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四、新しい気づき

 自分がPTSDだと知ってから、少し気持ちが楽になって、今は外に出ることにあまり恐怖心を抱かない。クラスに戻って友達と楽しく会話をする、それは当たり前だと思っていたけれど、今は高校生活での目標となっている。

「おはようございます」

新しい週が始まり、お母さんに送迎してもらって学校へ行く。あの事件からあっという間に一ヶ月が経ってしまった。時間は瞬く間に過ぎていく。

「萌華さん、保健室は慣れたかな?」

「はい、だいぶ」

「良かったわ。早く復帰できるように頑張ろうね。」

「はい、ありがとうございます」

保健室は私と江間先生しかいない。気がつくと、斗亜くんを待ってしまっている自分がいた。

自習をする

「おはようございまーす!」

静寂に包まれた保健室に明るい声が響く。

「おはよう!萌華ちゃん」

「お、おはようございます」

慌ててうまく声が出ない。一人だけだった保健室は明るい雰囲気に包まれて、彼と私のあいだにも温かみを感じた。

「萌華ちゃん、今から敬語は禁止ね」

「分かりました、あっ分かった」

「ふふっ」

斗亜くんは、私のことをよく知らないのに気さくに話しかけてくれる。急な保健室登校で不安だった私の気持ちを和ませてくれた恩人だ。

「あ、聞き忘れてたんだけど萌華ちゃんって何年生?」

「二年生だよ」

「え?本当に。僕も二年だよ、二年三組。タメだね笑」

「そうだね笑斗亜くんは文系コース?」

「そう文系コースだよ。だから数学と理科は大の苦手笑」

「そっか私は理系コースだから真逆だね」

初めてちゃんと話して、私たちの距離は少し縮まって、斗亜くんのことを知れた気がした。

「萌華ちゃんはさ、好きなこととかある?」

好きなこと、私の好きなものは鉄道だった。小さい頃から電車を見たり、乗ったりすることが好きで、将来鉄道系の職業に就くためにも、理系で頑張っている。だけど、そんな夢はあの日をきっかけに砕け散った。〝痴漢〟それがまさか自分の身に起こるなんて思ってもいなくて、当然パニックになってしまった。今は電車を見るだけで思い出してしまう。乗ることなんて到底できない。だからもう、鉄道好きはやめようと思った。

「鉄道が好きだった、けど今は違うかな。今は特にないかも」

「鉄道いいよね、僕も小さい頃好きだった」

私が暗い顔をしていたからかもしれない。斗亜くんの表情も少し暗くて、無理をさせているように見えた。

「あ、ごめんね。なんか暗くさせちゃったね」

「大丈夫だよ。僕、好きなものはコロコロ変わるタイプだから笑」

斗亜くんは話を広げてくれた。私はその間あることを考えてしまった。

「また、見たいなぁ。あの電車」

「どの電車?」

斗亜くんに何かを聞き返されてふと、我に返る。心の中で呟いたつもりが声に出てしまっていた。

「何か悲しそうな顔してるけど、何かあった?」

斗亜くんは、私が抱えているこの気持ちを何か悟ったように聞いてきた。

「あのさ…」

斗亜くんは最近知り合ったばかりの異性の友達だ。なのに私はあのことを話すと決めてしまった。それは、斗亜くんなら信用できる、この気持ちを吐き出せる場所がない、と思ったからだ。

「どうした?」

「私本当はずっと鉄道が好きでね。今も好きでいたいんだけど、前に痴漢にあって、それから電車の音とかがトラウマになっちゃったんだよね」

「そっか…」

「あっごめん、こんな話聞きたくないよね」

「ううん、大丈夫だよ。今はトラウマで思い出したりしない?大丈夫?」

「うん。病院に行ってPTSDって診断されて、薬を飲んでるから最近は落ち着いてる」

「それなら良かった。本当に好きだったんだね、鉄道」

「うん」

「治療法は薬だけなの?」

斗亜くんはPTSDについて詳しく聞いて、理解してくれた。

「少しずつで良いって言われたんだけど、電車の音を聞いてみる、とかホームに行ってみる、とか。慣れて治すのがいいって言われたの」

「そっか。萌華ちゃんが平気なら、今度一緒に駅に行かない?食べに行きたいスイーツがあって、それに萌華ちゃんの治療にもなるでしょ?」

斗亜くんがデートに誘ってくれてとても嬉しかった。電車に近づくのはまだ不安だけど、誰かと一緒ならできる気がした。

「私の治療に付き合ってくれるの?」

「うん、もちろん」

「ありがとう。じゃあ、後で空いてる日送るね」

「予定決まり!楽しみだね」

あの日以降、遠くに出かけるのは久しぶりだ。そんな喜びと期待の感情と同時に、私は斗亜くんへの好意に気づき始めた。


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