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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎一つ目のラビリンス編⭐︎
2/50

第2話 ドレスと異形。マッスルゴースト

 光が視界を覆う。次の瞬間、悪寒が走った。


「何、今の」


 女の子の笑い声が内からして、不吉なものを覚えた。ヴァンパイアの声だろうか。


 良い子ね、とそんな言葉も耳にしており、そちらに意識が向いている間に服装が変わっており、彼女はうわと驚く。


「綺麗な服。わたしはこんな風になるんだ……」


 変身するところを見てはいなかった。

 そのことを残念に思いつつも、気分はすぐ上を向いてくる。


「可愛いー、ひらひら♪」


 裾を摘まんで振ってみて、高そうな艶のある丸靴になった足履きで階段を駆け上がり、上でくるりと一回転。


「なんか良い匂いもするー。まさか香水?」


 一緒に舞わせたドレスからは、甘い香りが立ち上り、思う。


「だめだ。もう前の服には戻れないかも。だってさぁ」


 いつも着ているのは、誰かのおさがりの使い古されたボロ着。

 今は黒のミステリアスな雰囲気醸し出すひらひらドレス。

 艶っぽいレースの手袋まで付いて、勝負にすらならない。


「まあ無理だよね。ヴァンパイアの服だもんね。ぽくないけど。女の子だったし、娘とか?」


 ヴァンパイアと言ったら、夜な夜な美女の血を啜りにいく恐ろしい伯爵様なイメージがあったが、さして気になることでもなく、いざ中へ。


「へぇー、こんな感じなんだ」


 前に続いているのは、曲線を描く通路。

 壁の松明に照らされ、内部は明るく、よく先が見える。

 隠れる所がなさそうなのが、少しだけ不安を煽る。両手を前に翳した。


「こい、赤いステッキ」


 吸いつくように現れたそれを両手で握りしめ、攻略開始。

 しかし進めど進めど、何も出てこず、疑問に思う。


 モンスターは何処か。


 ぐるぐる回っているような感覚があり、ずっと同じ景色。一切変化がない。緊張感もとけ、退屈にもなってくる。その時ふと思った。


「あの子が全部倒しちゃったのかな?」


 これはいくら何でも変。絶対そうだと思う。

 ラビリンスはモンスターの巣窟。そいつらを倒せば、お金にもなる。

 無論、危険な存在ではあるが、何の為にここへ来た。


「いいけどさ」


 一番の目的は、親玉を倒すことだ。

 お金を稼げないのは痛いが、一度邪念を捨て去り、突き進む。


 心は無。何も考えない。


 結局、最後までモンスターとは会えずじまい。通路の終わりに着く。

 前には階段。今度こそと駆け上がる。


「なんで、ここラビリンスの中だよね? 不思議」


 足の下には地面。上には青空。荒涼とした大地に、砂塵が舞う。

 カキン、キンと、剣戟を交えるような音がすぐに聞こえてきて、怒号のような声まで響いてくる。


 怪訝な顔して様子を窺っていると、砂塵が晴れてきて、剣や槍を構え、ぶつかり合う彼らの姿が映る。


 ――え、と思わず彼女は息を呑んだ。

 全員人ではない。人の形をしているだけで、全部が真っ黒。武器までも。


「もんす、たー?」


 言ったら絵本に出てくる人を攫い食べてしまうような怪物。

 そんな風に教わっていたのだが、人の姿をしているということに強い抵抗感が出る。倒そうという気が起きない。


 そもそもだ、夥しいほどいる。どうやって倒していけばよいのか。

 ど、どうしようと困惑する彼女の横から、忍び寄る影が。


 ああ、と腐り落ちるようなおどろおどろしい声を発したことで、いることに気付けたが、突然のことで身が竦む。身構えられていなかった。動けない。


「あああああああああ」


 駆けてくる。剣を振り上げた。ただ呆然とその迫る凶刃を見つめ、彼女の頭に死が浮かんだ次の瞬間、青い光線が目の前を通過していく。何本も。


 どさり、と異形は倒れ、身を溶かし消えていく。


 シュィーンと覚えのある音が鳴り響いて、視線を巡らせれば、あの彼が映る。駆けてきた。


「お前な、何ぼさっとしてんだ! 死にたいのか!」

「――あ、ありがとう」


「これだから軟弱な女は。俺の姉さん見習えってんだ。いいか、世の中には化け物みたいに強い女もいるが、お前は違うだろ。邪魔なんだよ。すっこんでろ」


「そ、そこまで言わなくても、いいじゃん」

「あ? 何か文句でも?」

「あるけど、恩人だし」


「だったらもう引き返して座って待ってろ。俺が全部片づけておいてやる。何度も言ってるが邪魔だ」


「だから、そこまで言わなくてもいいじゃんって、わたし言ってるじゃん。聞こえてないの」


「はあ? お前こそ」

「お前こそ何」

「あーもういい。帰れ」

「親玉倒したら」

「帰れよ」

「イヤだ」

「嫌だって何だよ。帰れよ」

「絶対イヤ」


「お前のため思って言ってやってんだろうが。いいから言うこと聞けよ」

「お前じゃなくて、な・ま・え」


 睨み合いとなり、舌打ちが入る。

 

「チッ、知るかよ」

「さっき言ったのにもう忘れたんだ」

「お前は俺をおちょくってんのか」

「少し」

「舐めてんな。良い度胸だ」

「そういえば、慣れてる感じだね? わたし初めてで」

「急に話を変えるな。見ればわかる」

「ついてっていい?」


「お前この流れでよくそれ言えたな。心臓に毛でも生えてんのか……」

「どうなんだろう。見たことないし」


「あー、わかった。お前には何言っても無駄だってことがな。勝手にしろ」


 シュィーン、と脚の機械からあの不思議な音を鳴り響かせ、彼は行ってしまう。咄嗟に追いかけた。横に並ぶ。


「もう、おいてかないでよ」

「なんでついてこれんだよ……。おまえ人間かあ!?」

「失礼な。人より大分足が速いだけの普通の人間です。町で一番速かったんだ♪」


「異常だろ。生身の足で魔導兵士の脚に追いつくなんて……」


「ふふん。レトリの名前の元はレトリーバー。大きな犬なんだよ。人懐こくて、可愛くて。足が速いからってつけられたわけでもないんだけど、大きな垂れ目の顔が似てるんだって。どう似てる? 自分じゃわからなくて」


「わかったぞ。モンスターの力だな」

「元からだって。話聞いてた?」

「知るか。そっちの方が変だろ。お前は変態だ」

「ちょっ、変態はいくらなんでも酷くない!?」

「酷くなんてあるか。ついてくるな。この変態が」


 気付けば、戦場のど真ん中へと突き進んでおり、異形共入り乱れる一番危険な箇所へそのまま突っ込む。


「ちょっと手荒にいくよ。追いかけられないから」


 そのさまを例えるなら突然吹き荒れた竜巻。


 振り回すステッキで次々空へと巻き上げていき、怒りのパワーで吹っ切れた彼女の豪快な一発でまた一人、空のお星様に。きらん、と消える。


「なんか思った以上にやれてる。変身したから? このまま全部いけそう」

「ばけもんかよ……」


「君口悪過ぎるよ! そんなに言うことないじゃん! わたし普通だよ。ちょっと、かなり、力が強いだけで」

「普通の人間は次々人間吹っ飛ばせないんだよ! お前と話してると頭が痛くなってくる」


「オレンジ食べると良くなるらしいよ」


 そうかよ、と答えるなり彼も右腕の機械から光の剣を出し、囲い込もうとしてくる異形共を斬って斬って斬りまくる。終わりが見えてきた。


「足を止めるなよ。このまま抜けるぞ」


 二人で協力して乱戦の囲いをこじ開け、抜ける。

 そのまま距離を空け、完全に離脱ができたら揃って足を止めた。


「まさか追ってくるとはな。流石に引き返すと思ったんだが」

「なんか怒りのままこれ振ってたら、何とかなったよ。君のおかげだね♪」

「それはよかったな。階段を探しててな。お前も探せ」

「階段? もう帰れって言わないんだ」


「使える奴とわかったからな。この筋肉お化けが。姉さん並だ」


「筋肉お化けって。ひど。さっきからお姉さんいるみたく言ってるけど、いいなあ、わたしはわたしが一番お姉さんだったから」


「……、いた、だ」

「いた?」

「なんでもない。いいから探せ。俺は向こうを」

「待って」


 一人行こうとする彼の手を掴む。


「なんだよ」

「一緒に探そうよ。ここ広いし」

「はあ? それじゃ意味が」

「一人はちょっと、寂しい」

「寂しいってなんだよ。意味がわからない」

「一緒にいてよ」

「いるわけないだろ。もうお前帰れ」


「もう帰れって言わないみたく言った癖に! 嘘つきなのか! 絶対放してやらないから!」


「ふざけんなよ、このバカ女が! 放せ、バカ!」

「バカバカって、バカって言った方がバカなんだよ!」

「子供かお前は」

「子供だよ!」


 埒が明かない。双方思っていることは同じであり、自ずと歩み寄ることになる。言い合いをするだけして、疲れ果てた後にはなったが。


「じゃあ名前」

「レトリだろ」

「違うって。君の名前」

「妙にこだわるな。ゴルゴラ・ビスターレだ。これでいいだろ」

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