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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第一章 MMORPG ロストフロンティア・ヴァンガード
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異界の洗礼

全く見覚えの無い町で目覚め

何が起こったか考えが纏まらずフラフラと見知らぬ町を歩く


歩道にしてはやけに幅が広い赤煉瓦で舗装された大通りに呆気にとられる

何人か通行人が行き交っているが自動車、自転車とすらすれ違わない、

だがその代わりに・・・


(うーわー・・・初めて生で見た)


馬が荷車をゴトゴトと引いている

地元で滅多にない光景に困惑しきり


(うーん・・どうしたもんか・・・)


通行人や店先にて商品の陳列をしている店員と思しき人は居る

だが・・・


(声、掛けずれぇ・・・)


それもその筈。皆、髪が金色や明るい茶色

チラリと見た瞳は青や緑、黄色い人も居るのだ


(ハードルたけぇ・・・)


気軽に「どーも初めまして!少しお尋ねしたいのですがここはどこなのでしょうか?

いやーハッハ!なにぶん落ちてここまで来ちゃったもんでw」

などと会話出来る程、俺の根は明るくない


ここはひとまず足で情報を集めて行き詰ったら

コミュニケーションを図る事を検討するとしよう・・・


見知らぬ町並みの光景に縄張りから放り出されたハムスターの如く

首と目をせわしなく動かし何かの手がかりを得ようと歩みを進める


辿り着いたのは人の通りが無くなった一画、郊外まで歩いて来てしまったらしい


「参った・・こりゃ我儘言わず誰かに聞くし、か・・・」


来た道を振り返ろうと首を回した際

不意に目に入ったものがあった


隣に建っているのは

既に経営を終え撤退したであろう人気のない店舗


恐らく服などを陳列していたであろうガラスのショーウィンドウ


そこに映っている人物の姿


のっぺりとした楕円形の白い何かを頭部にスッポリ被ったような奇人の姿が


奇人は動かない、こちらがそろりと一歩下がるとあちらもおずおずと・・


「って、これ・・・」


「俺かッ!?!?」


慌てて顔に手を当て確認すると

指先に触れるのは油分の多い馴染みのある皮膚の弾力ではなく

滑らかで硬い質感・・・


「ど!え!?は?な!ちょッ!おぃ~・・・」


受け止めきれない現実にパニックを起こす思考を

あたふたと身振り手振り溜め息で落ち着かせ


「何だよコレはぁ・・・」


何とか脱げないかと格闘すること数分

端に指をかけて力を込めてもビッタリとくっついているし

ベタベタと触ってスイッチ的なものを探っても何も無し


一応視界や聴覚嗅覚に異常はない

下手をすればちょっと調子が良いくらいまであるのが癪だ


他に気付いた事といえば横隔膜の辺りをピクピクさせると

口元部分だけが開閉して見慣れた口が、

確認すると幼少時に詰めた銀歯も見える


飲食時はこうしろって事なんだろうが・・・

謎の気遣い?が腹立たしい


見えなくなって惜しむような美貌ではないが

それはそれ、だ


しかし改めて見ると不気味だ

見た目もさることながら問題がもう一つ


「これじゃ聞き込みなんて出来る訳ないじゃんか・・・」


およそ日常からかけ離れた奇異な姿で

質問もなにもあったもんじゃない


「ここは何処ですか?って聞く()()がなんなんだっつー話になるわな・・・」


根暗特有の取り敢えず繁華街から距離を置こう思考が功を奏したかもしれない

あのままでは通報、拘置、お裁きのバッドルート確定だった


「ふぅ・・・」

さてと大きく息を吐きどうするかと考え始めた時


「ぁ・・の・・・」


(!?)

ギクリと心臓が跳ねた

確かに声が聴こえた、やや小さいが怯えたような戸惑ったような声音


(マズい・・・これはマジで)


いかに人の気配が感じられない郊外とはいえ

人が居ない訳では無い、数少ない住人かもしれないし

この一画の管理を任された人かもしれない


後者だったとしたら完全にアウトだ

見慣れぬ輩が奇天烈な恰好をして人目を忍んでいるのだ

通報しない方がおかしいぐらいだ


(こういう時は・・・)


聴こえなかったフリをしポリポリと後ろ頭を掻き

声の聴こえた方とは反対へ早歩きでつかつかと急ぐ


「ぇ・・あっ!」


逃亡を図った事を察知したのか後方の人物も付いてくる


(おいおいおい!何も取ってないし壊してないから見逃してくれよ

立ち入り禁止ってわけでも無い・・・はずだけどなぁ~)


ここに来る道すがら(バッテン)マークの看板などは見かけなかったと記憶している


尚もちょこちょこ付いてくる人物を引き離す為

早足から競歩レベルにまでスピード上げると


地面を舗装する煉瓦が途切れ

土と草が茂る地面へと変わる境界へと辿り着く


(ここからは町の外か、流石に外まで追っては・・・来ないよな?それに)


町の外には何か無いのだろうか、聞き込みが難しい以上

情報を得るためにもう少し歩いてみても良いかもしれない

町の敷地から足を踏み出した時


「ん?」


違和感を感じた痛みではないが

顔に蜘蛛の巣がふんわりと掛かった様な些細な違和感に顔を拭った


「ぁ・・・ぎゅう!」


「え?」


後方で上がった明らかに転びましたという声に

思わず振り返ってしまったが誰の姿も無い


視線だけを動かし注意深く辺りを探っても呻く人の影も形もなかった


首を傾げつつも気を取り直して進んでみる

街道もなく獣道もない美しい野原に気分よく歩みを進めると

景色に段々と木々が増え昼だというのに薄暗くなってきた

どうやら草原と森の境目に差し掛かったようだ


(このまま当てもなく進んでも方向を見失って戻れなくなるな・・)

めぼしいものは見つからない

「どーしよ、やっぱり町に戻って尋ねるか?でもなぁ・・・」


肩を落とし踵を返そうとした時


「カァァァァァァ・・・」


左前方の木陰から人影がのそりと・・否、シルエットは人間だが頭が

「犬?・・・いや、鼠?・・・え?」


毛深い体毛に覆われ革のような材質の服に身を包み手には棍棒を握っている


「キャックアッ!」


何か言っているのだろうかと眉根を寄せ身構えていると

鼠人間の後ろから新たに2体の鼠人間が現れた


「おいおい・・・」

1体でも恐ろしく感じた謎の生物がいきなり3体、

対話は出来そうにない、逃げるべきだろうかと周囲に目を配ると


「キッキキ・・・」


棍棒を構えた1体が目尻と口角を上げて声を上げている

人間とかけ離れている貌だが判る、あれは()()()()()のだ

釣られ後方に控えている2体も同じように嗤った


アレは獲物を前にした捕食者の笑みだ

町の外に(はぐ)れ出た間抜けを殺すつもりだと感じた


逃げられないと直感した、背中を見せれば当然、

正面を見据えながら静かに下がっても飛び掛かってくるだろう、獰猛だが知性がある

血の気が引いていきそうになる指先に必死に力を込め考える

どうすれば・・・逃げることは出来ない、なら


「クァアアッ!」


先頭の1体が棍棒を振り上げこちらへ駆け出してきた

振りかぶる高さから頭を狙っている事は明白だった

やるしかない・・・体格ではこちらが(まさ)っている


内側から裂けてしまう程、激しく脈打つ心臓

震え怯える四肢に生存本能で発破をかけるが


一歩遅かったようだ

「ギァアアアオオァッ!!」

獣の咆哮と共に振り下ろされた棍棒が

頭蓋の頂点へ落ち、あえなく俺の頭は粉砕・・・


(・・・?)

されていない。


「そういや()()()があるんだったな」


今、俺は頭を覆う仮面を被っているんだった

忌々しく思っていた仮面に心中で掌を返し礼を言い


破裂させる筈の獲物の頭に逆に手を痺れさせたワーラットが

虚を突かれたようにたじろいでいる、これは好機だ!


足を止めず突っ込んでいき身体全体でぶち当たり

上になり倒れ込む、逃げると踏んでいたのだろう相手は混乱している

だがそれはこちらも同じ、半狂乱になりながら頭を殴りつける

鼻と目を雑に狙い殴打し体制を整える隙を与えない、


獲物の思わぬ反撃に呆気に取られていた後方の2匹が我に返りこちらを見た


「うおおおあああああああっ!!!!」

顔を上げ2体を睨み、吠えた。

こっちへ来るなと怒気と懇願を込めた必死で無様な威嚇だった


だが意味はあったらしい2体が()()()を踏み躊躇した

吠えながらも両腕は組み敷いた鼠の頭に振り下ろし続けていた

気付けば鼠は動かなくなっていた


荒く息を吐きながら、沈黙しだらりと投げ出された鼠の腕から棍棒を引っ掴み

振り回しながら再度、残りの2匹に向かって突っ込んだ足がもつれ倒れ込みそうになりながら突進し棍棒を鼠に振り下ろす、上手く肩に当たった


「ギアゥア!」


鼠が怯んだ隙に振りかぶり頭に打撃を叩き込んだ

「はぁ・・・はっ・・はっ・・・」

肩で息をし残った1体を見ると



「グゥオアアッ」

こちらを睨み逃げ去って行った、



姿が見えなくなった事を確認しその場にへたり込む

「なんなんだよこれはぁ・・・」

我ながら聞いた事もない情けない声が出た




呼吸が落ち着き周囲を見回すと先程そばに転がっていた鼠が薄く明滅し

ボロい布とコインがその場に現れた

握りしめた棍棒は消えずにそのまま手の中にある、


疲労と恐怖で震える手を伸ばし現れた布切れとコインを手に取る

布は見た目は薄汚れているがそれなりに厚くしっかりとした手触りを手に伝えてきた


コインは500円玉より一回り程大きいだろうか

鈍色で光沢が褪せているがずしりとした存在感がある


本来なら触れないような物だが

見慣れぬ場所、突飛な出来事によるアドレナリンと

下校時に道端に落ちていた握りが()()()()くる棒切れを

何故か拾ってしまう()()懐かしい衝動に逆らえず拾ってしまった


落ちていたコイン計12枚を拾い集め

身体を引き摺りながら元来た道を戻る


先程コインを拾おうと手を伸ばした時に気が付いたが

腕に傷が付いていた、殴りつけていた時相手も抵抗していたのだろう

不思議とあまり痛みは感じなかった。


やっとの事で町外れまで戻ってきた

町の境界に踏み込んだ時また一瞬身体が不思議な感覚に包まれた


だが疲れに疲れた自分にとっては最早どうでもいいことだった


町に着き中心街に辿り着くころには夜の帳が落ちていた

路上にはガス灯だろうか、ちらちらと趣深いが明かりとしては少々頼りない


今日初めて訪れた町でこの暗い中疲弊した状態で

()るかも分からない宿を探して歩き回る気力は無かった


周囲を確認すると大きな橋があった

そして下に続く階段も


背に腹は代えられない、足はすぐに階段へと向かっていた


橋の下には川が流れており川を挟む様に煉瓦で通路が敷かれている

橋の真下はトンネル状になっており風雨を凌ぐのに適していた、


壁に背中を預け倒れ込む様に腰を下ろす

「はあぁぁ・・・」

どっと疲れと共に溜息が出る、


一体何なんだこの状況は見も知らぬ場所で鼠と格闘して

今は鼠の様に橋の下で身を投げ出している


夢にしては意識がはっきりしているこれが明晰夢と言うヤツだろうか


不意に


何か音がした気がしてふと降りてきた階段の方に目をやると

いつの間にか少女が立っていた


まずい、入ってきてはいけない場所だったか

だが、立ち退けと言われてももう立ち上がる気力はナイ


取り合えず謝ろうかと考えていた時


「や、やっと気付いてもらえましたぁぁ・・・・」


整った顔をくしゅくしゅにしてこちらに駆けてくる


これが、少女との出会いだった。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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