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晩夏の走馬灯

作者: 夏山 白

 最近疲れている。まだ暑いなぁ。電車を出て確かに思う。いくらか小さくなったものの、セミが鳴いている。カバンを目の前の隣の席に置いて、平日の昼間の駅舎のベンチにドンと腰掛ける。サァーっと、涼しい風が駅舎を駆け抜ける。ふぅぁぁぁ、大きく息をついて、額やこめかみの汗をハンカチで拭き、さっき電車に乗る前に買ったペットボトルの水をグッと飲んだ。ほぉぉぉぉ..とまた一息。ゆっくりと体重を背もたれに預けて、前を向くと、そこには淡く青い空に浮かぶ雲、そして左側には都会の街並みが、右側には住宅と商店街が見えた。まっすぐ見つめると、遠くに銀色の丸い建物がある。ありゃなんだ。あぁ、科学館のプラネタリウムかぁ。スマホのマップを見て気づく。また、そよ風が吹いてきた。科学館なぁ....

 

 『こんにちは』

 昼下がり、学校から帰る途中、すれ違ったおばあちゃんに声をかけられた。円窓があり、竹が生えている家に住んでいるおばあちゃんだ。

 あれは何年前のことだっただろうか、乗り換えの電車を待つ間、ふと考える。

 午前授業終わりに、友達と、小学校の体育館の格子戸を開けて見た、青い空と、入道雲と、深い深い緑色の山々の印象的なコントラストと、その山の上にちょこんと見える銀色の不思議な建物。目の左端に見えるプールの水面の涼しさ・きらめきを思い、目の前にある遊具置き場が、日の光で照らされ地面が淡い黄色に見えたのは、何年前のことだろう。

 僕の心はあの時に、いつか思いを飛ばしてから、離れられなくなってしまっていた。縁側に座って、あの山を、あの青き空を見ることを考える。あの風景がずっと胸の奥に残っている。

 放課後、階段の踊り場を降りたところにある防火扉に軽くもたれかかりながら君と話した。二階から三階に上がるところにある、隅に直された跡のあるステンドグラスから西日が柔らかく差し込んで僕たちの足先に優しく、鮮やかな光を落とした。お互いの顔を見たり、俯いて足先をちょっと動かしてみたりしながら君と話した。

 『この学校一生いてもいいよね』

 『ほんとにそう思うよ。』

 僕は返した。

 『でも、そしたら彼女できないよっ!』

 彼女はカラッと笑った。

 そういう彼女に、僕の彼女は君ではダメなのか。と思いながら、少し目を瞑ってから、天井を眺めた。

そろそろ電車が来る時間だ。僕はハッとして、すくっと立ち上がり、荷物を手に位置に並んだ。西日が眩しい。

 彼の後ろを通るイヤホンをした女子高生のボブの髪がふわっと広がった。東の空には、もう白い月がのぼってきていた。

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