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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
⭐︎四つ目のラビリンス編⭐︎

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第19話 鏡映しの武闘劇

 ボスは体の前で、拳と手のひらを合わせた独特な構えをして立っており、そのまま何も武器を出すことなく、足を開いて構えを変え、武術家らしい戦闘態勢を取る。


「グラップラーかファイター。どちらにせよ無手ってのは好都合。飛び道具もなさそうだし」


 ウルフが唸り声を出す。

 警戒し過ぎなような気もするが、気には留め、彼女は前に出る。


「ビーティ! だめだ! 後ろにいろ!」

「これでダメならそうするわ。下ジョブは上ジョブに勝てない。勝てちゃいけないって神様にそう決められているはずなのよ。私はより力を与えられた存在を使っているんだから」


 両腕をクロスした。

 雷鳴轟き、雷となった騎兵が地を駆ける。


「雷光の一突き」


 しかし想像だにしなかった光景を彼女はその直後に見ることになる。

 腕一本で受け止められた。


 無傷という訳ではないが、だらりと落としたその腕を使えなくしただけで、男の声が内に響いて、ボスが攻撃に転じる。


 ――ふんっ、はぁっ!


 まず騎兵の馬の頭を蹴り砕かれ、続けて上の騎士も繰り出された飛び回し蹴りで上身を吹き飛ばされ、戦闘不能にされた。


 これには呆然。何が起きたのか頭が理解するより早く、地を蹴って駆けてきたボスが目の前に立っており、ゴン、と足元で大きな音がした。


 ぐん、と身を横に引っ張られた瞬間、豪風が顔の横を通り抜けていく。

 気付けばウルフの腕の中。


 状況を理解するにつれ、寒気がきた。身も震えだす。声も無論震えた。


「は、は、なによ、あいつ……」


 身を抱いて思う。もう少しで死んでいた、と。

 恐怖が臨界点に達し、彼女は発狂して、声を荒らげた。


「おかしいんじゃないの!? 私は上ジョブのドールマスターの力を使ってるのよ! あいつは下ジョブ! 私より弱いはずなんじゃないの!」

「ビーティ、落ち着くんだ」

「落ち着いてるわよ! 冷静に物事を見て言ってるじゃない! でも死にかけた! あいつがおかしいの! 私はおかしくない! そうでしょ! この世の心理に背いてる!」


 今度はふつふつと怒りが湧き上がり、彼女は新たなドールを出す。しかも八体同時だ。

 ただナイトと比べるとどれもずっと小さく、武装も大きく見劣りした。


「まだ負けてない。上ジョブが下ジョブに負けるなんて、あってはならないことでしょーが!」


 怒りに身を任せて糸を振り、その八体をボスに向かわせ、彼女は同時攻撃を仕掛けたが、言ったらそのドール達は、雑兵。

 瞬く間に破壊されていき、心もへし折れていく。

 目の前の光景を受け入れ難く、彼女は首を横に振った。現実を否定するかのように。


「ありえない。こんなの絶対変よ……」

「ビーティ……、だいじょうぶだ。オレが倒す。見ていてくれ!」


 無理と思い、彼の服を思わず掴んだが、その手に上から手を被せられるや優しく引き剥がされ、下ろされた。

 少し笑みを見せ、彼はとび出していく。

 マントからナイフを次々引き抜いて、ボスに向かって乱れ飛ばした。

 振り回された脚で全部弾き飛ばされたが、肉薄。


 その瞬間、ナイフを二本、彼は逆手に持って躍りかかる。しかし振るう刃の連撃はかすりもせず、完全に動きを見切られて、腹に拳を入れられた。深くめりこむ。


 ぶふ、と口から血を噴き上げ、たたらを踏んで下がった直後、踏み込んだボスのとどめの一撃が入り、豪風纏う掌底が彼の顔面を打ち抜いた。


 壁の所まで吹っ飛んで、動かなくなる。


 彼女は顔を凍りつかせたが、ボスはこちらへ来ることなく視線を落とし、自らの手の平を見る。

 何度か握ったりして、顔を上げた。


 心なしか真っ黒な顔が笑っているように見え、起き上がる彼の姿を見るや、賞賛を口にするように言った。


 ――やはり立つか。間際で力を逃がされた。


「オレが負けたら、獣たちが狂う。ビーティも死ぬ。だから倒れない。覚えたぞ。覚えるのは得意なんだ」


 ナイフを握ることなく、彼は構えた。

 ボスと同じ構えだ。


 ――覚えたとは、我が力を自分のものしたということか。その言葉が嘘でないか、試してみるとしよう。


「オレはむずかしい話はわからない。オレは勝つ。ゴブリンもオレにずっと自信を与えてくれてる。お前ならできるって。こい!」


 ボスが駆け出した瞬間、彼も同じように駆け、蹴りを打ち合って、弾かれ合う。


 ――ぬぅ、言葉に偽りなしか。面白い!


「次はどうする。オレにはわかるぞ!」


 そこから超至近距離での乱打戦となるが、どちらも相手の攻撃を巧みに捌き、一歩も引かない。

 ありえない攻防を傍で目の当たりにした彼女の口からこんな言葉ももれる。


「嘘でしょ……。相手の動きを完全に真似てるっていうの?」


 いや、それ以上。両腕が使えるという有利もあるだろうが、時間の経過と共に盗んだ技の一つ一つを血肉と変えた彼が押し始め、体勢を悪くしたボスの腹に必殺の一撃が送り込まれた。


「ハィイっ!」


 地面を踏み砕き、その衝撃力を腕まで伝え破壊力を増す、震脚(しんきゃく)伴った掌底が放たれ、吹っ飛ばした。


 しかし、倒れるには至らない。

 己が技の対処法くらいは熟知しているようで、そこからボスも底意地を見せた。


 軽い蹴りの連打に強烈な一発を混ぜ、彼の防御を崩す。

 そうしたらあご下に跳ね上げた踵を見舞う。


「ばはっ――」


 よろめいたら、フィニッシュと見せかけたフェイント。

 防ごうとした腕をすり抜け、放たれた蹴りが腹に突き立った。


「うばっ――、はぁ、はぁ、あぶなかった」


 しかし間一髪両腕の押さえ込みが間に合い、彼も倒れない。

 威力を殺され、致命の一撃とはならなかった脚を引き戻して、ボスが勝負に打って出る。


 身を回し、背中からぶつかっていった。

 しかし裏に回る形で躱されており、隙だらけの身に肘打ちを入れられ、拳突きの連撃に繋がる。


「ハイヤアアアアアッ」


 入る。入る。回し蹴りまで入って、まだ終わらない。

 まだ倒れないボスの懐まで踏み込んでいって、彼は背中からぶつかった。


 どんなものかも理解せず、真似し、使った技の名は、鉄山靠(てつざんこう)

 その威力たるや、重戦車に跳ね飛ばされたようにボスは宙を舞い、ついに倒れ、核の破片も舞う。


 流れ込んだ記憶には、干からびたように細くなった腕を見る姿があった。

 二人共なんとなく察する。病を患っていたのだと。


 ――見事なり。名を、聞かせて欲しい。才気に満ち溢れた強き少年よ。


「ウルフだ。バッシームがつけてくれた」


 ――良い名だ。まさにオオカミ。人を喰らう獣よ。この身を蝕まれていようといまいと、人の身では獣に勝てぬか。


「何言ってんのよ!」


 この言葉を彼女は伝えずにはいられず、叫ぶようにして言う。


「あんたは獣なんかよりよっぽど強いでしょーが! 上ジョブの、いいえドールマスターの私に勝ったんだから。自分を弱く言うのは許さないわよ!」


 ――ふっ、とどこか満ち足りたような笑いをこぼして、ボスは完全にその姿を消す。


「手土産くらいは持たせてあげないと、後味悪いものね。まだ釈然としないけど」

「ビーティ、今のはわざと言ったのか?」

「なんでそこを理解してる。急に知能指数上げてくるのはよしなさい。帰るわよ」


 ラビリンスから脱出。

 討伐までが早かったからか、既に瘴気は消えており、舞い降りた祝福の光を二人で見る。

 当然のように片側にしか降らなかったが。


「おぉ、オレまた強くなった! ビーティ、この光がふると武器が増えるんだ。マントの中にクサリガマというのがあったんだが、使うところがなかった」

「武器? てっきりさっきの超再現能力が発現したものと。いくら特殊個体とはいえ流石にモンスターの域を超えてるか。――待ちなさい。あんたもまさかっ!?」


「どうしたんだ?」

「いや、ないわね。それこそありえない。だったらレベルアップなんて起きるはずない。だとしたら何――、あれか? レトリが多分そうだものね」


 その時、突然、「今、我々は、立ち上がる時がきた」と大きな声が響いてくる。

 視線を巡らせれば、関所の傍に子供達が集まっており、彼らの前で、こちらに背を向けた一人の子が演説する。


「見よ、このラビリンスを! 放っておけば、我らの子都を呑みこむだろう。お前らはそれでいいのか! よくないからここへ集った! 違うか!」


 誰も何も返さない。当然だろう。

 その子を除いて、全員こちらを見ており、少しして、一斉に駆けてくる。


「おお! お前ら! そんなにやる気をっ――、おぶっ、とべあ!?」


 前にいた子が轢かれていたが、気にも留めずに来て、周りを取り囲まれる。


「まさか、たったの二人で、やったのか?」


 それを肯定しようものなら、歓声上がってもみくちゃにされ、最後は打ち上げられた。


「わっしょい! わっしょい!」

「うわわわあ、わあ!?」

「なんだなんだ、なんなんだ!?」


 場は大盛り上がり。ゴルとレトリもその場にしれっとおり、轢かれた子を起こして、あとから来る。一段落ついたところで、合流。


「もう最悪。ぐっちゃぐちゃにされて髪ぼさぼさ」

「オレもなんか叩かれたりして痛かったけど、楽しかったな。みんなも楽しそうだった。だからよかった」

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