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01

もしも未来を見れるなら


「もしも未来を見れるなら。どんな未来が見たいですか?」


膝に懐く妹が、戯れに聞いてきたのが全ての始まり。

執務室の、応接用のソファー。そこが妹お気に入りの昼寝ポイントだと気づいたのはつい最近のことである。お互い気配には聡く、互いの無事を心で無意識に探っている。「距離が近いんですね」とは部下の言葉だ。もちろんその部下の言葉は丁寧に黙殺した。わざわざ当たり前のことを言いふらす必要は無い。


万能の能力者と言われる妹だが、その力は決して万能などでは無いと、兄は知っている。実際、万能ならばまずその病弱な身体をなんとかして欲しいと妹に泣きながら懇願した幼い頃の自分は間違っていない。あれは妹が高熱を出して生死を彷徨った時だったか…。魔法のランプがあれば間違いなく彼女の身体の健康と健常さを祈っていたし、現に今も祈っている。この不思議に溢れる世界ならば魔法のランプぐらいあって良いはずなのだ。


朝から少し熱っぽいと語る彼女が心配で、寝室で仕事をしていたら部下から再三の呼び出しを食らってしまった。仕方なく離れたわずかな隙に、空になった寝台を見つけたときの俺の、兄の気持ちを考えて欲しい。俺に残された唯一の肉親、それが妹という女神である。その能力故に、彼女は衆目の的だし、外は危険な狼で溢れかえっているというのに。


結局、妥協案で部下も訪れる執務室で彼女が休むことになった。正直、ありえない。最初は執務机できちんと仕事をしていた。彼女はソファーで。うつらうつらする彼女が、ちゃんと毛布を被っているか心配になって確認すること数回。水を採っているか心配になって取り替えること数回。書類配達に来た部下も唖然とした目で俺たち兄妹を見ているし、なによりちゃんとした場所で休ませてやるのが保護者として、兄としての適切な行動なのではないのか。


「いえ、貴方のそれは猫を構い倒す飼い主のそれです」

「…嘘だろう」


先日ネコチャンを飼い始めた部下から話は聞いてはいた。妹以外に興味が無く軽く聞き流していたが、記憶にはある。


「…構い倒すと衰弱していくという話ではなかったか?」

「そうです」

…妹、死ぬのか?


み、認めない。認めないぞ!と威嚇の意味を込めて妹を抱きしめる。部下を睨んでみせれば、目に見えて部下が慌て出した。心なしか顔色が悪い。なんだお前も体調が悪いのか。


「威圧するのはやめてください…常人ならば普通に死にます。あくまで例えです。あと、そんなに強く抱きしめたらただでさえ細いその身体、折れますよ」


大事なのは適切な距離です!!!

そう再三念押しして去っていった部下。

落ち着かないため、結局は同じソファーで仕事をしている。


「…休めているか?」


離れることはできる。なんなら寝室への直行便も可能だ。しかし離れるとこっちはこっちで心配で心配で仕事にならないという結構なオマケ付きなんだが。


「大丈夫です…」


くすくす笑って膝に懐く姿を見下ろす。昔は逆でした、懐かしい。そう言う妹に苦く昔を思い出す。昔から妹の膝に縋っていたのは兄である自分の方だった。『死なないで』『一緒に居て』『僕を置いていかないで』今にして思えばずいぶんと独りよがりな願い事ばかり。それでも願いの根底は変わらない。


「もしも未来を見れるなら。どんな未来が見たいですか?」

「おや、妹殿は未来視の能力もおありだったか」


妹に、そんな能力は無い。あくまで戯れの範囲内だろう。

…少なくとも今夜のごはんはお粥ですね。

少し遠い目で呟かれる言葉は結構な精度の未来図である。


「…そうだな。まずは未来に光あれ。

闇は深いが平和を望み続ける強い精神が世界に満ちよ。あとは我が妹殿が心身健康で健やかであれば言うことは無い」

「創界神らしいお言葉ですね。

…最後のはまあ、努力しますけど」

「そうとも。努力してくれ」





見たい未来のためには

進まなければならない。


面倒だが

何でも叶う魔法のランプはまだまだ実現不可能のようだ。

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