17.迫り来る破滅フラグ
魔物たちを倒しまくった数日後、ブラッディは近隣を統括している神父と話を聞いていた。ちなみにリリス今頃ピクニックにいっており、夜には友人の屋敷でお茶会である。
「それで神父よ……新興宗教のヘラ教が最近幅をきかせているというのは本当か?」
「はい、幸いブラッディ様の統治がしっかりしてらっしゃるのでナイトメア領はそうでもないのですが、近隣の領では活発なところもあるようで……」
ヘラ教は今はまだ数ある新興宗教の一つだが、ヘラの力を秘めた巫女……つまりリリスを得ると同時にその勢力を一気に伸ばす。彼女には絶対かかわらせるわけにはいかないのだ。
早めに手をうつ必要があるかもしれないと思う
「お茶をどうぞ」
二人の会話が進むなか、ナツメが綺麗な所作でお茶を差し出す。そして、神父がナツメを見つめ逡巡するのを察してブラッディが先を促す。
「ナツメは俺の信頼するメイドだ。何をはなしても他言はしないから安心してくれ」
「は、わかりました。それでですね……特にお隣のアンダーソン領では領主様でまでが傾倒してるらしく……」
「アンダーソン領だと!!」
聞きなれた言葉に思わず声を荒げるとナツメが即座に欲しい情報をくれる。
「確か、本日リリスさまが招待されたのはアンダーソン家の令嬢だったかと……」
「神父よ、貴重な情報を助かった!! 俺は用事ができた。このお礼は必ずする!!」
ブラッディは話も中途半端に席を立つと即座に出発の準備をするのだった。
「まさかもうすでにヘラ教がリリスにちょっかいをかけることになっているとはな!!」
「落ち着いてください、ご主人様。それと変なところを触ったらセクハラでリリス様に訴えますよ」
「仕方ないだろうが!! 下らんこと言っていると振り落とすぞ!!」
身体能力アップの魔法をつかい、ジャスティス仮面の恰好をしたブラッディはナツメを背負いながら、すさまじい速さで駆け出していた。圧倒的なまでの魔力を持つ彼は馬でいくよりもこっちのほうが早いのである。
「居場所のわかる魔道具をリリスたんが持っていてくれて助かったぜ……」
「一歩間違えなくてもストーカーですね……」
「ちーがいますーーー!! リリスたんが子供のときにうけとってくれたんですーー!! 効果も説明していますーー!! だから、セーフでーす!!」
必死に反論するブラッディにナツメがクスリと笑う。
焦っているブラッディを冷静にさせるつもりか、ナツメがいつも以上に軽口を叩いている。なんだかんだ主想いのメイドなのだろう……多分。
「それで質問なのですが、ヘラ信者たちはどれくらいの強さなのでしょうか? 私やブラッディ様ならば並大抵の相手ならば倒せると思うのですが……」
「ああ、それがな、信者共はの実力にも差がある上に、それぞれが強力な加護というスキルを持っているんだよ。例えるならば全員がス〇ンドをもっているようなものだ。相性によっては俺たちでも苦戦する可能性がある」
「なるほど……確かに場合によっては手ごわいですね……時をとめられたりしたらまずいですし……」
ブラッディはゲームを知らないナツメにわかりやすいようにたとえ話をしてやる。ゲームの時は敵がどんなスキルを持っているかちょっとわくわくしていたがいざ現実に相対すると厄介だなと思う。
「特にだ司祭とよばれるやつはやばい。ある程度の実績が認められた一芸に秀でた連中だからな……」
ブラッディは思わず頭をかかえたくなるのを我慢する。
「くっそ、中盤に出てくるはずのドラゴンの襲撃が終わったというのに、今度はヘラ教かよ。なんでこんな風に敵が次から次へとリリスに襲ってくるんだよ!!」
「もしかしたら……シナリオの強制力というやつかもしれませんね……リリス様は本来悲劇のラスボスなのでしょう? ですが、今の彼女はブラッディ様のおかげで幸せそうです。なので様々な苦難をあてて元の状態に戻そうとしているのではないでしょうか?」
「最悪すぎるだろ……」
確かに部下がドラゴンに皆喰われていれば、心優しいリリスはショックをうけて闇落ちしたかもしれない。そして、ヘラ教にさらわれれば心の奥に眠るヘラが目覚め冷酷な心に支配されてしまうかもしれない。
だけど……
「そんなことはさせない。そのために俺は転生したんだからな」
「ふふ、これから何度も困難が襲ってくるだろうに、躊躇なくそう答えるあなたのそういうところ尊敬しますよ、ご主人様」
「え? なんか素直に褒められるとこわいんだけど……」
「……」
珍しく褒められたのに驚いて、思わず本音をポロリとつぶやいたブラッディを背中のナツメの瞳がすーっと冷たくなっていく。
「ブラッディ様……手が私のおしりに触れています。これはリリス様にセクハラされたと相談しなければいけませんね……」
「いや、この状況じゃ仕方なくないか?」
「おっと、屋敷が見えてきましたよ。そろそろ忍び込む準備をしないといけませんね」
「ちょっと無視しないでくれない!! なあ、絶対リリスたんに言うなよ!!」
そんな風に騒ぎながらもようやく目的についたのだった。
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