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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎二つ目のラビリンス編⭐︎
11/15

第11話 中にいた女の子

 恐怖で金縛りに遭い、動けなくなった魚の調理法を女の子が考えていると、階下から音が響いてくる。


 魔導兵士の駆ける音だ。


 ボスが倒されたことで、あの部屋も壊れ、脱出に成功した二人が駆け上がってくる。


「あ、ビーティ」

「チッ、やっぱいたか」


 女の子にとっては、片方は初見。

 見知ったゴルはそのまま足を止めることなくボス部屋まで。

 見知らぬ方がこちらへ来た。足元に向かって話し掛ける。


「けがしてるのか?」


 余計なことを言う前に、さっき覚えた不可視の魔法で口は塞いである。

 もっとも、恐怖の鎖で縛った後だ。何もせずとも声は出せなかったろうが。


「しゃべれないほどひどいのか? オレ、ウルフ。お前は?」

「レトリ」

「レトリ。ビーティはけがしてるのか?」

「ええ、ボスにやられて」

「たいへんだ」


 担ぎ上げられていく様子を見ながら、女の子は思考を回す。

 連れて行かれては困る。今すぐ息の根止めるか。


 鼻まで覆うように見えない手を少しずらせば、それは流石に暴れるか。ならいっそ、気付かれる前に全員灰に――。

 

 結論が出る前にゴルが戻ってくるが、今はその煩わしさすら愛おしく感じられてならない。

 久しくなかった感覚であり、傷心のレトリを演じ、様子を窺うことにした。


「香水の匂いがしてたからな。まあいることは予想ついてた。先を越されてたのは釈然としないが。ボスはどうした。殴るのは勘弁してやるから言え」


「その前に謝らせて。ごめんね。わたしゴルくんに悪いことしてたの、やっと気付いて」


「はぁ、もういい。俺も熱くなり過ぎてた。それで」

「ボスは倒したよ。わたしは何もしてないけど、ビーティが」


 と、目を向ければ彼も見る。


「そこの女か。えらい惨状だぞ。どんなモンスターを――あとで聞けばいいか。さっさと出るぞ。崩れる前に」


 彼が背を向けたことで、女の子は面白いことを思い付く。

 虜にしてペットに変えてしまう。


 後ろから抱きつき、耳に息を吹きかけるなんて面倒なことをする必要もない。触れてしまえばすぐだ。足だって舐めとる可愛い犬となる。


「んん! んんん!」


 しかし邪魔が入った。指を差されてしまい、やっぱり殺しておけばよかったと思う。

 彼も身の向きをこちらへ戻し、訝しむような顔でもある。


「やっぱ変だよな。今更謝るかよ。あいつは神経図太過ぎるブタ犬女だぞ」


 酷い言われようだが、身を入れて演技したことが裏目に出たのは確か。

 光の剣を出すのが見え、斬られる前に距離を空ける。後ろへ転移した。


「魔法で姿を変えていた、か。本物はどうせまだ二階で彷徨ってんだろ。あいつはバカだからな。突破なんて不可能なことは考えればすぐわかる」


「聞いてて可哀想になってくるわね。本当にあなたに謝ろうと思って、健気にここまで追いかけてきたっていうのに。酷いのね、ゴルくぅん」


「ああ? 何意味のわからないことを――、お前、まさか」

「やっと気付いた?」

「ここのボスに乗っ取られてんのか……。そんなこともあるって、聞いたことはあるが」

「惜しい。惜しいわねぇ」


 彼が見せた戸惑いの表情、その隙をつく。

 別にする必要もないが、片付けは楽な方がいい。

 諸共全部消すと決め、ステッキ翳して魔法を放つ。


「魂焼き尽くす、深淵の炎」


 つもりが出ない。内から邪魔を受けた感じがあった。


「お姫様失格ね。自力で起きちゃうなんて。それもこんなすぐ」


 苛立ちも覚えるが、同時に感服も覚える。

 普通なら死んだも同然。覚めない。永久に。

 魂もここまで頑強で肉体並に強靭とは、異常と言うほかない。


 だからこそ目を付けたのだが。


 その身から迸らせていた膨大な生命エネルギー。

 言ったら命の輝きに目を奪われ、心奪われ、この身であれば、どんなものに蝕まれようと跳ね返せる。

 生を全うできると、それがどれほど眩しく映ったか。


 今もその眩しい輝きを放ち、あの自身が巣くう暗闇から出ようとしている。

 思わず舌を打った。

 

「だからって元気良すぎ。面倒な」

「さっきから何ごちゃごちゃ一人で言ってんだ。あいつごとぶった斬るわけにもいかないし、まずは返して貰うとするか」

「あら、別にどうだっていいんじゃないの。あなたずっとそんな感じだったじゃない。違う?」

「違わない。ただあいつの口から謝罪の言葉を聞けてないんでな。それだけだよ」


 駆動音上げて、駆けてくる。打てる手は少ない。

 ひとまず他の魔法はどうだと転移を試すが、駄目だった。


「さっきはいけたのに。全部駄目なら殴り合い? いやね、汗臭い」


 走って彼を近寄らせず、次を口にした。


「孤独を奏でる、夜の帳」


 今度は発動し、少し驚く。

 もう彼の心は孤独な夜に囚われ、動く必要もない。両目が映すのは闇だけだ。


 その場でぶんぶん剣を振り回すだけの玩具に成り下がり、如何様にでも調理は可。


「初めて見せる魔法は止められない、とかだったり? まあ試せばわかるわね。彼で」


 片腕持ち上げ、雷纏う。


「やっぱり! 可哀想なレトリ。今から目の前でお友達を失う気分はどう! また闇の底に沈む直すといいわ♪」


 放とうとした次の瞬間、爆炎上がって、女の子は驚く。

 手間が省けはしたが、その炎の中から駆動音響かせて、彼がとび出してきたことでそんな気持ちは吹き飛ぶ。


 動けなくなるような自爆技ではなかったのか。

 頭が多少混乱をきたすが、まだ心に余裕はあり、遅い。そう思った直後には、背筋が凍る。


 嘲笑ってやろうと開こうとした口が、開かない。


 何もすることができなくなり、前まで来た彼に胸倉を掴み上げられ、引き寄せられる。息のかかる距離。


「奥の手二号を使わせやがって。聞こえてるか。いつまで好きにさせてんだ。お前の口から聞かなきゃ俺は納得できない」


 頭を引くのが見え、振り下ろしてくる。衝撃がきた。


「早く追い出せ! このバカ女!」 


 強い痛みに意識が乱れ、その隙に身の支配権を奪い返され、女の子は闇の中へと舞い戻る。

 よくも、と強い怨みを抱きつつ、眠りについた。


 それは言ったら、悪い夢から覚めたような感覚。

 目に映る部屋の天井と、背中から伝わってくる冷たい床の感触が、彼女に戻ってこれたことをじんわりと染み渡るように伝え、

 

「あー、スッキリした。殴ってないからセーフだろ。文句があるなら聞いてやるぞ。聞くだけだがな」

「…………」

「反応なしってことは、うまく意識を刈り取れたか。外に連れ出せばボスも出るよな。出るか?」


 様子を窺っていた彼が、その交代劇に気付くことになったのは、その直後。

 突然むくりと起きて、傍まで来たものだから、身構える。


「ないよ。文句」

「お、おう。おまえ、どっちだ?」


「レトリ。ごめんね、迷惑かけて、ずっとだけど。中から聞いてた。信じてくれないみたいだけど、本当にわたしゴルくんに謝りたくて」


「あー、それはもう別に」

「あぅ」

「おい!」


 気の抜けるような声を出して彼女は突然倒れ、思わず彼は抱き留める。

 頭の上に大きなタンコブがあることに気付き、目を回したのだと理解した。

 ラビリンスの崩落も始まり、そのまま抱き上げ、声を飛ばす。


「なんかよくわからんがボスは倒した! 出るぞ!」

「そいつだいじょうぶなのか? 頭をゴッツンしていたが」

「いいから今は足を動かせ!」

「そうよ、今はきりきり足を動かす。ウルフほらいけ!」

「あ、ビーティ。喋れるようになったのか」

「口動かしてないで足! 早くいけ!」


 皆でさっさと退散。一階まで駆け降り、通路も走り抜け、残すは最後の関門、湖越え。

 浮き島となってくれていた魚共が消えており、迷うことなく、ジャンプでいった。


 だが、遠い。

 届け、届け、届けと念じて、何とか片足だけつけ、地面を転がる。

 後ろでドボンも起きていたが。盛大な水飛沫が上がる。


「ぷへ、もう最悪! びしょ濡れになったじゃないの。あんたも跳び越えなさいよ!」

「いけそうな感じがしたんだが、むりだった。ビーティの馬に乗せてもらうんだった」

「もう壊されたからムリ」


 ラビリンスが消えていく。

 岸で合流し、その姿を三人で見つめていると、外から大きな声が。

 大人達のもので、響き渡ってくる。


「あまり近付き過ぎるなよ! 何も見えなくなってるが、だからこそラビリンスがあるって証拠でもある。ミアンナはここにいるかもしれない。出てきたら捕まえるんだ!」

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