第14話 ワイバラのラビリンス
「挑む相手を間違えたわね。ナイト、格の違いを見せておやりなさい!」
操られた騎兵が槍を振りかぶる。
するとワイバーンが口を大きく開き、火炎の息が振り撒かれた。
頭上へ降り注ぐ。
「忘れてたわよ! 火を吹くなんて!」
ビーティは騎兵を引き戻して、上に盾を翳す。
火は防げたが、視界は炎に閉ざされ、晴れるやワイバーンの大きな体が傍にきており、足の鋭い鉤爪を構えた盾に引っ掛け、掴む。そのまま持っていった。
「――ちょっと。嘘でしょ!? こらバカぁ! 持ってくなぁ!」
「おい、どうすんだ。次は防げな――って、何やってんだあいつ!?」
「ウルフ! 足放して!」
どさくさに紛れてウルフがワイバーンの足に掴まっており、皆が見守る中連れて行かれ、場が一時静まり返る。
「レトリ、お願いできる?」
「うん。行ってくる。わたししかいないもんね」
「あったまいってぇ。なんだよこの状況」
黒い翼が展開され、大気を打った瞬間、上でギャアギャア鳴くワイバーンの声が三人の耳に届く。
直後に錐もみ回転しながら落ちてきて、そのまま地面に激突。
粉塵上がって、力なく横たわる姿が映る。
上で屈んでいたウルフが、膝を立てて降り、頭の所へ行き、また屈みこむ。
「お前の苦しいっていう声、聞いた。少しの間眠れ、ワイバーン。オレが元に戻してやる」
呆然とその姿を見つめる三人の元まで戻ってきた彼は、初めてみる顔であり、三人は気圧されて、息を呑む。その顔には、深い怒りが滲む。
「オレの住んでた森も、狂わされた獣達であふれた。だからオレはバッシームに聞いて、魂の解放者になった。オレは怒ってる。許せない」
「お、おう、そうか」
「あんたもそういう顔するのね……」
「ボス、絶対倒そうね」
その言葉に頷きを返して、先頭を歩み出し、三人を引き連れ、奥に待ち構えていたラビリンスの上に乗る。光が上がった。
「いっしょに戦おう、ゴブリン」
衣装にマントが足され、中には無数のナイフが収まる。頭の上には小鬼の面が付き、被った。
極端な前傾姿勢となり、白い息が吐かれると、ゴルも光を上げ、彼の腕を掴んだ。
「一人で行く気か」
「群れの戦い方はなれてる。そんなことはしない」
「そうは見えんがな」
「ウルフ、なんて言ったらいいのかわかんないけど、怖いよ」
「……、ごめん。こわがらせるつもりはなかった」
小鬼の面を上げると、いつもの顔だ。被り直すことなく頭の上に戻す。
「特殊個体だからってイイ気になってたら死ぬわよ。元はヘボモンスターなんだから」
「ゴブリンをばかにするな。許さないぞ」
「ああ? こいつもなのか」
「レトリは違うでしょ。それともあなたの話?」
「俺のは普通の魔導兵士だ。お前らと違ってな」
「惨めな気分になる?」
「なるか。有能なモンスターだ。リーダーは俺で文句はないか」
「ええ。お任せするわ。適任だと思うし」
「意外だな」
「そう? 率先して前に出るタイプじゃないのよね。美味しいとこだけ掻っ攫いたいの♪」
「良い性格してんな。お前らはどうだ」
「わたしは元からゴルくんについてく感じだったし、むしろお願いするくらい」
「オレもない。ニンゲンといっしょにやるのはオオカミたちと全然ちがうから、任せてもいい」
「よし、なら俺の指示にしっかり従えよ。うまく使ってやる。攻略開始だ」
顔に自信を覗かせ、ゴルが先頭を行くようになり、三人は後ろに付き従う。
ここも最初は緩いカーブを描くお決まりの一本道で、すぐにモンスターも出る。
シュワ、と音が立つや走った青い光線が、即座に頭を貫き石と変える。
「すごいな。ナイフを抜くまえに倒した」
「便利ね。そのレーザー」
「一人なら走りながら全部倒していけるんだがな」
「あー、だから。最初のラビリンス、ゴルくんが入ってからすぐだったのに、ちっともモンスターいなかったもんね」
一階に強敵と思えるようなモンスターは出現せず、サクサク進んで、二階。
「なんだよ、これ」
足場がない。眼前には、鳥の見る世界が広がる。
「空だ。大きな雲浮いてるね。下見えないよ」
「どういうことだ。鳥になれってことか?」
「ニンゲンは鳥になれるのか?」
「なれるわけないでしょ。羽持ちがいなかったらこれ詰んでたわね。見えない床でもあったら別だけど」
「勘だが、俺はありそうに思ってる」
「わたしが見てくるよ」
そう言うと先に立って、ぴょんと跳ね、レトリは飛び降りる。
落ちることなく、浮いた。
「うわ、不思議ー♪ 見て見て!」
「なるほど。面白い部屋だな」
「オレもやっていいか?」
「どうぞどうぞ」
ウルフも行く。浮くだけでなく泳ぎまでした。
「泳げるかんじがしたんだ。楽しいぞ。二人もこい」
呼ばれた二人は見つめ合ったあと、順に入っていくが、少しして、楽しむ顔を険しいものへ。緊張感を覗かせた。
「よく考えると厄介な部屋だな……」
「気付いた? かなり動きを制限されるわよね。何も出てこなければ問題ないんだけど。何か見える?」
「いや、何も。お前らも遊んでないで周りを見ろ。こんな状態で奇襲を受けたら一巻の終わりだぞ」
「え? あ、そっか! ぷかぷかしてたら格好の的だ。んー……、あっち、何だろあれ……」
視線を遠方へ投げた際、彼女の目には横に広がる無数の黒い点のようなものが映り込む。
そのまま覗き込んでいると、しだいにそれは大きくなり、姿形もはっきりしてくる。
「こっち来てるよ! すごい数!」
「どこ見て言ってる。何が見えてんだ」
「黒い軍勢、みんな真っ黒なワイバーンに乗ってる――、階段も見えるよ! 後ろの人達が吊るしてる!」
「意味不明すぎない?」
「確かに。移動させてんのかよ……」
「どうすんのよ、ゴル」
「今考えてる。おいバカ二号! さっさと戻ってこい!」
「一号絶対わたしだよね……。ウルフーっ、早くこっち!」
一人先まで行ってしまっており、平泳ぎで戻ってきて、状況を手短に説明。
「どこだ? あれか?」
「ビーティ、お前見えるか?」
「いいえ。でも空中戦は避けられそうもないって思うわね。行かないと次の階へ行けないんだから」
「だよな。レトリ、お前翼を使って素早く移動はできるか?」
「できると思うよ。ちょっと待って」
翼を使って軽く飛んでみせ、戻ってくる。
「いける」
「よし、ならお前に掴まってどうにか突破といくか。問題はどういう感じにやるかだが──」
話し合いの結果、力押しの正面突破と見せかけた奇策で勝負ということになり、左足をゴルが掴み、右足はウルフ、ビーティは後ろから抱っこされる形となる。
もう皆の目にも敵の姿は映っており、距離を見計らって、突撃を敢行。
ゴルの左腕が前に突き出され、迫り来る軍勢にレーザーの連射を浴びせ掛け、牽制をかける。そうして相手の進行を乱した直後、
「この作戦はお前のとっておきとやらにかかってるんだ。本当にいけんだろうな……」
「任せておきなさい。度肝を抜いてやるわ。ナイト、全力全開」
ビーティが両腕をクロスさせた。
すると下に吊るされ、ぷかぷか浮く騎兵が稲光を上げ、雷鳴轟かせながら空を一直線に貫いた。
「雷光の一突き」
正面の軍勢がその一発で消し飛ぶ。
両陣営共に動きを止め、目を疑う。
「びっくりしたぞ。カミナリがおちた……」
「なんて威力だ……」
「ビーティ、すご!」
「ふふん、気持ちはわかるんだけどね。足を止めたらダメよ」
「あ、ごめん!」
我に返ると同時に大穴空いた所にレトリは突っ込む。
向こうも同タイミングで立て直しを図っており、中央の辺りで囲い込まれた。ステッキが振り回される。
「レトリ! 今だ!」
「血の炎!」
ビーティを片腕抱きに変えており、彼女は赤い液を四方に振り撒く。直後に発火。炎の壁を作り、相手の視界を遮断。見えない内に軍勢の下に潜り込む。
そのまま階段を吊るす奥の隊列目指し、一直線に空を駆ける。
「うまくいったね♪」
「ああ、何かを掠め取るには良いやり方だよな」
「私への皮肉にしか聞こえないんだけど」
「気のせいだろ。ただもしここが本当にボスの見る夢の中なんだとしたら、一矢報いる形にもなると思ってな」
「優しいとこあるじゃない。ねぇ、ウルフ」
「なにがだ? 全然はなしがわからなかったぞ」
「あはは、それわたしも。前のことに集中しちゃってるし、ちょっとほかは、今考えられない」
こちらを見失っている隙に下を駆け抜け、吊るされた階段に四人で足を乗せる。
上の方は先ほどまで空に途切れているように映っていたが、今見上げれば、はっきりと上層まで続く道が見える。走れ、とゴルの号令が上がった。
「あいつらは三階までは追ってこれない!」




