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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
6/44

歩み寄り

空腹を満たし宛がわれた部屋に戻り


そろそろ休むかとソファに横になりボロ布を被ろうとすると


「ま、待って下さい!」


「え?」


イアの大声にボロ布を胸元まで引き上げながら返答する

「どうしました?食堂に忘れ物しました?」


「違います!なんでそんな所で寝ようとしてるんですか!」


「なんでって・・・」

少女を差し置いてベッドを占拠するほど倫理観は欠如していない


だが・・・


「駄目です!ベッドは大輔さんが使って下さい!」


「いや、いいよ」

言ってソファで本気寝モードの態勢に入る


「むぃぃぃ・・・!だめです~」


ガチ寝しようとすると布団代わりのボロ布を剥ごうとイアが掴んで踏ん張ってくる


「だいじょぶですって、このソファ大きいし窮屈感ないから」


剝ぎ取られまいとこちらもボロ布を掴む

イアが非力な為、大して力を入れなくても抵抗できる


「んぅ~・・わかりました、じゃあ私は床で寝ちゃいますよッ!」

力比べは不利と判断したのか搦め手で対抗しようとしてくる


「ふーん・・・」

だが俺はイアが床に陣取る前にゴロリとソファから転げ落ちそのまま大の字になる


「駄目、アカン。ベッドに寝なさい」

床を占拠し宣言する、ソファどころか床に女の子を転がすなど流石にあり得ん


「あっあっあっ・・もぉ~・・・」


床で寝転がる俺を見てイアがベッドにへたり込む


「分かりました・・じゃあせめて一緒に寝ましょう」

「うん」

言ってそのまま目を瞑ると


「違います~今の()()()()に寝ましょうじゃなくて

()()()()()()()寝ましょうって意味です~」


ベッドの上でわちゃわちゃ腕を振り回し身振り手振り

言葉の意味を解説する姿に笑みがこぼれる


「なんですか!?笑ったりして!これ以上は譲歩しませんよ!」


ぷんすかと擬音が聴こえそうな程、頬をぷっと膨らませている


(・・・仕方ないか)


「分かりました、じゃあお邪魔します」

根負けしてベッドに上がり隅に身を寄せる


「んぅ・・またそんな隅っこに・・・」

これ以上は不毛と思ったのか、イアも渋々といった感じで横になる


ふぅ・・・やっと落ち着いたか

強がっていたもののやはりベッドは寝心地が良い

徐々に身体から力を抜き眠りに就こうとしていると


「・・・お腹でてませんか?」

「そりゃ出てますよ、もう中年だし」


「ち、違います!布団からお腹が・・」

「ははッ、大丈夫ですよ出てません」


軽口を叩いてしまった。駄目だな、少し気安く接し過ぎているかもしれない


共に探索や食事をし寝所の譲り合い合戦をして

勝手に距離感が縮まったと思い込んでしまっている


中年特有の悪癖だな、気を付けねば・・・


「・・・・・・・・・・・・」


(・・・?)

イアが黙りこくってしまった、眠った訳でもなさそうだが、少しからかい過ぎたか


「ぁの・・どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」


「・・?どうしてって・・・」

ぽつりと呟かれた問いに窮する、特別優しくしてるつもりは無いからだ


「私は、あなたをこんな事に巻き込んだ・・元凶、なんですよ・・」


「それは昨日聞きました、意味も・・ちゃんと理解してます」

その上でイアと接していると伝えた


「ッ!なんで!・・なんで・・・あなたは全くの無関係で、

私の勝手な願いで・・こんな・・」


イアの声が滲み始める

ずっと己を(さいな)んでいたのであろう罪悪を吐露する


だが・・・


「昨日、消えたくないって・・言ってたじゃないですか・・・?」


「・・すん・・はぃ・・・」


「誰だってそうだと思うんですよ。消えたくない、死にたくない

そんな当たり前を責めるってのは・・」


「でも私は・・仮想の存在で・・しかも破棄された・・

そんなモノが・・生きたいと願うなんて・・・」


「昼間の探索・・っていうか散歩みたいになってたけど、

キノコ採ったりハチミツ盗ろうとして蜂に追っかけられたり・・・

あ、リスなんかも見かけたし、楽しかったですよね」

イアの言葉を遮って言う


「え?はぃ・・・」

脈絡なく投げた俺の問いに虚を突かれたように答える


「夕ご飯も美味しかったですよね」

「はい、とっても」

思い出したのか声に明かりが戻る


「楽しさや美味しさとかを感じるなら、怖いとか悲しいとか感じるのも

当然でしょ、仮想存在なんて関係ないですよ」


それに、と繋げ

「巻き込まれたって言っても()()()へ意識が戻った時は

夢から醒めた~くらいの感覚って言ってたじゃないですか」

そんなに深刻にならなくて大丈夫、と


「あっ!でも戻ったときって時間とか経ってるんですかね?

気付いたら何年後~とか」


「いえ、時間の流れは特殊らしくて

こちらでどれだけ過ごしても

数時間の睡眠中で見た夢の中の出来事という認識になります」


だから戻った現実では1日も経たない、とイアは教えてくれた


なら・・・と

「何も、問題無いですよ。俺的には」


「でもッ!」


尚も続けようとするイアに


「良いんです。本当に遠慮とか気遣いじゃなくて、本心から

てーか、むしろ最後の召喚って言ってたのに引いたのが俺って・・・」


単発ガチャで最低レア引いた残念感だろうし

そっちのが申し訳ない感じ、と言うと


「・・・・違うんです。今まではソーシャルゲームを利用されている方達から

無作為に召喚していたんですが、最後の召喚は・・・」


「大輔さんは私が選んでお呼びしたんです」


(そういえば昨夜、世界の説明を受けた時に

俺を選んだと言っていたな)


どういう事だろうか、ゲームは好きだが大金をつぎ込んでもいないし

プロとしての活動も無ければゲーム内ランキング上位になった事も無い

自分に白羽の矢が刺さる心当たりが全くない


「最後に召喚する人は自分で選んで事情をお話しして

私も一緒にバグの対処のお手伝いをしようと・・」


「SNSを方々(ほうぼう)巡って色んな方に話しかけたのですが・・その・・」


「軽い質問をしただけで何故か異様に敵視される対象にされてしまって」


「・・・・・・。」

どういう聞き方をしていたのか知らないが

悪意の坩堝(るつぼ)の様なSNSで「ゲームの世界で」などと話したところで

嘲笑侮蔑煽りの対象にされ

まともな返答など期待出来ないだろうな・・と想像に難くない


しかし


(ん?)

何か・・・思い当たる節が・・・


「マトモに会話に応じてくれた唯一の方がその、大輔さんで・・」


「あぁ・・・」

覚えはある、()()を失う少し前にどこぞのスレで

誰かと会話していた記憶が確かにあった


(あれはイアだったのか)


「どっかの兄ちゃんかオッサンかと思ってた」

同性だと思って結構下世話な話もした記憶もある


「にょッ!?ひ、酷いですぅ~」


「いや、結構踏み込んだ内容の会話とかしたし」


好きなキャラの話題から派生して好きな衣装の話をして

あのゲームのキワいスキンが好きだのなんだのに

フムフムと付き合ってくれていたからな


「しかし、イアが()()()だったのか」


「そうです・・お話に付き合ってくれて優しい良い人だなって」

だから、と

回廊(みち)を繋いで扉の前までお招きして事情を話して

お力添え頂けるなら能力お授けして共にバグ対処の旅を、と思っていたのですが」


「見積もりが甘かったんです、私にはチカラが無くて

扉までお導きする前に回廊を維持できなくなって」


「それで、こんな事に・・お詫びのしようも」


このままでは、また声が湿り気を帯び始めそうだ


「だから気にしてませんって、

驚くこともありましたが楽しんでる部分もありましたし」


ね?と言い含めイアを落ち着かせる


「・・・じゃあ、敬語をやめて下さい」


「また唐突に・・」


「んぅ!唐突じゃないです!」


「敬語って礼儀正しいけど距離があります!」


「そりゃ、まぁ・・・」


「大輔さんは親しい人にも敬語を使うタイプの人ですか?」


「いや、違います」


敬語での返しにむむぅ・・と頬をぷぅぷぅさせながら


「気にしてないなら親しくして下さい!仲良くなりたいです!」


「じゃあイアも・・」

敬語やめて話そうと提案しようとすると


「私は親しい人でも敬語で話すタイプです。多分」


「なんですかそれは・・」


「あーッあーッまたぁ!」

イアが腕にしがみつき、ゆさゆさして抗議してくる


「ははッわかったわかった」

揺すられガクガクしながら答える


「じゃあイアに敬語は使わない」


「はい」


ただし、と付け加え

「イアも俺の事で気に病まない事、召喚した事や

それが失敗した事も含めて今後謝らない事。」


良いね?と言うと


「それは・・」


言い淀むイアに


「そうですかイアさんが提示した条件に納得して下さらないのであれば

(わたくし)としましても非常に遺憾ではありますが」


「わーッ!わーッ!分かりましたよぅ・・・」


怒涛の慇懃無礼にイアが堪らず条件を呑む


「・・っふ!」

「はは」


互いに顔を見合わせ笑い合う


笑い声が収まった頃、夜もすっかり更けていた


「もう真っ暗ですね」

「うん、そろそろ寝ようか」


また明日と約束し

眠りに就くため話を切り上げる


(とこ)の中、眠る前に談笑したのは何年振りだったか


「じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」


就寝の挨拶を誰かにし、そして返してもらったのは何年振りだったか


そんな事を考えながら眠りへ落ちていった。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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