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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第三章 戦略シミュレーションゲームの歩きかた
30/46

信条の変えかた

夜半、宛がわれた宿泊部屋にて


広々としたバルコニーの欄干に寄り掛かり遥か下の

繁華街を見下ろす


街灯、ネオン看板、多くの光源が落とす煌々とした明かりに照らされた街並みに

人々が行き交う様子が見える


時計は22時を示し夜半を回っているが

この街は眠らないらしい


今度は視線を上へ、空を見上げる

この世界には太陽が無いという


太陽が存在しない空だが常闇ではない

満点の星が頭上の暗い空間を彩っていた


「ん”~?星座だとかは全然知らないしなぁ・・」


空に位置する光点を眺め

見知った物は無いかと探すが

生憎、星に詳しくは無い


「春夏秋冬に三角形があるのと北斗七星ならなんとか・・ん”ぅ~?」


(駄目だ・・分からん・・・)


空を見上げ星に思いを馳せているのは

久し振りに過ごす静かな夜にセンチメンタルになった訳では無い

・・・多分


何故か気になる。星が。

眺めていると鳩尾や首筋の辺りがザワつくというか


落ち着かない気分になるが不安や焦燥ではない

浮き立つ。そう、楽しみで仕方ない予定が間近に迫った

高揚感に似ている


「なぁんでだろ」


今までの人生で星に強い関心を寄せたこと等無かったというのに

ぽつりと呟いた己への疑問は風に流れ消えていった


「さて・・・」

欄干に掛けていた体重を身体に戻し突っかけ(サンダル)を脱ぎ屋内へ


バルコニーを後にし寝室に選んだ和室へと戻り

先程敷いた布団にいそいそと入り脱力する

今夜は久しく1人で眠るのだ


(ここ最近、この世界に来てからはずっと2人で寝てたからなあ)


従来()()が抱き付いていて伸ばすことが出来ない

腕をグーッと伸ばし欠伸をする



───20分程前───


「今日はイアとシャルが2人で寝るって?」

イアから告げられた急な提案に少し間が抜けた声が出た


「はい!」

「ん、まぁそういうことね」


「おぉ・・分かった、んじゃまぁ」

そういうことで、と自分の部屋に向かおうとすると

ツイっと浴衣を摘まれる感触に振り返ると


ぶっすーという擬音が視える程にムクれ眉根をしかめるイアと対面する


「随分とアッサリしてますね、もっとこう・・なんというか・・」

自分からの提案とあって後半はもにょもにょと口ごもっていったが

やがて小さく溜息を吐くと


「・・・おやすみなさいです」

就寝の挨拶をしてくれた


シャルが正式に同行し目的を共有する仲間となった今

やはり寝食を共にするのなら同性のほうが何かと気安いだろう


イアは男女の機微に疎い面もあるし

あのまま寝所を共にし続けるのは宜しくない


未だ浴衣の端を掴んでいるイアの腕を軽くポンと撫で


「おやすみ」と

挨拶を返し自室に戻り今に至る



自分の体温で(ぬく)くなった布団が眠気を誘発し

目尻が蕩ける感覚に任せる


瞼を閉じ思考は自然と視界情報()から脳内記憶()に切り替わる


不意に、もう決して会う事は無い見知った遠い顔が脳裏に浮かぶ

現実世界(向こう)での唯一と言っていい馴染みの人物

生きる世界も過ごす時間も見上げる空も別になってしまった


終わった自分()の姿を見て泣いたのだろうか、それとも彼女の目に触れる前に

異変に気付いた別の誰かが通報し荼毘に付されたのだろうか


そんな事を考えながら意識が眠りの淵へと沈んでいった



────────ダイスが微睡んでいる同時刻、イアとシャルの寝室


隣り合ったベッドにそれぞれ腰掛け

イアとシャルが向かい合っていた


「うっは!ベッドすっごい!ぼよんぼっよんのフッカフワだねぇ」


「はい流石はこーきゅーなお宿ですね」


「だよねー!あは・・はは・・」


「はい!えへ、へへ・・」


当たり障りのない会話から

間が持たず互いにぎこちなく空笑いを交わす

先に埒を明けたのはシャルだった


「あー、のさ、アタシに話が、あるんだよね?」


「え!?あぅ、その、えと・・はい」

言いにくそうに俯き言葉を躊躇うが

意を決したようにイアは口を開く

「後悔していませんか?」


「それはこの旅に同行した事?」


「はい・・・私にはどんな世界で生まれ育ったのかの記憶がありません

元から記憶が無かったのかシステムから弾かれた影響で抜け落ちてしまったのか

忘れた事も忘れてしまっているのかも。でもシャルさんは違います

今まで生きた世界にお別れして何処へ向かって何が起きるかも分からない旅です」


「うん、確かに慌ててくっ付いて来たから

ちゃんと考えてるか確認したいんだねイアちゃんは」


「う・・厳しい言い方になっちゃいますけど・・・そうです

でもこれは」


「わかってる、ありがとね

中途半端な気持ちで一緒に歩ける道じゃないもん

アタシは、アタシの決めた道は・・・」


  ───────


闘技場に鋭く槍が交差する音が響く

『ギッ・・・ィィィィンッ!!』

蒲生によって復活したスヴァーヴァの前に立ち

行く先を阻む


「止まれ!これ以上好きにはやらせないよ!

アンタ達の無茶苦茶な無法もこれまでだっ!」


「ふん、無法か貴様に説かれることなぞ何一つない」

勢い込んだシャルの口上を一笑に付し槍を構え直す

「なによ!開き直ろうっての?」

同じく構え直したシャルが油断なく隙を伺う


「私は私の価値観に於いて(せい)を貫いているッ

私に言わせれば貴様こそ唾棄すべき()よ!」

互いに槍を振り下ろし切り上げ一歩も引かない


「はぁッ!?んなこと言われる筋合いッ!無いんだけっどぉっ!」

「あの男の今際の願いを汲まなかっただろうッ!!」

「え?ぅわっ!?」

突如投げられた言葉に動揺し不意を突かれる


「私が貫く瞬間も貴様は決断しきれなかった

身を翻しあの男を庇うでも願う通りに蹴り上げる素振りも無かった」

「アンタ・・・あれ聴こえてたの?」

「絶対的な絶命が迫る中、打開の一縷を託す相手がコレではな」

「ダイスケを犠牲になんてアタシは出来ない!」

「未だにそのような戯言をほざくとは」

「敵のアンタにそこまで言われる・・・」

「敵の私ですら胸打たれたあの言葉を反故にした貴様にだから言うのだッ!

よもやこの状況を予見していた訳でもあるまいッ!」


槍で薙ぎ払い牽制し遠くイアを助けに走る様変わりした男の姿を見やる

「呪法か奇跡かタネは分からぬが結果を見ればなんとかなったようだがな

闇の中、針の穴に糸を通す程の確率で救われたに過ぎん!」


「貴様の掲げる正義は潔癖が過ぎる、故に何も守れぬ救えぬ」

「正義ってアンタが何をッ!!」

動揺した心を表す様にシャルの攻撃が空を切る

「私は正義ではないが正道だ

大衆が決めた暗黙の正義より私が自身の為に課した道を信ずる」


「正義より大切なもの・・・」

「主に己を捧げ忠を尽くし疑わず裏切らず、これが私の決めた道だ」

「あ、あんなヤツにいいように使われて」

シャルは堪らず反論するがスヴァーヴァは意に介さない

「主の人柄は考慮せぬ、良いに越したことはないがな

この身は示されるままに振るわれる一振りの槍である」

これこそが己の道だと揺るがぬ瞳が雄弁に語っている


「そんなのが・・・自分の意志だっていうの?」


正義(綺麗事)を優先し己が手を汚すことを厭ったか?

決死の仲間に報いる事も出来ぬ詭弁(正義)を優先するとはな

次また同じ窮状が訪れた時貴様は決断せずに時を見送るのだろうよ」


突き刺さる言葉にガンガンと痛む頭の中で響くあの時の声

「・・・しない」

無力さに緩まった槍を強く強く握り直し

「アタシはもう二度とッ!迷わないッ!もっとッ!強くッ!守ってみせるッ!」

「張り子の正義と秤に掛けてもかッ!?」

歯を食いしばる

血を口の中に溜めてアタシ達を逃がす為に切実に訴える声が蘇る

「アタシが決めた正道はぁぁぁッ!!」


  ────────


閉じた瞼を静かに開き

「守るよ。何があっても、絶対に」


穏やかに、しかし毅然とした宣言に何かを感じ取ったイアも

「わかりました。失礼な事を聞いてごめんなさい

これからもよろしくお願いします!」

瞳を見つめ返し朗らかに笑った


だが束の間、不意にイアが目を伏せ

「それとえと・・・失礼ついでにですね、もひとつお聞きしたい事が・・・」

「え~なになにぃ~?イイよぉなんでも」

もじもじと指を弄るイアにシャルが言葉を促すと


「シ、シャルさんはだい、ダイスさんの事すぅ・・好きですか!?」

耳まで朱色に染まったイアが爆弾を放った

「うぇっ!?ど、どったの?んな急に・・・」

釣られシャルの頬もみるみると紅潮していく


「お願いします、答えて下さい。」

脈絡のない質問にたじろぐシャルだが

イアの真剣な表情を見てやがてふっと息を吐き


「あーっと・・その、さぁ・・・

ホントいきなりどしたん?コイバナしたくなったとか?」

シャルはわざと明るく切り返し返答を先延ばしにしようとする

「コイバナは・・してみたいです

あ、でもでも!同じ人を好きな人同士でコイバナってするんでしょうか?」

負けじとイアも話題を戻す

「あはは・・参ったなぁ・・・」


「じゃあ私から言います!私は」

「大好きでしょ?んなの分かるって」

「へぅ・・・」

意を決した機先をあっさりと制されてしまう


「アタシは、いいのかな?好きになっても

好きって、言っても・・・」

「え!?じゃあダイスさん好き好きを譲ってくれるんですか!?」

「いやそこはアタシの気持ちを引き出して後押ししてくれるんじゃないの」

「独占できるチャンスがあるならします!」

ムン!と拳を握り鼻息荒い可愛い宣言に

「っぷ!あっはは!そうだよね!譲ってらんないよね!

止まっても退いても駄目だよね!何でも(戦も好きぴも)!」

バッと手を上げ

「アタシも!ダイス!好き!」

「はい!」

互いに顔を見合わせ笑い声が部屋内に満ちる


「ま~ったくイアちゃんてば大人しい顔して

大胆な事聞くねぇ~うりうりぃ」

プールサイドでダイスがしたようにくすぐろうと

イアの脇腹に手を伸ばしたシャルだったが手が届く事は無く


素早い動きでパッパッと軽くシャルの手をいなし

「駄目です先程のダイスさんのこちょこちょの感触が薄れてしまいます

今日は何人にも触れさせません」

いつものほにゃっとした瞳からは覇気が溢れている

「さ、寒い。目が寒いよイアちゃんてばごめんてぇ~」



部屋の明かりを消し各々ベッドに潜り込み数刻経つが

まだ話に華が咲いていた


「えぇ?会って翌日から!?」

「は、はい」

尽きぬ話題の水先はイアとダイスの同衾の歴史に向いていた


「う~ん今までずっとダイスと寝ててイアちゃんってば狡い(ずるい)なぁ

あっ!てか!今ダイスの隣空いてんじゃん!」

「え」

上体を起こしチラリとイアに目を向け

素早く枕を持ちシャルがベッドを降りる


「突撃~!」

「ま、まってください~」

慌ててイアも枕を抱えあわあわと後を追うが


「あぷっ!」

ダイスの眠っているであろう和室の襖の前で

立ち止まっているシャルにぶつかってしまう

「ど、どうひたんですか」

鼻を撫で何事か問うイアにシャルは神妙な面持ちで

『ちょい待ち』

と、小声で人差し指を口に当て静かにするよう促しシャルは

静かに身を屈め音が鳴らないよう襖をそっとずらし部屋を伺っている

『どうしたんですか?』

言われた通り小声で不思議そうにしながらも

イアも部屋の中を覗く


『う~ん取り込み中かと思ったけど寝てるみたいだね』

『取り込み?』


『だって久々の一人の時間だしさっきはあんな水着姿を見せつけた訳だし

そりゃ~男の子はアレなんじゃな~い?』

シシシとイヤらしく笑うシャルに

「だ、ダイスさんはそんなこと!」

動揺からイアの声のボリュームが上がる


『シ~、静かに~。それによくないなぁイアちゃん

別に悪い事でも無いんだしそんな事なんてさぁ』

「う・・・」

『イアちゃんだって意識して欲しいから

水着だってダイスの好みにあわせたんでしょ~?』

『それは・・・はい・・・』

俯き蚊が鳴くような()細い声で肯定する


『でも寝ちゃってるか・・・色々あってくたびれちゃったのかな?

それともアレ(チャラ男)に乱入されたし水着の印象薄まった?』

「は?あのヤな人で私達の渾身の水着が印象流されるなんて嫌なんですけど」

イアの声から温度が消えるのを手を軽く振ってシャルが躱す

『はいはい闇のイアちゃんは今は閉まっといて

まぁ寝ちゃってるならそれはそれでOKOK』


さて、と襖をするする開けて

ひたひたと布団に近づき潜り込む



─────────────



身体が沈み込む程の羽毛の布団に身を預け

眠りについて暫し経った頃


一瞬布団内に空気が入り冷やりとし軽く意識が戻り夢うつつでいると

(ごそごそ)

両脇にナニかがへばり付いてきた

「んぁ?」

『あり?起こしちった?お邪魔しま~す☆』

『あぅ・・ど、どもお邪魔します』

右にイア左にシャルが居た


「ちょいちょい今日から寝るのは別にって」

「アタシは何も言ってないも~ん」

ぎゅ!と腕に抱き付いてくるシャルに

「うぅ・・わ、私は忘れちゃいました!」

負けじと反対の腕に抱き付くイア


(忘れたって、また苦しい事を・・・)


「そ、それに!今日()()ってなんですか!

別々で眠るのは今回限りのつもりだったんですけど!」

「覚えてんじゃん」

「んぅ~!イイんです!」

聞く耳持たぬとばかりイアはぐいぐい顔を擦り付けてくる


「ふぅ~んイアちゃんいつもそんなに甘えてんの?」

首を伸ばしイアの様子を見るシャルだが動くことにより

するりと浴衣が軽くはだけていきその合間から覗く・・・


(いかんいかん)


浴衣に隠されていた肌色へと吸い寄せられる目を瞑るが

「ねぇねぇ」

声を掛けられもう浴衣の乱れを直しただろうと目を開けると

広がっているのは相変わらずはだけたままの浴衣と胸元と

(ん?)

「気付いた?こ・れ!」

浴衣の下に付けているのは下着・・ではなく

プールで着ていた赤く布面積のやや少ない水着だった

見せつけてくるように身を寄せ

「可愛いしダイスも気に入ってくれたみたいだし借りてきちゃったんだよね」

「うぅ俺は・・その」

「それとも~もう少し小さめの水着がよかった?

今度ぉ借りてくるね?」

「し、シャルさん!な、なんと不届きな!その!アレですよ!」

布団の中で蠢くテンパるイアに引っ掻き回されながら

この生活始まって以来、豪華な新世界一日目は更けていった



───────────



太陽が消え月と星が常に空を占拠する世界にも

皆が寝静まる時間は存在する


シン・・と静かなフロアの片隅、従業員専用と記された昇降機が稼働していた

客用と違い木造ではなく

乗り込んでいるのはダイス達を案内した黒服のリーダー格と

この世界でダイス達を最初に見つけた男


昇降機の階層を示すデジタル表記がチカチカと変わっていき

何も書かれていない所で止まった

ゆっくりと昇降機の扉が開き黒服、強引に連れられるようにもう一人の男が降りた


街を一望できる一面ガラス張りになっている広い部屋の中には

巨大なモニターと街を細部まで模したジオラマを

カタカタと音をたて列車のミニチュアが走っている


その中心に


パーカーを着た神経質そうな男が革のソファに身体を預けている

放置した無精髭が実年齢より老け込ませて見えるが

年の頃は20代半ばといったところか


瞑っていた瞼を開き黒服達に目を向ける


少し離れた場所にやって来た黒服が片膝をつき頭を下げる

「ご報告に上がりました。」



()()()()

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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