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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
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記憶・記録

部屋に戻り向かい合うようにイアはソファへ、俺はベッドに腰掛ける


「さっきの話、何か知ってるんだね?」


「・・はい、恐らく行方不明になった方はバグの被害に遭ったんだと思います」


イアの只ならぬ様子から何かあると思っていたが


(ここで()()か・・・)


「居なくなった方は採取や仕入れに向かった冒険者やお店関係者の人達で

(フィールド)へ行ったきり消息不明」


という事は・・と言い淀むイアに


「バグに襲われた・・と?」


頷くイア


「NPCが通常何らかのトラブルに見舞われ行動不能に陥っても

元の場所にリスポーンするんです

ですが、リスポーンされずに別人のNPCが配置されたという事は

復元不能な損傷を負ったりキャラデータがロストしたんだと・・」


「そこまでのダメージを負わせることが出来るのは

一部を除いてバグくらいのものです」


「そんな仕組みだった、のか・・・」


驚いたが、考えてみればその通りだ

NPC護衛クエストなどで失敗したとしても護衛対象は消滅せず

元の場所でケロッとしてクエストの再チャレンジを促してくる


本来NPCには死という概念が無い

だが何事にも例外はある


その例外がバグ、まさしく規格外の存在


(ホームポイント)には配置されるNPCの人数はある程度決まっているんです

復元不可なNPCが増え、最低人数を下回ってしまった場合システムが世界を維持する為に

同じ役割を持たせた人を配置するんです」


「住民が突然全くの別人に変わったらもっと違和感を覚える人が大勢現れるんじゃ?」


先程のヒルメという人の様に


「町の人は居なくなった人の事を記憶しません

世界のシステムが整合性をもたせるために消えた人に関わる記憶のログを消し

新しく配置された人との記憶に差し替えるんです」


「あの方は多分、親しくしていたお店の方を強く心配

想い続けていて記録(ログ)・・記憶が残っているんだと・・」



「世界の・・規格(システム)の外に出てしまったって事か・・・」

イアの説明を聞きぽつりと呟く


規格(システム)の外・・そうですね、的を射た表現だと思います」


「本来サービス終了し、この世界群へ流れ着いて暫く経つと

NPCの皆さんも自我が芽生え始めるんです」


「え!?」

それは初耳だ、ずっとテンプレートな生活を営んでいるのだと・・・


イアは苦笑し

「それはそうですよ!○○の町へようこそ、しか喋れないと困るじゃないですか

まぁ今のは極例としても新しい経験への興味、行った事の無い場所への憧れ

それらへの抑えられない欲求の探求、進化ですね」


(確かにそうか、人工()()なんだしそりゃ進化進歩するわな)


でも、とイアは続け


「ヒルメさんのように世界のシステムや根幹、裏側に触れた事が切っ掛けでの

自我の目覚めは危険なんです、(AI)・・が耐えられない

だから世界が維持の為に適宜、不具合に関する記憶を消しているんです」


だが今回は消えた人を想い、記憶の消去が上手く作用していないのか


「この世界は流れ着いて(サービス終了)間もないから

自我を確立している人があまり居ないんです

もしかして自我に目覚めた人たちが大勢居たら維持が追い付かず

パニックになっていたかもしれませんね」


窓から人々の往来を眺め、阿鼻叫喚な光景を想像しゾッとする


「しかし、もうバグによる被害が出ていたのか」


それも思ったより近くにバグが潜んでいるのだろう


「・・・私、昨日・・バグを近くに察知してたかもしれません・・」


「え?」


「採取を終えて町に戻る途中に微かに違和感を・・

あの時もっと注意を払っていれば・・・」


「やはり(フィールド)に出た者を狙って襲っているのか

無暗に探し回らなくても向こうから寄ってくるだろうから

明日はしっかり準備を整えておこう」


だがイアの表情は沈んだままだ


「・・・町の人がバグに襲われたのは昨日よりずっと前だよ、

昨日バグの反応を捉えきれなかったとしても被害者は・・・」


「でもッ!」


「だから明日、これ以上被害を出さないよう必ずバグを処理しよう」


絶対に・・と静かに、強く、半ば自分にも言い聞かせるように言葉を吐く


ーーー


相手は規格外で未知の存在、準備を整える為

町の武具店に赴き装備を物色しに来たのだが・・・


「うーわ、おっもッ!」


陳列されている両刃の剣を持ち上げるが

腕に響くずっしりとした重厚感、持ち上げるだけで精一杯だ


それもその筈、分厚い鉄板を二枚張り合わせ鍛えてある


重さは10キロの米袋よりも大分重い

これを振り回すのはとても無理だ


「これなら棍棒でいいか・・・」


気を取り直し今度は防具を見てみるが

こちらは随分と値が張る兜、胸当て、小手、足甲と一部だけでも高いのに

一式となると今の手持ちではとても買えそうもない


せめてイアの分だけでもと思ったのだが


「いえ、そんな!私は大丈夫です!戦闘ではお役に立てませんし・・」


「役に立つから装備を整える、立たないからほっぽっとくとかじゃのーて

無事でいて欲しいからね」


「そ・・そうですか・・ども・・・」


唇を尖らせを人差し指をつつき合わせ耳まで赤くなってもじもじしてしまったが


何も買えぬ甲斐性のないオッサンが言っても何も締まらない


肩を落とし商店街を後にする


結局手元にあるのは売らずに残しておいた薬草と棍棒


懐かしき(いにしえ)のRPG初期装備だ

これで旅立てと放り出される勇者の気持ちが理解(わか)った気がした


ーーー


その夜、さりげなくソファで寝ようとしたのを阻止され

再び同じベッドに並んで眠る


イアは規則的な寝息をたてているが、俺は考え事に囚われ寝付けずにいた


明日控えている未知の存在との決戦が嫌でも頭に浮かび

酷い緊張感に全身を支配される


(上手くやれるだろうか・・・)


バグという名称をぼんやりと聞き対処を頼まれ同情に近い形で協力を決めたが


バグが明確に被害を出していることを知り

改めて危険な存在と対峙することを今更、頭が理解したのだろう


(情けない、やれるだけやる、そう決めただろう)


ふぅぅ・・と静かに深呼吸し弱気を叩きだそうとすると


きゅっと手を握られた


横を見ると眠っていたはずのイアと目が合った


「あ・・ごめん、起こした・・よね」


「いいえ、寝たふりしちゃいました」


てへへと笑いながらもイアは深刻な表情になり


「大輔さん・・・元の世界に・・・戻って下さい」


静かに告げたイアの声は、震えていた


「えっ!?急になんで、そんな」


「私は今までお招きした人達はお授けした異能で

難なくバグや敵性NPC(エネミー)と戦ってるって、だから平気だとそう思っていました」


「でも違ったんです!バグって、戦うってとっても怖い事なんです!

私、大輔さんに怖い目に遭って欲しくないんです!」


握られた手に少し力が込められる


「一緒にお散歩して、ご飯を食べて、おやすみなさいを言っておはようを言って」


「優しくしてくれてありがとうございました

私、全部初めてでした・・・だからっ」


「ま、待った!待ってくれ!」

まるで今生の別れの台詞を告げようとするイアを遮る


「確かにバグが想像よりヤバそうなモンだって分かって少しビビってるけど

逃げる気なんて」


「・・怖いんです!大輔さんが傷つくのが、考えたくもないんです!」


今までこんなに誰かに心配された事があっただろうか

ここで俺が帰ってしまったらもう召喚は出来ずバグへの対抗策は尽き


この世界は緩やかに確実に死へ向かう


ーー違う


世界はどうでもいい、そんなモノの為に痛みを堪えて戦う事は出来ない


自分でもどうかと思うがそこまでの正義感は備わっていない


でも、隣に居る少女の為なら?


健気で頑固で食べる事が好きで

出会ってたった2日のこの()の為に


勝手に生を授けられ、望まぬ死を宣告された彼女の為に


なけなしの根性と気合を尽くして脅威(バグ)とやらに立ち向かえるか?



ーーー出来る。



サービスを終了した既に終わった(すてられた)世界だとしても

目の前には俺に心を配ってくれている存在が


こちらもそっと手を握り返す


「ぁ・・・」


確かに実在している

夢や幻ではない、見捨てて置ける訳がない


俺がやらねば誰も助けない救う者は現れない

なら・・・決まっている


「だからお帰り下さい私の事は夢・・むぎゅぶっ」


イアの口を空いてる手で摘まんで言葉を断つ


「ぷっぅ!なにするんですか!いま大事な話をっ」


「帰らない!逃げない!この話はおしまいな」


「え・・でもッ」


手にまた少し力を入れて握る

「ひゃ!」


「おしまい、大丈夫。寝よう、また明日な」


全く答えになっていない言葉でイアを封殺し


「おやすみ」


そう言って目を瞑る


その後暫し隣で困惑した気配を感じていたが


やがて


「・・・もう、・・・おやすみなさい」


本格的に眠りに落ちるまで互いの手は繋がったままだった。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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