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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第三章 戦略シミュレーション パーソニファイガールズ
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絢爛なりし光の都

「あれ?・・・わぁッ!?」

浮遊感が消え目を開けると足下に地面はなかった

いや、地面はある、がそれは5メートル程下にある


「うおッとッと!」

咄嗟だったが上手く着地できた

以前の身体だったらまず顔面からめり込んでいただろう


ってそうだ!2人はッ!?


「イア!シャル!」

見上げ落ちてくる2人を確認する


「アタシはだいじょーっぶ!っとッ!

イアちゃんをお願い!」

タッ!と難なく着地を決めるシャルと対象に


「きゃわわわァァッ!!!」

「うおッ!」


頭から落下してくるイアを両腕を広げ受け止める態勢に入る

必死に目を凝らしイアに注目する、決してイヤらしい意味ではない

何故ならば空は暗く、気を抜くとイアを見失ってしまいそうになるからだ


「オイショっ!ッと・・・」

オッサン臭い声を出して無事受け止める事に成功する

間に合って良かった・・・


「ぁわわぁ・・・」

お姫様抱っこの態勢になり

イアはこちらを見上げプルプルしたままだ


「イア?大丈夫?」

強く抱き留め過ぎただろうか

そっと降ろそうとすると

「ぇと・・・もう少し・・」

「ん?」

もしかしてどこか捻ったか挫いたりしたんだろうか

「じゃあもう少しな」


「イ~ア~ちゃ~ん?

もうッアタシも抱き留めて貰いたかったなぁ~?」

「し、シャルさん・・・」

「はは・・」


でも、とイアが呟き

「すみませんでした・・転移に失敗するなんて・・」

「え?失敗なの?」

シャルがポカンした顔で言う

「はい、高度が合っていなかったみたいで・・世界境界を越えた瞬間に

落ちるなんて危険な事になっちゃって・・」


確かに前の世界はちゃんと足下が安定した箇所に転移してたが


「まぁ、たまにはこんな事もあるよ何事も無かったことだし」

「そーそ!結構楽しかったし!」

「うぅ・・すみません」


しょげるイアを慰め

落ち着いたところで周囲を探る


「うわ~夜だねぇ・・さっきまで陽が高かったのに

ホントに違う世界なんだ・・・」

シャルが驚きの声を上げる


「ええ、でも暗くはありませんね」

イアの言葉の通り空は暗く星が瞬いていたが

周囲の景色はハッキリと見て取れる、それというのも


「ビル街・・・?」

最初の世界はおろか闘技場世界すら圧倒するビルが立ち並んでいる


「あ、あなた方は・・・」

「ん?」

ふと驚きの声が聞こえ

声の方向へと目を向けると1人の男が立っていた


「て、天上人(てんじょうびと)様・・・」


「え?・・あの、てんじょうびと、って俺達のことか?」

反射的に聞き返してしまう


「はい!お会いできて光栄です!」


男はひどく興奮した様子だ

敵意などは微塵も感じられない


「いけない!皆の者にも伝えなければ!

このような場所で申し訳ありませんが少々お待ち頂けますか?

すぐに迎えの者を寄越しますので!」

男はこちらが口を挟む暇もなく言い切ると息せき切って走って行った


「何だったんだろーね、アレ」

流石のシャルも呆気にとられたようだ


「このような場所って・・」

改めて周囲を見るとベンチがあった

木々や噴水を中心に舗装された道路が円形に通っている

どうやらここは公園らしい


街灯に照らされたベンチへ未だ抱っこに名残惜しそうなイアを座らせ

空を見上げる、ビルの隙間から星の瞬きがうっすら見える


久し振りだな、この光景・・・俺は都会暮らしでは無かったが

今までの世界の中で一番現実に近しい光景だ・・・


「アハハッ!ダイスったら口ぽっかり開けてどしたん?」

「いや今までの世界と結構違うなって思ってさ・・」

「そだね~アタシもこんなでっかい建物初めて見たよ・・って、んぉ?」

シャルと高層ビルを見上げているとシャルが何かに気付いた


「あそこ・・誰か居ない?」

シャルが見ている方に目を凝らすと確かに何者かが居る

小さな影が屈んで何やらごそごそと・・・


さっきの男が言った迎えにしては来るのが早いと思うし・・

と、じぃっと首を伸ばし見詰めていると向こうもこちらに気付いた様子だ


こちらを見てギョッとしていた様子だがすぐにごそごそと何かの作業に戻った


「ねねね!なにしてんの~?」

「あ」

気付けばシャルが声を掛けていた、危なくないとは思うが警戒心ないなー・・


一方で声を掛けられた謎の人物は

まだ年端もいかないような少女だった

「あ、あの私・・すみません、お仕事で・・」


見ると公園に据え置かれているゴミ箱からビニール袋にゴミを回収していた

仕事って事はゴミ収集の人なのか・・?

いやいや、こんなとっぷり日が暮れた時間に少女が1人?

周囲を見渡すが同業者は見当たらない、1人で仕事をしているらしい


「えー大変じゃん、ねね!手伝っても良い?良い?」

シャルが少女と続いて俺に聞く

「あぁ、こんなに暗いのに1人でなんて」

言いながら手を貸そうとすると


「あぅ・・ぁッあの!私の仕事ですので!その・・・結構です!

あ、ありがとうございましたッ!」


シュババババッ!と凄い速さでゴミ回収を済ませ

小柄ながら軽々と大きなゴミ袋を持ち上げシュパッと走り去ってしまった


「手伝う隙が無かったな・・・」

「うん・・・」

シャルと2人で茫然と少女の後ろ姿を見送った・・・


イアの座るベンチに戻ると、ザザッ!と10人ほどの

夜に闇に溶けるような漆黒のスーツを着た集団が公園へ入場してくる


「もしかしてアレが迎えってヤツか・・?」

何だあの物騒な雰囲気の集団は・・・

考えてみれば少し無警戒だったかもしれない

いきなり天上人だの、お迎えを~だの怪しさ満点だ


イアとシャル、2人の前に立ち。静かに身体に力を入れ

こちらへと歩いてくる集団を見据え不測の事態に備える、と


先頭の男が(うやうや)しく頭を下げ

「貴方様を天上人様とお見受け致しましたが、お間違い無いでしょうか?」

「いやぁ・・天上人って言われてもなぁ・・・俺は別に」


「なんでも、突如として天空から舞い降りたと目撃をした者から伺いました」

「それは・・まあ、はい。」

「でしたらば天上人様で間違いありません

よくぞお越し頂きました。つきましてはこの桃郷都(とうきょうと)

ご案内がてら、おもてなしをさせて頂きたく。」


「えッ!?はッ!?とうきょう!?」

聞き慣れた名前に思わず動揺してしまった


「はい、桃郷都。明けぬ夜を克服した(みやこ)です。」

「明けぬ夜・・?」

「はい、詳しいお話は道々お話し致しましょう」


どうぞ、と左右にバッと数人ずつ別れ道を作り

説明をしてくれた男が片腕を伸ばしエスコートの要領で手招きしている


正直、この人達を信用していいかは分からないが・・

振り返りイアとシャルに頷く、2人も頷き返してくれた

シャルに至っては早く街を見て回りたいのだろう、瞳が輝いている


静かに警戒を続け、従って公園を出ると異様に長い車が停めてあった


「うぉわーッ!でっかいねぇ!」

「これって・・リムジンか!?」

「どうぞ、こちらへ」


驚く俺達を余所にドアを開け乗車を促してくる

本当に何なんだここは・・・


恐る恐る乗車すると車内は空調が効き、座席も程よく弾力があり座り心地が良い

車内とは思えない程に広く俺とイア、シャルが

並んで座っても余裕がある広さのシートだ


「では、発進します。」

動き出しても振動が伝わってこないが窓から見える景色が流れているという事は

ちゃんと進んでいるのだろう


「す、凄いですね・・・」

イアも驚きを隠せていない

「へぇ~すっごいなぁ~!」

シャルが窓に張り付き景色に感嘆の声を上げる


「あッ、コラ、窓に指紋付いちゃうだろ」

シャルを諌めようとするが


「構いません、どうぞお好きなようにお(くつろ)ぎ下さい。

宜しければお飲み物もございます。」


「えッ!?なんだろ!わッ!お酒にジュースもあるじゃん!」

車内冷蔵庫を漁りシャルがグラスを用意する


「俺はいいよ、車とか船で飲み食いすると酔う体質だから」

グラスを向けてくれたシャルに軽く断りをいれる


今のは半分嘘だ。ガタガタに揺れる乗り物では確かに酔うが

こんな揺れを感じない高級車で飲み物くらいなら口には出来る

だが別の理由で彼らの出してきた物に口を付けたくない理由があった


もし何かを混入されてたら堪ったもんじゃないぞ・・・

黒服の連中に悟られないようシャルにも無言で合図する


(まだ彼らが安全だと判らない、注意を・・)

「ぱひゃ~ッ!ん~美味しいぃ~!イアちゃんもダイスも飲まないの?」


こいつの物怖じしない所が羨ましい・・・

俺もいつまでも委縮してる場合じゃないな


「あの、明けない夜ってさっき言ってましたけど、この世界に太陽とか昼は」


「はい、現在、太陽は存在していません。昼は・・無論、時間的に昼時間は存在しますが太陽が中天に昇る意味での昼は存在しません」


「それは何か理由が?」


「過去、この世界は無個性でした。衰退はしていないが繁栄もしない、そして

何処からか襲来する謎の敵ブアルの襲撃に怯える生活を送っていたのです」


「ですが天上人様が現れブアルを滅ぼし、街の発展にも尽力いただいたのです

故に今日(こんにち)の繁栄は天上人様の存在あればこそ!」


「天上人様は世界を去って久しいですが、またこうして来訪して頂けるとは

望外の喜びです。」


ゲーム世界の設定だろうか、天上人ってのはプレイヤーの事か?・・ってことは

この世界はプレイヤーがクリアした進行状況を引き継いでいる・・のか?


「あの、天上人がこの世界を救ったのは分かったけど

俺達は・・その天上人とは関係は無いのであまり歓待してもらっても・・」

正直、居心地が悪い見も知らぬ他人の功績にタダ乗りするのは気が引ける


「いいえ!とんでもありません!確かに貴方様は実際にこの世界を

お救いした天上人様とは別の御方なのでしょう」

彼はしかしと続け

「ですが天上人様である事に変わりありません

当時、天上人様に出来なかったご恩返しをどうか、させて下さい」


参ったな・・・困惑する俺にシャルがグゥッと身体を寄せて耳打ちしてくる

(良いじゃん、こんなに歓迎してくれてるんだしさ。それに

バグを潰す為に来たんだからこの世界を救いに来たって事で間違いないっしょ?)

(それは・・そうだけど・・)

「ひゃんッ!」

「な、なんだよ」

「もぉ!耳くすぐったいぃ~♡」

「だ、だだダイスしゃん!にゃにゃんてこちょを(なんてことを)・・ッ!」


耳打ちを返しただけでなんでこんな騒ぎになるんだ・・・


「すみません・・」

イアに胸倉を掴まれながら喧騒を謝罪する


「いえ、仲睦まじくなによりです・・ん?分かった。

そろそろ目的地に到着致します」

柔らかく微笑みながら前方に座る人から到着の知らせを聞き俺達にも伝えてくれる


停まる時も全くの揺れを感じさせずリムジンが停車する

カチャリと静かにドアを開け

「どうぞ、お足元に注意なさって降車下さい。」


「は~い!」

「ありがとうございます」

「ども・・」


順番に降り目の前の巨大な建造物に目を奪われる

旅館というには豪奢で高層だ・・・下からでは建物の頂点が見えない・・・


「こちらは総合娯楽宿泊施設『天の原(あまのはら)』でございます。

どうか日頃のお疲れを癒して下さいませ。」


深々とお辞儀され見送られる

すると連絡が来ていたのか旅館からも人が出てきて


「ようこそ!我ら一同、お待ちしておりました!

さささっどうぞこちらへ。」


赤に金の刺繡が入った法被を着た従業員ににこやかに招かれてしまう


「どう、するかな、これは・・」

圧倒されてしまうが

「わー!お邪魔しまーっす!ほらほら!2人共!」

シャルにイア共々手を引かれ連れられてしまう


だからもっと遠慮とか警戒とか・・あーもう


「分かった分かった!」

苦笑しながら足を動かしシャルに続く

イアもぎこちないが笑顔を浮かべ、こちらを見た

「取り合えずお世話になりましょうか?ダイスさん」

「ああ、そうだな。ほらシャルもそんな引っ張るなって・・」


こうして新たな世界での生活が幕を開け始めた。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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