第20話 先祖返りとジョブについて
お疲れ様、とレトリが二人に笑い掛ける。
「大きな怪我もなさそうだし、よかったよ」
「ボスが弱かったんだろ。強い方のボスなら俺らを待った。違うか」
「ええ、当たり。お見逸れいたしました」
「なんで俺らに知らせず入ったんだ。外にいたら偶然傍にできたとかか? この近さだ、ありえなくもない」
「ごめん、ゴル。オレがはいってしまって」
「そういうわけ」
「なるほどな。で、中の様子を見に行って流れでってやつか」
ビーティの裏拳がウルフの腹に入る。蹲った。
「うぐぐ」
「見ての通りの怪我人なんだけど。この町、医者っている?」
これは二人にもわからず、傍にいる子達に聞けば、碌な知識もないもぐりしかいないとのこと。
「でも消毒や包帯くらいならあるって!」
「ウルフ、骨は折れてんのか?」
「たぶん、だいじょうぶだ」
「自然治癒に任せるしかなさそうね。無茶するからよ」
でこぴんがウルフの額を打つ。
それらの物は宿になら置いてあるそうで、町の中へ戻って、手頃な所へ。
部屋に入り、ビーティはそこで何があったかの詳細を、二人に話した。
「――っていう感じに、認めたくはないけど、私はただのお荷物で。自分が嫌になったわ」
「ビーティがボスの腕を壊してくれたから、オレは勝てた」
「物は言いようっていうけど、たったの腕一本で私は負けたのよ。あんた一人で勝ったようなものじゃない」
「そんなことはない」
「そんなことはある。私はそういう殊勝じみた態度が一番腹立つの」
「しゅしょう、じみた?」
「いいから私の言葉を繰り返す。おれが倒した」
「オ、オレが倒した」
「そう、それでいいの。手柄を譲られても惨めになるだけだもの」
「少しいいか。一瞬でボスの動きを真似て、鏡映しのように戦っていたというのが理解できない。いくら特殊個体といえ、範疇を超えてる。いや、超え過ぎてる。それではまるで――」
「だったらレベルアップなんて起きない。実際レトリはしなかった。そうでしょう」
「だとしたら本人の力ということになるが――、まさか」
「恐らくね」
「二人してわかった顔してないでさー」
「お前のようなやつだってことだ」
「わたし? なんでわたし?」
「人間離れした力を持ってるでしょーが。そういうの先祖返りって言うの」
「ほうほう、先祖返り」
「生まれながらにボスと同じ力を持ってるのよ。正確には、その昔人々が神に与えられていた神聖な力を宿している」
「はい、説明お願いします!」
「……、そう言えばジョブっていうのを知らないんだったわね。これそのまま訳すと職業なんだけど、自分でなるものじゃなくて神に与えられるものを神聖ジョブっていうの。この神聖ジョブが何かって言うと、早い話が異能」
そのわかりやすい例として、彼女は魔法使いをあげる。
「普通の人間は魔法なんて使えないでしょ。でも神聖ジョブの一つウィザードを授けられると言葉一つで使えちゃうようになるわけ。熟練度が上がると更なる力を授けられ、上のジョブになる。前戦ったワイズマンがそう。これが私の言ってた下ジョブや上ジョブ。理解できた?」
「あー、なんとなく理解できてきたような。うーん……」
「ずっと変身状態でいられる魂の解放者って感じよ。これならわかる?」
「うん。でもそうなるとわたしはずっと変身した魂の解放者ってことになるから、わかんなくなってきた」
「これはお手上げね」
「魔法系に例えるからだ。お前は力の上がるタイプだ。例えばそうだな、バーバリアン。乱暴者の力を宿してる」
「ひど! ゴルくんそんな風にわたしのこと思ってたの!?」
「ムキムキの筋肉を持ってるのは間違いないだろ。ウルフ、お前は何だろうな」
「正直それほんと謎。仮に今回のボスと同系統のジョブの力を持っていたとしても、一瞬で動きを真似るなんて、ジョブは初めから何もかも与えてくれる万能な力でもなかったはず。だとしたら修練や鍛錬なんてものは必要なく、熟練も何もないもの」
「考えても無駄だろ。有効に使う手立ての方を考えるべきだ」
「それはそうなんだけど、気にならない?」
「俺は別に」
「ウルフ、今度見せてね♪」
「今見せられるぞ」
ハイ、ハィイ、と掛け声上げ、変身もせず彼が武術の舞を披露したことで、本人の力であるということも確定した。すぐに痛がり、手当ても必要になったが。その後、情報交換の運びとなる。
「そっちは何もなかったろうが、こっちは一つ手に入れててな」
「なるほど。まるまるうまうまってことね?」
「そうだ。かくかくしかじかということだ。やらせんなよ」
「珍しくノリいいわね」
「真面目に話すぞ」
ざっと彼は話す。
「都市一つを丸呑みって、かなりヤバそうね。紅の湖畔並と考えた方がいいかしら……」
「わからない。だとしたらもっと知れ渡ってるはずだ」
「ウルフ。またわからないこと言ってるね?」
「ああ。ゴル?」
「どうした」
「なんか顔がおもかった。おもくつめてた」
「思い詰めてたよ。なんか事情がおあり?」
「紅の湖畔は、姉さんが最後に行ったラビリンスだ。帰ってくることはなかった」
重い沈黙が降りて、ぽつぽつ言うように彼は語り始める。
「でもあの姉さんが、死んだってのが、未だに信じられなくてな。核の力なんかなくても、クマかってくらい強くて、パトロンもいて惚れ込んでたくらいだ。戦斧の乙女ララって呼ばれてたんだが、知らないか?」
「うっそ、超有名な魂の解放者じゃない! 『路地裏のダイヤモンド』のリーダーよね? そういえば、最難関の紅の湖畔のラビリンスに挑むって、聞いたことある気がするわ」
「かなり宣伝されてたからな。勝ちを信じて疑わなかったんだが、結果はこれだ。連れ帰りに行かなきゃならなくなった。その為には、力がいる。姉さんを超えるくらいの。レベルアップが必要なんだ」
「ゴルくん……」
「ゴル……」
「待ちなさい。今嫌な予感がしたわよ」
「フッ、鋭いな。女の勘というやつか。何の為に俺が態々こんなしみったれた話をしたと思う。行ってみないか、そこと同じくらいの場所へ。危険度は聞いての通りだ。だがその分大きなレベルアップが見込める。ビーティ、お前も上がるんじゃないか?」
「命あっての物種でしょーが! 誰がそんなとこ」
「わたしはゴルくんについてくよ。ずっとそうだし」
「バカあんた。ちょっとは考えなさい。んん?」
「オレ、なんか頭がぼやぼやする。怪我してるからか?」
「……、変ね? なんかいけるって感じがしてきたわ。おかしいって自分でも思うんだけど」
「俺もだ。多分冷静じゃない。ただちまちまやってるより、そこを突破すりゃ届くって思うとな。無理強いをするつもりはないが、俺は一人でもいくぞ」
「一人はだめだ! オレもいくぞ! いけるってゴブリンも言ってる!」
「わたしも! みんなでゴルくんのお姉さんを取り返しにいくぞーっ!」
「いやいや趣旨変わってる。それに変な感じもしてて、ダメね、うまく頭が働かない。一回ゆっくり休んで、それからにしない?」
「わかった。ただもし紅の湖畔と同等とするなら、勝った時の名声は計り知れないぞ。ラビリンス攻略を支援してくれるパトロンも現れるだろう。莫大な富を得るチャンスでもある。つまるところ、クソッタレな人生を逆転させるまたとない機会がそこに転がってるってことは、覚えておいてほしい」
「今言わないでよ。そっちになびきそうになるから」
「悪い」
「ちょっと寝るわ。朝早かったし」
欠伸をして、彼女はベッドに横になる。
ウルフも疲労の色が濃く、同じようにすぐ横になって、微睡みの中へ。
「なんか、デート対決どころじゃなくなっちゃったね?」
「別にいいだろ。お前も寝てろ。俺も少し眠い」
「わたしはいいかな。――あ、あれなんだろ」
部屋の隅、妙な所に木板がかかっており、持ち上げると、通れるくらいの穴が。
覗けばどこかの部屋に繋がっているようだ。向こうの壁が見える。
「ちょっと探検してくる。ゴルくんもくる?」
「……、どうせ暇だ」
ベッドから腰を上げ、来る。
珍しいこともあるものだと笑い返して、彼女は先に穴の中へ。
扉のない秘密部屋に出た。中にあったのは、上へ続く階段だけ。
先はまた木板に塞がれており、一緒にのぼって開ければ、屋根の上に出る。
「面白い宿だな♪」
「ねね、そうだよね。丁度風にあたりたい気分でさ」
「探検ってのは口実かよ。まあ俺も実は似たような気分でな」
彼が腰を下ろしたことで、彼女も隣に下ろす。服の下からペンダントを取り出した。




