呼び声
データとは何処に存在しているのだろう
電子化が進み一昔前は手紙くらいのものだったのが書籍、金銭、果ては個人情報もデータ化し管理をする時代になった。
そして危険性もまた身近になった技術を悪用し不正にアクセスし盗み 数字を弄り簡単に増減してしまうあやふやで不確かな実像を伴わないモノ
データとは何処に存在しているのだろう
そして存在しているか解らないモノは消去したとして本当に消え去ったのだろうか
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階段を下りていた、長い階段を・・・周りは薄暗いような仄明るいような
真っ白にも感じる不思議な只々長い階段を・・・・・
降りながら何故こんな事になっているのか霞がかった意識を手繰る
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俺、春保大輔は齢30半ばを過ぎた中年、いわゆるおっさんである
酒やタバコなどの嗜好品に興味を持たず、子供から大人になる過程で
趣味らしい趣味をゲームから他の何かに置き換える事をせず年月を過ごしてきた
家事を一段落させどっかりとPCとモニターの前に座り込みPCの電源を入れる
改めてモニターに向かいメンテが明けたばかりのソシャゲにログインし
開催され始めた季節限定のイベントへ向かいオートモードで周回させる
「ふぅ・・」
ゲームとは未知の世界を冒険し試行錯誤や成長を疑似体験し達成感諸々を得る娯楽だった筈なのに、今や自分にとってゲームはログインしデイリーを消化し
2週間ほどの間隔で開催されるイベントに参加し報酬を得る
惰性以外の何物でもない
それでも充分に楽しんでいるのだが幼い頃の新鮮味を感じなくなったのは
年相応に擦れたということだろうか
『ピン♪』
(ん?)
通知音に気付き画面に意識を戻すと
ゲーム内でのフレンドチャットに新規の書き込みがされていた
『Roll:オーイ!暇か?』
相手は唯一のリアフレだった
こちらがIN状態になったのを確認し連絡をしてきたのだろう
『Dice:イベント周回しとる』
『Roll:高難度クエ手伝っておくれよ』
『Dice:昨日もやったべ』
『Roll:昨日は素材落ちなかったべよ』
『Dice:俺は昨日ので揃ったんスわ』
『Roll:許されへん事やと思うよソレは・・・』
『Dice:新調した装備見せびらかしていいなら行くぞ』
『Roll:ギギギ・・・屈辱をバネにしてオドレより上に行ったるからな!』
『Dice:わかったわかった。で、いつ行く?今か?』
『Roll:こっちから誘っといてゴメンだけどもちょっと待って』
『Dice:んじゃも少しイベ周回してるからな準備できたら言え』
『Roll:あい』
チャットを終えフレンドを待ちながら
イベント周回の合間に何か退屈を凌げる話題を探しマウスを操りネットを彷徨う
『【悲報】あの大手ゲームメーカーが満を持してリリースしたソシャゲ僅か1年でサ終www』
『残当』『集金の仕方が露骨やったもんなw』『しゃーない切り替えて行け』
『コンシューマーで売れた作品のナンバリングをソシャゲで出すなや』
よくあるスレタイを暇つぶしに覗いてみたが・・・まぁ予想通りよくある流れだ
サービス開始時SNSでも当初話題に上がったものだ大手コンシューマーゲームの
メーカーがソーシャルゲーム業界に名乗りを上げたと一部で騒然としていた記憶がある
だがやはりゲームという大きな括りの中とはいえ
家庭用とソーシャルでは勝手が違ったのか培ったノウハウを活かしきれず
こういった結果を迎えてしまったようだ
もっとも、大手のメーカーに限らず
5年継続できるゲームが稀になりつつあるのだが・・・
チラリとモニター横に飾り置いてあるフィギュアを見やる
去年サービスを終了してしまったゲームキャラクターのフィギュアだ
自分にしては珍しく課金して楽しんでいたが
無情にも終わりはアッサリと訪れてしまうものだ
「はぁ・・・」
胸に去来した虚しさを溜息と共に追い出し
頬杖をつきながらぼんやりスレの流れを眺めていると
「ん?」
『このゲームを遊んでた人いますか?』
『やwらwなwいwよw』『いえ、私は遠慮しておきますw』
『こんなクソゲーやってたヤツおりゅ?』『おりゃんよなぁ!?www』
「はぁ・・・普通の質問も嘲りを交えないと答えることもできんのか」
眺める専門で普段は書き込むことはしないのだが
変哲のない質問に対し煽りマウント揚げ足取りをし袋叩きにする
そんなネットのある種、日常的ともいえる光景が不愉快になりキーボードを叩く
『俺はプレイしたことないよこのゲームもこのスレで初めて知った
期待した答えじゃなくてスマンけど』
『いえ、お答え戴き有り難う御座います』
『今なにか遊んでるゲームはありますか?』
・・・これは俺に聞いてる、のか?
不毛な流れを切る為とはいえ、半ば強引に割り込み遊んでいた人を探す問いに
遊んでないなんて見当違いの返答をし気恥ずかしくなり場を離れようとしたが
(質問を無視して去るのも悪い気がするな、嫌な人でもなさそうだし)
それから少しの間
スタミナ回復薬を使いイベント周回を再設定しながら好きなゲームジャンルや
ソシャゲをいくつ掛け持ちしてるかガチャの愚痴に好みのゲームキャラ等
他愛ない雑談を楽しんだ
そろそろかと、名も知らぬ友人と華を咲かせた雑談を切り上げようとした時
『スレチやぞ余所でやれや』『はぁ・・・これだから素人さんはさぁ・・・』
『みんなが使う公共の場で個人的な会話とかホンマ勘弁して欲しいッスわ!』
多少のスレチは大目に見ろよな・・・
過疎スレで軽く雑談しただけで器の小さい連中め
(どぉれこういう手合いは・・・と)
『w』
打たれると何故か苛立つ魔法の一文字を打ってあしらおうとしたら
『w』
「お?」
今まで雑談していた相手も後に続いた
敬語を崩さず丁寧な受け答えする紳士だと思ったが悪ノリもしてくれるのか
『単芝やめろや!』『草生やすな』『なにがおもろいんじゃ』
「ぷっ!・・・くく」
自分でも予想していなかった『w』の二乗で想像以上の反応を引き出し
満足したところで今度こそと
『自治がウルサイからここまでにしよ、楽しかったですそれじゃ。』
と、別れの挨拶をすると
『あの・・・最後に、最後に一つだけお聞きして良いでしょうか』
なんだろう・・・別に時間に急かされてるでもなし最後の質問を待つ
『ゲームの世界へ行けるとしたら行ってみたいですか?』
呼び止めて『最後に』なんて言うから少し構えたが何てことはない
よくあるたられば話か、子供の頃はよく空想してたな
『幼い頃よく想像してましたゲームの中に入って遊びまわりたいって』
『今でもそう思う事はありますか?』
『今でも・・・まぁ、ありますね純粋な気持ちではなく主に現実逃避ですがw』
『そう、ですかお話をして感じましたがゲームがお好きで、それに
おかしな質問にもご自身の答えを返してくれる。あなたは良い人なのですね』
(良い人は単芝で他人の神経逆撫でて意地悪く笑わないと思うが・・・)
『有り難う御座いました、あなたの夢見が素敵なものになりますように。』
・・・?不思議な締めだなどっかで流行ってる挨拶だろうか?夢見って
まだ18時ちょい過ぎだけど・・・チラリとPCに表示されている時刻を見て
─── そこで意識が途切れた。
何処かの空間およそ現実に存在しえない不可思議な場所
闇色の空間には様々な景色を映し出しているモニターが浮かび上がっている
あまりにも膨大な映像が連なる光景は空間がいかに広大なのかを物語っていた
その中心に一つの人影があった
「うぅ・・・ッ!も、もう少し・・・・・・
あと少し、もう少しだけ・・・ぅぐッ」
美しい相貌を苦痛に歪め白磁のような腕を前にかざして少女が呻く
額には玉の汗が滲み薄桃色に輝く髪がへばり付き傍から見ても憔悴していると判る
かざした腕の先の空間にも映像が浮かんでいる
映し出された内容は階段を降りている男の姿だ
『そこまでにしたまえ、入り口を開き招き入れるだけで
キミは既に限界だ入り口までの回廊を維持出来る余力はあるまい』
老若男女、人とも獣のうなり声にも聞き取れる
濁り澄み切った矛盾の塊のような声音が響く
だが少女の周囲には何者の姿も見当たらない
「いいえ!きちんと扉が存在する間に導かなければ・・・っくぅッ!
はぁ、はぁ、この世界に抗うことは・・・」
『ふむ、あの園を模倣をしたのは招き入れる方式と世界の在り方だけだ
オリジナル宜しく冒涜なる存在は居ないのだから、少しスリルを味わい
生きる術を一つ得られぬだけだ。安全な街で目覚める、そう設定もしてある』
それに、と悍ましい声は続ける
『不測の事態が引き起こす極めて稀な事例、これこそが観測の醍醐味だよ』
「ッ!やめてください!そんな ァ・・・」
女性が倒れる
『・・・・・だから言ったろうに、
状況に手早く見切りをつけ次の案を考え実行しリカバーする。
限界まで無理をし意識を断ってしまっては元も子もなかろう・・・・』
倒れ伏した女性の前に広がるモニターの中では
尚も茫然と階段を降りる男が映っている
『しかしこのままでは余りに生存の確立が低いな
データを摂る前に帰還されては骨折り損か
フム、どうせならもう一本骨を折るとしようか』
・
・
・
朦朧とする意識に揺蕩いながら階段を降り続ける
未だ終着は見えてこない、何処まで続いているのだろうと
幾度繰り返したか思い出せない疑問が脳裏に浮かんだ時
足下の階段が消失した
「ぅあッ!?」
刹那 身体に感じる浮遊感、からの血の気が引く感覚
落下している!地面は見えないが
暗がりで目視出来ないだけですぐそこまで迫っているかもしれない
心もとなくバタつかせていた両手を頭に組み
襲って来るであろう衝撃に備え目を瞑り歯を食いしばる
(・・・?)
どれくらい経ったのか
耳に纏わり付く嫌な風切り音と共に落ちて
体感数分、ギュッと身を強張らせていたが
しかしいくら身構えてもその瞬間は訪れなかった
気付けば身を包んでいた重力の喪失も耳障りな風音も消えている
固く閉じた瞼をそっ・・・と開くと
「どこ?・・・・・・・ここ。」
全く見覚えの無い街並みだった。
この度は拙作をご一読くださり、ありがとうございます。
この作品は序盤から目を惹き付ける展開は少ないです
噛み続けてほんのり甘味が滲む白米のような楽しみ方をして頂ければと思います
読んで頂いた方の暇つぶしのお手伝いが出来れば幸いにて