表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第三章 戦略シミュレーションゲームの歩きかた
31/46

金メッキの剥がしかた

明くる朝

朝といっても周囲はとっぷりと夜の帳が落ちたままだ


両腕にへばりついた二人諸共に上体を起こし時計を確認すると

午前8時を少し過ぎた頃合いだった


いつも(現実世界)ならとっくに起きなければいけない数字を針が指しているが

時間に追われる生活でもなし、40度まで起こした上体をフラットに戻し

手を引いてくる睡魔に誘われ二度寝へ・・・落ちようかと思った矢先

「「んぅ~~・・・」」

ご両人を起こしてしまったようだ

「・・・そろそろ起きるか」

苦笑し頭を軽く振り睡魔の誘いを断る


その後起きて来た二人と各々身支度を整えた、が


瞳を覗き込むように「一緒に着替える?」と提案するシャルと

真っ赤になって否定しながらもこちらの浴衣を引き剥がそうとするイア相手に

朝っぱらから擦った揉んだの騒がしい朝を過ごした


一階の大広間(ラウンジ)にて朝食を摂る

ルームサービスを頼むことも出来たが

大広間にてバイキング形式の朝食を楽しめると教えてもらい

せっかくならと降りて来た


各々選んだ料理を持ち寄りテーブルにつく

シャルはパンケーキにシロップをツーと垂らし

俺は白米、油揚げと小松菜の味噌汁、ウインナーと目玉焼きに醤油を回しかけ

イアは目玉焼きベーコンレタストマトを挟んだ5段トーストに噛り付いている


(?、味が少し薄いような・・)

今までの生活で朝食を食べる習慣が無かったからか

未だ頭が覚醒しきっていない為か多少の違和感を覚える

(味噌汁の味の濃さにケチつけるなんて我ながら頑固ジジイみたいだな)


「ンゴッ!ンガッ!」

がっついてトーストを頬張るイアを見て味に異常はないと再確認する

(味がおかしかったらあんだけ夢中になって食わない・・・よな?)

「ン”ッ!?」

「おわ!イアちゃん!?ほらほらミルクミルク!」


イアが極厚サンドイッチに意識を断たれそうになるハプニングがあったものの

概ね無事に朝食を終え今後の方針を話し合う


「やっぱりこの世界にもバグは存在してるんだよね?」

コーヒーにドバっと入れたミルクと砂糖をかき混ぜながら口火を切る


「はい、転移先はバグの痕跡を察知した世界に設定してるので

多少なりともバグは存在してる筈です・・けど」

メロンフロートのアイスをあむっと口に入れたイアが口ごもる

「バグの気配が全く・・・」

「潜伏してるって事か」

「恐らく・・・すみませんもっと鋭く感知できればいいのですが」

「じょぶじょぶ!ここに居るって分かるだけで充分っしょ!」

「あぁそうだな」

キャラメルだのモカだのやたら長い名称の飲み物が入ったカップを

両手で持ち屈託なく言うシャルの言葉に同意する


皆が手にしたカップが乾いた頃

「アタシは今まで通り足で探し回ってみるよ!街も見て回りたいしね!」

席を立ったシャルがグゥッと伸びをする


「探知をイアに任せっきりってのもなんだ、俺も探索して勘を掴んでみるよ

せっかく異能が身に付いたんだ、もしかしたら察知能力もあるかもな」

コツコツと自分の頭を指で突っつくと難しい顔をしたイアと対面する

「な、なに?」

「主人公を独り歩きさせると女の子キャラを引っ付けて戻ってくる法則ぅ」

「は?」

「ふらっと別行動して合流したら見知らぬ美少女が隣に居て

「え!?誰ですか!?この娘は!?」って展開がお決まりの・・」

「藪に入ってオナモミ(ひっつき虫)だらけになる犬じゃあるまいしそんな事あるかよ・・・」


謎の警戒をするイアを宥め(なだめ)それぞれが散策に出る


(どぉしよっかなぁっと・・・)

初見の街、当然アテがある訳も無く

適当に足が向くまま歩を進める


陽が昇らぬ明けぬ夜の世界と聞いたが

そこに住まう人々の顔に陰りは見えない

店舗を抱いたビルが立ち並ぶショッピングエリアだろう

ショーウィンドウ越しに見る買い物客は華やかな顔をし

服飾や家具調度品を品定めしている


一般的なNPC(住人)がバグそのものを知覚できずとも

バグが異変を起こせば多少なりともピりつく空気が漂う筈だが

そのような気配はない


(繁華街にあんなもんがおいそれと湧くことは無い、のかねやっぱ)

今までバグと遭遇した場所を思い起こしても

深い森に人気(ひとけ)のない倉庫と半壊した階層(エリア)、どこも人気の失せた場所だった


ならばと人の流れと反対の方向へ喧騒から離れようと踵を返すと

「ん?」

視界の端に黄緑の淡い光が一瞬明滅した気がした

改めて光が見えた方向へ頭を向け凝視するが

光は無く建造物が落とす影の闇が広がっている

やけに目に残る印象的な光だった、見間違いとは考えにくいが


(・・・う~ん)

何にしても違和感と気掛かりは確認するに限る

空振りでも()()()()()()という結果が出るならそれで良し

足を向ける理由はそれで充分だった


街灯の明かり届かぬ暗がりに路地が続いている

(結構長いな)

コツコツと靴音を鳴らし路地を歩く

時折蛇行するように曲がっているが分かれ道は無い一本道だ


「っと!」

程無くして突き当りに出てしまった

行き止まりは多少開けた空間であったが

結局謎の発光体は愚か道中電球のひとつも見当たらなかった

「ハズレでしたか、っと・・・」

見間違いだったという収穫を胸に元来た道を戻ろうとした矢先


「ちょっと!アンタ随分と早いじゃないの!ちゃんと貰えるも」

「え?」

「ん・・・も、らって・・・、は・・・?」


唐突に聴こえた静寂な夜を裂く高い声に

周囲を見回し、しかし人影を確認できず

更に下から上へ・・・視線を移すと果たして声の正体を確認できた

同時に探し求めていた発光体の正体も判明する


何故ならその人物が発光していたからだ

更に人物と表して良いのか若干戸惑う

確かに姿形(すがたかたち)は人ではあるが

およそ人とはかけ離れた特徴が見て取れる


鮮やかなエメラルド色の長い髪を後ろに束ね

()()ツリがちな目を細め口をへの字に結び

身体の周囲は淡く発光し背には透けた羽を広げ

その身の丈は十三、四センチ辺りだろうか


俗に妖精と呼ばれる存在だ


最初の世界で遭遇した獣面の亜人(コボルト)以来の

幻想的(ファンタジー)要素が極めて強い存在との遭遇に絶句してしまう


「やっべぇ・・・人除けの呪い(まじない)かけてたのに

こんなアッサリ・・・むぎぃぅぅ」


あちらはあちらで何やら眉間に皺を寄せ歯を剥いた難しい顔をして唸っている

意図せず睨み合いの形となり剣呑な雰囲気が漂い始める

このままではトラブルに発展してしまいかねない

というより、もうなりそうだ


「ち、ちょっと!アンタ!な、なんとか言いなさいよ!

表情読めないのに無言てメッチャ怖いじゃないの!」

ビシッ!とこちらを指差す小さな影


「あ~・・・なんと言ったらいいかな

俺も未知の存在との遭遇に戸惑っててな」

軽く両手を挙げ一応の敵意無しのアピールをし答える


「ふん!未知、未知ねぇ・・・

アンタ達にしちゃ随分とオブラートに包んだ言い方ね」

妖精は腕を組み片目を瞑りこちらを探るように見ている


(アンタ達ってなんだ?妖精とは初対面なのに)

オブラートも何も過去にキツく当たった覚えも当然無い


「その仮面・・もしかして格別天授物?アンタそんなに偉いの?等級は?」

恐る恐るといった様子でこちらを観察していた妖精が

仮面に気付き眉を上下させ伺ってくる

警戒心からか一定の距離は空けたままだが


「等級?よくわからんな年齢なら三じゅ」

「歳じゃないわよ!!あによ三十ってぺーぺーじゃないの!

ミィは四百六十三よ!」

「え、すげぇな約五百歳・・」

「ちぃ!よぉっと!五百じゃないわよッ!

失礼ね!四ひやく!六じう!さん!よッ!!」

「そんなのたいして・・」

「違わないことないわよッ!!

アンタも『約四十歳かぁ~』って言われたらヤでしょ!」

「え~?三十も半ば過ぎてるし・・・微妙かな」

「じゃ約五十歳」

「そぉ、れは・・流石に嫌だけど」

「ほ~れ見なさい!」

「おかしくね?飛躍し過ぎだろ」

「ミィの年齢に37も『約ぅ』でプラスしといてなーに言ってんの!」

「それは・・・あ~確かに、すみません」


口頭で無礼を謝罪する次いで軽く頭を下げようとして()()

(いやいや危ないか、魔法とかで不意にグシャっとやられたら堪らん)

何やら賑やかしく会話しているがこの妖精が敵かどうかは不明だ

警戒の意味を込め視界から外すことなく妖精に注視する

だが、騒がしくはあるが害意は感じない


それならば、と

言葉が通じるとあって折角なのでバグについてそれとなく聞いてみる


「はぁ?異変ぅ?そんなん有るっちゃ有るけどさぁ」

(お?)

何やら知っているのかと期待が湧くも

「でもあたしは今それどこじゃあないの!」

口をへの字にしてぷりぷりと不機嫌を隠そうとせずプイと横を向かれる


『くぃぅりるぅ』

「ん?」

「あッ!!」

「なんだ今、の・・」

「うぅ、うっさいわね!悪い!?お腹減ってんのよ!

小さいから食い溜め出来ないの!悪いぃ!?」

「何も言って無いスけど・・」

ガーっ!!と捲し立てられたじろいでしまう


(う~ん)

空腹ならばとポケットを探るが生憎と食料は何も無かった

「な、何よ!」

ごそごそとポッケを漁る俺を不審に見て妖精が警戒を強くする

「いや、なんか食べ物でもあればと思って・・・」

「食べ物見せびらかすつもりね!?

ほんっと人間って性根が腐ってるったら無いわね!」

「なんでそうなるんだよ」

「は?じゃ何よ」

「何ってこの流れなら君に分けるって事だろ

まぁ分けられれば・・・良かったん、だけど、ね・・・」

ポケットをひっくり返して何も無い事を見せる

「無いんスわ・・」

出会って数分だが既に妖精(かのじょ)の口の悪さは身に染みている

この不甲斐なさを罵る声が飛んでくると構えたが


「は?分ける・・?何で?」

ポカン、と呆気に取られている

信じられないものを見るような眼で

「何でって・・腹減ってるんだろ?」

「え・・・なにアンタ・・・は?」

何やら先程とは違う意味合いでジロジロと観察される

さっきまでは危険人物と鉢合わせた警戒全開の視線

今は奇人変人を恐々と眺める感じだろうか

・・・どちらにせよあまり心地の良い視線ではない


「あの・・」

耐え切れず声を掛けようとすると

「アンタ・・・この世界の()から来た、かんじだったり・・する?」

(!?)

ギクリと軽く肩が跳ねる

一瞬の事だったが見逃してはくれなかったらしい

「なるほどねぇ・・どぉりで」

ふ~んと言わんばかりに腕組し深く首肯している

「来たのは多分・・最近、かしら?」

「あぁ、昨日だ」

「ふ~ん・・重ねて納得だわね」

「なんで分かったんだ?」

「もひとつ!もいっこだけ答えてちょーだい!」

ピッと人指し指を立て

「天上人って聞いたことある?」

その言葉はこの世界である意味一番印象深い言葉、当然記憶にある

「ある、っつーかそう呼ばれた」

「ぶぇ!?え?うーん・・・?どういうこと?ありえない、わよね」

顔面を蝿叩きで引っ叩かれたような声を出し

次第に眉間に皺が寄り小さな声でぶつぶつ自己問答している

「誰にそう呼ばれたの?」

「さっき質問はもう一個だけって」

「もぉぉう!(わり)かったわよぉ!大事な事なの!」

空中でジタバタと地団太を踏む妖精にわかったわかったと

「えー・・と黒服のなんか執事っぽい礼儀正しい人」

「マジかぁ・・え、マジ?」

「マジだよ」

「えぇ~・・・」


何故そんなに(いぶか)るのかイマイチ理解に苦しむ、嘘は言っていないのだが

相変わらず小難しい顔でうんうん唸っている

「なんなら行ってみるかい?」

「はいぃ?」

「天上人って呼ばれてるか確かめに」

「う~ん・・アンタがミィを嵌めてないってのは()()で分かるのよ」

なんとなくね、と続け妖精(かのじょ)

「そう・・ね!確かめてみましょ!どちらにせよ見過ごしていい事じゃないし」

(なんか含みがあるんだよな・・)

今までの会話で妖精の言葉の端々に見える何かの事情はこちらも察せる

それを確かめたいという理由もあった


そうと決まれば、と俺の事を一番()()()と呼び

居場所がわかる唯一の人物、黒服の紳士に会いに

例のドでかい宿泊施設天の原へ向かおうと歩み始めると

「ちょいとお待ち!ん~っとそうねぇ・・・あっ!こうしましょ!」

頭上をチョロチョロ飛んでいた妖精が左肩に乗り

俺の上着の襟をグイッと引き上げその影に身を滑らす

まるで身を潜め隠しているように

「・・・なにしてんの?」

「いーからいーから!さ!やってちょうだい!」


タクシーみたいな扱いを受けながらも程無く目的地に辿り着いた

(一等デカい建物だから迷わず着いたな)

宿に併設されているガレージ、一つの開いたシャッターの奥に

遠目に目当ての人物を見つける、黒服集団ののリーダー格の人だ

リムジンを乾拭きしている運転手となにやら話をしていた


「ほら、あの人だよ俺を天上人って呼ぶ人」

人の多い目抜き通りに出てから一向静かになった左肩の乗客を見やると

「ウソ・・・アイツは・・・ッ」

左の襟がギュウと硬く握られた感覚がした

「ダメ!ここから離れて!今すぐ!見つからないうちに!」

耳元で小声だが酷く焦った妖精が急かす視界の端に見えた表情に余裕は全くない


只ならぬ気配を感じ一旦場所を変えようと一歩退くと

「おや!お帰りになられましたか!お出かけの際は御用命下されば

車をお出ししますの、に・・・」

身を翻す前に見つかってしまった

仕方がない、改めて話を聞こうと声を掛けようとした時

黒服の視線が右へ、俺の左肩に移りそこに居る何者かを確認した瞬間

ビシリ!と目の周囲に青筋血管が浮き

「キッ!サマァァァァァッ!!此処を何処だと思うてかッ!!

天上人様の御膝元に汚らわしい亜擬めがぁぁぁぁぁぁッ!!!」


優に2,30mは離れていた筈なのに一息もせずに

眼前に文字通り飛んで来、俺の左肩

そこに居る存在に向けて


──・・ッッボ!!


一切の躊躇いなく拳を振るった


が、放たれた渾身の拳は左肩を通過する前に停止する

「く、ぉ、おぉ・・・」

左手で拳を右手で腕を掴み何とか止める

前の世界で激昂した関羽

あの乱打戦で目が慣れていなければ反応出来なかった


威嚇や警告ではなく殺意が満身に込められた重苦しい一撃

止めている掌から半端でない憎悪が伝わってくる


「ふーッ!・・・ふッ・・ッ!」

「くぅッ!っと!ち、ちょっと待ってくれ、どうしたんです?いきなり」

「ふーッ・・・いえ、失礼しました、大変お見苦しい所をお見せしました」

妖精に向けられた視線がこちらに向き謝罪を言うが早いか

拳から力が弱まりこちらも手をゆっくりと離す

フェイントで妖精に殴りかかる事を警戒しながらゆっくりと

それほどに人が変わったような変貌した目付きだった


「そ、ぐ・・う”っん”ぅ!失礼、そちらに見えますのは妖精、ですね?」

苦々しく咳払いをし改めて妖精について言及してくる

「え?あ、あぁ・・」

そのなんとも白々しい()()()確認に間の抜けた声が出てしまった


「天上人様の御前にて取り乱してしまった事、大変恥ずかしく思います

見れば御存じ無い御様子、不躾ながらそこなる()()

妖精というのは無害を装い人懐こく近付き

誘惑し命を奪う危険な害・・隣人なのです」


「この都市、桃郷は様々な脅威に晒されている人間の安息なる楽土

本来ならば絶対に侵入は許されない都市外の猛毒達

在ってはならぬモノ、それが()りにもよって天上人様の身に」


「アンタねぇ・・黙って聞ぃてりゃあ」

眼前に迫った拳気に蒼白になっていた妖精の顔に血の気が戻り言を飛ばす

「好き勝手言ってんじゃあないわよッ!!」

震える手でしっかりと襟は握ったままだが


「この街の外で皆が!ミィ達がどんな目に遭ってるか!

これも全部アンタ達の頭の上でふんぞり返ってる天・・」

刹那、黒服が脚で地面を強く踏み妖精の言葉を遮り

こちらに鋭くなった目を向け舌打ちし


「亜擬共が侵入しているぞ!卑しくも天上人様を騙り我らを謀った!!

大罪であるッ!!繰り返す!亜擬共が侵入しているッ!!」

言うが早いか足払いを仕掛けてくる


(ッチィ!!マジかよ!!)

薙ぎ襲って来る足を踏みつけ逃げる

「っがぁ!?・・っく!逃亡!侵入者逃亡!!おい!」

後方に居た運転手に合図をしている

応援を呼ぶのだろう、このまま留まってはいられない


事情を問い質したい所だが恐らく聞き入れてもらえないだろう

何が逆鱗に触れたか知らぬが対話に応じる眼では無かった


なにがなにやら理解が追いつかないが呆けてる暇はない

駆け出し、すぐ隣の宿の玄関口へ


「ちょっとぉぉ!!この街自体が危ないのよぉ!

立て籠もったって意味ないわ!」

「そうじゃない!仲間がまだ残ってる筈なんだ置いて行ける訳ないだろ」

「ど、どこよぉ・・・こんなだだっ広い建物(とこ)で人探しなんて」

「しっかり掴まっていてくれよ!?速度を上げるぞッ!!」


黒服の報せを聴いたのであろう

昨日歓待してくれた従業員一同手を広げ

刺股(さすまた)で武装している者も居て行く手を遮っている


その皆の眼が一様に汚物の塊でも見るかのような侮蔑に満ちている


(なんなんだよ一体!?)

「ごめんよ!っと!!」

流石に人生()()()と引き換えにした身体

人一人程度の高さは訳もなく飛び越え奥へ、すると

上へ向かう手段が二つ、階段か昇降機か

昇降機は止められたらアウト

階段で昇るにしても長すぎて追手に先回りされてしまう


「それならッ!」

丁度降りて来た昇降機に駆け込み

「ちっと乱暴にいくぞ!?備えろ!」

「え?え?え?なにするわけ!?ちょ!!」

昇降機が動くのを待たず天蓋をぶち抜き

筒状になっているシャフト内の壁を蹴り昇っていく


「あ、アンタなんなの!?ほんとに人間なの!?」

「今となっちゃ何とも答えづらい質問だな!それはっとぉ!!」

透明なシャフト内から昨日楽しんだ娯楽エリアが見える

(昨日あのプールに浸かってる時はこんなことになるなんて思いもしなかったな)


「そろそろだなッ!また掴まってくれ!」

「わわわ・・・」

自分達に宛がわれた部屋のフロアにアタリをつけ

シャフトを殴って破り抜ける


駆ける勢いのまま部屋に転がり込み乱雑に鍵をかける

(当然マスターキーがあるんだろうがちっとは時間稼ぎになってくれよ・・)


「イア!イア!居るか!?」

「ふぁい、なんでひゅか、むぐん」

おにぎりに齧りついていたイアがのそりと顔をだす

(コイツめ・・あんだけ食ったのにルームサービス頼んだな・・・)


「あのなイア落ち着いて聞いてく」

「みゃあぁぁぁッ!?」

「なんだ!?」

もう部屋に追手が来たかと身構えると

イアは俺の肩をわなわなと指差し

「お、女の子が引っ付いてます~ッ!!だから言ったのにぃ!」

その指摘にガクリと肩を落とし

「悪いが今は急ぎだ、思ったよりも不味い状況になってる

荷物を纏めてくれここから逃げる!」

こちらの焦りを感じ取ってくれたのだろう

「はい!」

即座に指示に従ってくれた

頬に米粒を付けたまま


ざっと顛末を話しながら荷物を引っ掴む

「えと・・どういう事なんです?」

「俺にもわからん、だけどここには居られない

シャルはまだ戻ってないか?」

「まだです」

「外で上手く落ち合えれば良いんだが・・・」

さぁ脱出と意気込んだ矢先、入り口からガチャガチャとノブを弄る音が響く


「追い付かれたか・・」

どうしたもんか、蹴散らして出るか

否、恐らく既に部屋の外から階段昇降機もガッチリ押さえられているだろう


「なら残った経路はコレしか、ないよな

イア、掴まってくれ」

「へ?はッ!はい!!」

イアを右腕に抱き、一纏めにした荷を左に背負い込み

「君は・・どこか安全なとこは・・・」

どこか掴まれるヵ所を探して自分の身体を見下ろし

「ふん・・ここでいいわよ、ちょっと邪魔するわね」

と胸元へ潜り込んでくる、いつの間にか掠めたのか小さなおにぎりを持って

「ちょぉ~ッっと!なんですか!そんなところにイキナリ!」

「あなた・・ミィが言うのもなんだけど賑やかねぇ・・」

「いいから!口閉じてしっかり掴まってろよッ!?」


言うなりバルコニーから身を投げた


「おぉぉぉッ!?」

無論、勝算あっての脱出路だが

超高所からの落下による生涯感じた事の無い

いや、この世界群に墜ちてきた時以来の

嫌な浮遊感に全身が襲われる


「びゃあァァァァッ!!!」

「アンタぁ!だ、大丈夫なんでしょぉねぇッ!!?」

「問、題・・なぁぁぁっ!い!!」


(風・・風・・出来る!出来ないと困る!!)

強く念じ風を生み殺人的な落下スピードを緩め

「シャァァアアアルウゥゥゥゥッッ!!!」

勢いのまま滑空し、上空から何処かに居るであろうシャルに声を掛ける


「ぉ~ぃ!」

(居た!!)

眼下に見えた夕焼けを切り取ったような髪色の見知った顔

風を微調整し近くへと降り立つ


「どったの?新しい遊び?」

「いや、それがさ・・」

何が起きてるか皆目(かいもく)知らぬシャルに説明しようとする暇もなく


「発見!発見!南区5-19にて対象を発見!指示を請う!」

「確保必要なし!殺害優先!繰り返す対象、亜擬総数4、殺害を最優先とす!!」

ダダダッと靴を鳴らし続々と全身を武装した集団が集まってくる


(おいおい機動隊みたいな連中だな)

「ん~、わかんないけど・・わかった!!」

「え?」

「アタシが先行するよ!どっちに行く!?」

「取り合えずこの街から出るしかないどこかに出入口は」

ぐるりと見回す滑空している時も探したが暗さも相まって

関門などは見当たらなかった


「駄目よ、普通に出入りはできないのこの街は」

顎下、胸元からひょこっと顔を覗かせた妖精が

「ミィと会った場所!あっこに抜け道があんの!」

「いぃ!?あの袋小路か!?ど、どこだっけ!?」

「ミィもわっかんないわよ!広すぎなのよこの街ぃ!」


早くしないと包囲が完成してしまう

取り合えず駆け突破しようと適当な方に見当をつけたが


「こっちです!」

「おりょ?キミってば公園に居た子じゃん!」

路地から顔を出した小さな影にシャルが小さく手を振る

自分にも見覚えがある公園でゴミを清掃していた子だ

「は、はやく!急いでください!」

「あ!あんにゃろめ!こんなとこに居たのね!」

「知り合いか?」

「そーよ、だいじょぶ付いてってイイわ」

「だ、そうだ」

「オッケィ!!」

珍し気に胸元に潜んだ妖精を眺めていたシャルだったが

左手で己の右腕を掴み

「オッシ!!」

気合を一つ入れると

右手にあの時、闘技場で渡した槍が握られていた

「あれ?それって」

「なんかアタシに馴染んだみたい!取り出し自由で便利ッショ?

つーわけで、行っくぞぉぉぉッ!!」

二ッとピースをし先行く(さきゆく)小柄な人物の周囲に群がる

部隊を蹴散らし経路を拓いていく


帯刀した小刀を持ち追い縋ってくる者を蹴り飛ばし銃撃をシャルが槍で弾き

行く手を塞ぐ装甲車をひっくり返し逆にバリケードとして利用し

例の袋小路に辿り着く


「や~・・それにしても、どったのさ?あの連中」

「わっかんね、こちらの妖精を連れてあの黒服の人に会ったらコレよ」

「キミぃ・・なんかしたの?」

「ちが・・うわよ」


・・・少し口籠ったな


「た、確かに!ここでしてることはぁ褒められた事じゃ無いけど・・

そもそもの始まりは」

「開きました、行きましょう続いてください」

先導してくれた子が何やらごそごそとしていたが

マンホールの蓋を開けていたようだ

(み、見かけによらず力があるんだな・・)

中々に分厚いマンホールの蓋を動かすとは

小柄な体躯からは想像もつかない


天井が低い下水路を進んでいく

「きゃ♡」

「あん?」

身を屈めた事で小脇に抱えたままのイアと顔が近づきほんのりと頬が染まっていく

「ドキドキしちゃいます」

「この下水路を逃げる状況(シチュエーション)にか?」

「もうッ!」

「はは」

「うぅぅ抜け駆けの気配を感じるけど狭くて振り返れなーい!」

「アンタら緊張感ないわね・・・」


どれ程進んだ頃だろうか

「ぶはッ!!」

「ふぅ~・・」

下水の終端、外への吐き出し口に行き当たり

壊れた鉄柵の間から身を捩り外界へと抜け出す


外も変わらず夜の闇に包まれ月の光が仄明るく周囲を照らしている

外の空気はやっぱり美味い

後方周囲に気を配るが追手が潜んでいる気配は無い


「んぅ・・しょっと!」

胸元からムリムリと這い出した妖精が

パッと羽を広げ目の前に浮かび上がり

「はぁ~トンだ事になっちゃったわねぇ全く」

腰に手を当て前に屈み


「これでオサラバって訳にもいかなくなったみたいだし

遅ればせながら名乗らせてもらうわ」


「ミィメリア・フェアリエ・フォン・シックバスターよ!」

「よろしくミィ」

「ちょっと!気安いわよ!」

「よろ~ミィちゃん」

「よろしくお願いしますねミィさん」

「あ”んたらねぇぇぇッ!!」


月の下でミィが甲高い声で咆哮した

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ