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がやがやした昼休みの教室。
今日も一緒の昼食を遠慮してくれた友人に感謝しつつ、自席で少し待つ。
弾むような足音、視界にちらりと映った長い黒髪。
「さーきちゃん!お昼一緒に食べよ!」
きた。
にこにこ笑顔で現れたその人は、一つ上の先輩、花井七星。
学内で知らない人はいないであろう、有名人だ。
文武両道、才色兼備、美術界期待の高校生。
そしてそんな漫画のヒロインみたいな人がもう一人いた。
この人の双子の姉だ。
花井七海さんは、バスケ界の期待の新人。
同じ顔して、同じだけ勉強もできて。
そんなそっくりな双子は、お互い秀でている分野が違う。
姉妹揃って学内どころか、世間に名をとどろかせている双子の片割れがなんで私なんかに声をかけてくるのか。
「……先輩、友達いないんですか」
「え?いるよ?」
「じゃあ友達と食べたらいいじゃないですか」
「もう~咲ちゃんは冷たいなぁ!私たちの仲じゃん!」
また戯言を言い出した先輩を置いて、お弁当片手に席を立つ。
ゆっくりと歩き出した私に、先輩はひよこのように後ろからついてくる。
「なんですか、先輩との仲って。別に先輩後輩以外の何物でもないですけど」
「えぇ!うそだ!あんなことやこんなこともしたのに!」
「してません。先輩の妄想です」
「とか言って、ちゃぁんとお弁当持っていつもの空き教室に向かう咲ちゃん大好き!」
「先輩が勝手についてきてるだけです」
見え見えの行動を指摘されて、動揺がばれないように少し早口で言い訳する。
「でも、本気で嫌なら突き放すでしょ?」
その、なんでもわかってます、というような口ぶりに腹の底が一瞬グラついた。
でも、図星過ぎて言い返せない自分に一番イライラする。
「やだぁ、黙ったら肯定してるのと一緒だよ。ふふ、咲ちゃんはかわいいねぇ」
「うるさいです、黙ってください」
結局先輩には口では勝てない。
この双子、本当に言葉巧みなのだ。
空き教室に足早に駆け込むと、片づけられた机と椅子を引っ張り出す。
「ひゃー辛辣!って、相変わらずここは薄暗いねぇ」
「嫌なら来なきゃいいじゃないですか」
「嫌じゃない嫌じゃない!咲ちゃんと一緒に過ごさせて!お願い!」
先輩はそう言いながら素早く自分の分の机と椅子を出してくる。
すぐ着席して、自分は動きません、という意思表示をされて、思わず犬のようだと内心笑ってしまう。
先ほどまでイラついていたはずなのに、先輩の些細な行動一つで簡単に変わってしまう感情に自嘲する。
しかし、それだけは悟られぬよう、本心を伝えようと下を向いた。
「……別にダメとは言ってないです」
「はぁ!かわいい!そういうところがいい!好き!」
「こっわ……」
自分も椅子に座りつつ、弁当を広げた。