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第三話 自分の話なんだけど、微妙に置いてけぼりな件


 解呪というものは、少々複雑な魔術ではあるが、呪いの内容さえ分かってしまえば出来るものである。

 魔術オタクと呼ばれるマロウ家の書庫には、大量の魔術関連の蔵書が収められているのだ。

 よほどレアな呪いでない限り、探せば見つかると思う。まったく同じじゃなくてもね。


 そう思いながら「出来るでしょう?」と兄を見上げる。

 兄はくつくつ笑っていた。


「うん、出来る。――――本気でやれば出来る事だよ」


 そして兄はベルン様の方へ顔を向ける。


「我が家の聖痕の話は、ベルン様もご存じでしょうか」


「はい。魔術伯の血筋は強い魔力を持つが故に、聖痕を持って生まれる者が多いと、父から聞いています」


 ベルン様の答えに兄は頷く。


「妹は『幸運』の聖痕を持っています。ただ、これが少々特殊で。その効果を発揮するのが、食事に限られているんです」


「はい、知っています。えっと、十年前の『黒靴』の件で、とても助けられたと教わりました」


「ありがとうございます。……その『幸運』が、ベルン様のテーブルを示したと、僕は考えています」


 兄の言葉に、ベルン様は大きく目を見開く。

 けれど直ぐに、そのエメラルド色の瞳を悲し気に伏せた。


「……気を遣って頂いて有難うございます。ですが、申し訳ありませんが、私はそれは勘違いだと思います。その聖痕は、はっきりと分かるものではないのでしょう?」


 それは確かにベルン様の言う通りだった。

 私の『幸運』の聖痕は、はっきりと「これがそうです」と示すものではない。

 感覚のようなものなのだ。良い物の時は輝いているような気がして、悪い物の時は凄く嫌な感じがする、というような。

 だから私も確証はない。結果的にそうだった、というだけだ。如何せん、私はこの聖痕に上手く適応出来ていない。

 時間が経てば、もう少し馴染むと思うのだけど……。


 けれど兄は首を横に振って、


「私達はイングリットの『幸運』を信じています。今まで妹が特別反応したものに関して、統計を取っています。そしてそれが間違いだった事はなかった」


 と断言した。

 待って、統計を取っていたなんて初耳だよ、兄さん!

 そして間違いはなかったなんて、ハードルを上げるのはやめるんだ、兄さん!

 あわあわしながら、どう訂正を入れようか考えていると、すると。


「……私の何かに、その『幸運』が向いた、という事でしょうか?」


「僕はそう考えます」


 兄が頷くとベルン様の瞳から、ぽたりと一粒、涙が落ちた。


 ……待って欲しい。

 とても大事な話をしているのは、何となく分かるんだ。

 だけど私からすれば、いまいち状況が理解出来ていなくて、置いてけぼりになっている。

 でも今、聞いて大丈夫な雰囲気でもない気がするんだよ、どうしよう……。


 少し整理をしよう。

 まず昼食会のテーブルは、三人の王族をイメージした食事が並んでいた。

 私の『幸運』の聖痕は、ベルン様の料理に反応したと思う。


 あの料理は王城の厨房で作られたものだから、料理人に反応したものじゃない。

 食材も共通しているものがあったから違う。食器やテーブルも同じものを揃えてあったから、ベルン様で合っていると思う。

 そしてサンドイッチを食べたらベルン様が泣き出してしまったんだよね。

 その事で、今、別室に呼ばれている……と。


 ベルン様が泣いてしまったのは、側近選びが関わっているのは間違いないだろう。

 特殊な体質で、いつ死ぬか分からない自分の側近になりたい者なんて、とベルン様は言っていた。

 だからベルン様は、私がテーブルを選んだ事が衝撃的だったのだろう。


 ……あれ? そうすると、この会話はもしかして。


 そう思ったとたん、兄は立ち上がり、胸に手を当てた。


「僕は父テオバルトから、イングリットの聖痕が働く事があれば、その方の側近希望を出すよう言われております」


 やっぱりそういう話だった。

 四伯の中では、うちは基本的には中立を貫いていたからなぁ。まぁ別に誰につこうが対立するわけではないのだけどね。

 せめて陛下の御子の誰かについて貰えないか、という打診が来ていたのは前に聞いた事がある。

 だけど私の聖痕で選ぶなんて思わなかったよ……。いくら事前情報はあまり入れるなとは言われていたけれど、そこは教えておいて欲しかった。


 そして、そんな私の心情など、二人には伝わるわけもなく。


「私で本当に良いのですか?」


「妹の聖痕が選んだ方ですから」


「あ、ありがとう……ありがとうございます!」


 泣き笑いを浮かべたベルン様と兄ががっしりと握手をしているのを、私は何とも言えない表情で見守っていたのだった……。

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