ニ、話しかけてくれた君
〝ピロンッ〟
スマホには沢山の通知が来ていた。それは、みんな友達からのラインだった。
笑吏‥萌華ー今日学校来ないの?体調悪いならゆっくり休んでね
ゆな‥萌華大丈夫?余裕があったら返事くれると嬉しいな
当然、友達にこのことを話せる訳がない。だから、返事が上手くできなかった。
萌華‥ごめんね、学校行けなくて。体調は全然元気だよ!
〝コンコンッ〟
「萌華ー入るわよー」
「うん。」
「明日から、学校に行ける?車で送っていくし、保健室でもいいから」
「保健室ね。大丈夫だと思う」
パニックになってしまうことがあるので、電車はやめ、保健室登校にした。
普段からあまり体調を悪くすることがなかった私。保健室に来るのは初めてだった。
〝コンコンッ 失礼しまーす 2年A組の寺島萌華です〟
「あら、保健室登校の子ね。靴を脱いで入って」
「はい」
優しいと評判の良い保健室の先生。江間知佳子先生だ。
「この学校の保健室はちょっと独特のルールがあるの。これを読んで待ってて。あと相談室も併合されているの」
一枚の紙を渡された。そこには大きく、丁寧な字と可愛いイラストがかかれていた。
保健室の掟
保健室ではほどほどに賑やかに
人見知りは厳禁
保健室は教室に戻れるようにするための練習部屋
一回見ただけではよく分からないことが、沢山書いてあった。
「読めたかな?今はこのルールがよく分からないと思うけど、生活しているうちに分かってくるわ。あと、最後の項目はシンプル。保健室はくつろぐ場所ではないの。あくまで、教室での生活に戻れるようにするための場所よ。だから、勘違いはしないでね」
「分かりました」
教室と保健室とを繋ぐオンライン授業に切り替わることになった。
〝キーンコーンカーンコーン〟
休み時間がくる
〝コンコンッ〟
「失礼しまーす。2年A組の高野笑吏と木島ゆなです。萌華はいますか?話したいんですけど」
「はーい。萌華さん、いるわよ」
そんな会話をしている声が聞こえた。
「萌華さん?ちょっと出れる?」
「はい。大丈夫です」
私に会いに来てくれた友達には会わなければ。
「萌華?心配したんだよ」
「笑吏はいつも心配しすぎだよ」
「聖桜もゆなも心配してくれてありがとう。ちょっと昨日色々あってね。心配してくれてありがとう。当分、保健室登校になると思うの」
「分かった。まだ大変だと思うから、時間があったらラインしてよ」
「ありがとう。落ち着いたらまた萌華とゆなと三人でゆっくり話したいな」
「笑吏と一緒に教室で待ってるからね。それと、クラスのみんなも萌華のこと心配してたからね!」
「ありがとう。またね」
そう言い、笑顔で別れた。私はいつ、教室に戻れるのだろうか。二人の背中を見ると、色々なことを考えてしまい余計に辛くなる。
保健室に戻る
「はぁ」
「君、どっかで見たことあるんだけど」
「え?何ですか?」
「何でもないよ。僕は水上斗亜。同じ保健室登校だよ。よろしくね」
彼の明るい性格に少し驚いた。
「僕が、何で保健室登校かって知りたい?」
唐突に聞かれた彼の質問に私は断れなかった。
「はい‥」
「特別に教えてあげる。僕さ、小さい頃から白血病でね、それが治っていなくて。よく発作が起きたり、通院が多いから念のため保健室登校になってるって感じ。ほら、休みとか遅刻が多いと何か言われそうでしょ?」
こんなに活発で元気そうな彼が白血病を患っているようになんて見えなかった。私はそんな斗亜くんが話してくれたから、自分のことも言わなければいけないのかと思い、口に出したその時だった。
「そうなんですね。私は、ち‥」
急に口を塞がれる
「無理して言わなくていいよ。誰にだって言いたくないこととか、秘密とかあるわけだし。保健室、相談室に来ている子は何かしら体調が優れなかったり、悩みや秘密を抱えているでしょ?だから、君は言わなくていいし、僕の病気のことも誰にも言わないでね。」
急だったけど、私のことを考えてくれていることに少し嬉しくなった。そして彼は、私の手をとって、指切りをした。
「指切りげんまーん、嘘ついたら針千本飲ーます!」
「はははっ」
なんだか、久しぶりに笑った気がした。大したことじゃないのに、自然と笑みが出た。
「笑ってくれた。あ、そうだ。ライン交換しない?別に理由はなくて、何かあった時のためにさ」
「うん、いいよ」
そんな他愛もない会話が続き、放課後がやってきた。
「萌華さーん、保健室少しは慣れたかしら?」
「はい、だいぶ。斗亜くん?という子が話しかけてくれて」
「なら、良かった」
江間先生が心配をしてくれて、私は安心をした。そして帰りの準備をした。
家に帰ると、玄関に警察がいた。
「おかえり、萌華」
「警察の方が、昨日の話をしてほしいって」
痴漢された話なんて、男性なら尚更したくなかった。
「ごめんなさい」
私は急ぎ足で部屋へ向かった。また、あの時のことを思い出して一人で辛くなり、何故か悔しくて涙を流した。あの日からそんなことの繰り返しだ。
警察の人は帰った様子で、お母さんが私の部屋に来た。
「お母さんね、萌華精神科に行くべきなんじゃないかって思うの」
「え?」
私はこの自分の症状に名前が付くことが怖くて行きたくなかった。
「今日ね、地下鉄にある精神科の広告を見ていたら男性に話しかけてられてね。その人がその病院の先生だったの。少し話してみたけどすごく優しい方だったわ。だから…」
「分かった。行ってみるよ。」
自分のこの症状を受け入れることはとても辛い。だけど、もし治るのならば治療が終わったときに私は後悔しないだろうと考えた。