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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
⭐︎六つ目のラビリンス編⭐︎

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32/50

第32話 姉からの手紙

 皆で選び始めたはよいが、パパっと決めてしまった人間から手持ち無沙汰となる。

 一声掛けて、ゴルは先に出ていく。


「俺は外で待ってるぞ」

「うん! ごめんね! もう少し掛かりそう」

「こっちの方が合うと思わない?」

「良いと思う。あ、でもこれなんかも――」

「オレも外で」

「あんたは役目があるでしょーが。ゴルは絶対好きにしろよとしか言わないけど、似合う似合わないくらいあんたは言えるでしょ」

「……、わからないぞ」


 扉を締めればそんな会話も聞こえなくなり、何気なく見上げた空は澄み渡って、高く感じ、軽く歩いて、壁に寄りかかる。背中を預けた。


 彼は目を瞑り、思考を回す。


 気になってならないのは、どうしてこんなに早く自分達の情報が出回ったのか。

 そもそも教会がそれを知ってどう動くかわからず、広めること自体が難しいと感じていたのに、その問題が知らぬ間にクリアされ、気持ち悪いことこの上ない。


「――裏付け、どうやった?」


 ここに着くまでに日数はかなり掛かっている。可能か不可能かで言ったら、理論上可能ではありそうだが、普通は情報の裏取りくらいするだろう。


 それもせず、人の噂話を信じ込んで、新聞屋がばら撒いた。ゴシップ紙ではないのだ。

 なら、どう考えたって時間が足りていない。


「人間業じゃないだろ。大体教会関係者は何してる。あのラビリンスの存在は闇に葬りたかった。逆に利用することでも思い付いたか? だとしてもやっぱ時間の問題が――」


 この難問を突破しないことには、話が進まない。どこの誰ならできる。どのような手法を用いればできる。苛立ち募って思わず髪を掻きあげ、頭を掻く。


「無理だ。誰にだってできるかよ。人間業じゃないってさっき結論出たろうが。なら神様か?」


 冗談で言ったら天使のことが頭に浮かび、顔を横に振ってその考えを払った。

 あり得ない。聖女でもないただの人間の男の一人の為に、神の使いが動くなど。


 ただ、会った時、何か話した記憶はある。

 どんな会話だったかは思い出せないが、決意表明のようなことはした。


 そんな感覚だけは今尚残り、思わず握った拳に目を落とし、再度顔を振った。


「だから馬鹿なこと考えてんなって。どうせ見落としでもあるんだろ。何かトリックかカラクリでも、天使とか馬鹿なこと――、いやでも、もしあいつが願ったとしたなら」


 ガラス越しに見れば、まだまだ夢中になっており、溜息落とし、暇で、意味なく指先で腕をとんとんやったりして待っていた、そんな折、前に一台の車が止まる。


 田舎だと滅多に見られるものではないが、都会ならば別だ。

 金持ちの足として普及しており、降りてきた人物を見て、彼は息を呑む。

 気取った服を着て、顔には優美な笑みを覗かせ、こちらを見ており、寄ってもくる。


「ゴル。君がこの町に来たという知らせを聞いて、居ても立っても居られず車を走らせてみれば、思いのほかすぐ見つかって驚かされたよ。久しぶりだね」


「……、何の用です。俺とはもう無関係なはずです」


「君が怒る気持ちもわかる。私のあずかり知らぬところで君にそう言い、暴力まで振るったバカな召使いはもう放逐してある。あれは私の指示じゃない。偶発的に起きた事故のようなものなんだ。言った通りツケは支払わせた。許して貰えないだろうか」


「ウィッグカール伯。そもそも怒ってはおりませんので」

「昔のように、もうウィルとは呼んでくれないのだね」


「俺も学ばせて貰いました。大人の生き方とはどういうものなのか。利益になるかどうかで相手を判断する。要らなくなったら捨てたっていい。今はそんな風に生きていますよ」


「君にとって、私はもういらない人間だと、そう言いたいのかな」

「俺は別に何も。ただこんな俺にもついてきてくれる奴らがいて、いえ、共に旅をする仲間ができて、満足した暮らしを送れているというか、住む世界が違いますよね。俺とあなたではもう」


「だからもう関わり合いになることはないと、そう言いたいのだね。君と私の仲じゃないか。つれないことを言ってくれる」


「姉さんがいたからでしょう。姉さんがいなくなったなら、もうお互いに用なんてない。どうぞお引き取りください」


「ふ、相変わらずの生意気さ加減だ。そういうところはちっとも変わってなくて安心できた。さあ行こう。君に渡したいものもあるんだ」

「は? おい!」


 手が伸びてきて、脇に抱え上げられ、連れて行かれる。

 強引なことこの上ないが、懐かしさも感じてしまい、勝手に力が抜け、溜息もれた。


「はぁ、相変わらずなのはどっちだよ」

「ハッハッハ、やっとらしくなってきたね。君の作った仲間にも興味がある。迎えを出しておくから安心するといい。昔話に花でも咲かせようじゃないか。あのラビリンスのことなど忘れてね」


 彼がその場からいなくなってしまったことに、中の三人は気付かない。

 長い時間を掛けてようやく服選びも終わり、外に出て、やっと気が付く。


「ゴルくん、終わったよ。――あれ? いない」

「ホテルに戻ったんじゃない。ちょっと迷い過ぎちゃったわね」

「オレ、服屋が嫌いになりそうだ」

「ごめーん」

「悪かったわよ。無理に付き合わせて」


 ひとまず帰路に着く。

 するとホテルの入り口の所で大柄な男に呼び止められ、前を塞がれた。


「こんにちは。少し聞きたいんだけど、この町にきた小さな英雄達を探していてね」

「あ、はい。多分それわたし達のことです」


 こんな怪しい男に即答すんなと、ビーティは思うが、言ってしまったのなら仕方なし。

 レトリを押し退け、前に出る。顔には優雅な笑みを張り付けた。


「何か御用でしょうか。どなたかの使いとお見受けしましたけれど」

「ウィッグカール伯と言って伝わるかなぁ。偉い伯爵様で、あの路地裏のダイヤモンドを後ろから手助けしていた」

「まあ、あのウィッグカール卿が。存じ上げております。高名な方ですもの」

「なら話は早い。その方から頼まれて、迎えに来たんだよ。ビスターレくんももう居て、みんなを待ってる。ついてきてくれるかい」


「……、ハッ、嫌よ。それだけ聞ければ十分。私貴族って人間のそういうとこ心の底から嫌いなの」


 次の瞬間、彼女の甲高い笑い声が響き渡り、周囲にこだまする。皆固まった。


「び、ビーティ……?」

「あ、あいつみたいだ……」

「この笑い方ほんっと耳障りよね。ウルフ、レトリ。ゴルどうやら無理やり連れてかれちゃったみたいだから、こいつらこてんぱんにのしてくれる」


「へ?」

「どういうことなんだ、わからないぞ」


「いいから言う通りにする。いい、これほんと言われた方は生きた心地がしないのよ。ウルフ、目の前の男を見なさい。美味しそうに見えてこない? 食べ頃に見えるでしょ♪ ほらいけ、食べてヨシ!」


 きょとんとした顔をしつつもウルフは首の向きを変え、歯を剥き出しにして唸る。男の首筋にとびついた。

 悲鳴が上がって、少し離れた場所から駆けてくる似た服装をした男達がいて、彼女の指はそいつらの方に向く。


「レトリ。あんたの相手はあっち。空高く吹き飛ばしてやんなさい」

「なんかクリフォトに命じられてるみたいでやだな」


 渋々ではあるが、レトリが対応して、人外の速さで懐に入って、腹に一発。続けて横の男にも一発。

 それだけで大の男が立て続けに沈み、まだいた最後の一人は完全に動きを止め、驚愕を浮かべており、ウルフが走ってきて、跳び蹴りで寝かしつけた。


「なんて良い気分♪ すっごい爽快感♪ 上から見下ろす気分ってこんな感じなのねぇ。病みつきになりそうだわぁ♥」

「悪趣味すぎる……。超悪女じゃん。ビーティどうしちゃったの?」

「大したことじゃないのよ。今までの仕返しをしたい気分になっただけで。そうよね、下手に出る必要なんてない。上から支配すればいい。力で屈服させちゃえばいいだけよ。フフ」


「レトリ。ビーティが怖いぞ」

「なんか色々溜まってたんだろうね。爆発したらわたしもこの世の全てを力で支配したくなるし」

「……、レトリも怖い。ゴル、助けてくれ」


 首を噛まれて腰を抜かしていた男にビーティが詰め寄って、主の居所を聞き出す。

 同刻、町一番のホテルの最上階、そのオーナールームで、ゴルは手渡された手紙を開く。


 ゴルくんへ

 

『これを読んでるってことは、私はもう死んでるはずだけど、まだ生きてるのに不思議な気分。元気してる?


 こんなことしか書けなくて、ごめん。何も思い浮かばなくて。

 大丈夫? へこんでない? ウィルも泣いてへこんでるだろうけど、その時は、元気づけてあげてよ。

 ゴルくんそういうの得意じゃん。得意でもないか。やっぱり浮かばないや。

 駄目な姉でごめん。さようなら。先に天国に行ってる』


 短く、実に姉らしい言葉で文が綴られ、瞑目することで泣くのを彼は堪える。

 涙など、見せたくもない男の前だ。

 遺書も畳んで元の状態に戻し、机に置いて前に滑らせ、返却もしておいた


「何の真似かな。それは君へのものだ」

「もう見ましたので」

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