【バレンタインをキーワードに書いたお話】
【バレンタインをキーワードに書いたお話】
涙が次から次へと流れてくる。こんな所で泣いていては他の人に迷惑だ。それがわかっていながらも、私は動くことが出来ない。だって、ふられたんだもん。一生懸命作ったチョコまで用意して、ラブレターまで書いて、2/14のバレンタインデーに万全の対策で挑んだのに。
相手は一言「好きなやついるから……」だった。
そんなことはわかっている。相手を好きになってから、相手の事をずっと見ていたんだ。気がつかないわけがない。
おもむろに、膝の上に置かれている、ハートの形をした箱をあける。そこには、相手の好みを調査して作り上げた、力作のチョコがある。涙で滲むが、チョコを1つ手に取り、口に運ぶ。
「苦い……」
「そうか? おれにはちょうどいいけど」
突然聞こえてきた声に顔をあげると、そこには隣の家にすんでいる幼なじみが勝手にチョコを食べていた。
「ちょっ──」
「ここだと、邪魔だろ?」
そう言って、私の腕をつかみ、膝の上に置いてあるチョコが入った箱を手に持ち、私を立たせた。
「そんなに泣いて……。とりあえず、お前の部屋に行くぞ」
私が返事をする間もなく、私の腕から手に掴む所を変えて歩き出す幼なじみ。
「早い……」
「しょうがないだろう? お前の──」
ちょうど鳴り出した、横断歩道の音が聞こえてきて、続きが聞こえなかった。きっと、今、聞き返しても教えてくれない。だから、私は大人しく、家につくまで、うつ向いたまま、手を引かれ続けた。
私の部屋に着くと、あいつは私のベッドに腰掛け私を見つめてくる。
「なによ……」
気まずくて、私がぶっきらぼうに答えると、あいつはベッドをポンポンと軽く叩き、座れと意思を示す。それに大人しく従い、ベッドに近づくと、あいつは私に手を伸ばし、腰元を抱き締めてきた。
「お前はおれのなの! あんなとこで何やってるんだよ!」
その声には小さな独占欲と哀しみが隠れていた。
「だって……、好きになっちゃったから……。それを伝えたかっただけ……」
「わかるけど……。おれじゃあ、ダメなの?」
腰元に回っていた腕がはなされ、顔を上げた幼なじみに見つめられる。その表情に私は弱い。小さいときから変わらない。
「ダメじゃないけど……。私が初めて自覚した恋だから……。ちゃんと伝えたかったの……」
「じゃあ、おれに対する恋はなんなの?」
「あんたの……、場合は……」
私が黙ると続きを聞かせてと言わんばかりに「場合は?」と言ってくる。
「あんたの場合は……、自覚する前に恋に落ちてたの……! だから……あの人にはちゃんと伝えたかったの、私から……」
恥ずかしくて、勢いよく言った後、顔を反らす。
「おれには伝えてくれないんだ」
「だって、あんたはわかってるじゃない。私の気持ちを」
「聞きたいな? お前の声で、口から、言葉で」
そこまで言われて、私は腰を曲げて、耳元で自分の気持ちを言葉にする。
静かな部屋。いるのは2人。小さな声で言わなくてもいいけど、私は小さな声で自分の気持ちを言葉にする。
“小さいときから……ずっと、大好き……。今も好き”
するとあいつは私の目を見て、そして、私のおでこにおでこをつけて返事をする。
「おれもずっと大好き。今も、これからも変わらずずっと大好き」
その言葉に涙がまた溢れ出す。
「泣き虫」
「だって……」
すると、私にキスをしてきた。それは啄むようなキス。
「くすぐったい、よ……」
「泣き止むかなって、思ってさ」
「……、ファーストキスはもうちょっとロマンチックな雰囲気が良かった」
そう言うと「ちっちゃい頃にしたよ」と、幼い頃の事を喋り出す。話を聞かなくても覚えているが、それはちょっと違う気がする。だって、女の子は誰でもファーストキスに夢を見たくなる。だから、私はこう言った。
「今度の土曜日、遊園地にある観覧車のてっぺんでキスして。それをファーストキスとしてカウントするから」
「わかった」
そう言う、幼なじみの顔は微笑んでいた。
読んで頂きありがとうございました。