表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

第二話 解呪体質


 もう駄目だ――なんて青褪めていたが、人生はそう簡単には終わらないようで。

 私は兄と一緒に、王城の客間へ連れて行かれた。

 座り心地の良いソファーに腰を下ろした私達の目の前には、先ほどのベルン様が座っている。

 目は赤いが、もうすでに泣き止んでいて、申し訳なさそうな顔をしていた。


「先ほどは驚かせてしまってすみませんでした」


「い、いえ! こちらこそ、料理を食べてしまって申し訳ありません……」


 私もそう謝ると、ベルン様は首を横に振る。


「いいえ、あれは、良いのです。皆さんに食べて貰おうと思って用意したものですから」


 どうやら料理自体は食べて良かったものらしい。

 なら、どうしてベルン様は泣いたのだろう。私が不思議に思っていると、


「イングリット。実はね、この昼食会にはベルン様達の側近探し、という意味があったんだよ」


 と兄が教えてくれた。

 私の『幸運』の聖痕が、正しく判断するために詳しい話は聞いていなかったのだけど、そういう話だったのか。

 それならば、招待状が両親ではなく、私と兄に届いた理由が分かる。

 ……いや分かるけど、ちょっと待って欲しい。それって、かなり重要な件だったのではなかろうか。


「ち、ちなみに、どういった基準で……?」


「料理です。テーブルが三つあったでしょう? あれは私達、兄弟を示しているのです」


 ベルン様の言葉に、昼食会のテーブルを思い出す。

 確かテーブルごとに、牛肉メインの料理、フルーツや野菜メインの料理、そして鶏肉や卵メインの料理と分かれていたはずだ。


「牛肉の料理はハイリンヒ兄上、フルーツと野菜料理はアイリス姉上、そして鶏肉と卵料理が私になります」


 なるほど……と思ったが、理由はよく分からない。

 助けを求めるように兄を見上げると、呆れた顔をされた。


「料理がそれぞれの紋章をイメージしていたんだよ。まさか紋章まで知らないって事はないよね?」


「し、知っていますとも!」


 兄にそう言われ、慌てて私は答えた。


 この国の王族はそれぞれが紋章を持っている。

 本日の主催者であるご御三方ならば、ハイリンヒ様が獅子、アイリス様が百合の花、そしてベルン様が雄鶏だ。

 そう考えると、確かにテーブルの料理はそれぞれの紋章に合っている。

 牛肉は肉食である獅子を、フルーツや野菜は植物に分類されるため百合を、鶏肉や卵はそのまま雄鶏だ。

 卵のサンドイッチを食べた私は、ベルン様のテーブルに向かった、という事になる。つまりベルン様の側近になりたい、と表明したという事になるらしい。


 ……だけど、それは少し変ではないだろうか。だってあのテーブルには誰も人がいなかったのだ。

 私は知らなかったけれど、招待状には側近選びのための昼食会である、という旨が書かれていたはずだ。

 ベルン様と同い年の子供だっていたはずだ。なのに一人もいないなんて奇妙な話である。

 しかし、それを聞いて良いものかどうか。そう悩んでいると、


「……実は、私は側近になりたがる者は一人もいないだろう、と思っていたのです。だから私のテーブルを選んでくれた事が嬉しくて、思わず泣いてしまいました」


 と、ベルン様は小さく笑って言った。


「一人もなんて、そんな事はないと思いますが……ねぇ、兄さん?」


 私が聞くと、兄は「うーん」と微妙な笑顔を浮かべて唸ってしまった。

 どうしてそこで黙るのだろうか。

 何なのだろうとベルン様を見れば、こちらはこちらで驚いた様子で目を丸くしている。


「フレデリク、その、彼女は……」


「……申し訳ありません。妹は十年ほど屋敷に引きこもっていたので、社交にはとても疎くて……」


 兄の言葉にベルン様は「そうでしたか……」と納得した様子で呟いた。

 話の流れから考えると、ベルン様は何かしらの良くない話があるようだ。

 皆が知っている事だとしても、本人にそれを聞くのはちょっとな……と思っていると。

 

「……私は昔から、呪いを受けやすい体質なのです」


 とベルン様は話し出した。


 ベルン様は生まれた時から、周囲の呪いを自分に引き寄せる、という体質を持っているそうだ。

 簡単なものだとちょっとした頭痛だったり、微熱を出したりする程度だが、そのせいで子供の頃からよく寝込んでいたらしい。


 最初の頃は、彼の家族や周囲の人間も病弱なのだろうと思っていた。

 しかし薬では一向に体調が回復しない事に疑問を持って、魔術の方面で調べてみたところ、そういう体質だったという事が発覚したらしい。


 ちなみにその体質は、ただ呪いを引き寄せるだけではなく、同時に、かなりゆっくりとではあるが解呪もしているらしく。

 そのため、後者を取って『解呪体質』と呼ばれているそうだ。一応は外から魔術で解呪する事も可能ではあるらしい。


 正直に言えば興味深いと思った。何か魔術的な要因をひしひしと感じたからだ。

 しかしそれを言葉にしてしまうのは、どう考えても失礼だ。なのでぐっと我慢して、出かけた言葉を飲み込む。


「呪いを区別して受ける事は出来ず、どんな呪いを拾ってくるかも分からない。死に至る呪いだってあるかもしれない。……だから、呪いによっていつ死ぬか分からない私の側近に、なりたいと思う者がいないのです」


 最後の方は弱弱しい声で、ベルン様は言った。

 なるほど、そういう理由なのかと理解はした。

 しかし納得できない部分はある。だって……。


「そ、それは……受けるのは仕方ありませんけれど。でも、死ぬ前に魔術で解呪すれば良いのではありませんか?」


 私がそう言うと、ベルン様は口をポカンと開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ