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30.リリスとヘクトル

「なんと……彼女はまさか女神か……」

「お義兄様……」

「あれ、ブラッディ様。今日は来客ってありましたっけ?」



 いきなり女神とかいいだしたヘクトルを見て、先日カフェで襲ってきた人物だということに気づいたのかリリスも大きく目を見開いている。

 ソラは……平和そうでうらやましい。それはともかく、戦闘になったらまずいと魔力を込めようとして……



「美しすぎる……天才である僕が魅了されるなんて!!」 

「「は?」」

「うふふ、そうでしょう、そうでしょう。リリス様はとっても可愛いんですよ。しかも、お料理も上手で教養もしっかりしています。奥さんとして最高ですよね。ブラッディ様」



 予想外の反応にブラッディとリリスが間の抜けた声をあげる。


 こいつまさか、ジャスティス仮面といっしょにいたのがリリスと気づいていないのか……?


 恐る恐る確認するとブラッディ。



「そういえばジャスティス仮面と戦った時に一緒にいた女の子はどんな子だったんだ?」

「ははは、戦闘中だよ。天才である僕は一つのことにのみ集中する。そんな些事は覚えていないのさ!! それよりもジャスティス仮面は同時に二つの魔法を使ったんだ。おそらく冒険者でいえばSランクだろうね。君が出会ったらすぐに逃げて僕に助けを呼ぶんだ。天才であり最強な僕ならばあんな雑魚は敵ではないからねぇ!!」

「ジャスティス仮面様が……あんな雑魚……?」




 なぜか瞳からハイライトが消えているリリスをちらちらと見ながら意気揚々と語るヘクトルにほっと一安心するが、このことをどう彼女に説明すべきか……ブラッディは頭を悩ませる。


 ブラッディはあの場にいなかったことになっているのだ。お前もヘクトルに気づかないふりをしろと伝えたいがそれは難しい。なんであなたがヘクトルのことを知っているんですか? と聞かれてしまうからな。

 

 だが、ここでリリスはブラッディの予想外の行動に出たのである。



「初めまして、私はリリス=ナイトメアと申します。ブラッディお義兄様の妹です。いつも兄がお世話になっているようですね。今日はどんなお話をされていたんですか?」

「僕の名前はヘクトル。天才魔法使いさ。君の兄の親友でね、魔法に関する研究と我らに害なすジャスティス仮面を倒そうという話をしているのさ」



 デレデレな顔で勝手にブラッディの親友を名乗るヘクトルにブラッディは思わずあきれた視線を投げる。そして、リリスはというとジャスティス仮面という言葉に一瞬だけほほをひくつかせたが笑顔を浮かべて言葉をつづける。



「そうなんですね。甘いものが苦手でなかったらですがこちらを食べて行ってください」

「ああ、お言葉に甘えていただこうかな。ブラッディも水臭いな。こんな可愛い妹さんがいるならば教えてくれてもいいじゃないか」

「え、ブラッディ様がジャスティス仮面様を倒す……? なにがどうなっているんです」



 いや、俺とお前はそんなに仲良くないだろと内心つっこみつつ、状況を把握するために話をあわせたリリスの成長に驚きつつも敬意の視線を向けると、リリスが満面の笑みで返してくれた。シナリオの強制力されなければ頭を撫でていたところである。

 ソラは……話がややこしくなるのでほうっておこう。



「リリス。俺たちはちょっと難しい話をするから席を外すんだ。お前は礼儀作法の稽古などもあるのだろう?」

「わかりました。それではお義兄様、ヘクトル様失礼いたします」

「もういってしまうのかい……」



 少し言い方がきつくなってしまったなと思いつつ正体がばれないようにはやくここから離れるように言うとリリスは素直にお辞儀をして部屋へと戻ろうとする。

 だが、そんな中ちょっと不満そうな顔をしているのはソラだ。



「もう、せっかくリリス様がパンケーキをつくってきたのに……ブラッディ様ちゃんとあとで感想とお礼を言うんですよ。リリス様はあなたの好みにあわせて何度も……」

「ソラ!! いいですから、私が好きでやっているんです。だから早く行きましょう」



 顔を真っ赤にしたリリスにソラが引きづられていく。



「ふふん、君は凡才にも慕われているんだね」

「リリスは可愛さの天才だぞ。それに慕われるのは悪いことじゃないだろ」



 むしろ、リリスは美と可愛らしさの神ともいえようと内心思いながらヘクトルをとがめるブラッディ。だが、彼は少しうらやましそうにこちらを見つめてくる。



「ああ、悪くないね。むしろ良いことだよ。君は権力をもちながらもメイドと軽口を叩きあうくらい慕われているんだ。その才能は僕にはなかった。だから誇るといい」



 そういってリリスたちを見送るヘクトルの表情はどこか寂しそうだ。ゲームではあまり語られなかったが、こいつにもヘラ教団に入る前にはいろいろな物語があったのだろう。



「さて、そんなことよりもせっかくだ。この本を読もうじゃないか? 僕と君の魔力ならばいくつか再現できるんじゃないか?」

「ああ、そうだな……だったらさ呪いを解く魔法とかないか?」

「ふむ、呪いか……僕としてもヘラ教の信者を増やすのに使えそうだ」



 そして、パンケーキをたべながらヘクトルのアレイスターの魔導書を読み解く。ブラッディは思うのだ。呪いを解く魔法さえ見つかればリリスにつらくあたってしまうのもなんとかなるんじゃないかと、そしてなによりもリリスからヘラをとりのぞくこともできるんじゃないかと。



「あれ、だけどまだヘラがリリスから出てくる様子が一切ないな……」



 確かに幸せな環境にはしているが、少しくらいは予兆があってもいいと思うのだが……今更になってブラッディは嫌な予感をかんじるのだった。



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とても面白いので更新を心待ちにしています
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