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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎一つ目のラビリンス編⭐︎
4/50

第4話 大爆発。魂のフルスイング

「胸じゃない。なら頭か?」


 そちらにも光線が飛んでいくが、やはり効果は見受けられない。

 光の剣を出し、彼は飛び出していく。


「まどろっこしい。足を斬り落として、そのあとじっくり料理してやる」

「――待って!」


 そんな小さな剣で、どうにかできる相手なのか。巨人が武器を振り上げ、向かっていく彼目掛けて振り下ろした。


 轟音と共に破壊が振り撒かれる。


 衝撃波がこちらまできて、礫が掠めた。衝撃波には、飛び散った床の破片が散弾のように混じる。


「――っ!」


 彼女は腕を被せて前を覆う。彼はどうなった。吹きつける爆風が収まってくると、隙間から覗き見て、確認。

 無事だ。足元に潜り込んでおり、巨人の足を斬って斬って、斬りまくっている。


 ハイスピードで回りながらであり、巨人は翻弄されている様子。嫌がるような声を出し、跳ねた。一気に距離を空け、振りかぶる。


「ゴルくん! 気を付けて!」


 返事はない。視線も動かない。前に集中しているようで、巨人が剣を振り下ろすのに合わせて、横へ駆け出す。


 破片混じらせ走る衝撃波が襲いかかって、彼の脇腹を大きいのが捉えた。


 身を弾き上げられ、宙を舞い、床に落ちるとそのまま勢い良く転がっていく。

 血の気が引いて、彼女はとび出す。名を叫びつつ駆け寄った。

 抱き起せばぐったりしており、声も震える。


「ゴルくん、ゴルくん、しっかりして……」


 揺すったって返事はない。

 死んだのか、それともまだ、と考える暇すら与えてはくれないようだ。


 巨人が駆けてくる。あの大きさだ。

 来るのは、数秒後。


 立ち上がって、構えた。向かっていく。

 猶予のない今、それが最善に思えたから。


「やあああああああああ」


 恐怖をはね返そうと腹の底から声を上げ、身を突き動かす。すると身の毛もよだつような声を返され、竦み上がりそうになったが、勇気を振り絞った。


 ここで引いたら、彼の死が確定的となる。


 嫌だ、それだけは嫌だ。絶対見たくないと、意地のようなものまで薪としてくべ、その小さく灯った勇気の火が決して吹き消されないよう大きく燃え上がらす。声を上げた。


「こい! 巨人! お前なんか、もう怖くはないんだ!」


 前まで来た巨人が見せたのは、薙ぎ払い。

 こちらの身をすくい上げるように横から振ってきて、彼女は大ジャンプ。更に羽ばたく。


 高く、高く飛んで、顔の前まで。

 頭に浮かぶ魔法を発動させる為の言葉を復唱した。


「血の炎!」


 ステッキを振って、血のような赤い液体を振り撒いて、かける。

 鼻の辺りにかかったそれは、直後に発火し顔全体へと広がっていき、巨人の頭を炎で包み込む。


 苦しむように声を上げ、のたうち始めた。


「どうだっ! 参ったか!」


 ただ、ぶんぶん剣も振り回し始め、彼女は慌ててその場から退散。

 地上へ降りていると、シュィーンと彼の機械が上げる音を耳にして、振り向く。


 こちらへ来ており合流。肩に手が乗った。


「やるじゃないか」

「ゴルくんっ」


 思わず抱きつく。バカ、バカ放せ死ぬ、と言われて放したが、謝罪の言葉よりも先に涙が出て、何も言えなくなる。


「チッ、なんで泣くんだよ。これだから――、そうでもないか。まだ終わってないんだ。こっちよりあっち見ろ」


 膝を落として剣を手放し、暴れることはなくなっていたが、顔の火は薄くなってきており、鎮火するのも時間の問題だろう。

 ならもう一度と構えるが、静止が入った。


「お前の火じゃ火力不足だ。あのでかぶつを仕留める為には、もっと大きな火がいる」


 何か言う前に拳が前にきて、


「今から奥の手を使う。とどめ、任せていいか」


 その手を握った。頷き返す。

 普通は打ち返すんだよと笑われてしまったが、悪い気もしない。


 放して、見送った。


 走る彼は変身した時のような光を上げており、いや、もっと眩く、激しい光に包まれていき、一気に収束。その瞬間、跳び上がった。巨人の懐へとび込む。


「全魔導エネルギー解放。オーバーヒート――自爆だああああっ!」


 爆炎上がって、轟音響く。


 凄まじい大爆発であり、熱波吹き荒れ、彼女も吹き飛ぶことにはなったが、巨人の絶叫も聞こえ、もくもく上がる深い煙の中から彼も飛び出てくる。


 ただ吹っ飛んできており、空中でキャッチ。

 酷い姿で、目も虚ろ。

 しかし口元は確かに笑みを作る。


「すごい威力だろ。核を、破壊しろ。持って帰ろうなんて、考えるな、よ……」

「わかった。あとは任せて」


 下ろして、硝煙の中へ。傍まで来ると、巨人の姿が視認できた。

 白い骨だけの姿となっており、かなり上の方に、怪しい光を放つ何かがある。


「核」


 瞬時にそう理解して、羽ばたき立つ。全力飛行だ。余計なことは一切考えない。壊すことだけ考え、加速していく。


 骨の合い間を抜けて、身の内へ。核の前まできた。ステッキを大きく振りかぶる。


「魂を、解放しろぉおっ!」


 叫んで、振って、核を砕き割った。

 破片が飛び散り、きらきらと舞う。

 それらには記憶の断片のような景色が映り込んでおり、見ていると、頭の中に映像が流れ込んでくる。


 妻子の写真を見つめ、涙を落としていた。

 気持ちも伝わってくる。凄く悲しい気持ちだ。


 何があったかは、わからない。


 しかし魂の解放者の力で穢れを落とし、ここに囚われた魂を救い出すことができた。


 天へと導いてやることができた。


 良いことができたと思うと充足感に包まれ、自然と視線が上を向き、昇っていくところを見るつもりでいたら、思わぬ言葉を頂戴する。


 ――許さぬ。許さぬぞ。怨んでやる。


「え?」


 ――死してたどり着いた安らぎの場すら奪う、貴様らを。


「待って! 誤解してる! だってわたしは、魂の解放者で、あなたみたいな穢れた魂を、ここから解放してっ――」


 骨の身を崩していき、巨人は溶け、消える。跡形もなく失せた。


「救ってあげるのが……、使命で、良いことだって」


 全身の力が抜け、ぼんやりとした顔で彼女は下へ降り、その場にへたり込んだ。


「なんで、どうして……?」


 小さく口にする。


 魂の解放者となった時は、随分浮かれていた。

 崇高な役目を神に与えられたのだと、そうシスターに言われて無邪気に喜んで、それを果たしてみれば、これだ。


 悪いことをしたようにしか思えない。

 実際、そうなのだろう。怨まれた。

 力尽くでここから追い出して。


「わたしわからないよ。この行いは良いことじゃなかったの!」


 ぐらぐらと地面が揺れ始める。

 床や壁、天井にも次々亀裂が入っていき、ボスのいなくなったラビリンスが崩壊を始める。

 その光景を放心状態で眺めていると、小さくか細い声が耳に届く。


「レトリ、レトリ……」

「…………」

「何やってる。早く、にげるぞ」


 涙の顔で彼女が振り返ると、苛立たしげに見えた彼の顔がふいに和らいで、優しい面差しに変わる。


「なに、泣いてんだ」


 無理に起き上がろうとするのが見え、彼女は慌てて駆け寄った。崩れ落ちそうになる彼を抱き止める。


「なんだ。立てるんじゃないか」


 部屋の入り口を彼は指す。


「いけ。迷うな。今すべきことだけを考えろ。走れ、走るんだ。ほらゴー、レトリ」


 犬に言うような言葉であり、彼女は泣き顔のまま笑った。


「もう、犬じゃないよ」


 それでも気は紛れ、多少は元気も出てくる。冷静にもなれた。

 確かに今は、ただ前を向いて、走っていく時だ。

 彼を抱き上げ、部屋から飛び出していく。


 あっという間に三階を後にし、少し身構えていた外のようにだだっ広かった二階だが、ただの部屋となっており、突破もすぐ。


 残す一階は、長いだけの一本道。

 その長さが今は厄介だが、迷うことはない。

 砂煙巻き上げ、バビューンと音でもさせるような俊足見せて、駆け抜け外へ。


 とび出して、地面に降りると同時、役目を終えたように変身も解け、振り返って、見上げた。


 ラビリンスが消えていく。その姿を薄れさせ。ばらばらに壊れたりはしないようだ。


「結構手強い奴だったな。――いっつ!」

「動いちゃダメだって!」

「いいから、下ろしてくれ」


 躊躇いがちにではあるが、言われた通りにすると、彼はすぐに体勢を崩して、地面に手をつき這っていく。

 入る時投げ捨てていた杖の所まで。


 掴んで、立って、こちらへ向き直った。


「レトリ、お前は正しいことをした」

「…………」

「悔やむな。穢れた魂を放っておけば、どうなるかくらいは知っているだろう。お前はここが初めてのようだし、すぐ傍の町に住んでるんじゃないか。家族や町の連中をお前は救ったんだよ。そのことを誇れ。胸を張って、みんなの所へ帰るんだよ」


 何も言わずにいると、戻ってきて、ぽんと頭の上に手が乗った。

 俯けていた顔を持ち上げられ、何かそれが、優しく撫でられているようにも感じる。


「俯く必要はない。それにそんな顔は、お前には似合わない。馬鹿面で笑っていたらいいんだ。バカ女らしく」

「二言くらい余計」

「お前が柄にもないことをさせるからだ。帰るぞ」

「うんっ!」


 辺りを包んでいた瘴気もしだいに晴れ、真上に昇った日が見え始めると、陽光降り注いで枯れた大地を照らす。

 ここもそのうち、在りし日の姿を取り戻し、緑豊かな場所へと還ることだろう。

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