表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
5/44

開拓の町『アスト』

背負いこんだ大量のアイテムと共に無事に町へと到着する


(何事もなく無事に帰って来れてなにより、だな)


そう何度も棍棒を振り回す鼠に追いかけまわされるのは御免だ

後ろの門を振り返り背筋を走る怖気を払う


イアも緊張から解放されたのか額の汗を拭っている


「疲れましたか?結構歩きましたもんね」


荷を背負い直しながら「ふぅ」と一息ついていたイアに声を掛ける


「え!?あ!あぁ・・そういう訳では無くて

今回はご一緒出来て良かったな、と思いまして」


「というと?」


イアの言葉に疑問を返すと


「前回は大輔さんが町の境界を超える時に私が転んでしまって・・」


「・・あぁ」


『ぎゅう!』とか聴こえたけどやっぱり転んでいたのか・・


「あの時は俺も早足でしたしその隙に見失っちゃったんですね」


本当は背後の存在に不穏なものを感じ逃れる為に歩を早めて逃走したのだが


「違うんですこの世界(ゲーム)では町から一緒に(フィールド)への境界線を越えないと

同じマップに出られないんです」


「ん?・・え?だって、この世界って多分ですけどMMO(多人数同時参加型)RPGですよね?」


(ホームポイント)でしか交流は無いって事か?

こういったゲームは行きずりの相手と思わぬ共闘をしたり

辻回復をしたりしてもらったりで見知らぬ人がフレンドになるんじゃ・・・


そこで()()と気付いた、イアも言い辛そうに


「えと・・ここはサービスを終了したゲーム世界なので、そのぉ・・・」


「あ~、ね」


快適さを追求し細やかな不満をケアしていれば、こんなとこ(サ終世界)へ堕ちてきていない訳で


イアの一言で全てを納得した


ーーーー


「結構な量を採取したけど、どうするか・・・」


さて、と気を取り直し今後の指針を立てる


まずは売って金銭に換えた方がいいか

昨日は屋外で寝る羽目になったし、今日は宿に泊まりたい

俺だけなら構わんがイアにこれ以上野宿をさせる訳にはいかないしな


町の入り口近くにあった案内板を眺め

「この町の市場や商店街はどこですかね?」

イアにも問うてみる


「はい?あ、売買ですね!

それならまずはギルドで依頼を探して納品出来る物は納めた方が良いかもですね」


「ギル・・ド?」

聞き覚えのある単語に嫌な記憶が脳裏を駆け巡る


「はい!ギルドに登録出来れば依頼の斡旋や冒険のサポートなどを得られますし

他の冒険者に協力を募るユニオンも・・・どうしました?」


「えぇ・・」と拒否反応を示す俺を見てイアの声に戸惑いが混じる


「ギルドやユニオンに登録するのはやめましょう・・」


「えっ!?な、何でですか?」


「ギルドという所は恐ろしいんです・・・

無言OKとギルド概要に書いてるのにギルマスが気分で『○○さん居ますかー』と

いきなり点呼を始め返事が無いと即除名するメンヘラが居たり!」


「え」


「まったりユニオンではログインしてる癖に

ユニオンイベントへ7割のメンバー不参加という寄生虫だらけの地獄だったり!!」


「え」


「ガチ勢の集いを謳っているクランの筈なのに

最終ログイン62日前のメンバーが除名されない

理由は『クラマスのリアフレだから』

普通のメンバーは3日インしないとバッサリ切るという独裁の庭!!!」


「え」


「更に初心者歓迎と書いておきながら・・・」


「も、もういいです~!わかりました!わかりましたから~!」


イアの制止でハッと我に返る

自分でも知らず知らずの内ギルドがトラウマになっていたらしい


「でもどうしましょう、ギルドの依頼で納品しないとなると・・・」


俺が落ち着いたのを見てイアが思案する


「多分大丈夫だと思いますよ」

(ここがゲームの世界なら・・・)



「毎度ありがとうございましたー!

また何か良い物があったら是非ウチにお売り下さーい!」


「はい、どうもー」


町の目抜き通りの雑貨屋に買取を頼んだがあっさり買い取ってもらえた


「いきなりアイテムを持ち込んでも特に何も言われませんでしたね」

イアが少し不思議そうにしている


「ゲームでは基本どの店でも売買が出来るからね」


ゲーム内の店舗は基本的に買い取りするときは雑貨店並みに悪食になる

食品店であっても平気で鉱石を買い取るし、逆も然り

流石、ゲームならではと言ったところか


「なるほど!」


ぽん!と両手を合わせイアは感心してくれるが気付いたのは町に帰ってきてからだ


この町は人通りが少ない訳でも無いのに

パンパンに膨らんだ薄汚い袋を背負って少女を連れた怪しい(マスクマン)が闊歩する姿に

一瞥(いちべつ)くれるだけでジロジロ見るでなし、声を掛けてくるでも、通報もされない


考えてみれば

ロビーや集会所で肌着装備で奇声を上げて踊るプレイヤーなんて()()に居るし

そんな奴にわざわざ注意してくるNPCなんて見た事がない


この世界の人はゲーム内のNPCと同じくプレイヤーの行動にそこまで干渉せず

施設の利用の仕方もゲームと同じなのだろう


いま居るこの場所はホントにゲームの世界なのだと改めて実感した


万が一に備えて薬草をいくつか手元に残し採取した物品は全て売却し

引き換えに得た硬貨をチャリチャリと数え


「これだけあれば宿に泊まれますかね?」

イアに伺うと


「う~と・・・はい!これなら充分ですね」


俺の手元を覗き込みイアが明るく答える


2人で意気揚々と宿場エリアへと向かう

道々に多くの看板が見える


『修練し技を磨こう!ギャレン道場』『様々なサイズにお答えします、ミサヤ装具店』

『錬金(うけたまわ)りますアノー薬品』『あなたの身近に音楽を、トーン楽具』


おそらくゲーム序盤に訪れるであろう町だと思ったが

なかなかに広く拠点にするには充分な施設が揃っていそうだ


「おっと、ここだな」


やがて煉瓦造りの趣深(おもむきぶか)い宿へと着いた


『お食事だけでも歓迎、マロカの宿』


「いらっしゃいませ!旅の宿へようこそ、2名様ですか?」

「はい、お願いします」


飛び込みでも部屋がすんなり取れた

これもゲーム世界の都合のいいところか


疑似体(アバター)の機能で傷や怪我は治っても

精神に蓄積する疲労感は野宿では癒せない


ゲームで操作していたキャラクターは

寝ずに昼夜問わずフィールドを駆けずり回っていたが

俺にはとても真似出来そうにない


部屋は二階の角部屋だった


これでやっとくつろげる、あまり広い部屋ではないがやっと落ち着いた環境で・・・


いや、広く感じないのは()()だからだ・・・

待て、1つの部屋に2人!?


慌てて階段を降り宿の人にもう一部屋取れないか確認すると


「あいにくと今はあの部屋以外は満室でして」


素気無(すげな)く言ってスススッと仕事に戻ってしまった


「え?私、一緒の部屋で大丈夫ですよ?」


部屋に戻るとイアは事も無げにそう言い

窓を開け荷物を整理し、くつろぎ始めた


(えぇ~・・・)


しかし・・・同部屋以外にも問題がある


ベッドが一つしか無い


ゲームの宿部屋って何でか

宿泊客(パーティメンバー)よりベッド少ない場合があるよな・・・


まぁいいか・・・幸いソファがあるし

外で寝た昨日に比べれば雲泥の差だ


(あ~でも()()って安心するなぁ・・)

3人掛け程のゆったりとしたソファに身を預けると睡魔がにじり寄ってきた・・・


ーーーー


「さ・・・・さん」


・・・・ん?


「だ・・ん・・・い・・けさん」


「ぁれ・・・?」


まだ陽が傾く前だったが寝入ってしまったらしい

イアに起こされると空は薄暗くなり始めていた


「お食事の時間だそうですよ!行きましょう!」


元気なイアに手を引かれ一階の食堂に向かう

食堂では既に何組かの先客が食事をとっていた


探索中にハチミツを見つけたから大丈夫だとは思っていたが

異世界異文化のトンデモナイ料理が出てこなかったことにホッとする


皮がきつね色に炙られ肉汁が滴っているチキン


掴むとパリッと音をたてる程に香ばしく焼き上げられ

中はふわりと温かく柔らかいパン


瑞々しく彩り豊かなサラダ


根菜が沢山入った疲労した胃の腑に優しそうなクリームスープ


実に美味そうな料理の数々にさぁと手を伸ばしかけて・・・

()()と気付く今の顔にへばりついているモノ(仮面)


下顎まで覆っているから当然口元も隠れている


(え~っと確か、こう!)

くッ!と横隔膜に軽く力を入れると


『シュカッ!』


仮面下部の人中(じんちゅう)辺り、仮面が真ん中から左右に別れ口元が露出する


慣れたような慣れたくないような・・・

なんだかなぁ・・と思いつつスプーンを手に取り食事を開始する


(あぁ~美味い・・・)


ちゃんとした料理を味わうのも随分と久しぶりに感じた

目を瞑りしみじみと味わう


ふと正面のイアを見ると目を輝かせてはむはむと料理を食べている


「美味しいですね、量も沢山あるし」


「はい・・むにゅ・・っん、

料理ってこんなに美味しいんですね!私、初めてです!」


「料理を召し上がるの初めてなんですか?」


「はい元居た空間では何もありまへんでひたひ

お腹が空く感覚もイマイチわからなくって」


話しながらも口に料理を放り込む事を止めない、余程気に入ったのだろう


皿の上の料理もすっかり姿を消し

チキンの骨は食べない事を噛り付いているイアに教え食堂を後にした。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ