五、不安と期待の波
「楽しみだなぁ」
あの日の夜、私は斗亜くんとラインをして予定を決めた。一ヶ月ぶりの駅、ホーム、電車。全てがあまりに久しぶり過ぎて、初めてきた時のように戸惑ってしまった。彼との待ち合わせは最寄りの駅から2駅。斗亜くんとは最寄り駅が違うことから、私は電車に乗って一人で行かなければならなかった。事前準備は万端で、私は放課後に線路の近くに行くようにしていた。
ホームに降りる
〝ザワザワ〟
「まじ、やばすぎ」
「最近結構治安悪いみたいだよねーこの路線」
しばらく駅には行っていなかったこともあり、大丈夫だと思っていたが、やっぱり一人では怖かった。
〝到着しました四番線の列車は桜田線、一馬行きです〟
駅に電車が止まり、たくさんの人が出てくる
「はぁ、はぁ、はぁ」
ザワザワとしているこの空気感が私を緊張させる。
周りがぼやけて、視界が狭くなる。次第に私は過呼吸を起こしていた。やはり、私はまだ電車に乗ることはできない。
「はぁ、はぁ」
痴漢されているわけではないのに、体が勝手に反応してしまう。胸が苦しい。パニックになっている私は落ち着くことができなかった。
スマホを取り出して斗亜くんに連絡する
「もしもし?萌華ちゃん、何かあった?」
「はぁ、はぁ。ごめん」
「大丈夫?そっち行こ…」
私から電話をしたのに、斗亜くんに心配をかけたくなくて、すぐに電話を切ってしまった。人が手を差し伸べてくれているのに逃げてしまうなんて、私は本当に最悪な人間だ。
ホームのベンチに座る
「大丈夫?」
声をかけられて上を見ると、そこには彼がいた。その時、私はあることに気づいた。
「あの時助けてくれたのって…」
「うん、僕だよ」
前も今も私を助けてくれて、手を差し伸べてくれたのは斗亜くんだった。彼はなんでいつも私のそばにいてくれるのだろう。
「ごめんね、何か悔しいな」
私は、電車に乗って斗亜くんの元まで行けなかったこと、せっかく立てていた予定を台無しにしてしまったことが悔しくて涙が出た。そんな私に、斗亜君は落ち着くまで手を強く手を握ってくれた。熱いくらいの斗亜君の手が私の心を徐々に落ち着かせる。私は、何もかもがあの日と変わらないことに気づいた。
「あの日もこうやって私のことを助けてくれたよね」
「そうだよ、困っている人は放っておけないからね」
「ありがとう」
「落ち着いた?もう大丈夫?」
「うん、斗亜くんの行きたかったスイーツ食べに行こうよ」
「そうだね」
その後は二人で大きなパフェやアイスなどを楽しんだ。次第に、私は異性の友達という関係ではなくて違う、もっと特別な関係でいたいと思うようになっていく…