赤いアラルゴス
急降下して来たアラルゴスの正面に次弾を発射。
それは真っ白い光の光線のようにそれを貫き、消滅させた。
もちろん、弾倉を改めて交換した訳じゃない。奴らはそんな隙は与えない。
最初に交換したのは、神弾を込めた弾倉から神弾を込めた別の弾倉に交換しただけだ。
連中が警戒していた通りだな。
だけどボルトを引いた時、弾倉にはまだ完全には装着されていなかった。中途半端な位置で止めたんだ。
そこで榴弾を込めてボルトを戻した。
奴らは複眼で目が良い。普通ならそんな偽装、簡単に見破るだろう。
だけど今は、燃えている林と煙が上空から俺の姿を遮っていた。
慌てて回避しようとする2匹を立て続けに葬る。
もう腕が痺れて来たが、まだまだ余裕だ。
そんな俺の前に、赤い一本角が現れた。
「さすがに早い!」
このクラスが群れを率いるとは知らなかったが、色違いの存在自体は当然知っている。赤兜がまさにそうだ。
生態も調べた。映像も見た。それでもこれは予想外だ。
突進してきた赤いアラルゴスの攻撃をライフルのストックで何とか防ぐ。
盾にもならず粉々に砕けたが、弾かれた反動で負傷は免れた。
それに、ストックが無くてもまだ撃てる。ちょっときついだけだ。
次の突撃は高円寺の支援砲撃を回避させることでかろうじて防いだが、来栖の自動小銃による支援攻撃はまるで弾丸を予知しているかのように回避されている。
高円寺の攻撃は当たる事に期待はしていなかったが、来栖の弾まで全て避けるのは驚きだ。
そして今度は向こうが炎の林に突入していった。
上空と違い、松林のパチパチと弾ける音が羽音を紛らわせる。
だがあの図体だ。煙が位置を教えてくれる。
円形に煙を割って飛び出すと同時に、狙いすましていた弾丸を撃ち込む。
考えは悪くは無かったが、所詮はその程度か――などと油断した俺は馬鹿だった。
撃ち抜いたのは茶色いアラルゴス。
同時に、同じ煙の穴から赤いアラルゴスが現れる。
――やられた。
その時点で、敗北を悟った。
もうボルトを引く時間も無い。
それに今の一発で、砕けたストックが肩に深々と食い込んでいる。
骨で何とか止まっている状態だ。
この状態で出来る事は何もない。1秒もしない内に俺は――、
その瞬間、俺はダンプカーに跳ねられたような衝撃を受けた。
正面からではなく、横から。
アバラが砕け、首がゴキッと嫌な音を鳴らす。腕もやってしまったかもしれん。
「大丈夫? まだ立てる?」
体当たりしてきたのは高円寺だった。
危ない所だった。
ただ助かったけど、別の意味で死んでいたかもしれないな。それ程の衝撃だった。
このクッションが無ければ即死は避けられなかっただろう。
だけどその高円寺の背中には2本の鋭い傷がある。
かなり深い。彼女こそ、こちらを心配している余裕はないだろう。
しかし追撃が遅い。
見ると、俺をかばいつつも対戦車ライフルでぶん殴っていた。
もう中央は割れて銃身も曲がっているから使えそうにないが、素手で殴ってああなるのは凄い。
それでもバランスを崩しただけなのも、さすがに赤いアラルゴスだ。
残念だが、稼いだ時間はそれでもコンマ数秒。状況はどう考えてもダメだ。
こんな所で死ぬのかという悔しさもあるが、俺がいなくなった後にこいつらはどうするんだ。
――やはり死んでなどいられない!
砕けたストックはまだ肩に刺さったままだが撃つには支障はない。
だけど時間は無い。ボルトに手をかけて時点で、もう奴は目の前にいる。
ここからボルトを引いて排莢と装填をしなくちゃいけない。
無理なのは分かっている。だけど最後までやり切らなくては、死んでいった家族、そして送り出してくれた家族に申し訳が無い。
目の前に迫る赤い角。
だが、急に起動が逸れ上空へと避難する。
高円寺が殴りかかったからだが、人間のパンチなんかを避けただと!?
――いや、その手に握られているのは俺が渡した神弾だ。
確かに銃から発射したのとでは威力は段違いだろう。それに人間の速さとリーチじゃ当たりはしない。
だけど、連中にとってはあれに触れる事自体が嫌なんだ。
試したことは無いが、とにかく僅かな時間は助かった。
肩の激痛に耐えながらボルトを引く。
これで弾は入った。だが降りて来なくては意味がない。
だが、奴は来た。
こちらは瀕死の手負い。排除するなら今が好機と判断したのだろう。
だけどな、真っすぐ降りてくるのは悪手だ。
地面に倒れ込み、引き金を引く。
反動を全て吸収出来るわけではないが、立って撃つより遥かにましだ。
それに、一瞬だが速度が鈍った。
地面ごと俺を串刺しにしても、離脱が遅れれば高円寺に殴られる。
迷ったか、それともあまり地面に刺さらないように加減したか。どちらにしても、その減速は俺から見れば命とりだったな。
発砲した弾丸が白い光の尾を引いて、一直線に赤いアラルゴスに命中した。
中心からは少しズレて左目の上を貫いたが、致命的な部分には変わりはない。
これで終わった――確かにそう思った。あれで生きていられる奴はいない。
だがそれは俺の見込み違いだった。
初めて対峙した赤い個体。俺はそれを甘く見すぎていた。
体はボロボロと崩れながらも、逆に速度を上げて突っ込んで来る。
死なばもろともかよ。
高円寺が俺を再び突き飛ばそうとしている気配を感じる。
ああ、どっちにしろ死ぬわ、俺。
だがどうせならばと考える間もなく、背後から高円寺が首根っこ掴んで放り投げた。粋なが止まる。首がもたない。死ねる。
しかし地面に串刺しは免れた。それにまだ生きている。
もっとも、助かったわけではない。超高速の降下から、地面ギリギリのホバリングへの方向転換。
ほんの一瞬だが、完全な状態の俺ならあの瞬間を撃てた。残念でならない。
今、奴の角は俺たちに向いている。
銃は――今のショックで落としてきた。
来栖の放った大量の銃弾が奴を襲うが、最小限の動きでかわしている。
これででは時間稼ぎにもならない。
そして――奴は俺たちに向けて突進した。
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