三、名前のついたあの気持ち
ずっとこの不安だった気持ちに名前がつく。それはとても怖くて心配だった。けれどこれを乗り越えれば、また友達と遊びに行ったり、クラスに戻ることができるかもしれない。
「寺島さーん、寺島萌華さーん」
「はい」
緊張と不安の気持ちが病院の廊下を走る。お母さんは診察室には行かず、私一人で入るということだった。初めての精神科は少し怖かった。
「電車で痴漢をされたということですが、どのような光景だったかその時の状況を教えてください。ゆっくりでいいですからね」
「電車に乗っていた時なんです。いつものように電車の椅子に座っていた時に、シャッター音が聞こえて…驚いて声が出なくなってしまって。それからはあまり覚えていません」
先生に言われたようにゆっくり思い出す。前は怖くて記憶に蓋をしていたけれど、今は過去の自分に向き合えている気がした。
「このことを思い出して、過呼吸になってしまったり、体に影響が出ることはありますか?」
「はい、時々。忙しいと考える機会があまりないんですけど、暇になると急に思い出してしまって、苦しくなるんです」
そんな会話をしているうちにカウンセリングは終わった。先生はとても優しく、私は、落ち着いて話すことができた。
約十分後
「寺島萌華さーん」
診断結果が出たようだった。緊張で、私の心臓は強い鼓動を繰り返していた。
「寺島さんの診断結果はPTSD心的外傷後ストレス障害です。」
〝PTSD〟それは聞いたことのない病名で、治るのか不安だった。
「治るんですか?」
「はい、治りますよ。人によりますが、お薬を毎日飲んだり、あとは電車やその場所に行って体を慣らすんです」
薬や電車、それは今となっては怖いけれど、一つずつクリアしていけば大丈夫だということを先生から教えてもらうことができた。
「今はまだ、不安だったり思い出してしまうかもしれません。だけど、まずは駅に足を運ぶだけでもいいです。音や風景を新しく書き換えることができれば、必ず改善できますよ」
「ありがとうございます」
そんなことを教えてもらい、先生からの話は終わった。病院に行く前とは違い、気持ちが新しく前に進んでいる気がした。
「お母さん終わったよ」
「そう、PTSDだってね。これから治るまで一緒に頑張ろうね」