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サ終世界の歩き方  作者: 39カラットルビー
第二章 PVP特化型カードバトルゲーム 九天の覇者
16/44

ランクマッチ

「う~~~ん,くぁ・・・」


翌朝、目覚めて伸びをする屋内とはいえ硬い床で寝た為か

身体中がぎしぎしする


「ちょっとごめんなさいよ・・と」

「にゅい・・・」

いつの間にか俺の太ももを枕に寝ているイアの頭をそっと持ち上げ

傍に折り畳んである上着の上に寝かしつける


「おはよ~」

「おはようございます」


先に起きていたシャルと挨拶を交わす


前の世界から持ち込んでいた干し肉を取り出し朝食の用意をしていると

イアももそもそと起きてきた


「おあよぅござまいしゅ」

「はよ~」

「おはよう」


前の世界で調達したパンと干し肉で軽く朝食を摂りながら今後の予定を立てる


「やっぱり闘技場に参戦ですよね?

上層に行く為にはどれくらい順位を上げればいいんでしょう?」


イアの疑問はもっともだ


「んっとね、アタシらは昨日登録した最底辺だから今は60万位ってとこかな」


「ろっ!!?」

「くっ!!?」

イアと並んで叫んでしまう


「あっはははは!!2人共息ピッタリじゃん!

でもでも、そんなに悲観的にならなくてもいーと思うよ」


シャルは少し神妙な面持ちになり

「・・・だいぶ前からねランクの変動は殆ど無いんだ

多分キミ達の言うサービス終了ってヤツの影響だと思う」


(そうか、サ終したからユーザーが消えたんだ

闘技場へ挑む者なんか居る訳ないか)


なら追い抜き追い抜かれのバチバチに競り合う事はないのか・・・


干し肉を口に放り込みパッパと手を払い立ち上がる


「よし!じゃあ行ってみましょうか!」


頼りない電灯が薄く照らす通路を抜け闘技エリアへ向かう


辿り着いたのは錆の浮いた鉄板造りの闘技場受付ロビー


「おう!(アン)ちゃん!エントリーすのるかい!?

ヨッシャ!最近は上を目指そうって奴がとんと現れねぇ、歓迎するぜ!」


がっはっは!と厳ついオジサンが豪快に案内してくれる


「はい、お願いします」


うーん、ゲーム世界はオジサンもキャラが立ってるな同じオッサンとして見習いたい


登録用紙に自分とシャルの名を書き込み提出すると、確認したオジサンが


「おい、出場するのは2人かい?」


「え?そうですけど・・・」


「そうか、まぁ、いいんだけどよ」


万年筆の頭でこめかみをカリカリと掻きながら眉をひそめるオジサン


何だろうその反応は・・気になる


「あの2人だと何かマズい・・ですか?」


「ん?、いや!全然悪いってこたぁねんだけどな?

闘技場は5人まで登録出来っからよ」


「えぇ!?・・・ちょ、ちょっと待っててください!」


初耳の情報に急ぎ後ろで待っているシャルに確かめる


「あ、あの!」

「うん、5人まで」

食い気味に答えられる


「あ、あとSランク以上は最大8人で戦うルールになるぜ!」

カウンターからオジサンの補足が飛んでくる


(うおおぉぉぉっ!!!)

とんでもない新情報に天を仰ぎ心の中で慟哭する


どう考えても数的に不利すぎる!!


「あ、あの!私も参加・・」

「それはダメ!」

イアが挙手して立候補するが即却下する


「ん~~」

ぷっ!と頬を膨らませ抗議するイアに取り合わずシャルに話を振る


「あの、人数で不利ってのはマズいんじゃ」


「だいじょぶだいじょぶ!下位のリーグは

フルメンバーでの出場チームあんま居ないしアタシ結構強いし」


知ってるっしょ?とウインクされる


「でもま、どうしてもってんなら募集しても良いんだけどぉ」


「出来るんですか!?どうやって!?」


藁をも掴む勢いで聞くと


「あんねぇ酒場で青い石をばら撒くと人が見に来てその人達をスカウトすんの」


青い石・・・スカウト・・・


あれ?もしかしてそれって・・・

ソシャゲの一番の楽しみでもあり苦しみでもある所謂(いわゆる)


ーーガチャ?


「その青い石って、いうのは・・・?」


「詳しくは知んないけどあの石、チームリーダーがいつの間にか持ってんだよね」


天窮石(てんきゅうせき)な」

オジサンが補足してくれる


「あー確かそんな名前だっけ、ねぇ~おじさん、どっかに隠してなぁい?」


()()を作ってシャルが尋ねる


「バカヤロ!んなわけあるか!アレはもう何処にも出回ってねぇよ」


「ちぇっ駄目か・・ま、だいじょぶっしょ!いこいこー!」


「えぇ!?」


シャルの物理とイアの声援に押され闘技場本殿へと向かう


「わたしー!観客席でー!おーえんしてますねー!」


相手チームを待つ控室から真っ直ぐと続く廊下を抜けると


金網で囲われ下は鉄板が敷き詰めれらたリングと呼ぶには寒々しい舞台が

大きな照明機材で照らし出されている


闘技場(コロッセオ)というよりは違法の地下格闘技場のほうがしっくりくる


中央の大きなモニターには


【春保大輔 VS J815991】


あの英数字が相手の名前は・・・?


(そうか、この世界にはもうユーザーは居ないんだったな)


なら相手はユーザーが少ない時に投入される数合わせのbotプレイヤーか


緊張する俺に棍を肩に担いだシャルが声を掛けてくれる


「もぉ~そんな深刻そうな顔しなくてもだいじょぶだって!」


「はい・・分かりました・・・」


「だっはは!全然分かってない!」


そんなやり取りをしていると相手も舞台に上がってきた


案の定5人居る、参った・・・


こっちは2人とはいえ俺は戦力にならない実質シャルのワンマンチームだ


(せめて俺が囮になって気を引く?それとも前に出て盾になるか?)


そんな事をぐるぐると考えていると


『はじめっ!!』

開戦の宣言と共にゴングが鳴らされる


始まっちまった・・・よ、よし!いくぞ!意気込んで一歩踏み出す前に


隣からドッ!!っと凄まじい音がしたと思った瞬間には凄まじい速さで

相手の中枢に肉薄し棍を大きく素早く薙ぎ払い、5人を瞬く間に倒し


「ニッ!」


こちらへ余裕のVサインをしたシャルが居た


「だぁっから言ったっしょ?だいじょぶだってぇ」


その言葉の通りシャルの単騎駆けで勝負がついてしまった・・・


モニターに数字が映し出されている自分達の順位を示す数値が3000程減り

順位の変動を祝うメッセージが表示されていた


「お~!この調子なら今日中にミドルクラスに上がれるねぇ」


「今日中・・・ですか!?」


「もち、余裕だよ!」


その言葉と自信に偽りは無くそれからの4戦をシャルの活躍で危なげなく勝利した

そして遂にDランクのトップと当たる時が来た


(まさか初日でクラス昇格戦に挑めるとは・・・)


情けないのは自分が全く勝利に貢献できていない事か

こんなんでよくもイアに参加するなと言えたもんだ・・・


沈んでいるのを察したのかシャルが

「まーだ何か気にしてんでしょ?良いんだよ数合わせだけで助かってんだからさ!だからわざわざ舞台に上がんなくても」


「いや、何も出来ないのは自覚してる、けどシャル1人を放り込んでおきたくないんだ、いざとなったら盾にでも使ってくれていいから」


シャルは一瞬キョトンとした顔をして


「変なヤツだねぇダイスケはぁ」


「は は は いや、健気な事ではないですか、実に結構」


突如聞こえた笑い声に身構える


いつの間にか相手チームも舞台に上がっていた、が

(一人・・・?)


舞台の上には豪奢な着物を着流(きなが)し涼やかな目をした美人が一人、佇んでいた


こちらの訝しむ視線に気付いたのだろう、静かに笑い


「あぁ、其方らのお相手は(わたくし)一人ですがどうかお気になさらず・・・

元より勝負をお譲りする腹積もりでありました故。」


よく見ると相手側の舞台の下に質素な着物の人物が控えているが

モニターの表記では既に棄権した事になっていて相手の参加選手は眼前の麗人だけだ


「あっしの事はお気になさらず」

どうぞお好きにと首に掛けた手拭いで額の汗を(ぬぐ)っている


「へぇ、随分と親切なんだね、こっちは有難いけどどーゆーつもりなのかな?」


シャルが油断なく棍を握りながら問う


「いやなに、其方らがそこいらの凡百(ぼんぴゃく)ならば

玉薬で彩ってやろうと思っていたのですが」


俺をジッ・・・と見詰めクッと口の端を歪め


「つかぬことを御聞きしますがそちら様は何処(いずこ)からお()でで?」


「お、俺?俺は・・・」


突然の問いにたじろいでしまう


()()ではない()()()。で、ございましょう?」


ゆったりとした落ち着いた声、だが有無を言わせぬ圧も含まれている


「・・そうだ、詳しく言えと言われても説明は難しいが」


「あぁそれは結構です

私は貴方様が()と違うか否かを確認したかっただけですから」


曖昧な返答に楚々と礼をし目だけで笑ってみせる


蠱惑的で惹きこまれそうな美しさだがそれ以上に得体のしれない怖さがある


彼女は口元を扇子で隠し「ふむ」となにやら一考し


()()を除去する可能性があるやもしれぬ者ならば・・・」


アレとは何を指しているんだ?バグの事だろうか


「ふーん・・ま、言いたい事は分かったよ、でもそれでも普通は

「お前達の力を試してやる~」って、手合わせくらいするもんじゃないの?」


女性は口元に手をやり「くく」と笑い


(わたくし)()()を説くなど栓無きこと、ですが敢えて言うなれば・・

(わたくし)彼奴(きゃつ)めが肝を潰す(さま)を視たいだけ」

チラリと俺を見て


「貴方様に()()が可能かは測りかねまするが

この(うつつ)を抜かした世で可能性を示す存在に初めて(まみ)えたのです

所詮全ては運否天賦、なれば()が悪くとも勝てば胸が梳く方に賭けるのみ」


「・・・さて長話は好きませぬ故、これにて失礼致します。」


(・・・あの詰まらぬ餓鬼の癇癪に比ぶれば

大殿のうつけなど大望を抱く者の些末な悪癖と流せようぞ

あれに見える凡夫はどう立ち向かうのか・・・)


スッと見惚れる様な所作で一礼し、ニィと笑い、瞬間 ─────


ボッッッオォォォッッ!!!!!


視界を覆う閃光と爆風、爆音が鼓膜を揺らす


「じ、自爆・・・?」


顔を庇った腕の隙間から覗くと

人影は無く、立っていた場所に残る焦げ跡と吹き上がる黒煙のみが

何処へ消えたのかを全て物語っていた


呆気に取られる俺達の横ではモニターがミドルクラスへの昇格を表示していた。

ここまでお読みくださった貴方に感謝を



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