表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎三つ目のラビリンス編⭐︎
15/20

第15話 閃光の槍

 一斉に駆け出すはずが、ビーティがついてきておらず、下で人形のついた糸を手繰る。


「何やってんだ!」

「やっぱりぷかぷか浮いて、ナイトを引き寄せるのは無理と思ってね。今切り離すとこよ」

「待って! わたしがやってみる」


 途中で気付き、引き返していたレトリが、そう言うや伸びた糸を掴もうとしたが、すり抜け、彼女は目を見開く。


「普通の糸じゃないのよ。だから無理」

「ならこうする」

「のわ!?」


 大元を抱えていけば、先も勝手についてくる。


「機転が利いて驚き……」

「偶然思い付いて♪」


 ウルフも加勢に入り、マントから抜き放ったナイフを指で挟み、手首のスナップを使った複数同時投げで乱れ飛ばして、追っ手として立ち塞がろうとした奴らを牽制。

 ゴルの援護射撃もあり、無事二階を突破。勢いそのまま三階へなだれ込む。


 門番がいた。

 武器や鎧で武装し、人間のような体付きだが、身はずっと大きく、顔は爬虫類。翼や尻尾もある。

 口が開いたかと思うと、ギャアアーンと甲高い咆哮が上がって、皆は思わず耳を塞ぐ。


「なんだこいつ……。リザードマンにしてはでかいな。羽もある」

「ドラゴニュートと思うわよ。多分だけど」

「あー、攻撃方法は頭にある」


「先に言っておくけど、私は手伝えないわよ。ナイトは盾失ってるし、さっきの大技で耐久値もがたがた。もう一回打ったら粉々ね。雑兵くらいなら出せるけど」


「必要ない。俺一人でいい。全員見てろ」

「正気?」

「ゴルくん一人じゃ危ないって!」

「いいからすっこんどけ」

「うーわ、ゴルくんだ」


 どういう意味だ、と彼が呟いた瞬間、門番は剣と盾を前に構え、こちらへ突進してくる。

 迎え撃って、彼も駆け出し、レーザーを連射。浴びせ掛けたが、盾で防がれ、肉薄する所まで両者の距離が縮まると、斬り合いへ移行。


 高く持ち上げられた肉厚な剣が振り下ろされて、床が割れ、横に躱せば追撃の横薙ぎがくる。

 それは上体倒し(スウェー)で躱していたが、彼の耳を死神の笛の音のような恐ろしい刃音が打って、恐怖を与える。


 冷や汗がふくが、顔に浮くのは笑み。今のスリルを楽しんでいた。傍で一歩も引かずに剣を見続け、快感に身を投じ続けていれば、しだいに相手の動きも読めてくるようになる。


 完全に見切ると同時に大振りを誘って、躱した剣の上に乗って、その上を駆け上がり、頭の所までとぶ。


「悪いな。門番如きに手こずるようじゃ先がないんだよ」


 最後は振られた光の剣が横に刃の軌跡を描き、門番の首が飛んだ。

 核を拾い上げ、彼は戻ってくる。


「リーダーってのは、力を見せておかなきゃいけないからな。一応な」

「何が一応よ。冷や冷やさせて」

「余裕だったろ」

「ほーら、ゴルくんだ」


「だから何が俺なんだ」

「何もかも? ゴルくんだなって」

「もういい」


「リーダーが仲間に勇気を見せるのは、オオカミもニンゲンもいっしょか」

「恐らくな。知らないけどな。ボス戦の話をしていいか」


 輪になって座り、休憩挟みつつ攻め方をいくつか決め、終わると扉の前へ。開く。


 目に飛び込んだのは、さっき見た黒い軍勢の兵とよく似た格好のボス。

 ただ所持した得物は異常な長さを誇り、一振りするのも難儀に見える長槍だ。声が内に響く。


 ――子供が来ようとはな。許せ。どうすることもできない。


 その長槍をぶんぶん振り回し、意図も容易く振って、ボスは構えた。

 ウルフが唸り声を出す。その顔にはどこか怯えが覗き、鬼気迫る表情でもある。


「お前もわかるか。全員さっさと構えろ。死にたくなけりゃあな」


 悠然とボスは歩いてくる。ゴルの指示が飛んでウルフを右手側へ、逆側にはビーティを抱っこしたレトリを飛んで行かせ、囲い込む形を作る。


 ――早く逃げろ。この身を抑えることはできん。


「悪魔に囚われているせいでか? 今、解放してやる」


 そう返すやレーザーを撃ちこむが、槍先で突かれ逸れる。

 目にも留まらぬ速さで向かう光の弾を突いて軌道を変えたのだ。


「ハッ、ばけもんかよ……」


 そう頭に浮かんでくるくらいの達人。

 攻めの起点をこう易々と防がれては、勝ち筋も見えてこない。


 攻めあぐねている間にボスが突如、身の向きを変え、槍を振りかぶる。こちらが反応するよりも早く、空にいる二人に向かって放たれ、


「――え、おわ!?」


 放り捨てられたビーティが落ちて、槍はレトリがキャッチ。


「びっくりしたぁ……!」

「ばかあああああああああああああ」


 ボスの横を抜け、逆側まで滑り込んできたウルフが、地面に当たる直前でキャッチ。そのまま頭から滑っていき、静止。


「無事か!?」


 顔を上げ、鼻血を垂らした顔で尋ねれば、ハンカチが差し出される。


「あんたのおかげでね。ほらこれで顔を拭きなさい」


 ボスは一連の動きを見ていただけで、何もせず、思いがけずと言った感じに笑いをこぼした。


 ――はは、死を下す閃光の槍と呼ばれ恐れられた我が一投が、受け止められようとは。何が起きた。


 次の瞬間、死角からレーザーが乱れ飛ぶが、反応されてバックステップで外される。

 しかしそれは想定済みであり、冷静に光の剣を出し、彼は距離を詰めた。


「お互い想定外って感じだが、運はこっちに味方してくれてるようだな。流石に無手相手に負ける気はしない」


 巧みに移動されて剣の射程までは入ってくれないが、流石に近距離からのレーザーは完全には躱しきれないようで、削りつつ、逃げ場のない壁際まで追い込んでいく。


「終わりだ」


 いよいよ後がないとなった場面で、ボスは何かを取り出し、握りつぶす。

 足元に大きな魔法陣が浮かび、彼はとび退く。

 直後にそこから巨大な異形が姿を現わした。


 ワイバーンによく似た見た目をしているが、体はずっと大きく、顔にクチバシもなく平たい。

 ボスは上にとび乗って、手綱を引いて、そいつを飛ばす。


 行かせるものかと、彼の浴びせ掛けたレーザーは表皮に弾き返され、舌打ちして、見上げた。


「奥の手隠し持ってたか。やっぱそう簡単に勝たせてくれる相手でもないか」


 ボス部屋は巨人が入れるくらいには天井が高く、広くもある。あの化け物で縦横無尽に飛び回り、襲い掛かられたら厄介なことこの上ない。


 彼は声を飛ばして三人を呼び戻し、策を話した。


「なるほど、私の一発で勝負を決める感じ。あんなデカブツ、それ以外じゃ仕留められようもないでしょうしね。あい、了解」

「ああ、だから俺らの仕事はあいつを地上にはりつけにすることだ。三人がかりでどうにかするぞ」

「わかった」

「オッケー。良い武器貰ったしねー♪」


「普通の奴なら普通に死んでるんだがな。なんでお前は意図も容易く掴めるんだ。正直びびったぞ」

「オレもおどろいた。ぜったい死んだと思った」

「わたしも驚いたけど、そこまでのことかな?」

「そこまでのことだよ。お前と話してると毎度頭が痛くなってくるな」


「おかげで私は放り捨てられたわけだけど」


「ごめーん。ああするしかなくて」

「わかってるわよ」

「あのさ、これ投げて串刺しにして動きを止めるっていうのは、どう?」

「お前それマジに言ってんのか?」

「うん♪」

「できるんだな。なら採用だ。俺が注意を引いてやるから、任せたぞ」


 作戦変更、改めて指示を出し、彼は囮役となって部屋の中央に陣取る。

 フィニッシャーのビーティはウルフが担いで機動力を確保。レトリは全面を見渡せる壁際で待機。皆でボスが来るのを待つ。


 天井すれすれの所を舞っていたが、身を下に向け、急降下してきて、彼は撃ち尽くす勢いでレーザーを放ち、自らに目を向けさせる。


 飛び道具を持つ面倒な奴から狙うのは、必定。狙い通り途中で横から突進してくるような軌道へ変え、襲い掛かってくるボスの騎乗突撃を彼は何とか躱し、声を張り上げた。


「今だ!」


 降下中と違い、上昇する最中に身をぶらしたりするのは至難の業だろう。

 軌道が読みやすく、狙いやすい。

 ただ、声を上げる前から彼女が槍を振りかぶる姿が見えており、その勝負勘に舌を巻き、心の中で口笛を吹いた次の瞬間、投擲され、ボス諸共跨る巨大な異形を槍は貫き、串刺しにする。


「おし!」

「冗談だろ。ど真ん中かよ」


 断末魔のような声が上がって、落ちる。


「今よウルフ、走れ!」


 落下点の前までウルフが駆け込んでいき、雷走って、勝負は決す。

 ボスは床に叩きつけられることなく、乗った怪物諸共壁にぶち込まれ、粉塵上がるそこからきらきらと光る核の破片も舞い、記憶が流れ込む。その時の感情も。


 自決するところであり、空しさに支配されていた。

 十分生きた。未練もないと口にしていたが……。


「なにがだ、あったんじゃないかよ。なら死ぬなっての」


 愚痴るように彼が言った直後、ボスの声が内でした。


 ――ああ、あった。だが十分楽しめた。戦いの中で死ねた。もう未練もない。勇敢なる小さな戦士達よ。ありがとう。


「なんだよ、その――チッ、救われたんならよかったな」


 ラビリンスの崩壊が始まる。逃げる最中、微かな笑みをレトリが浮かべており、彼が見ていると、目が合う。


「お礼言われちゃったね」

「ああ。よかったな」

「うん!」


 外に出ると不思議なことが起きた。勝利を祝うかのように頭の上から光が降ったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ