来訪者
カーテンの隙間から朝日が差し込み新しい一日の到来を鳥が告げている
横になったまま伸びをし、上体を起こそうとするが
隣で静かに寝息をたてている存在を思い出し
ゆっくり起き上がろうとするが
「・・・ん~みゅい」
起こしてしまったようだ
「おはようございま・・」
と、言いかけると
「んッ!」
イアの眉の角度が上がる
敬語を使わない約束をしっかりと覚えているらしい
「・・おはよう」
言い直すと
「はい!おはようございます」
にっこりした笑顔で返事が返ってきた
軽く身だしなみを整え食堂で朝食を頼む
元の生活では朝食を習慣にしていなかったが
現金なもので目の前に料理が並ぶと食欲が湧いてくる
イアは食事が気に入ったらしくパンを6枚平らげていた
朝食を済ませ部屋に戻り、これからの方針を決める為イアと向かい合う
「取り合えず、この町を拠点にバグの捜索と退治かな」
念の為、数日滞在する宿代を支払っている
足りなくなればまた採取した品を売って金銭を得ればいいし
「はい、バグはこの町の近辺に居ると思います」
バグの居所に関してはイアが頼りだ
(バグは微弱な音を発してるらしいが俺にはイマイチ聴こえないんだよな・・・)
町周辺から段々とバグの捜索範囲を広げていこうと方針を固めた時
『コン、コン』
ドアがノックされた
「はい?」
返事をすると
『おくつろぎの所、申し訳ありません』
どうやらノックの主は宿の人らしい
『お客様にお会いしたいという方がお見えになっているのですが』
「「え?」」
イアと顔を見合わせ同時に疑問符を浮かべる
ドアを開け確かめる
「あの、面会を希望されているのは自分たちで合っていますか?人違いでは?」
「”薄桃色の長髪の少女を連れた仮面の男性”と伺っておりまして
今ウチに宿泊なさっているお客様の中で特徴が一致するのは・・・」
チラリと、目が『あなた達だけ』と訴えている
ゲーム世界とは言えイアの髪色はそうそう見かけないし
なにより仮面の男ときたか・・・
少なくともこの町では自分たち以外に滞在していないだろう
と、すると・・・
「その人がどなたか聞いていますか?」
問うと
「えー、何でもギルド連盟の方と伺っております。
今は階下の食堂でお待ちいただいております」
では、と宿の人は仕事に戻って行った
ドアを閉め、イアを振り返る
「どういう事だろ?」
「さぁ・・?心当たりは・・・」
うーむ、と二人して考え込む
「そもそもギルド施設に近づいてもいない訳だし何で俺らの事を知ってるのか・・」
腕を拱き考えを巡らせ
「ギルドの人ねぇ・・・まさかッ!」
「捕まえに来てたり・・とか?」
「えッ!?」
脳裏を過った嫌な想像を口にするとイアが驚く
「でも私達なにも悪い事なんて」
「橋の下で眠ったことが不味かったか
或いは店で勝手に売買してはいけなかったか」
だがどちらも見咎められたり店の人に注意もされなかった
ギルドが出張ってくる程だろうか・・・?
「ごめん、自分で言った事だけど違うかも、忘れて」
やはり直接会って確かめるしかないと結論し
待ち人が居るであろう食堂へ向かった
食堂へ着くと遠目から見ても身なりがキッチリとしている女性が佇んでいた
向こうもこちらを見つけたらしい
席を立ち軽く会釈をし近付いてきた
「突然お呼び立てして申し訳ありません
私はギルド連盟構成員、ヒルメと申します」
こちらも軽く自己紹介を返し、用向きを尋ねる
「実は・・昨日、あなた方が店に山菜や鉱石を売却しているのをお見掛けまして」
(そらきた!)
内心、危惧していた事が的中してしまったかと身構えていると
「その・・変な事を聞くようですが、
あれらの品々は町の外で採取された物ですか?」
(・・・?)
盗品を売り捌いたと言いたいのだろうか?
しかし売ったものはキノコに薬草を少しと鉄鉱石や銅鉱石だ
宝石、貴金属などの希少品ではない
「はい、外の原や森を巡って集めた物です
誰かから奪い取った物ではありません」
「あ、いえ!そのような事を疑っている訳ではなく!」
ヒルメは驚いた様子で首を左右に振る
どうにも質問の意図が読めない
その後も
町の外で人と会わなかったか、町の周囲に集落や人が潜んでいる形跡はあったか
俺たちは何処から何の目的でこの町に来たのか等の奇妙な質問をされた
(駄目だ埒が明かない)
明らかに何かを意図して質問している様子だが
何故そんな質問をするのかを言わない
「あの、失礼ですが先程から何を聞かれているのか、いまいち・・」
俺の言葉にヒルメは目を伏せ
「そう、ですね正直自分でもどう聞いて良いやら・・」
だが少し考えた後にこちらを見つめ
「信じていただけるか分かりませんがお話しします」
その後ヒルメから聞かされた話によると
最近採取などをしに町の外へ出た町人が帰って来ない
数日すると居なくなった住人の家や店にいつの間にか違う者が住んでいる
その本人や周りに聞いても昔から住んでいた人達だと心底不思議そうに言われた
全員が嘘を言っている様子がなく、逆に居なくなった人達の事は誰も覚えていない
だから突如町に現れ町の外で採取をして戻ってきた自分達に何か無かったか聞きに来たという
打ち明けられた話の内容に俺がただ困惑していると
「周囲の方達や代わりに現れた当人ですら気付いていない異変に
あなただけが何故気付いたのでしょう?」
イアが口を開いた
いつになく真面目な強張っている表情だ
「何故、と言われても特に思い当たる事は何も・・・
私は主に採取依頼の斡旋と商店の管理を任されていまして
店の人達とも懇意にさせて貰っていましたし
顔馴染みとなった冒険者の皆様が戻らない事を心配していただけで」
「そうですか・・・、お答えいただき有り難うございます」
イアはヒルメの答えにそう言ったきり、考え込んだ表情で黙ってしまった
代わりに俺が外で人影や集落その他を見掛けなかった事
この町へ来た理由、バグの件は伏せ
とあるモノを探す旅の途中で立ち寄っている事にして伝えた
「あの、自分達は度々外へ出向く用があるのでついで・・と言っては何ですが
宜しければ居なくなった方や痕跡を探してみましょうか?」
提案しイアにも視線で『どうだろう?』と伺うとイアも
「・・はい、そうしましょう」
神妙に同意してくれた
「そう言って下さると正直助かります、私では最早何が何やらで・・」
軽く経緯を聞いただけだが今居る人を知らない
逆に今居ない人を存在していた、と周りに訴えていたのだから
誰にも取り合って貰えず散々だったのだろう疲労が見て取れる
「じゃあ早速これから外に・・」
言いながら立ち上がると
「大輔さん!今日は部屋で片付けないといけない用事が有りましたよね!?」
明日にしましょう、と言うイアに
そんな用事はと言い掛け口を噤む
真剣にこちらを見上げ何かを訴えている
「あぁ!そうだったごめん忘れてた、探索は明日以降にするって決めたんだったな」
話を合わせヒルメにもそう伝え今日の所はお開きとなった
「では、ギルドが事態を把握していないので正式な依頼ではないのですが
私からの依頼と言うことでお願いします」
言いながらピシッと礼をし去るヒルメを見送り
「何か心当たりがあるんだね?」
イアへ問いを投げると
「はい、部屋でお話しします」
頷き二階へ続く階段を上るイアを追いかけた。
ここまでお読みくださった貴方に感謝を