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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎一つ目のラビリンス編⭐︎

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第3話 ボスの種類と待ち構えていたボス

「んんー……」

「なんだよ。不服そうだな」

「ごめん。全然似合ってないと思って」


「お前、言って良いことと悪いことがあるだろ。まあ、お前のような女には、この名のかっこよさが理解できないか。強く逞しい響きだろうが」


「自分で言うんだ。変わった性格してるよね」

「お前にだけは言われたくない。お前にだけは」

「とにかくよろしくね、ゴルくん」

「その呼び方はやめろ。お前に言われると不愉快だ」


「なんで」

「なんでもだ。いちいち突っかかってくんな」

「ケチ」

「口の減らない奴だな。それよりお前も教えろ」

「何を、ああ、苗字? メープル。メープル孤児院の子はみんな」


「知らねぇよ。どこだよ。お前の使ってるモンスターのことだよ。さっきからわりと気になってんだ」


「ヴァンパイア」

「お前、さらっと嘘つくのな。誰が騙されんだよ」

「本当だって! ほらこれ見てよ」


 指をひっかけ、大きく開けた口からは鋭い牙が覗く。

 歯を閉じた時に犬歯のところに妙な引っかかりがあり、気づいていた。ただ信じてもらおうと一生懸命見せても彼の反応は薄い。


「だけだろ。翼もなければ服も違う。そのステッキも自前の物じゃないんだろ。ヴァンパイアは、そんなの持ってないぞ」

「このヴァンパイアは女の子で、大人じゃないから」

「女の子だあ?」


 大人じゃないから翼が生えていないのではと、そう言おうとしたのだが、背中の方に意識を向けた瞬間、何かあると感じ、怪訝な顔する彼の前で彼女はそれを動かす──、開いた。


 ばさっと音がして後ろから大きな黒羽が覗く。


「あった! びっくりした!」

「びっくりしたのは俺の方だ。さっきまでなかったろ。なかったよな?」


「自信なさげじゃん。あったんだって。うわこれ凄いよ。自由に動く。今なら空を飛べそう。よし、飛ぶかっ!」

「待て。それカラスの羽だろ。普通はコウモリのはずだ。なら特殊個体──」

「とくしゅこたいって?」


「普通とは違う奴ってことだ。もう飛んでいい。というかもうどっか行ってこい。やっぱお前といると面倒だ」


 ニンマリ笑って、彼女は彼の後ろに回り込む。抱きついた。


「寂しいこと言わないで。そら行くよ」


 ばっさばっさと翼を振り、そのまま羽ばたき立つ。

 高い所まで来ると、この場所がよく見渡せた。

 広いなんてものではない。遠くの方は霞がかってわからないが、建物の中にいるという感じは一切しない。


 風を感じる。どこから吹いているのか。やはり中ではなく、外なのか。

 少なくとも、別世界にいるようには感じる。

 飛び回って探索していると思いのほか早くに階段を見つけ、前に降り立つ。声を弾ませた。


「ほら、二人だと簡単に見つかった♪ ──ゴル、ゴラ、くん?」


 雰囲気が妙に感じる。ずっとおとなしかった。もっと暴れるものと思っていたが。

 不思議に思い正面に回り込み、俯けていた顔を下から覗き込んでみると、


「僕に寄るな!」


 いきなり突き飛ばされて、彼女は驚く。

 一体どうしたと言うのか。顔が真っ赤だ。


「わ、わかったか! このバカ女! 不潔だ!」

「もしかして、照れた?」

「そんなわけあるか! 僕が」

「僕?」

「──ってない。言ってない!」


 ぷいっと横を向かれ、おかしいおかしいとぶつぶつと言ったあと、ハっとしたような顔を彼はした。真顔で頓珍漢なことを言ってくる。


「噛みついたか」

「してないよ。やったら普通気付くじゃん」

「だが似たような能力を使ったな」

「使ってません。さっきから何言ってるのかわかんないんだけど……」


「そんなわけあるか。いや、無自覚に発動したか。何にせよもう僕に寄るな。お前は危険だ」

「素直にさ、照れて恥ずかしかったって言えばいいのに」

「お前は人の話を聞け。もういい。階段も見つかったんだ。帰っていいぞ」


「僕一人だと心配だから、ついてくよ」

「言った覚えはない!」

「さっきも言ってましたー。俺って言うより全然いいよ。合ってる」

「黙れ。ついてくるな」


 クールに見えて、どこか愛らしさを覗かせる丸みを帯びたつり目を細め、「いいか、絶対にだぞ」と釘も刺されたが、階段を上り始めた彼の隣へ。


 彼女は構わずついていく。言い分はすでに浮いてある。


「たまたま進む方向が同じなんだよ」

「言ってろよ。犬が」


 上がりきると城の中を彷彿とさせるような華美な部屋に出て、真ん中の所に敷かれた赤いカーペットの先には、大きく重そうな鉄扉。


 この場に漂う気配というか、空気が違い、圧迫感があって、先にいるのはおそらく。


「あの奥にいるの、親玉かな。雰囲気漂ってる」

「お前そんなことも知らないのかよ。何勉強してきたんだ」


「よく寝ちゃってて。なんで勉強ってあんな眠くなるんだろうね? 不思議だよね」

「やっぱバカか。バカ女」

「なら利口なゴルゴラくんは知ってるんだね。やっぱりゴルくんって呼ぶね」


「やめろ。当たり前だろ」

「教えて」

「嫌に決まってんだろ。なんで俺が」

 

 前に回り込み、抱きつくぞという風に両手をわきわきさせて脅せば、怯んだ顔でまず奥には主がいる、ということを彼は肯定し、加えてこう。


「ここはハズレだ。門番がいないからな」

「いるといいことあるわけだ。手強そうだしその分核も……、あああっ!」


 忘れていた。とても重要なことを。


「なんだよ。急に」

「核、拾ってない。あんなに倒したのに」

「二階の夢の住人共のことか。一階は俺が一掃したはずだしな」


「わかんないけど、早く取りに戻ろう」

「見てなかったのか。どいつも落としてなかったろ」

「……、そうだっけ?」


「アホ女。無知過ぎなんだよ。あいつらはボスの見る夢の中の住人。モンスターじゃないから核は落とさない。そう言われてる」


「へぇー、じゃあじゃあ次は」

「おい、時間を取らせんな。俺はお前の先生じゃないんだぞ。ったく」


 ぼやきつつも彼は話してくれた。

 どんなボスなのか。

 その質問には、大きく分けて二種類おり、強いのと弱いのがいるということを。


 そして前者であれば必ず門番がおり、先程口にしかけた思い違いもその流れで正される。


「稼げないからじゃないんだ?」

「それもあるにはあるが、重要なのは後ろに控えたボスの方で、弱いとレベルアップが起きないんだよ」

「へぇー、れべるあっぷ」

「核に宿るモンスターから新たな力を授かることな。もういいだろ。早くいくぞ」


 思いがけない言葉であり、彼女はただ、うん、と返事。並んで向かう。


「結構緊張するね」

「初めてなんだから、当然だろ」

「どうした。急に」

「あのな、お前に何言っても無駄だろ。邪魔だけはするなよ」

「どうしようかなあ?」

「おい」

「冗談♪」

「緊張ほぐすのに俺を使うな」

「あはは、バレた? そうだよね……」


 扉に近付けば、近付くほど、嫌でもその緊張は高まる。

 傍まで来ると、ピークを迎え、無意識に胸の所を押さえつつ、視線を取っ手のありそうな箇所へ──ない。


 どうやって開けるのか。そう思った次の瞬間、独りでに開いていく。

 口も勝手に開いていき、吸い寄せられるように視線も上へ。

 とてつもなく大きな体躯をしている。上にあったのは人の顔だ。


 二階の人形共と酷似し真っ黒で、表情はわかりにくいが、こちらを見るように巨人は首を動かし、次の瞬間、雄たけび上がって、声の暴風が吹き荒れた。


 ──アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


 まるで嵐。吹き飛ばされそうになる。


「何、こいつ──」


 身を踏ん張りつつ、耳を塞いでいたが、頭の中に直接響いてくるような不思議な感覚があり、小さくはならない。

 収まると今度は地鳴りが立つ。まるで、そびえ立つ山が歩いてくるかのよう。

 肩に担ぎあげた大剣構え、どずん、どずんと地面を揺らして向かってくる。


「きてる──、きてるよ! ゴルくん!」

「わかってる。しかし巨人ってのは、実在したんだな」

「そんなこと言ってる場合!?」

「大きな声で喚くな。どれ、お手並み拝見だ」


 彼の左腕が跳ね上がって、前に向く。光った。

 シュワッ シュワッ

 奇怪な音と共に青い光の線が二本飛んでいく。

 巨人の胸の辺りに命中したが、足を緩める気配はない。

 ただ猛然と向かってきて、彼女は息を呑んだ。

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