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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: 楽田佳
⭐︎四つ目のラビリンス編⭐︎

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18/50

第18話 鳴り響く警鐘

「あだだだだ――――っ!」


 パラパラ、と袖からトランプが落ち、彼女は睨む。

 彼もテーブルに手をついて、立ち上がり、仕込み杖から剣を引き抜き、突きつけた。


「勝負事においてのイカサマは、見つかった時点で死だ。選べ。ここで死ぬか、全部置いていなくなるか」


「わ、悪かった。だが少し落ち着けよ。ちょっとからかっただけなんだ。本気じゃなかったんだよ」


 剣が閃く。スパっとカットされた兄の方の髪が落ち、テーブルに乗る。


「言い訳は選択肢にない。次は腕を斬り飛ばす。もっとも、負けたら端からこうするつもりだったがな。喧嘩を吹っ掛けた相手が悪かったな。貧民街生まれってのは何事も暴力で解決するんだよ。知らなかったのか、お坊ちゃん共」


「よせ、わかった。金は払う」

「俺は金を払えと言った覚えはないが」

「わかった! 言う通りにする! だから勘弁してくれ――」


 地面に這いつくばって、頭を下げ、彼も剣を引っ込める。

 下着だけは勘弁してやり、それ以外は剥いで、店から叩き出した。


「ひぃい、おかあちゃーん!」

「お、覚えてろよ! お前ら! あとで絶対後悔させてやるからなぁ!」


 少年二人は逃げていき、席に戻ったはよいが、視線を集めており、居心地悪く、周りの子は皆、固唾を呑むような顔で口を噤み、静寂を放つ。


「ゴルくん。ちょっとやりすぎたと思うから、あとで返してあげようか」

「何同情してんだよ。命があるだけ有難く思えってんだ。それに舐められたら馬鹿にされるだけって、あいつらも言ってたろ」


 なぁ、と彼が振り返れば、客全員、一丸となって視線を逸らす。

 大きな大きな溜息が、彼女の口からこぼれ落ちた。小さく声に出す。


「せっかくのオニューの服なのに。ゴルくんはゴルくんだもんなぁ」


「お前、イカサマなんてどこで覚えた。孤児院じゃ当たり前だったのか?」

「違うよ。でも一回されたことあって、戻すふりして服に隠すやつもその時ね」

「ああ、だからフォーカードを堂々出せたのか。前持って用意したものでやるにはリスクが高過ぎるからな。やるじゃないか」


「え、うん。わたし目はいいから」


 妙に彼は機嫌が良いように映るが、結構持ってたな、と口にしたことで理由も判明。

 その金をこの場で撒き、皆に奢ったことで、難航すると思われていた情報集めも思いのほかうまく運ぶ。


「ほう。北にある氷の都市を丸呑みにした超巨大ラビリンス」

「実際無茶苦茶でかくて、お前が立派な魂の解放者になったら、あれのことを話してやるって親父に言われてたが、見ての通りのこのざまだ。俺もこいつらと同じ脱落組。仲間が目の前で死ぬところを見て、怖くなっちまって」


「帰る場所があるなら、他に生きる選択肢があるなら、問題ないだろ」

「それは、そうなんだが……、そうだよな。帰る場所がない奴も大勢いるもんな。俺はまだ恵まれてる方か」

「まだじゃなくて、かなりな」

「やめてくれよ。そう言われちゃ立つ瀬がなくなっちまう」

「まだあったつもりなのか?」


 ドっと笑いが起きて、二人がうまく周りと馴染み始めた頃、向こうの二人はと言うと、まだ動いておらず、やっとというタイミングで、ウルフが女の子に取り囲まれている姿がビーティの目に映り、後ろから蹴りが入る。


「このタイミングで引力発生させてんな。バカ惑星」


 こけたところを首根っこを引っ掴んで、引きずっていく。


「ビーティ、なにを怒ってるんだ?」

「自分の胸に聞け、自分の胸に。はぁ、イメチェンさせるんじゃなかったわね」

「鳥がにげてる?」

「鳥ぃ? ほんと趣旨のわかってないやつね。鳥と遊んできたいならそうしてもいいわよ。何も期待してないから」


「遊びたいんじゃない。にげてる。追い回す鳥もいないのに。変だ」

「変なのはあんたの頭の中だけでしょ。重いからもう自分で歩きなさい」


 手を放した瞬間、立ち上がったウルフは鳥が進む方角の逆側を見て、彼女の手を掴んで駆け出す。

 

「――いった! こら、急に引っ張んな!」

「ごめん……」


 すぐに立ち止まりはしたが、今度は下から抱き上げ、駆け出す。


「でも急いでる」

「いや、ちょっと――!」

「オレが本気で走るとビーティはついてこれないと思うから、暴れないでほしい」

「そうじゃなくて、ああもう!」


 見られてる、と声も上擦る。

 町中でお姫様抱っこをしながら爆走する奴がいたら、良い衆目の的だ。


 頭を抱えるほかなく、恥ずかしさのあまり赤面した顔を隠しつつ、しばらくの間揺られていると、カンカンカンカン、と警鐘のように鳴り響く金属音を耳にして、何事と我に返る。顔を上げた。


「ラビリンスだーっ! ラビリンスが傍に出たぞーっ!」

「みんなーっ! このことを他のみんなに伝えてくれーっ! あと鐘みたいなの持ってる奴はいないか! フライパンとオタマじゃ音が響かない!」


 頭が状況をしっかり把握する前に、少年二人が声を上げる逆側の関所をウルフは抜けていき、同時に傍の農地らしき場所に瘴気も見えた。

 足を止めることなく、彼はそのまま入っていってしまい、彼女の顔は今度青くなる。


「何してんのよ――、嘘でしょ!?」


 湧いてくる怒りでまた顔を赤くし、彼に向かって、罵詈雑言捲し立てた。


「こんのアホタレ! スカタン! 大マヌケ! 大バカかっ!」

「ビーティ。獣たちが狂わされる前にオレたちで倒すぞ」


「話を聞け、この特大のオタンコナス! ゴルとレトリにこのことを伝えるのが先でしょーが!」

「――あ、もどる」

「できるわけない、あったまいったい――。一度入ったら、ボスを倒すまで出られないの! それくらい知っておきなさいよ、このバカ。ほんとにバカ」


「どうすれば、いいんだ……」

「はぁ、はぁ、このトンチンカンのヤマアラシは。外にこのままいる方が危険。中に入って待つわよ。そのうち来ると思うから」

「わかった」

「わかったなら下ろせ。アホ無限大惑星」


 地面に立つなり、「出てこい、ドールマスター」と口にして、彼女は変身。

 騎兵(ナイト)も出したが、出現して間もないラビリンス。

 モンスターに変えられた生物も出てこず、そのまま進んでいって、足を乗せた。

 隣で光が上がる。


「いっしょに戦おう。ゴブリン」

「……、私も少し冷静になれ。弱ボスなら待つ必要もない。戦力過剰なくらい。門番がいれば引き返せばいいだけだし。ウルフ、様子見しにいくわよ」


「二人を待つんじゃないのか?」

「強ボスだったらね。ちょっと前までは同格だと思ってたけど、多分レベルが関係してる。今の私じゃどんな相手でも押し負ける。これ強ボスだったらって意味よ」


「さっぱりだ、ビーティ」

「でしょうね。私が言いたいのは逆も然りってことなのよ。上ジョブと下ジョブじゃそれくらい隔絶した力の差があるはず。越えることのできない大きな壁がね。それを確かめる意味でも、ここは進むが正解。ついてらっしゃい」


 一階に関しては、ここも特段何かがある訳ではなかった。

 代り映えのしない景色に弱いモンスター。

 二階の階段が見えたところで気を引き締め、上がる。


 真っすぐ敷かれた石畳を線に、左右に大勢が別れ、ふん、はっ、やっ、とそんな声を一斉に上げ、武道修練場のような雰囲気を放つ。


 その場を動かず、来るかと身構えていたが、一瞥すらなく、遠巻きに様子を窺いながら、端の所を通って迂回していく。何事もなく、階段へ着いた。


「妙ね。何もしてこないなんて」

「たぶんオレたちが見えてないんだ。オレも強くなろうってやってた時は、自分しか見えてなかった」

「ふーん。まあどうでもいいか。ラッキーってだけだもの」


 三階へ。門番の姿はなく、「討伐確定ね」と口をついて出た。


「どういう意味だ?」

「倒しに行くってこと。弱ボスなら余裕なはず。サンドバッグにでもなって貰いましょうか。丁度ストレス溜まってたし♪」

「さんど、ばっぐ? ビーティ、油断はよくない」

「ちゃんと理解してるんじゃない。それとも雰囲気でそう感じた? でもこれは事実。いいえ、この世の心理かしら。ほらいくわよ、それを確かめに」


 扉に向かっていると、ウルフが歩を速め、男らしく前に出る。

 盾となるその姿に今日初めての感心を覚えつつ、扉の前まで。開く。

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