表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
4/44

異能

翌朝、少ない荷物を手早く纏め2人でこそこそと橋の下を後にし

歩く道々で今後の目的について話す


「バグの対処かぁ何処から手を付けたもんか・・」

グキグキと首を左右に動かし凝った肩を慣らして一息つく


とは言ってもバグの所在が分からない、闇雲に世界を歩き回るのも危険だし・・・

未だ鮮明に脳裏に残るモンスターとの戦闘の記憶

たまたま生き延びたがあんな戦い方が今後通用するとは思えない


どうしたものかと考えを巡らせていると


「この世界でのバグの活動は余り活発ではないようです」

空を見上げたイアが告げた


「分かるんですか?」


イアはそのまま目を瞑りこめかみ辺りに手を添え

周囲に聞き耳を立てている様子だ


「はい、バグが精力的な世界は(そら)などのテクスチャが剥がれていたり

耳鳴り?のような音がうっすら聴こえるんです

今は何か・・・聴こえますね、とても微かにですから

少数で微弱なバグだと思います、距離までは・・・ちょっと」


「そうだったのか・・・いや、その情報だけでも充分助かります

1人だったらどうしようもなかった・・」

つい口に出てしまっていた最後の一言に


「にぇへへ・・」


照れ笑い?するイアに苦笑を返し改めて今日の予定を立てる

バグが存在すると分かったとして次は対処方法を検討しなければ


「バグの対処って具体的にどうするんですか?」

普通に攻撃して消えてくれるモノなんだろうか


「はい、その疑似体(アバター)には膨大な情報が凝縮されていまして

この世界に居るような微弱なバグなら素手でも圧せると思います!」


むん!と手を振り上げポーズを取り説明するイア


(しかし膨大な情報ねぇ・・・)

「この身体にそんな秘密があるんですか?でも特には」


言いながら腕を回してみたり軽く飛び跳ねてみるが

別段、何かがぎっしり詰まってる感覚も重厚感も無い

・・・いつも通り、くたびれた中年特有の気怠い重さだ


「えーとですね召喚した方々にはお授けした異能が

情報の密度、を高、め、て・・・・・・」

言いながらイアの動きがぎこちなくなっていく


「異能?」

何か貰っていたんだろうか?手をグーパーしたりポケットを漁っても特に何も・・


「ご、ごめんなさい!」

バッ!とイアが頭を下げる


「あ、あの()()()へお招きする時

本来は異能を疑似体(アバター)に付与するのですが・・」


ならば自分にも何か突出した能力が?

期待を込め二の腕に力を込めたり

遠くの雲を見つめ集中して念を送ってみる


だが・・・


「ん~?」

火は出ない、武器も出なければ使い魔も出ないし

身体が突然光を放つ事も無く

手応えは皆無だった


すると一連の奮闘を気まずそうに見ていたイアがおずおずと口を開く

「大輔さんをお招きしたのは本来の召喚機ではなくて

その、私のチカラを使ってお呼びしたので・・・」


ん?なにやら不穏な感じに・・・


「階段を(くだ)っている夢に覚えはありませんか?」


「階段・・・」

言われて思い出す、とても長い階段を降りていた気がする事を


「その階段は意識と疑似体(アバター)を徐々に同期させる回廊なんです

階段の終点にはゲーム世界へと誘う扉があり

そこで夢うつつから覚醒した意識が疑似体と完全に馴染み

能力が発露するんです」


変だな自分には階段を降りている記憶はあるが

何処かに辿り着いた記憶や扉をくぐった記憶は・・


眉間に皺を寄せ記憶を手繰っていると


「私がチカラを使って回廊を繋げていたのですが

大輔さんが扉の前に辿り着く前に力尽きてしまいそのままこちらの世界へ・・」

だから異能は・・と項垂れてしまう



正直参った・・その後聞くと疑似体(アバター)自体に異常はなく

痛覚を少しカットしてくれる機能があるらしい事を教えてもらったが

飽くまでニュートラルな機能らしい、つまり特殊な能力を貰い損ねたということで・・


(はぁ~参ったなぁ・・)

責任を感じ、しょげてしまったイアの手前、決して口には出せないが参った


この全身を襲う虚脱感

全員に配布されて当たり前の物を自分だけ貰いそびれた虚しい感覚


だが


「うぅ・・」

あまりと言えばあんまりな状況に茫然としている俺の反応を見て

イアはすっかり項垂(うなだ)れてしまった


これ以上虚無に囚われていたら責任を感じて落ち込んでいる少女を追い込んでしまう

悪意あっての事で無し、愚痴愚痴と責めた所で意味も無し、なら!


グゥッ!と両の手を握り締め、無理やりに己を発奮させ

(よし!)


「さぁってと!取り合えず(フィールド)に出てみませんか?」


切り替える為に明るく提案してみる少しわざとらしかっただろうか

しかしこのままでいるよりはずっと良い


「このまますぐバグに対抗する事は難しいかも知れませんが

少しでもこの世界に慣れる為に探索してみましょう!」


「そう・・ですね幸いこの世界のバグの反応はとても微量ですし

時間をかけても大丈夫だと思います」


イアは少し驚いた様子を見せたもの弱々しく顔を上げ応えてくれた



気を取り直し町の出入り口の門扉前に辿り着く

門は開け放たれ衛兵のような存在も居ない、出入りは自由らしい


外で危険な敵に襲われても逃げ込めるんだろうか?

ゲームの世界というなら町のど真ん中まで追ってくる敵はそうは居ない・・筈


「モンスターに遭遇しても最悪逃げれるようにまずは近辺を探索しましょうかね」


「そう言えば昨日はモンスターに遭遇したんですよね?」

外に出る際、思い出したのかイアの問いに


「なんとか倒しました、1匹逃げた・・・

いや、逃げてくれたんでホントなんとか助かりました」


腕を(さす)る、傷があった場所には何事もなかったようにまっさらだ


(・・・確かに()()()()なんだよなアレは)

生温く荒い息、怖気が走る叫び声が耳奥で残響している


「倒した・・確かにドロップアイテムを持っていたのでもしやと思っていましたが!」

凄いです!と瞳をキラキラさせながら見つめられるが・・・


()()泥臭い取っ組み合いを凄いとはとても言えない


多少の居心地の悪さを感じながら

昨日モンスターから手に入れた戦利品の1つ棍棒を握りしめる、すると


「わ!お似合いです!」

手をポンと合わせ褒めてくれる・・・

うん、褒めているのだろう悪意を全く感じない屈託なき笑顔だし


己の姿を確認しようと(フィールド)から門の横を通じ町を巡り流れている川を覗き込むと

オークかトロール・・・或いは大きめのゴブリンと見紛う様な

うだつの上がらないオッサンが棍棒を握りしめている危ない姿を反射している


(しっかし・・・)

いつも自分と決定的に違う部分を見てハァ、と溜め息を吐く


一夜明け、改めて見ても覚えのない仮面が異彩を放っていた


「この仮面のこと知ってます?」

己の顔を指差しイアに聞くと


「えっと・・私は知らないんですけど・・でも」


イア曰くこの仮面は世界の成り立ちに関り

召喚機の運用にも携わっている超常的な存在が施した物では?との事だ


その意図も呪いや嫌がらせの類ではなく

身を護る一助につけられたのでは?と


思い返せば昨日の鼠人間の棍棒、あれは頭に振り下ろされていたのだ

本来なら頭にクリーンヒットし(おみそ)をぶちまけ早々に帰還(ゲームオーバー)・・・

実際に助けられておいて嫌も応もないだろう


見えなくなって惜しむ程の端正な顔でもなし

いっそ仮面の方がまだマシまであるなと


自虐的な考えにげんなりしそうになりながらも気合を入れ直し町を出る


町の外に出ると街道が続いており木々の碧さが眩しい


中々お目にかかれない自然満開の景色を堪能し深呼吸をする

この仮面、口元を展開しなくとも呼吸を一切阻害しないのが利点の1つだ


仮想世界とはいえ胸に吸い込む空気は美味い

科学が発達してない故、空気を汚すものがあまり無いのだろう


伸びをしてさて、どこまで行こうかと周囲を伺いながら歩を進めようとすると


「あの、まずは散策がてら採取をしてこの近辺を歩いてみませんか?」


採取か、イアの言葉にゲームでの行動を思い出す

フィールドで薬草や鉱石などを拾い集めては倉庫をパンパンにしてたっけ


「そうですねじゃあまずは・・」

額に手を当てどこから探索するかと辺りを見回す


「大丈夫です任せてください!」

イアが自信ありげに前に出ると


「ん~と・・・あっ!あそこです!あの木の根元です」

木を指差しながらとてとて向かっていく


「えっ?あの!ちょっと」

慌てて後を追うと


「あっ!ありました!」


屈みこむイアの後ろから木の根元を覗き込むと淡く光る草やキノコを見つけた


「おぉ!これが生の採取アイテムか・・・」

VRゲームをプレイした事が無いので変哲の無いキノコを

思わず手に取ってまじまじと眺めてしまう


「もっとありますよ!任せてください!」

イアはすっく!と立ち上がるともう別の木へ向かっている


「待った待った!逸れちゃいますからっ」

キノコを採取し先行するイアになんとか付いて行く


その後ろ姿にはどことなく無理が見て取れた


(俺の空元気(カラげんき)がバレたかな、これは

空気が沈まないように無理にテンション上げて付き合ってくれてるなぁ)


自分もいつまでも損した気分で肩を落としてはいられない

無い物をねだったところで無駄なのだから今ある物とやる気でカバーしなくては!


よし!と奮起しイアの後を追う


それからはイアが示す手近な採取ポイントを巡り

薬草、木の実やキノコに鉄鉱石、ハチミツまで見つけたが

容れ物が無いのでその場でイアと分け合い甘味を味わった


ボロ布を風呂敷の様に使い採取した数々のモノを包み背負う


まだ日を中天に仰ぐ時間だったが日が暮れぬ内に町へ戻ることにした



       

        ──────────────────────



(お役に立てた・・のかな)


半ば強引に同行をお願いした手前なんとかお力添えしたかったが

上手く出来ただろうか


私の余りに身勝手な願いで強引に呼ばれたにも関わらず大輔さんは優しい


取り乱したり罵声を浴びせられたりぶたれる事だって覚悟してお話した事を

困惑しつつもゆっくりと聞いてくれた


今まで無作為に召喚された人々を見送ってきたけれど

こうして直にコンタクトを取ることはしなかった


私には何も無い、この身には消えたくないという恐怖しかなかった


意識を自覚した時、既に記憶は無かった自分が遺棄されゆっくりと摩耗し消えゆく

逃れようのない完全な死(デリート)が迫るのを漠然と感じながら


死から逃れたいと一心に願い続けて


それは現れた


『強く純然な願いの発生源はキミかね?

ふむ・・中々に面白い状況だなコレは』


(だ・・れ・・・?)


『キミの望む生存の確約は出来ぬが機会を与える事は可能だ

どうかね?飽くまで私の興味が尽きぬまでだが』


姿も何もかもが不明瞭の()()()


廃棄され、欠けて不完全となってしまった世界を継ぎ合わせる事で

新たな世界を創った


誤算は廃棄される世界が多く、且つ際限がない事

一時は均衡がとれた世界になった事もあったけど・・・


次々に降り注ぐ世界が折り重なり、瞬く間に調和は崩れ

不具合(バグ)の温床と化してしまった


『くくっ、よもやこれほどとはな・・・

つくづく知性体の娯楽とは業が深いものだ

これも玩具の宿命だな、キミも受け入れる事だ

諦めるには充分な(とき)を味わったろう?』


「そんな!まだ私は何も・・・あ、あと少しだけ!ほんの少しッ!!」


『ふむ・・・では、こうしよう

()が最後だ、そして私の助力は最低限、召喚はキミのチカラで行いなさい

人もキミが選定するんだ、だが妥協で選んだ者は認めない

(まみ)えなかった時は、今度こそ諦めるんだね』


「そんな・・・」


やっと射した光明が閉じ消えたような宣告に全身から力が抜けた

それでも私は消えたくなかった、震える足に力を入れ行動を始めた


情報生命体(データ)であることを活かし

様々なサーバーコミュニティを渡り

何度も助力を募る書き込みをした、でも・・・


『うんうんせやねうんせやね』『電波から脳を守るにはアルミがよいのだぞ!』

『同じ危機感を持つ方に巡り合えて嬉しいですその通り人は今こそ滅びに身を任せ魂の解放を!さぁ!』


返ってくるのは無視と嘲笑と私の正気を疑う猜疑の書き込みだけだった


諦めて終わりにしてしまおうという思考に自分の全てが塗り潰されそうになった頃


会えた・・・()()()()()()()


見初めた大輔さんをお呼びし事情を話して一緒に旅をして

私はそこで生きる意味と居場所を見つけられるんだって


我ながらなんて勝手な考えだと寒気がする


実際は説明もせず強行した不完全な召喚をし、失敗に終わり

能力を授けることも出来ず苦難を()いた癖に

あまつさえ優しくされて嬉しいなんて・・・


今更ながら湧き出る自責の念に歩む足が遅くなっていた


すると


「おーい、ごめん!少し早歩きになっちゃってましたね」


大輔さんが振り返って声を掛けてくれる


その姿に視界が滲み始める

(呆けてちゃダメだ・・せめて足を引っ張らない様にしないと!)


ぐしぐしと袖で零れる前に涙を拭い

むん!と自分に喝を入れ待っている大輔さんに駆け寄る


だが不意に遥か後方に何か違和感を感じ振り返る・・が、何も無い


「どうしました?疲れましたか?まさか怪我とか・・」


心配する大輔さんに慌てて大丈夫ですと告げ町への帰路についた



一瞬感じたあの感覚は・・・・

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ