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周佐勝子さんはトンデモナク強かった

 蘇我さんを待たせ、急いで周佐さんが喧嘩しているという校門前に駆けつけると、目を覆わんばかりの惨状だった。


「衣通先生。遅かったですね」


 素っ気なく答えた周佐さんの足元には男が地面に蹲り、両手で腹を押さえながら苦しんでいた。


「周佐さん、これどういう事なの?」


 取りあえず事情を聴くことにした。


「この人、玖珠薇の知り合いらしいんですけど、蘇我を呼んで来いって言うから何でですか? って聞いたら玖珠薇がこの人の所でバイトする事になって今から契約結ぶところだけれど人手が足りないから蘇我にもやらせるって言ってたんですよ」


「そんな高圧的な言い方だったの?」


「ええ。それで、一緒に居た二人の友達の佐倉が震えだしたから訳を聞いたら、それって売春の事だって言うから、私がお引き取り下さい、警察を呼びますよ? って言ったら、じゃあテメェをシャブ漬けにして売春うりやらせてやるよ! とか言って殴り掛かって来たんですよ」


「それでこの状況って訳ね」


 まさかこの小さな子が将来の五輪代表候補と呼ばれた元エリートボクサーだなんて思わないだろうな。


 ある意味、この男が声を掛けたのが周佐さんで良かったかもしれない。


「一応先に殴らせましたから正当防衛ですし、手加減したので骨は折れてないから過剰防衛にはならないと思います。先生。どうします? 警察に引き渡しますか?」


 傷一つない顔で周佐さんは言った。


 そう言えばボクサー時代の周佐さんの動画観た事があるけれど、スリッピングアウェーが得意だったよね。


「はぁはぁっ……良いのか? 警察に引き渡したら俺らの仲間がお宅の生徒が売春をしているってSNSで実名と共に公開するぜ……ぎゃっ!」


 息も絶え絶えに強がって見せた男の顎を周佐さんが蹴り上げると、男は白目を剥いて気絶した。


 すると周佐さんは男のポケットをまさぐりだした。


「ちょっ……何やっているの?」


「……警察に渡せないなら考えがあります。私に任せて先生は帰ってください」


 そう言いながら周佐さんは男のポケットから名刺入れとスマホを取り出した。


「こんな事態なのに帰れる訳ないじゃない? それに周佐さん何しているの?」


「……名刺に男の名前と勤め先の住所が書いてありますね。玖珠薇は多分ここに居ると思います」


「成程! 警察に通報して保護して貰うって事?」


「いいえ。警察がすぐに動いてくれるとは限りませんし、捕まる前に玖珠薇の事がネット上に流されるかも知れません。だから、事務所に乗り込んで玖珠薇を助けます」


「ええっ! それってカチコミってヤツ? 駄目よそんな事!」


 とても女子高生の考える発想ではない。

 私が周佐さんの肩に手をかけると、その手を振り払った。


「先生に何か出来る事があるんですか? 私は空手部員の指導を任されているから例え幽霊部員だろうが助けてやる義務があるんです」


「でっ……でももっと平和的な方法が無いかしら……」


「話し合いなんかしたら多分先生が代わりに売春ヤレって話になりますよ? 先生は生徒の為にそこまで出来るんですか?」


 周佐さんに睨みつけられ、私は試合でも感じた事の無い恐怖を感じた。


 回りくどく、空手部員だから助けてやるって言っているけれど本当は周佐さんにとって大切な友達なのかもしれない。


 仕方が無い。


 私も腹を括る事にした。


「……分かりました。周佐さんに任せますけど条件があります」


「条件? 何ですか?」


「私もカチコミに一緒に連れて行ってください」


 周佐さんは私の提案に一瞬驚愕の表情を浮かべていたけれど、すぐに何時ものクールな表情に戻って首を振った。


「要らないですよ。女子教師が半グレと喧嘩なんて新聞沙汰になりますよ?」


「連れて行ってくれなきゃ、周佐さんを退学にしますよ?」


「はあっ?」


 周佐さんはまた驚いたような表情を浮かべた後、考える様に顎に手を当てると溜息をついた。


「……先生一人に生徒を退学する権限は無いと思いますが、先生なら戦力になりますね。良いですよ。先生も着いて来てください」


 衣通美鈴。


 23歳女子教師。


 女子高生と一緒に半グレの事務所にカチコミをかける事になりました。

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