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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎二つ目のラビリンス編⭐︎

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10/50

第10話 激突!魔法と魔法

 驚きの声を上げるや、彼女は茫然自失のような状態となる。

 何せ教会が営む孤児院で過ごしてきた身だ。

 聖女とはそこが与える称号であり、切っても切れないような間柄、並の人間より詳しい。


「そうそう。その反応が見たかったのよ♪」

「…………」

「おーい。もう、驚かれ過ぎるのも考えものね……」


「だ、だって、びっくりして。身近な人っていうのも変だけど、どんなに凄い人かシスターによく話して貰ってたから」


「ああ、教会育ち。だから必要以上に驚いてたの。なら逸話なんて話す必要はなさそうね」


「いつわ? 有名な話なら全部知ってるけど」


 出るわ出るわと言った感じに、彼女はそこから聖女のことを話し続ける。


 天使の力を操ったとか、その力で初めてラビリンスに入った最初の魂の解放者であったとか、命を賭してラビリンスを作る狡猾な悪魔、ラビリンスの悪魔を追い詰め、そこで命の火が尽きて、今尚その魂をその手下に囚われていることを話し、


「他にも奇跡を起こして枯れ井戸に水を湧かせたとか、不治の病すら治したっていうのも有名だよね。パっと思い付くだけでこんなにあるんだもん。本当に凄い人だよねー、わたし聖女様のこと凄く尊敬してて」


「引くくらい並べ立ててくるわね……」

「そう? 変かな?」

「変ね。でも逸話っていうのは、そういうよく知られている話とは真逆、知られざる話」

「ああ、反対の意味なんだ。なら知らないかも。教えて♪」


「見ての通りよ。彼女はボスの核も入手してた。その天使の力を使って、傷つけることなくね」


「へぇー、流石は聖女様! 他には他には」

「そんなに沢山は知らないわよ。でもこの核の力はこれから見せてあげる。ドールマスターの力をね」


「どーる、ますたー。ドールっていうのは人形のことだから」

「卓越した人形遣いってとこね。下ジョブのパペッティアから更なる力を神から与えられるとなれる上ジョブね」

「ぱ、ぱぺ? なんて?」

「そこからなの? あの野生児もそうだったけど、無知は罪。命取りになる。ボスがどんな力を持っているかくらいきちんと勉強しておきなさい」

「え、うん。はい……」


 親切に教えてくれる相手の言葉は響く。

 しゅん、と彼女は肩を落とし、反省しながら二人で扉の前まで行き、開くのを待つ。開いた。


 奥で待ち構えていたボスのシルエットは、ぱっと見、老人。

 ローブを纏っている感じであり、蓄えたひげを摩り、しわがれた声を彼女達の内へ響かせる。


 ──我が叡智を燃やす不届き者共が。覚悟はできておろうな。


「最悪。多分ワイズマン」

「せ、専門用語はなしで」

「賢者。スーパーウィザード。すっごい魔法使いって言ったらわかってくれる?」

「オッケイ。把握したよ」


 二人が身構えるような動きを見せた直後、手をかざしてくる。黒い魔法陣が浮く。炎が走った。


「あんたそっち!」

「おわっ!?」


 避けようとしたらビーティに突き飛ばされて、彼女はすっ転びそうになりつつ反対側の壁へ。互いにそれを背にして、やり過ごす。


「おおう、凄い火。これがボスの魔法。わたしのとは比べ物にならないかも」

「当然でしょーが。相手は専門家なのよ。さっきと同じことできる?」

「えぇ、できるかな……」

「うまくおびき寄せて」

「やってみるけど、期待はしないでくれると――」


 火の勢いが収まるのを見計らい、そっと頭を出すと、おらず、後ろで光が上がる。


「嘘でしょ。空間移動とか、どんなチート――」


 そこからボスは姿を現わして、手をレトリの方へ。的を絞って氷の散弾を飛ばす。


「うわわ!? ほい! ほっ、わわぁ!? あ、危ない……」


 しかし躱す躱す。全弾躱してのけた。

 動体視力や反射神経も常人離れしており、彼女は言わば身体能力の怪物(フィジカルモンスター)

 その常軌を逸した動きには、仕掛けた相手から笑いがこぼれてくるほどだ。


 ――くく、猫でも捕まえられんような鼠だな。楽しませてくれる。どれ。


 ボスは今度片腕に雷を纏い、その腕を改めて向けたかと思えば、横へずらす。

 そちらには今まさに槍を構え、突きこもうと駆けてくる騎兵がおり、そちらに放った。


 迸って、一瞬で騎兵は炭と変わり、更にもう一発。

 奥にいるビーティに向けて放たれ、間に入った黒い翼がそれを防ぐ。


「うぐ、つぅう――」


 レトリが飛び込んでおり、ビーティ抱えて走る。


「ちょっと二人じゃ敵いそうにないね。一時退散」


 つるつもりがいきなり首を締め上げられ、ビーティを手放す。

 そこには何も見えず、触れもしないというのに、喉に指が食い込んでくるような感覚だけがあり、次の瞬間、壁に叩きつけられた。


「ぐ、ビーティ。逃げて……」


 願い叶わず、そちらもまた見えない何かにやられ、宙を舞い、床を転がる。

 気付けば気配が傍にあり、真っ黒な顔が目の前にあった。


 ――何故死なん。お前の体はどうなっている。


「しら、ないよ。わたしヴァンパイアだから、しぶといのかも。噛むよ」


 精一杯の強がりを見せ、牙を見せつけるが嘲笑を返され、雷纏う腕がその口を押さえつけた。


 熱した炭を全身に押し当てられたような強烈な痛みが、身を貫く。


「――――――――!」


 上がった絶叫は、外へともれることなく消えていき、彼女の意識は暗い闇の中へと沈む。


 そこで一人の女の子と出会う。


 目に残るさらさらと揺れる長い黒髪。顔に生気は感じられず、聞き覚えのある声で話す。


『大ピンチね。レトリ』

『あなた、誰? ヴァンパイア?』

『ええ、そう。あとは私に任せて、あなたはもう休むといいわ。さあ、目を閉じて』


『ダメだよ。わたしが寝たら、ビーティが』


『大丈夫。何も心配する必要はないの。でもどうしても起きたいのなら、これをどうぞ』

『林檎?』

『ええ。齧ればたちどころに目を覚ます、魔法の林檎』


 手のひらに乗るそれを受け取り、一口齧れば、眠くなる。

 瞼が持ち上がらなくなり、今一度彼女は意識を手放して、外。

 代わりに目を開けたのは、言うまでもない。蠱惑的な響きを彼女の声に乗せ発す。


「知りたいようだから出てきてあげたわよ。おじいちゃん」


 喉の辺りから亀裂音が鳴り、ボスはその場から引く。転移魔法で一気に距離を空けた。


 ――なんというおぞましい気配。何者か、答えよ。


「人に言える面? 魔法が得意なようだし、それで聞いてみたらあ」


 両腕に雷を纏い、ボスは放つ。

 しかし当たる直前、一つになり太く強力になったそれが弾け飛んで、バーカと返されて、女の子の周りから黒い茨が伸びる。


「命を吸い取る、奈落の蔓」


 ボスの手から火炎が放たれ、それを焼き切ろうとする。

 鋭利な空気の刃も走って、両断しようともしていたが、どんな魔法でも茨は切れず、最後はボスの身を刺し貫く。


 ――馬鹿な! このような結末、あってたまるか。永遠の生を得てこれからという時に。


耄碌(もうろく)してないでもっと現実見なさいよ。アホジジイ。あなたの役目はもう終わったの。これはご褒美。盛大に弔ってあげる♪」


 女の子がステッキを翳す。すると先に付いた赤い水晶が、黒へと変わり、黒炎が放たれた。


「魂焼き尽くす、深淵の炎っ!」


 自身の茨諸共、正面にあるもの全てを焼き尽くし、灰と帰す。嘲笑が響き渡る。


「アッハハハハハハ、無様。滑稽。少しも楽しめなかった。バイバーイ♪」


 言いたい放題、馬鹿にして、次なる標的へ眼は向く。今は顔を横に向け、死んだふりをしているが、見ていたことは知っている。


「簡単に騙されて、王子様のキスでも覚めない林檎を食わせた。やっと手に入れた。丈夫な体。普通の人生。特別じゃないっていうのは、生まれつき特別な人間にはとても特別なものなの。だから困るのよ、知られていたら」


 傍まで歩み、屈みこんで、耳の上から声を降らす。


「起きてるのよねぇ。見ちゃったのよねぇ。どうしてくれようかしら♪」

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