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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者がセーブをし忘れた!?

作者: クイボー


 あなたには忘れたい思い出はある?

それは、厨二病だった時?

はたまた、誰かに恥ずかしい勘違いされた時?

もしかして、失敗をした時?


 思い出したくない、思い出すと心に異常が起きる。

そんな過去をみんな持っていると思う。

 たくさんあると思う。


・・・・・・・・私の場合は、好きな人との思い出。


 楽しかった。

楽しかったんだ。


 だから、私はとても苦しい。

頭の中は彼でいっぱいだ。


 生まれた時から彼はいた。

彼は、私に色んな物を与えてくれた。


 その色んな物が私を苦しめている。

脳に張り付いているその温かさが、私の心を、彼から貰った心を蝕んでいる。


 こんなんじゃダメだとみんなが言う。


 だから、忘れることにした。

私にはそれが・・・・できるのだから。


《個体名『ユウキ』に関するデータ削除しますか?》Yes/No

__yes.


『一緒に来るか? 機械っ娘』


 大好きだった彼との初めての記憶【データ】


《消えたデータは戻ることがありません。本当によろしいですか?》Yes/No

________y e s.


『なぁ、〇〇。俺がさ、異世界から来たっていったら信じるか?』


 いつもふざけてる感じの彼が妙に深刻そうな顔をしてそう告白した。その横顔はとても格好良かった。


 私は無条件で彼を信じたな。

惚れた弱みってやつかもね。


《本当によろしいのですか?》Yes/No

・・・・しつこい。____Yes.


『好きです。け、結婚してください』


 柄にもなく慌てる彼。

私にとって一番嬉しかった言葉。


 私は何て返したかな?


 ___胸が痛い。


《データを削除。それに伴い再稼働を行います》


 記憶がバラバラと崩れる。


 私は機械。

心なんて・・・・持つはずがない。


 ましてや、涙なんて流すはずもない・・・・・・・・


________________________


 私は起動する。

体を起こそうとするけれど、違和感が私を蝕んだ。


 重く動きにくい、何故かリミッターがつけられた身体。


 起動したばかりで完全に同期しきれていない身体を少しばかり調整する。


 頭についている花飾り、力のリミッター、イヤリング、等の邪魔な装飾や機能を全て取り外した。


「・・・・要らないものが多い」


 私のような戦闘用の機械にこのようなリミッターを何故つけたのだろうか。


 なぜ自分がそんな物をつけているのか全くわからない。なにせ弄った記憶がないので、ハッキングもしくはバグだろうと判断した。


 自分のからだが最高潮となるよう設定を弄りなおしてから、起き上がる。


「ここは、どこ?」


 辺りを見渡すと一面が鉄の壁で覆われていて、資料が散らかっている。


 痛っ。


 視線を落とすと、手鏡の破片と白く長い髪の毛が束になって足元に落ちていたことに気がついた。

 

 その手鏡は割れて散らばっていて、それが足に刺さったのだろう。白く長い髪は自分のものだと判断できる。


 その破片を手に持ち、確認すると白く透き通っていそうな肌に覆われた美しく整えられている顔が見れてとれ、乱雑に切られていそうだった白い髪もショートになって整えられていた。


 異常はない。


 私は置いてあった服を見に纏い、この部屋の物色を始めた。


 散らばっている資料には、私のようなアンドロイドの改造方法についてまとめてある。


 私に施されていたのはこれか。


 水でも溢したのか、所々滲んでいて読めないところや破れた箇所が見受けられる。


 しかしまぁ、なんとも意味のない研究ばかり・・・・・・


 恋愛ものの資料が殆どだった。

付箋の貼ってある場所を開くと、『男が貰って嬉しいプレゼントランキング』と書いてあった。


 一位は『あなた』と書いてある。

なんともくだらない。

 資料の隣に人一人包めそうな長いリボンが落ちているが見なかった事にしよう。


 やけに恋愛ものの雑誌が多い。

ここの研究者は、何がしたかったのか・・・・。


 そんなふうにいろいろ目を通していると一つの資料に目が留まった。


 アンドロイドの既存人格投与。

内容は人間の人格をアンドロイドに移すというものだった。


 興味深い。

これが可能なら、人を生き返らせることができるかもしれないのだから。


「大丈夫?!」


 資料を詳しく眺めているとドアは勢いよく開いた。

入ってきたのは、金色の髪をツインテールにしたゴスロリ服少女と紫色の髪を一つに結んだ和服少女だ。


 私は誰だかわからなかったが、私の体はその人達を自動で認別した。

 金色の方がリリアン。紫色の方がシオン。

というらしい。


 何故か、記憶にはないが記録には残っていた。


「貴方、これ・・・・・・・・」


 シオンが口を抑えてよろめき、スタンと尻餅をついた。


「あんたねぇ!!」


 リリアンは私の胸ぐらを掴み取る。


「まだ、こんな研究やってんの!? ユウキはもう死んだの!! こんなこと実現したって本当のユウキは帰ってこない!! 帰って・・・・こないのよ・・・・・・・・う、ひぐっ」


 泣いてしまった。

シオンがリリアンの背中を撫でる。


 私はデータ処理が追いつかずに、それを呆然と見つめていた。


「ユウキぃ。ユウぅ」


 何故か核部分が傷んだ。

結果的にその痛みが私の思考を再開させるが、核部分はあとで検査しなければならない。


 まぁ、それは置いておいて。


「・・・・ユウキとは、誰ですか?」


 私がそう呟くと空気が凍った。


「あ、あんた嘘でしょ・・・・?」


 次の瞬間、私の右頬に衝撃が走った。

視界の端に紫色の髪のポニーテールが空中を流れ、攻撃主がシオンだと判断される。


「言っていい冗談と悪い冗談があるよ」


「冗談・・・・? 当機にそんな機能はありません」


「くっ」


 シオンが再び右手を振りかざし、再び衝撃が来ることを覚悟するが、その右手はリリアンによって止められていた。


「争わないで!! ユウキはそんなこと望んでない!」


「わかってる!!! わかってるけど、この子はぁ」


 リリアンは泣き叫んでシオンを止めるが、止まる気配などない。


 シオンはリリアンに雁字搦めにされようが、構おうとせずにこちらへと来ようと必死だ。


 その姿は怒りに満ち溢れているように見えるが、目には涙を溜めていた。


 この状況には心無き機械である私ですら口を閉ざさざるを得なく、反応に困る。


 ユウキとは、そこまで影響力のある偉大な人物なのか。


 そんな疑問が脳裏にチラつくが、それ以上考えることをやめた。


「・・・・貴女、ユウキの記憶を消したでしょ」


 シオンが動きを止めるとボソリとそう呟いた。

私はその言葉に反応してしまう。


 心当たりがあった。

記憶にないのにデータにはあるこの二人の情報。


 生物や建造物の総称ならまだしも、人間の呼称にその現象はあり得ない。


 ありえるとしたら、記憶消去の弊害。

その・・・・証明だった。


「出てけ!! この恩知らず!!!」


 手を緩めたリリアンの隙をついたシオンは、私の胸ぐらを掴んで窓に投げ捨てられる。


 私の体は転がり廻り、道路の中心に来てしまう。

そう、道路の中央に転がり込んでしまったのだ。


 車の通る道路に飛び込んではいけないというのは子供でもわかる。


 それの上タイミングの悪いことに、今は空が暗くなり始めた混雑時間だった。


「脱出不可能」


 無数の目のように光る車のライトが私を見つめる。


 その次の瞬間、私は目の前を猛スピードで走っている車を目に映しながら刎ねられ、飲み込まれる。


 体は空中を大きく舞い、何度も地面に打ち付けられてから大きい勢いを持ったまま地面と摩擦が肌を削る。


 多く歩行者の視線を集めるが、私の削れた肌を見てアンドロイドだとわかった瞬間に無視し、日常を再開した。


「・・・・・・・・因果応報ですね」


 この世界には存在しないはずの言葉が私のデータから無意識に飛び出し、スリープモードに移行した。


 

 

【自己修復が完了致しました。スリープモードを解除します】


 私の耳にアナウンスが流れ、私は体を起こした。

見渡す限り、瓦礫の山。


 私はゴミとして収集されたのだろう。

以前にもここにきたことがある・・・・・・・・気がする。


 私はガラクタをかき分けて、歩く。


 酷い匂いが検知された。

数は少ないが人もいる。


 絶望に打ちひしがれた者やゴミを漁り食べ物を探す者。

 この人の多い世の中で暴れてしまった者達だ。


 私もその一人となった。

私の場合は、ただのゴミだが。


「核を抜かれなかっただけましか」


 さて、こんな掃き溜めに女が落ちるとどうなるか。


 私は足を回し、背後から襲い掛かろうとした男を蹴り飛ばす。


「貴方のラブドールになるつもりはありません」


 熱源感知機能を持つ眼がもう複数の生命体の存在を知らせる。


 そして、私には対処する術は持ち合わせていない。

威勢を張ったはいいものの流石にこれは予想外。


「・・・・エネルギー温存のためにここはされるがままになる方が得策」


 ___嫌だ。


 その思考が過った瞬間、最初にゴミから飛び出してきた人々を蹴り飛ばしていた。


 そのあとゾロゾロと性に飢えた男たちが現れるが、舞うように体を回転させ、勢いのまま肘を目に傷のある男一人の顔面に叩きつけた。


 その男の顔は陥没し、ガラクタの山もろとも吹き飛ばされる。


 私はそれに驚いた顔をしている男たちを睨みつけた。


「・・・・あの人の様になりたくなければ、去りなさい」


「だ、黙れ! クソアマが!!」


 私は落ち着いて、状況を確認する。

14人の男。武道などは齧っていないような構え。


 その男たちは私に怯えきって今にも逃げ出しそうだった。


 行ける。


 私は再び口を開こうとすると、真後ろに熱源を感知した。


「!? いつの間に」


 それは顔面を陥没させたはずの目傷男だった。

私は腹に蹴りを入れられる。


「幻術だよ」


 幻術__相手に幻覚を見せる東方の技法。難易度は高く。こんなチンピラが持っているわけのない技術。


 私は、群がろうとする男たちに睨みを効かせつつ立ち上がって体勢を整える。


「嬢ちゃん。覚えてるよなぁ、俺のこと。この目の傷のこと」


「あなたなど知りません」


 私がそう即答すると、男は笑い出した。


「そうか、そうか。これでも元幹部の一人なんだがなぁ。眼中にないってか。《勇者ユウキの右腕》さん。いや、フィアンセって言った方がいいか?」


 ユウキ___また、その名前。

私が記憶から消したであろう人の名前。


「はいこれも幻術」


 私の頭に再び衝撃が走り、体がガラクタの山に突っ込んだ。


「あれ? マジで覚えてねぇの? これでも海賊団幹部だぞ?? はぁ、まっいいや。おい、お前らそいつ食っていいぞ」


 男どもが私に寄ってくる。


「あーあ。勇者がいないとこんなもんか。なんか拍子抜けだな。あ、お前、次なんてないだろうけど覚えとけよな。このシュウ様の名前をよ」


 シュウと名乗る男は私を指差して、飛行鎧を纏い飛んでいく。


 それは流星のようでとても憎たらしい。

しかし、這いよる足跡が私の目線を写させる。


 いつのまにか、近くに来ていた下卑た男どもが私に手を伸ばしてきた。


 その手を跳ね除けるが、体が思うように動かない。


「・・・・これだから、機械の体は」


 私はため息をついて、力を抜いてガラクタの山に背をもたれる。


「ぐひっ、げ、ひひっ」


 __気持ちが悪い。

・・・・ここで私も終わるのか。


 私は空を見上げると、眼から雫が滴り落ちる。

___何これ。


 その雫を見つめると何かのデジャヴを感じた。


 何故だろう。ここに人が落ちてくる気がするのだ。

落ちてきて欲しかった。


 そんなあるはずのない未来予想とどこから壊れてしまっている自分自身を笑う。


 男の手が私の胸を触る寸前。


 叫び声が聞こえた。


「きゃあああああ、あのクソ女神ぃ。絶対許さないああいい」


 その叫び声からは、一瞬だった。

男どもの群れの中心に突っ込んで男どもを全員、吹き飛ばす。


「痛たたたぁー」


 煙と共に立ち上がった少女はその頑丈な体を起こす。


「あ、貴女は?」

 

「ん? おお! 第一村人発見!! 貴女があのクソ女神が言ってた機械っ娘?」


 その意味不明な言葉を恥ずかしげもなく叫ぶ少女は黒髪に黒眼。

可愛らしい顔の形をしたその少女の造形は、私の知らない誰かと似ている気がした。


「・・・・異世界人?」


 私はそう呟いていた。

何を言っているんだ私は。


 本当に壊れたんじゃないのか?


「おぉ!! やっぱり、君があのクソ女神のいう機械っ娘か! 僕はユウカ。ただの異世界女子高生だよ!」


 そのユウカという少女は、ガラクタの山に埋もれる私に手を差し伸べた。


 私は胸を高ならせながらその手を取ると、ゴミや埃を置き去りにして引っ張り上げられる。


「・・・・感謝します」


「いいんだよ、このぐらい。さて、機械っ娘。これからどこにいけばいいのかい? いや、その前に名前かな?」


「? 名前は、・・・・ありません」


「そうかぁ。じゃあ」


 ユウカは、私を指差して嬉しそうに口を歪めた。

夕陽の光が後光のようで暖かい。


『「ユキ。どう(だ)? お兄ちゃん(俺)が好きなアニメのキャラクターの名前だけど似合うでしょ(だろ)?」』


 その光景は、何故か見たことがあった気がした。

懐かしく嬉しい光景だった。


「・・・・ユキ、ユキ。気に入りました」


「じゃあ、ユキ。僕を案内しなさい!」


「・・・・どこへ?」


「あれ? クソ女神から聞いてない??」


 私が首を傾げると、ユウカは地団駄を踏み始めた。


「あれぇ? またか!! あのクソ女神ぃいいい」


 これはユキの記憶を巡るユウカの冒険譚である。


 続きが見たいという方は、高評価、ブックマークよろしくお願いします。


 好評だったら、連載します。

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[良い点]  王道のようで、そうでないようで。 とにかく切ないけど、とても面白い。  この後、どうなるのか気になる。
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