第16話 宴と枕投げ
ただその光は、妙な偏り方を見せ、受けているのは男二人だけであり、ぐっと拳を握りしめたガッツポーズが直後に入った。
「よし、強い方のボスだったからな。こんな感覚なのか。良い気分だ」
「なんだ、力がわいてくる……。オレ、強くなってる!」
「これ何が起きてるの? 神様からの祝福?」
「レベルアップよ。核のモンスターが強いほどしにくいみたいで、私はボスで、あんたも大概な奴でしょ。だから私達には何もなし。良い核を持つ人間の宿命ね」
「へぇー、そういえば前にゴルくんから聞いてたような? これがそうなんだ。いいな」
「新しい力を得られるんだから、ちょっと羨ましく思うわよね」
「二人もいつかすると思う。オレも手伝う」
「ありがとう、ウルフ。頑張るぞー! おー!」
「強ボスでしないなら一生しない気もするけど」
「世の中うまくできてるってことだろ。核が良くても良いことばかりじゃないってな。それにお前はもうあんな大技持ってんだ。俺もパーティの有用性を理解できたし、レベルアップもした。実に有意義な戦いだったな」
「何浸るように言ってんのよ。この賢しさ全開フェネック」
「前から気になってたんだが、そのフェネックってのは何だ?」
「知らないの? 小さなキツネ。そっくりよ」
「全然似てないだろ。やることは済んだ。帰るぞ」
「ゴルくん、まだあると思うよ。そうだよね、ウルフ」
「ああ。全部埋めてやらないと。ニンゲンはそうやって死んだ奴を見送るって、バッシームから教わった」
「正気かよ……」
「この臭みの中やるわけ。卒倒しそう」
ラビリンスに滞在した時間よりも長い時間をかけ、生まれてくるはずだった命を全て埋葬し、途中、ウルフが気絶させたワイバーンが目を覚ます一幕もあり、その頃には瘴気も晴れ、襲い掛かってくることもなく、羽ばたき立っていく姿を皆で見送ったりもした。
「元気でなーっ! 立派な卵を生むんだぞーっ!」
「にしても頑丈だな。地面に激突したはずだが」
「メスだったって方が気にならない?」
「今はそういうのいいじゃん。元気でねーっ!」
町に戻る頃には、真っ暗であり、そのまま教会へ。
遅い時間の訪問であったが、暖かく出迎えてくれ、勝利を伝えると、司祭は涙ぐむ。
「ありがとう。君達はこの町の英雄だ」
一人一人へ抱擁がくる。その後、洗って返すと言っていたハンカチを出すが、もう一枚、取り出され、そちらを差し出された。
「これと交換して貰えないだろうか」
「え、司祭様、そんな高そうなハンカチ――」
「町を救ってくれた英雄の品を、額に飾っておきたくてね」
「ええ!?」
尻込みしていたら、ビーティに肘でつつかれ、彼女は受け取って、見つめる。
綺麗な見た目もそうだが、触り心地にも雲泥の差があり、罪悪感を感じはしたが、感謝の言葉と共に満面の笑みを向けられ、黙ってポッケにしまう。
明日の宴には是非参加して欲しいと、そんなことも言われ、核を取り引きする際には色まで付けて貰い、後にする。
「宿代浮いたな♪」
「そうね。浮いた宿代は誰かさんの治療費に当てましょうか。聞いたわよ、ゴル」
「……、何をだ?」
「ごめん、ゴル。体の傷、黙ってろって言われたのに、言ってしまった」
「チッ、寝てりゃ治る」
「ゴルくんやっぱり怪我してたんだ。ひどい感じ?」
「大したことない。余計な心配すんな」
「それはもうあざだらけなんだって。切り傷も山ほどあるって」
「だから」
「ゴォ~ルゥ~く~ん~」
「……、金の無駄だろ」
「みんな押さえて。連れてくよ」
「待て! やめっ――」
無理やり連行し、診療所。
「待った待った待った。それが必要であるとは思えません。冷静に考えてください。僕は、いや俺は怪我をしているだけで、病気を患っているわけではありません。そうですね?」
「うんうん、破傷風っていう怖い病気があるのよー。はい、力を抜いてねー」
「だから待て! 話を聞け! そんなもの必要――あ、あああああああああ」
そこで太いのをぷすっとやって貰い、体も包帯でぐるぐる巻きにされて、彼は中から出てくる。
「おっかしー。全部聞こえたわよ、ゴル」
「うるさいな。早く忘れろ」
「注射嫌いだからあんなにしぶってたんだ。ラビリンス行くのも禁止って、言われてたね」
「あんなのは戯言だ。別になんともない。動き回ってたのは見てたろ」
ビーティの腕がすっと持ち上がり、彼の胸をバンと叩く。
顔を歪めていたが、修正していき、何もないような顔を作る。
「ほら見ろ。な、余裕だ」
「あ、そう。じゃあ次は靴のかかとでやったげる」
「待て。それは誰だって痛がるだろ」
「ならレトリにやってもらう? 力持ちなことは知ってるわよねぇ。私もあの大槍ぶん投げるの見て驚いたけど」
「やめろ。お前は俺を殺す気か」
「なんでそんな無理するのか知らないけど、当面はなし」
「いつからお前がリーダーになった」
「レトリー」
「わかった。傷が癒えるまで情報集めに徹するとしよう。それでいいんだろ」
「よろしい。お金も結構入ってきそうだし、休みも必要でしょ♪」
参加することになった宴の際にその言葉の意味がわかる。
町を上げての大規模のもので、お昼前から始まり、主賓として迎えられ、祭りの中心に据えられた四人の元には、沢山の人が訪れ、感謝を形にして渡す人間も多くいた。
旅に必要な食器であったり、衣類であったり、金銭は無論、お守りのようなものまで。
母親に連れられた幼子から手渡され、レトリが代表して受け取る。
「ふわ、可愛いね! 作ってきてくれたの?」
「うん!」
「ありがとう! 大事にするね!」
暗くなると、ヒュー、ドンと、派手な音が鳴り渡り、夜空に大輪の花が咲く。
次々上がって、どれも色鮮やかで、見惚れるような美しさ。
「これ、花火だよね? 綺麗」
「私も初めて見たわ。こんなに綺麗なのね」
男二人はその間、終始無言であり、懐かしさに浸ったり、ただただ魅入り心に感動を覚えたり、宴もフィナーレを迎える。
子供が見られる時間に合わせられていた為、大人達はまだまだ騒ぎ足りないと、これからといった様相を見せているが、町長が四人の所へ来て、疲れたろうと自身の家へ案内する。
適宜補給はしていたが、食べ辛い環境ではあり、そこでしっかり食事もご馳走になり、寝室へ。
大きなベッドが二つあり、頭の所には枕が人数分。一つ掴み取って、放り上げ、
「やるか」
ゴルがそう言ったことで、〆が始まる。枕が飛び交った。
「楽しいな。オレ、ニンゲンの子と遊ぶの初めてだ」
「ウルフ。余裕を見せていられるのも今のうちよ」
自然と男女対抗戦となっており、ビーティの持っていた枕がレトリの手に渡った。
「死になさい」
「いや、死になさいって。でもあんまり騒いでると怒られそうだし、早めに決着つけておかないとね♪」
振りかぶった。
ラビリンスのボスと見紛うほどの凄まじい圧迫感が放たれて、男二人は竦み上がった。
「ゴル。オレ、すごく逃げたくなった。いやなよかんがする……」
「マジに洒落になってないだろ。お前は全力出すの禁止――あああああああ!」
新たな星が二つほど、夜空に追加され、明くる朝。
多くの情報を得るなら、ここ、という場所があり、行き先は昨日の内に伝えており、準備して貰ったワイバーンの背に跨って、出発。
「これなら早く着きそうだな」
「頑張ったご褒美ってやつよね♪」
「いけ! ワイバーン!」
「子都かぁ。どんなとこなんだろ?」