶっとんだわよ! どういうこと、つまりはどういうこと?」


「悪魔じゃなくて、神様がラビリンスを作っているということか?」


「ウルフ! 急に知能指数上げるのよしなさい! 私より先に答えを導き出すんじゃあない!」

「……、理不尽だ」

「意味合ってるけど頭良く喋んなぁ! ああああ、もうバカーッ!」


 海に叫びがこだまする。思い切り声を出したからか、ビーティの発狂も収束を見せ、荒い息を吐いたあと、レトリは詰め寄られた。


「どういうことよ。一から千臆くらい説明なさい。まさか今まで隠してた?」

「ちがうちがう、ちがうって! わたしも今聞いて」


「やはり信用ならないな。この土壇場で言うことじゃないだろ」

「それは、ごめんなさいって。謝ってるしほら」


 謝って済む問題じゃない、と二人の声が揃う。

 それと同時、ウルフが首の向きを変え、高い所へ登り出す。見ているのは先の空であり、特に変わった様子もないが、空気は僅かに湿りけを帯び、波乱の予兆を告げる。


「みんな、嵐がくる」

「嵐? そんな感じもないが、お前が言うときそうだな。どうやり過ごす」


 どわ、と声を上げ、ビーティが腰を抜かす。前を指差した。


「今度はなんだ。お前までどうした」

「いま、海に骸骨が浮かんでて……」

「どこだろ、ゴルくん見える?」


「バイザーにも映ってはないが、疑う場面でもない。いつ出たっておかしくないんだ。ウルフ! 戻ってこい!」

「ちょっと待って。今頭の中で線が繋がった気がする。骸、腐敗の女神――、つまるところは、死者の軍勢?」


 ウルフがとび降りてきて、考え込むビーティの口からそんな言葉がもれた直後、答え合わせがあった。

 ああ、あああと、どこからともなくおどろおどろしい声が上がり始め、晴れ渡る空が次の瞬間には、曇に覆われる。雨が降り始めた。


 波も荒れ出す。船も大きく揺れ出し、船底の方から嫌な音がした。バン、バンと叩く音だ。

 無数に聞こえ、引っ掻くような音もして、登ってくるようでもある。


「チッ、急に表示がバグりやがった。全員構えろ!」

「あれなに!」


 レトリがステッキで示す先、太く、しなやかに動くそれはほどけていき、四人に襲いかかった。


「キモいんだよ!」


 光の剣でぶった斬ればわかる。ぱらぱらと舞うそれは髪であり、いつの間にやらクイーンが絡めとられており、海中に引き摺り込まれた。


「ちょっと、何してくれてんのよ!」

「オレがいく。とりもどす!」

「ウルフ待って!」

「その通りだ。落ち着け。迂闊に行けば敵の思うつぼだ。もう亡者共も上がってくるようだしな」

 

 彼がメットを投げ捨てた直後、縁の外から無数の骨の腕が突き出され、一斉に這い上がってくる。

 おぞましい声を上げながらであり、剣や斧を引きずって、取り囲んでくる。


「うわ、ほんとに亡者……」


「ゴル。こいつらがゾンビか?」

「お前好きだな、ゾンビ。骨だしスケルトンだろ」


「黒くないから連れてきた奴ら? ケルベロス思い出すわね」


「ウルフ! お前はビーティの護衛だ! レトリ! 俺とこい!」

「うん、一緒に蹴散らしちゃおう」


 二人で突撃していき、骸骨共を言葉通り蹴散らしていく。

 しかし倒しても倒しても、きりがなく、船の上があがってくる敵で隙間なく埋まっていく。


 揺れて攻撃しにくいこともあり、少しでも手間取れば数の暴力で一気に押し込まれ、逃げ場も失せてくる。


「クソがっ! これじゃいずれ四面楚歌だぞ!」

「ゴルくん上!」


 もたげられ、伸びた髪が上から滝のように降ってきて、寸でのところで二人は跳びはね躱し、何とか難を逃れたが、今の一発で口にした通りの状況となる。

 使える床マスを大きく潰され、残してきた二人と分断される形で追い込まれた。

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