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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第二章 PVP特化型対戦ゲームの歩きかた
22/46

新たなチカラの使いかた

・・・ッバァァァ・・・・ッン!!!


殴りつけた蒲生が壁に激突する、が


壁への激突時の反動を利用し前のめりに倒れ込み

這うようにガラガラと崩れる壁を避ける


(マジかよ・・・しぶといやっちゃな)


「ッガァ‥ッ!!・・ッテェ・・!」


しまったな、殴り合いの喧嘩なんて小学生以来だから本気で振り抜けなかった

疑似体(アバター)に相当ダメージを負わせたようだが脱落させるには至らなかった


「て、てめぇ・・ゆ、ゆるさねぇぞ・・ぜってぇ・・」


膝を支えにガクガクと立ち上がる蒲生


瞳には憎悪が宿っていたが俺の後方、何かを見つけグニャリと歪んだ笑みを浮かべる

「アイツを使うか・・・」


釣られ振り返るとそこには未だ力なく座り込むシャルの姿があった


お前(オメー)、アイツに手ぇ出さなかったなぁ!?

ありゃもう俺の手駒だぜ!?お前の仲間だとでも思ってんのかよ!!」


「ふざけたことを・・・ッ!んな事させっか!

お前を止めりゃあ!」


「あんなヤツぶっ壊れても構わねぇ!限界超えて強化(バフ)かけてやる!!」

言うが早いか蒲生が強化の態勢に入るとシャルが悲鳴を上げる


「あぁぁ・・ッ!!いっや!だ・・・ッ!!あぁぁぁッ!!」


こちらが蒲生へと意識を向けた隙に

後方から猛追してきたシャルがタックルを仕掛けてくる


本人ですら制御出来ないのだろう

まさしく捨て身の勢いだ


ステップを踏むように4,5歩ほど左に避ける、それが悪かった


(かわ)されたことで勢いを制御できず前につんのめり態勢を崩す

あわや顔面から地面に激突しそうになるシャルの肩を咄嗟に掴み転倒を防ぐと


「っとぉ!?」

ノータイムで頭突き、膝蹴りの乱打を見舞ってくる


頭突きは頭を後ろに逸らし躱す、反応できた自分を褒めてやりたい


(俺の(仮面)の硬さで受けたらシャルの額が割れちまう・・・っ!)


「むんっ!!」

次いで今までの身体では感じなかった腹筋にグッと力を入れ、蹴りを(はじ)


十代(ティーン)の頃にあんだけ筋トレしても硬くも割れもしなかった腹がこんなにねぇ)


おぉ・・と、ある種の感慨に耽っている場合では無い


これはシャル本人にもどうにも出来ない、蒲生が強化と指示を送っている・・なら


蒲生を今度こそ叩き潰して・・・と、蒲生へ目を向けると

ヤツは頬をさすりながらもニタついていた


俺は難なく攻撃をいなして大事無いが、問題はシャルだ

攻め手のシャルが身を振るう度、顔に苦痛が滲んでいる


(限界以上の強化と言っていたな、まさか・・過負荷?)

だとしたらこれ以上身体に負担を強いる事はさせられない


「・・・スマンッ!」

「ひゃ!」

ガシッと正面から抱き付く形で羽交い絞めにする


小さく悲鳴を上げたシャルを腕の中にすっぽりと収め

動きを封じたまでは良いがこれからどうするか・・・


「もう・・いいよ、ダイスケ・・アタシこれ以上ダイスケに迷惑かけたくない

このままアタシを殺して・・」


突如投げれた悲痛な懇願に今までのどんな殴打よりも大きな衝撃を受ける


「なっ!?なに言ってるんだッ!!」


「庇ってくれてたのにあんなに殴って蹴って・・ごめんね、ごめッ・・」


涙を流し謝罪と共に死を願うシャル


(こんな事があってたまるかよッ・・・!)


ぎゅううと羽交い絞め、いや抱きしめる腕に力を込める

無論、絞め潰すためではない


「俺は君に害を加えないし殺して堪るか!

殴ったとか、あれだって君の意思じゃない!絶対になんとかしてみせる」


「でも・・でもぉ・・」


「チィ・・あにやってんだッ!!

手駒は手駒らしく俺に使い捨てられとけやッ!!」


拮抗状態にもつれたのが気に入らないのだろう

蒲生が地団太を踏みながら駄々をこねる


(顔も性根も価値観も・・本当に癪に障る野郎だな)


俺は今シャルを抑える為に、無防備な背を奴に晒しているが

蒲生に自分で戦うという選択は端から存在しないらしく

少し離れた場所から相も変わらず喚き散らしている


しかし、この状況・・・


「んぅ・・どうしたもんか・・」


打開策を逡巡すると胸元に見えるシャルが弱弱しく

「ごめん・・ごめんね、アタシ・・」


謝罪をするシャルを遮り

「何言ってんの大丈夫、大丈夫だから

ほら、さっきまでと違って俺、少しマシになってんでしょ?

必ず、なんとかしてみるから」


これといった解決策はまだないが

安心させるように告げる


「でも・・・」

シャルは震える瞳で逡巡した様子だったが


「うん、アタシ・・・信じる!ダイスケの事!」


徐々に腕の中のシャルからの抵抗が弱まる

蒲生の指令に全力で抗ってくれているのだろう


今の内に打開策を練らなくては


蒲生のシャルに対する指示、命令、強制、契約を断ち切るには・・・


『あっあ~・・・んっんぅん!!

もっしもぉ~し?聴こえるかにゃ~?』


(え?)


頭の奥から声が響く


『いんやぁ~、お困りみたいだからさぁ~、ついつい声をかけちゃったよ』


「え?だ、誰?」

「ダイスケ?」

謎の声の主を探ると胸元のシャルが戸惑いの表情を浮かべている


「あ・・いや」


『OH!僕へのお返事のお便りは心の中でOKだよん

声に出すと虚無と会話するイタイ人だと思われちゃうから、きおつけてね!』


(もっとはやく・・いや、はい)


なにやら頭が痛くなる喋り方と()だな

聴くと背中に蟲が這い回るような感覚がする


この不気味な感覚、あの空間の主が想起される


(それで、その・・貴方は?)


『おっとっと!失敬!名乗らずに海馬に直接語り掛けるなんて

無礼の極みだね☆・・・でも僕に名前ねぇ・・・

じゃあ今回はスマイリーにしとこっかな!』


明らかに偽名だ・・・が、多分指摘しても無駄だな

()()()()()()()は、はぐらかすか茶化してマトモに答えないだろう


それよりも今は何より


(困っているから声を掛けてきたって言いましたね・・・

打開策を教えてくれるんで?)


『話が早いねぇ!せっかちとも言うけど・・ま、よかばい!』


もっと勿体ぶられると思ったが意外にもすんなり教えてくれるのか・・・


『あ、駄目だ・・・やっぱ(ダリ)くなってきたから軽い説明にすっか!w

今のキミはね、大抵の事は出来るよ!終わり!』


「はぁ”?」

あまりに早い心変わりに思わず声を上げてしまった


「だ、ダイスケ?ごめんね?」

「あ!いや!違うぞ!大丈夫だ!今のはシャルに対して言ったんじゃないぞ!」


責められたと勘違いし縮こまるシャルに弁明し

改めて心中でスマイリーなる存在を問い詰める


(ザックリとし過ぎだろ!もっとこう具体的に教えてくれよ!)


『え”、え”、え”ぇぇぇぇ・・・詳しく訊きたいんスかぁ?』


痰が絡んだような声で心底面倒臭そうに言われた


なんなんだ、この情緒の不安定さは・・・


『だぁからアレしてグへへ、コレしてドゥフヘヘってイメージすっと

色々デキちゃうよ?やったじゃん!って感じ』


クソ、要領を得ない・・・ッ!


(じ、じゃあ例えばこの状況を何とかする為には!)


『んぇ?ん~そうだねぇ、君の腕の中で子リスのように震える彼女に燃えろと念じれば

あぁぁッ!え?マジ?ひくわ・・・っという間に黒焦げに出来ちゃうよ☆』


(いやいやいやいや待ってくれ、ナイそれはナイ、断じて)


トンデモナイ事を言うなコイツ・・・


『はぁ・・・じゃあどうして欲しいんスか先輩(すぇんぷぁぁい)


(うっざ・・・)


駄目だキレるな落ち着け、奇天烈な言動に惑わされるな

要点を


燃えろと()()()()黒焦げに・・


つまり


()()()()()と思う事を念じれば

それが叶う、いや、その事象を起こす事が出来ると?)


『まぁ・・ハイ、そっすね。もう魔法って事でいいじゃないっスか、ぶっちゃけ』


なんでそう投げやりなんだよ・・・


いや、大抵の事が叶うならば俺のしたい事は!


グッと目を瞑り頭に強く念じる


(シャルを蒲生の支配から解放を!!)


思考の全てを使い願う、すると


無貌の証文破り(アンチ・プロミス)


自然と声が漏れ出た


フッ、と抑え込んでいたシャルから抵抗が完全に消えた


「あ・・れ?アタシ・・」

「おっと!」

ガクッと膝から崩れる朦朧としたシャルを支え、そっと床に横たえる


(今のは・・?)


ごく自然に口をついて出た言葉、アレが()()ってヤツなのか?


『続き、対象を眷属、隷属化へと移行する』


(・・・は?)


淡々とえげつない事を言い出す声に心中で抗議する


(おいおいおい!急に何言ってんだ!対象ってシャルの事だろ!

隷属って俺はそんな事は望んじゃいないぞ!)


『──意識下、深層、無意識化の意思を統計、8:2で隷属化を却下』


「・・・だいじょう、ぶ?・・・みたい、だな?」


しかし8:2ってなんだよ2割は隷属させることを望んでるみたいに・・・


『ちょい!ちょい!ちょ~い!!折角のあてくしの心遣いを無下にしないで下さいよぅ!』


(え?後半の部分はアンタの仕業?)


『ささやかなサーヴィス!のつもりだったんだけっどもねぃ☆』


(結構です!)


『マジっすかぁ?眷属ってアレよ?なんでもOKよ?

掃除洗濯家事エッチッチ、なぁんでもウェルカム状態よ?』


(・・・いやいやいや!いいから!)


『少し考えたねぇ・・・w良いねぇwそうじゃなくっちゃねぇw』


(だから!)


『ままま!わかったわかった!君がちゃんと力を使える事が分かったし

まっさか割り込み命令に抵抗まで出来るとは、ね』


(え・・・?)


『やっぱりオートクチュールで仕立てられたモノは

誂えた(あつらえた)者にしか着こなせないかぁ仕方ないねぇ・・・』


(なにを・・・)


『僕ねぇ君の新しい身体を構成してる素材の一部の持ち主な訳ね

だからさワンチャン身体を奪えるかと思ってチョッカイ掛けに来たけど駄目みたい☆』


(うわ・・・)


あっけらかんと告げられた後ろから刺す気でした宣言に

却って言葉に詰まってしまう


『まぁまぁ良いじゃない!能力の使い方も分かったッショ?

僕はアレよ説明書を読み飛ばして基礎を疎かにする現代人に警鐘を鳴らす

過激なチュートリアルマンって事で良しとしといてよ!』


(えぇ・・・)


『あーぁ!その身体も僕のモノにならないならもぅドーデモいっか!

じぁ!そういうことで!』


(え?居なくなってくれんの?

俺の頭に住み着き始めたヤバいやつかと思った)


『ふむ・・・きゃわゆいマスコット兼師匠ポジか、それ良いね!採よ』

(嘘、冗談、勘弁してください)


『チェッチェッチェー!!釣れないねぇ・・・』


・・・・


鬱陶しい連続舌打ちをしたが最後それきり脳内に静寂が戻る


(え?・・・もう居ない?)


あれだけ喧しかった謎の声もあっさりと聞こえなくなった


頭の中に暴風雨を突っ込まれたような一時(ひととき)だった・・・


(行った?行ったな?)


「ふぅ・・・」

疲れて眉間に皺を寄せていると後方がまた賑やかになってきた


「はぁぁぁッ!?おいッ!!何したんだッ!テメェッ!!」


蒲生がシャルに向かって何度も手を(かざ)すがもう何も起こらない


だが今ので掴めた、()()が異能か

やりたい事のイメージを強く持て・・・ね


「よし!」

手応えを得て強く拳を握ると吠え声が響く


「くっそぉぉッがぁぁッ!!」


諦めの悪い・・まだ何かするつもりか


両手をポケットに乱雑に突っ込むと青く輝く石を取り出した


(・・・げッ?あれは)


「この世界の課金石は粗方巻き上げたんでなぁ!在庫はたんまりあるぜッ!!

大盤振る舞いだッ!!」


放られた青い石が空中で輝くと四方に砕け散り眩い光と共に粒子となり辺りに満ちる


すると倒れたスヴァーヴァとグィネヴィアが幽鬼のように起き上がり

蒲生と俺との間へ遮るように立つ


「お前らもだッ!!」

叫ぶと蒲生の両隣に渦が現れ数人の女性が出現しガードするように周りを囲う


「へッ・・へへッ・・!!この陣形で一気にケリつけてやる!」


「ガチャ石でゾンビアタック(即時復帰)可能なアリーナってなんだよ・・・」


げんなりして蒲生一行に目を向ける


「るせぇっ!!勝つまでやんぞっ!!」


「理解出来ねぇ・・ガチャ以外にん~な景気よく石砕いちゃってまぁ・・・

俺ぁリトライだのスタミナにも割らん派なんでな」


「ハンッ!ケチくせぇ野郎だな使い時に使ってこそだろがよぉ!」


「お前の主張はどーでもいいよ、少なくとも

お前と価値観が違うってのは嬉しい事だね」


軽く屈伸をし臨戦態勢を取る


正直、ヤツの相手も飽きた


さっきの異能が発現した感覚

あの手応えが消えない内にもう一度使っていい加減決着をつけよう


頭の中でイメージを固める、あの密集を一気に蹴散らす

蹴散らした後は今度こそ奴にとどめを打つ・・・


小指から薬指中指と順に力を込め拳を握り込み

満身の力を右腕に乗せ


ごく自然に浮かび上がった言葉を舌に乗せ吐き出す


黄塵噴風(ハースト)!!』


右腕を集団に向けて薙ぐ動作をすると一瞬の間の後


ドッグォォォッッ!!


蒲生の周囲を固めていた人影が一斉に見えない()()に薙ぎ払われ

大将がガラ空きになる


「よぉ、石割りご苦労さん。また1人になっちまったな」


「ッ!クソッ!クソッ!舐めやがって!

なんなんだよ!そのチカラは!?チートかましやがって!」


「・・・・・オメーにそれ(チート)を指摘されるとはな」


「まぁだだ!!次こそッ!」


「はぁ・・まだ続けるんスか?」


「チッ、もう勝った気になってんのかよ!めでてぇ野郎だな

まだこっちには切り札があンだよ!」


言うなり蒲生が更に石を取り出し砕いた


だがこれはチャンスか

いちいちヤツのパーティが復活するのを待ってやる必要もない


右腕を振りかぶり蒲生へ振り抜くべく接敵する


「お、おおおおい!ま、待てって!汚ぇぞ!」


ゾンビアタック仕掛けてくるヤツが何を偉そうに・・・


「もらった!・・・・?」


再び王手をかけ蒲生の頭蓋へ迫った拳は

何かに阻まれた


(壁?・・・いや掴まれている!?)


気付けば目の前が暗い

大きな何者か影を落としているのだと気付くのに一瞬の間が必要だった


いつの間にか俺と蒲生の間には

身長2メートルはある偉丈夫が立ち塞がり

俺の拳を握り止めている


「へっ!へへっ!間に合ったな!」


「・・主公、私の相手はこの者ですかな?」


重みのある声が蒲生へと問いを投げる


「そうだ!その生意気な野郎を叩っ斬れ!」


「承知」

刹那、男の右腕が翻る


ギィィィッン!!


風切り音が耳に届くより先に男の右側から何かが閃く


「・・ッガァッ!?」


何かされたと気付いた時には4,5メートル吹き飛ばされた後だった

首筋がジクジクと熱く痛む


男は訝しむ視線を俺に向け

「貴公、人ではないのか?

斬りつけた感触が皮膚のソレではない

何と例えたものか。巨大な蛇や蜥蜴の鱗に近い

その(めん)も砕けぬとは・・・ふぅむ」


顎から伸びた立派な髭を撫でながら分析している


痛む首を押さえ傷を探るが大事ないようだ

手の平を確認しても血は付いていない


フッと一息つき視線を上げ新たな闖入者を確認すると


右腕に巨大な、アレは・・槍?薙刀?


違う、ゲームで見た事がある


反った巨大な刃に舞う黄金の龍の意匠


()()


「青龍偃月刀・・・」


加えてあの立派な長い髭、なんだか着ている服も緑っぽいし


あの人は、まさか・・・


「関羽!手ぇ抜くな!ソイツはムカつくが厄介だ!」


「ゲェ・・・」


ネームバリューバリバリの英傑の名を聞き

畏怖から変な声が出てしまった


「そのようですな、しからば!」


蒲生の警告を聞くが早いか関羽は刺突の連撃を放ってくる

一突き(ひとつき)が目視出来ない程に速く一撃が重い


「ちょッ!?くッ!!」


咄嗟に両腕を顔の前に上げガードを固め凌ぐが

長物(ながもの)とのリーチ差で近づく事がままならない


(どうするか、幸い痛みは()()()()でも無い

決定打を貰わなければ充分に凌ぎ切れる

このままガードを固めて最接近戦に持ち込む、前進に合わせて相手が退くのなら

いっそ脇をすり抜け蒲生に突っ込む。これでいくしかないか?)


戦術も戦略もない腐れ脳筋の策を練っていると

先に相手が焦れたらしい


「ぜんぜん埒があかねぇじゃねぇか!

せっかくメインアタッカー呼んだってのによぉ!!」


「ふむ、面目ありませんな主公、偃月の通りが悪いようです」


余裕の無い蒲生と対照的に関羽はひどく落ち着いている

既に何百何千と連撃を放っているのに汗一つ掻かず涼しい顔だ


「落ち着き払ってんじゃねぇ!こっちは雑魚狩りしたくねぇって言う

テメェの我儘聞いて拠点の留守番任せてやってたんだぞ!

そんでいざ呼んだら勝てませんて、通るかそんな理屈!!」


「いやまったく!立つ瀬が在りませぬなぁ!」


蒲生の癇癪もどこ吹く風と言わんばかり

ハッハと朗らかに笑い流しながら悠然と髭を撫でている


底の見えない余裕の態度に腹から恐怖が湧いてくる

これなら小動物のように叫びたてる蒲生の方がまだマシだ


ゲームの住人とはいえその名に違わぬ貫禄を感じた


「チッ!こうなりゃ・・・」


視界の端で再び蒲生が動く


「なんだよ、また懐まさぐって石に頼るんかよ」


煽る口調で牽制したが俺は内心焦っていた

(この調子であの2人、桃園の誓いの3人を揃えるんじゃねぇだろうな?)


1人でも相手取るには手に余る大英雄

増援など堪ったものではない・・・だが


「やかましい!この石でっ!」


両手に抱えたありったけの石を割って


蒲生が叫ぶ


「上限解放!限界突破!最大覚醒!!そんで強化(バフ)フルオーバーだ!!」


強化(バフ)!?)


石割りでの無法に翻弄され失念していた蒲生の本来の異能


予想と反していたがこれも最悪の展開だった


「む?主公!それはッ!」


だが予想外だったのは関羽もだったようで初めて声に戸惑いが混じる


「言い訳は聞かねぇぞ!最大限の火力で消し炭にしろ!」


限度超越(オーバーチューニング)!!始原強化(バッファロー)!!!!』


「ぬうぅぅぅッ!!!!」

関羽が眩い光に包まれる


同時に突風が巻き起こり思わず目を瞑る

光が収まるとそこに居る関羽の姿が変容している


「・・・え?」


身の丈は更に強大になり身体には揺らめく炎を纏い

悠然とした表情は険しく憤怒の形相へと変わり果てている


「オ”ォ”ッッ!!!」


「うぉっ!?・・・ぁっつぅッ!!」


関羽の変容に呆気に取られた瞬間、迫り来る金色(こんじき)の龍

反応が遅れ斬撃を脇腹にモロに受ける


「ギャハハ!!必死でやんのwノリにノッてた調子はどこ行ったんだか!」


「バッファローみたいに強くか?」


「はっ!これだから無学な馬鹿はよぉッ!!」


鼻で笑うと


強化効果(バフ)水牛(バッファロー)の皮を(なめ)す事を語源にしてんだ!物知らずがッ!」


「いや知らんし、そんなの・・ッと!!」


鼻高々にトリビアを披露する蒲生に呆れつつも

お構いなしに突っ込んでくる関羽の猛撃を躱す


一方、蒲生の様子が輪を掛けておかしい


「強化・・・強化ッ!!」


手刀の形にした手で土台を模したもう片方の手を撫でている


悦に入った蒲生の言葉に反応し

リング上部に設置されたモニターに文字が表記される


「鞣して・・・」


【最大体力増加3000%、体力持続回復効果付与】


「研いで・・・」


【攻撃力増加2500%、防御効果及び無敵効果の貫通付与】


「研磨ッ!!」


【防御増加2500%、バリア効果付与】


「精錬ッ!!!」


【速度増加3000%、絶対先制効果及び幻影効果付与】



「おいおいおい・・アホかっ!強化の桁がおかしいだろが!!」


目を疑う数字に肝を抜かし異議を唱えるが


「ところがアリ!大アリ!これが異能の特殊能力よぉッ!!」


得意満面、嘲笑う蒲生は既に平静を取り戻したようだ


「こんなインチキ能力そりゃあ闘技場のトップにもなれるわな・・

まったく冗談じゃないぞ!!」


毒づきながらも勝機を掴むべく観察を続ける


身体と同じく変質し炎上する武器青龍偃月刀の一撃は先程までの比ではない


(動作に前兆が無い、もうまともに反応するのは難しいか、でも!)


確かに打撃力は上がったが、まだ命に届く程じゃない


問題は依然として距離を詰める事が出来ない事


厄介さが先刻とは段違いだ

精密な()の攻撃だったものが暴風が如く()で攻めてくる


理性を奪われた咆哮を上げながらも一定の距離を保ち

接敵させない立ち回りをしている


(少し退いて仕切りなおすか?・・・いや)

後ろに目線をやるとまだ気を失っているシャルが見えた


駄目だ、少しでも退けばシャルを巻き込んでしまう


足を止め再び亀のように防御を固める

猛攻を防ぎながら蒲生への一点突破を模索するべく探ると

目が合った蒲生に焦りは無く嫌味な笑いで口を裂いている


「どしたどしたぁ!?俺を気にしてる余裕あんのかよ?」


・・?蒲生のあの余裕はなんだ?

関羽を強化してもまだ俺に決定打を与える事は出来ていないというのに


「お前、さっき、観客席を見てたよな?」


(!?)

瞬間、全身が総毛立った


(見られていた?)


注意散漫な馬鹿だと思っていたのに

イアを止めたやり取りを目敏く(めざとく)察知されていたのか


「なぁにが居るんだろうなぁ?」


観客席、イアの居た辺りを指差し

片手には一欠片の石、どうやら最後の課金石らしい


「グィネヴィア!スヴァーヴァ!!」


再び再生された2人が指差された方向へ駆けていくのが

視界の隅に見えた

2階に吹き飛ばしたグィネヴィアの方がイアに近い


(まずい!マズい!不味い!!)


関羽を振り払ってイアの元へ向かえばシャルが


しかし、このままではイアが・・!


(・・・今の俺には力があるんだろ?

()()を支払った分コイツ等とは比べ物にならないチカラが!)


(いつまで冷静ぶって状況見てるつもりだ!?

何の為に戻って来たんだ!?気張るなら今だろうがッ!!!)


全身に満身の力を込める身体に血が巡るのを筋肉が膨張するのを感じる


「──ッ!!」


横薙ぎされた偃月刀を引っ掴む


熱い(あっっつい)!?・・えぇいッ!!我慢!根性!!これぐらい耐えてみろ!)


がっしりと握り込みシャルが居る方向とは逆の壁に渾身で投げ叩きつける


急ぎイアへと向かうグィネヴィアへと駆けようとすると


『── ドッグァァァァァァ・・・ッッン』


グィネヴィアが爆発した


「え?」

「は?」


奇しくも俺と蒲生に去来した感情は一致していた


疑問と困惑


すると観客席から顔を出したのは


「おやまぁ、ここ(ミドルクラス)で爆ぜさせる玉薬も

趣が変わって大変宜しい」


楚々とした佇まいから予想もつかない物騒な物言いと行動のあの人だ


「なんでミドルクラスに・・?」


驚きから掠れた声での問いにあっさりと


「ほほ、その(やう)な些末な事、どうでも宜しいではありませんか

大事は娘子(むすめご)さんが無事という一事(いちじ)、違いますか?」


「あッなッ!なんだッ!?ありゃあ!おい!おい!グィネヴィアァァ!」


予期せぬ乱入者にテンパる蒲生に


「相も変わらず腐れ喧しい餓鬼だこと

さっさと餓鬼道(がきどう)に戻り石でも積んでいなさいな」


ギャンギャンやり始める蒲生と着物の人を尻目に

無事であろうイアにホッと・・している場合では無かった


ガラガラと瓦礫を蹴上げ関羽が立ち上がる

もう体勢が整ったらしい


それにスヴァーヴァもまだ健在だ

イアまで距離がある所に居るが


「オォォォォッッ!!」


武器を構える関羽

俺を侮れない危険な者と認識したのだろう

全身に殺気を漲らせている


(くっそ!どうする!?このままでは堂々巡りだ

また投げて体制を崩し追い討つか?

あの鎧もほっとけねぇし・・・)


「ダイスケ!」


不意に後ろから聴こえた声それは


「シャル!?大丈夫か!?」


「な、んとかっ・・ね!!」


スタッと立ち上がり力こぶポーズで健在アピールしている


「起きたばかりで悪いが鎧女がイアを狙ってる!

俺はあの関羽を抑えるので一杯一杯だ!頼む!少し時間を稼いでくれ!」


「え?え?え?」


意識が覚醒して何が何やらなのだろう

キョロキョロと辺りを見回していたが

俺と目が合うと


「わかった!!」


大きく承諾してくれ駆け出したシャルだが


「っとと!あ~武器置いてきちゃったんだっけ

んま時間稼ぎならイケるっしょ!」


流石のシャルもあの鎧相手に空手は分が悪いか

武器…武器か


『なんでも出来るよ~w』


脳裏に蘇るスマイリーと名乗る存在の声


(なんでもってんなら武器を作るなり出すなり出来んだろ!

シャルが使っていた武器は棍、木の棒?え?それはちょっと脆いか?)


イメージしやすい物は・・・


ふと眼前で油断なく構えている関羽の青龍偃月刀が目に入る


(アレをイメージの基盤にして

武器・・・長いヤツ!槍!!)


眉間に力を込め集中し武器を強く願う

次の瞬間、手には禍々しい槍・・・のような物が握られていた


「おぉ!で、できた!やってみるもんだ・・・

シャル!これ!使ってたもんと違うけどッ!」


シャルへ槍を放る


「おーっと!さんきゅ・・・へ?」

難なく受け取ったように見えたシャルだが動きが停まった



─────


(何これ何これナニこれ・・・)


ダイスケから渡された何かに触れた瞬間

全身に鳥肌が立った眩暈がする頭が真っ白、に・・・



『一目視た瞬間、独特の雰囲気で解ったアレ(蒲生)と似た存在だって』

(・・・。)


『連れている娘は笑顔だったけど騙しているんだと思った』

(違うよ・・・)


『弱いのに一緒にエントリーしてきて盾にぐらいなれるって、いや邪魔だっての』

(違うって!)


『渡されたコレも何?触っただけで吐き気するしやっぱり信用なんか』

(アタシと同じ声で好き勝手言ってんじゃねぇッ!!)


『・・・・』

(思った、思って()!確かに!最初は蒲生と似た感じがした!

警戒したけどイアちゃんの笑顔に嘘はなかった!

利用されても都合よく使われてる訳でも無かった!)


『・・・・』

(盾には・・確かに意味ないと思ってた、動きは遅いし戦力のアテにはしてなかった)


『・・・・』

(でもさっきメッチャ守られたじゃんか・・・殴ったアタシを責めないし

蒲生のあの変なコトからも解放してくれた!)


『急に姿が変わったのは?怪しいよ・・・やっぱり信』

(じる!)


『・・・・』

(信じる、これで信じなかったらじゃあ誰が信用できんの?)


『多少身体を投げ打たれただけで盲信か?』

(はん!ナニその声!やっぱアタシじゃなかった!そんな難しいこと知らんし!)


『間に合わなかった・・・繋がってしまった・・・

猜疑を煽り千切(ちぎ)る手筈が(ちぎ)ってしまった

奪えない支配出来ない。こんな間抜けに使われてしまうのか・・・』

(あ!オマエ!このなんか変な槍だな!?生意気だぞ!

よくわかんないけどダイスケとイアちゃん助けんだから邪魔すんなし!)


『・・・・・・。』


─────



「あ?」


数瞬動きが停まっていたシャルの瞳に色が戻る


「だ、大丈夫か?」


「え?あー・・・」


手をにぎにぎしてもう片方の手に握られている槍に目を移し

ゆっくりとこちらに顔を向け、目がカチ合い・・・


ニッと笑い


「だいじょぶ!あっちは任せて!」

ぶいサインを決め

「おっしゃゃああああぁぁッ!!」

イアへと迫る影へすっ飛んでいった



入れ替わるようにこちらへ突進してくる関羽

偃月刀が炎の軌跡を残しながら迫る


「ぬんッ!!」


全身全霊の刺突が鳩尾に刺さる

貫通はしないが流石に勢いがありすぎる

踏ん張り受け止める足元の石の床板が砕け剥がれる


「ググゥゥゥゥゥッ!!」


なんとか止め両腕で再び偃月刀を握ろうと、する前に

関羽が手首を捻り切っ先が回転し刃が上向きに

そのまま喉を、顎を切り上げられる


「がフッ!」


じゅるりと喉辺りから何かが流れる感触がしたが意識を必死に逸らす


「ひっ!へへ!!へへへ!やったぞ!くたばったか!」


喜色ばむ蒲生の不快な声に構っている暇はない

顎を引き振り抜かせず刃を止める


「捕まえ・・ったぁ!!」


今度こそ両手で偃月刀を掴み取り


力を込める。が、思うようにいかない今のでダメージがあったらしい

関羽も警戒してるのか体重をかけている


(びくともしねぇ・・・)


これ以上時間はかけられない

顎をかち上げられ脳が揺れたのか眩暈がする


(どうする、どうする!!)


力が入らないのなら能力で何か・・・


炎でじりじり焼かれ続ける掌に意識を向け


(水・・じゃ足りない、氷・・・一瞬で全部凍らせるだけの冷凍力

火だろうが何だろうが一気に!)


『凍れぇぇぇぇっ!!!』


瞬間、掌から伝播するように霜が偃月刀に

止まらず霜は武器から更に伝わり関羽へ・・・


「オァッッ!!」


危機を獣的な本能で察したか

指先が凍気に完全に呑まれる前に

偃月刀から完全に手を離されてしまった


「チィッ!だが!」


()()()()()()のは左手の人差し指と中指のほんの先


それと


「武器壊した(もらったぁぁ)!!」


これでリーチの差は無い


「ッしゃあぁぁぁッ!!」

「ムオォォォォァアアアッ!!」


関羽へ飛び掛かるように突っ込むと相手も待ってたとばかりに応じてくる


頭を目掛け飛んでくる巨大岩石のような拳にこちらも拳で迎撃する

互いに応酬が苛烈し乱打戦に突入する


「フっグゥゥ・・・ッ!!」

「ッしゃぁぁああぁッ!!」


関羽が息切れし始めた理性を飛ばされペース配分できず

限界以上の強化(バフ)を掛けられ過負荷(ガタ)が来始めたのだろう


押し切れる!!


「へあ?ちょ、おいおいおいおい!!」


遠目からも形勢が不利に傾いたと察した蒲生が

慌てて天窮石を掲げ関羽に向ける


「グァォォォオオァァアアッ!!!」


関羽の割れた拳が再生していく

課金石による完全再生(フルヒール)持続再生強化(リジェネⅡ)加えて即時蘇生(レイズ)


「ホンット鬱陶しいやっちゃのぉぉッ!テメェはぁぁッ!!」


乱打戦を続けながら蒲生へと鳴り(がなり)立てる


「うるっせ!るっせ!そりゃこっちのセリフだろっが!

なんなんだよオマエはぁぁッ!?」


砕ける矢先から鞄やポケットからありったけの石を引っ張り出し

放り投げながら口答えを辞めない蒲生


だがそれも束の間

不快な悪態は焦りと落胆の絶叫に変わる


「あ!あぁ!?ああぁぁぁッ!?」


見ずとも分かる魔法(課金)のタネが尽きたのだと


「これでッ!俺のッ!!」

「グ!オ!ガハッ!!」


治癒が途絶えジリ貧となった関羽を遂に追い詰める


「勝ぁぁッ!!ちぃぃぃッッ!!!」


疲弊とダメージで力を失った関羽の両腕を弾きガードを開け

鳩尾に渾身の一撃を見舞う


地面へと膝を突いた関羽から

精神を支配していた猛烈な怒気が抜け瞳に理知が戻る


「おぉ・・・なんとこれは、武人として敗北は口惜しいが

忘我のまま民草に害を為す前に止めてくれた事、感謝を」


視線だけで礼をし


「主公への諌言、最後まで届かなんだか・・・

さりとて二度と忠を違えることはせぬ

儘ならぬ・・・もの、だな」


「ったく俺の再起1戦目の相手なのに強すぎなんだよアンタ、敵将討ち取ったり・・・だ」


「将、儂がまだ将か・・・そう言ってくれるか

ふふ、ふぁっはっはっは!!」


蒲生の行動に思うところあったのだろう

それでも離反しなかったのはシステムの強制(ゲームルール)か武将としての矜持か


サラリと光の粒へと変状し

三国の武人は空へ消えていった


多少の無念と安堵が入り混じったなんとも言えない表情で

それでも豪快に笑いながら



「うそだろ?ありえねぇ・・・・」


自失した蒲生に向き直り

脱力しかける四肢に気合を入れる


「今度こそ、ってやつだ次は仕留める」


足に力を込め地面を蹴り、駆ける

すると足下から風が巻き起こり加速を手伝う


「っひぃ!な、なにマジになってんだよ・・遊びだろこんなん・・」


蒲生の顔が眼前に迫る、もう加減はしない!人間(プレイヤー)だろうと許しては置けない

理性のタガを緩め右腕を思いっきり引き─


「悪いな!俺の場合、もう遊びじゃなくなっちまった!!」


──全力で突き出した


果たして蒲生のアバター体の胸を拳が貫いた


「さっきの話の続きだがな

一度でいいから指揮官系主人公をぶっ飛ばしてみたかったんだ

無能の癖に優しいだとかンな理由だけで主人公やってるのがドーモ気に食わなくてな

ま、お前にはその最低限の優しさ(取柄)すら無いわけだが」


ニタァ・・と自分でも底意地の悪いと思う笑みを浮かべ


「あんがとよ、夢が叶った」


「それは致し方無い事でございましょう」


「ん?」

頭上から降りかかる声の主は()()着物の貴人だった


「何も取柄が無き者を多数の英傑の主に無理やり据える為には

人畜無害で優しい、()()しか適当な理由は無いでしょう」


「まぁ?そこな餓鬼はその最低限の資格すら持ち得なかったようで?

っくく!腹に穴が空きまるで一文銭のやう」

上弦の月のように目を逸らせクスクスと鈴を転がるような声で邪悪に嗤う


『ボンッ!!』


「がッ!?」

「うぉ!!」


突如、蒲生の頭が炸裂する


(わたくし)()()のせいで暫し不自由を強いられましたので

少々はしたのぅございますが最後の最後の()()は戴きましたよ」


「火薬くさ・・・」


「ち・・ょっとぉ!アンタ今のボンてやつダイスケ巻き込むつもりじゃなかったでしょーね!?」

間近で匂う火薬臭に眉をしかめていた矢先


「シャル!無事だったか!」


杖代わりにした槍に寄り掛かったシャルが

「にっへっへ・・ィーッス!ちゃんと勝ったよ」

二ッと笑い手を振って返事を返してくれる


「あら嫌だ、私が(いろどり)の範囲を誤る訳がないでしょう?」


フン!とシャルからそっぽを向きつつこちらに向き返り優美に膝折礼をし

貴人はツイッと去ってしまった


一方俺の腕に未だ()かれもはや抵抗すら出来なくなった蒲生が爛れた喉を震わし


「ちくしぉ・・ぢぐじょぉぉッ・・・!」


焼け焦げながら慟哭を上げ蒲生のアバター体が消えていく


(あの人、意識が飛ばない程度にわざと生焼けにしたな・・・だが)


今度こそ・・・やっと


「勝ったぞ・・・」


ガクッと疲労感から片膝をついてしまうが

何者かに支えられた

ふと右腕に触れる感触に振り向くと


「大輔さん・・いえ、ダイスさん」

涙に頬を濡らしたイアが抱き付いていた


「え?その名前は・・・」

「今、聞いてきました。あの人から・・

あなたに帰る場所を捨てさせるつもりなんてなかったのに・・ごめッ」


謝罪の言葉を紡ごうとするイアを(とど)める


「約束、しただろ?」


「でもッ・・・・・・はい」


あの状況とはいえ我ながら無茶な決断をしたもんだ

イアもなんとか納得してくれた様子だが神妙な表情が崩れない


胸に顔を(うず)め何事か呟いたが聴き取れなかった




           ─────────────


久し振りに呼ばれたあの空間で、あの人に聞かされた事実に未だ身が(すく)

私が巻き込んでしまった、私が捨てさせてしまった


あの人は言った、大輔さんが力を持って変わってしまったらどうするか


決まっている。私はこれ以上、大輔さんがどんな選択をしても共にあると誓ってきた


抱き付く手に力を込める、どんな存在になったとしても温かい・・

この人をなにがあっても一人にしない・・

「ずっと、ずっと。一緒です」

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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