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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ホリーホックホーリー㉘

吉野を肘掛のある1人掛けに座らせて、伯方、西崎、深見、太郎も思い思いに、腰を落ち着けた。

それぞれ自己紹介をする。

特に西崎の時は目を見張って驚いていた。

「西崎…」

「ええ。お名前を伺って、もしやと思っていたのですが、初めまして。」

西崎は苦笑いを浮かべた。


「お知り合いでしたか。」

と、伯方。

「はい。いえ。お会いするのは初めてで、その…私は二神弁護士の高校時代からの友人、で…」

吉野がチラッと西崎を伺った。


「二神は私の兄なんです。」

吉野の言葉に被せるように西崎は説明を続けた。

「二神は大学を卒業してすぐ、母親の実家に養子に出まして、それで苗字が違うんです。」


「ほぉ〜」「なるほど、」


「二神弁護士とは?」

深見が問う。

「俊葵君の叔父さんの戒田 糺さんが社長をされている会社の顧問弁護士さんです。」

太郎が答えた。


「私の身内話はこれくらいにしまして、

吉野さん。吉野さんはどうしてここに監禁されてしまったのかについて心当たりはありますか?」

西崎は、さっさと話を切り替え、吉野に向き直った。


「はい…心当たりは、あります…」

と言うが、吉野の声のトーンは低い。


「吉野さんは、高峰 稀世果の件で、調査をされていた事はお聞きしています。橋本先生の依頼も引き受けておられたとか…」

西崎がそこで微笑むと、


「…そこまでご存知なら…」

吉野が躊躇いがちに話し出した。

「ある日、僕はターゲットを尾行していました。そこで写真を撮ったんです。その写真は依頼主…二神に渡しました。間も無く、橋本先生の秘書の長井さんに依頼を受けて、その依頼内容が被ったんですね。それで、前の二神の時の資料が使えて…だから二神にもう一丁サービスしてやろうかと、別の関係者を調べ始めました。そうしたら、長井さんもその関係者を調べて欲しいと依頼して来て、」


「なるほど。又もターゲットが被ったと…ところで、東京での任務の間、吉野さん自身も尾行されたそうですね。」

ピタッ、

吉野が体を強張らせた。

「はい…」


「その尾行はずっと続いたんですか?」


「地元に戻ってからは、尾けられてるとは感じませんでした。」


「そうですか。尾けられなくなった理由を考えましたか?」


「はい…牽制だったんだと思いました。東京を離れたから、尾けられなくなったんだろうと、」


「なるほど。これ以上首を突っ込むなと、」


コクリ、吉野は頷いた。


「お話の途中すみません。西崎さん。僕達にも分かるように説明してもらえませんか?」

太郎が、口を挟んだ。


「ああ、すみません。独走が過ぎましたね。

東京で、吉野さんを尾行していたのは、警視庁だったと僕は思っています。」


一斉に吉野を見ると、頷いて見せた。


「吉野さんが尾行していたターゲットをその人たちは既にマークしていた。だから途中で現れた吉野さんが邪魔だったんでしょう。」


伯方と太郎と深見が頷くのを見て、西崎は吉野に向き直った。


「吉野さん。二神に渡した写真とは、本島のカフェのオープンテラスで撮ったものですね?」


吉野が頷く。


「二神によると、その写真には、高峰 由稀世と田村巡査部長の他に長井さんも写っていたそうです。長井さんはそこで、伊野業 克哉参議院議員の第一秘書高瀬さんと会っていた事を認めました。」


ギョッとしたように吉野が顔を突き出す。


「あなたと連絡が取れなくなり、直前の仕事が原因だろうと睨んだ二神は、写真をつぶさに見て、そこに長井さんを見つけ、東京まで会いに行ったそうです。

そこで、長井さんが、やはり、調査を依頼したあなたと連絡がつかないと話したので、お互いの持てる情報を共有するに至ったと言っていました。

高峰 稀世果の父親と、その死亡案件を捜査をしている警察官がなぜ親しげに話していたのか、その調査をあなたに依頼した。そうですよね?」


吉野は目を潤ませてコクリと頷いた。


「田村と高峰 由稀世の関係は一先ず置いておいて、田村と伊野業議員は随分と古い繋がりだったようです。

田村は、幼い頃ネグレクトを受けていました。小学校低学年の頃ははろくに通えず、三年生の頃に児童相談所に保護され、児童養護施設に入りました。中学二年生の時、父親の弟が現れ、彼を引き取りました。それが大野です。」


「「「えっ、」」」

伯方、太郎、深見の三人が同時に声を上げた。

しっ、

西崎さんの声に、三人は決まり悪そうにしている。


「田村を引き取ったとはいえ、大野は情報屋のような事をしていて、生活も安定していなかったようです。その頃、伊野業と出会ったみたいですね。大野が引き合わせたのかどうか、それは分かりません。

二年の二学期まで学校も欠席しがちで、進学の意思も見えなかった田村が、年が明けると突然毎日登校するようになり、成績もメキメキ上がっていったそうです。そして、聖和学園高校に入学しました。そこでの田村は品行方正で、生徒会長まで務めていますね。卒業後、警察官採用試験を受けて合格。現在に至ると、」


「大野と田村は、伊野業に金銭的な援助を受けていたと見て間違いねぇな。」

と、伯方。


「そうですね。本人が認めるとは思いませんけど、」

深見が言うと、全員の目が廊下の奥に向かった。


「しかし、大野と伊野業も繋がってたわけですよね。こうなると、娘の朱子あかねさんと一葵君の出会いについても、勘ぐってしまいそうになります。」

太郎が思案顔で言うと、


「そんな事ありません!一葵さんと朱子さんはお互いを想い合っていました!」

西崎が珍しく声を張り上げた。


「すみません。そんなつもりじゃなくて…」

太郎が身を竦める。

西崎が頭を下げた。

「私こそ、言い過ぎました。」


ドドドド、

足音が近づいて来て、

カチャ、

ドアが開いた。


「大きな声が聞こえたけど?」

真司が顔を出す。


「あ、いや、疲れてるのかな。」

深見が苦笑いする。


「大野の様子はどうだ?」

伯方が聞いた。


「寝ちまったっす。」

「そうか。」

「そうだ。ここの台所のもの使ってもいいかって、向こうの人が言ってるけど、いいっすか?コーヒー淹れてくれるみたいっす。」

「おお、いいな。よろしくって言ってくれ。」

「うっす。」

ドアが閉まった。


「伊野業と高峰 由稀世との繋がりについては、二神から既に聞いています。」


吉野が、

「あー、」と言い、

コクリと頷いた。


「伊野業と田村の繋がりを調べたせいで、あなたはここに閉じこめられてしまったのでしょうか?」


吉野がかぶりを振る。


「それだけではないと思います。ああ、でも分からない…」


西崎の眉間に深い皺が寄った。


「長井さんの依頼ではありましたが、正直、高峰 由稀世に興味はありませんでした。カフェで田村と親しげに話していたとしても別に…娘の死の真相を知りたくて外国から乗り込んで来た親というラベリングは別に不自然じゃないですよね。」


ーーああ、そういう考えね。ーー

高峰 由稀世から太郎に掛かってきた電話の話を知っている四人には、その視点はかえって目新しいものだった。


「結局、その、ノーマークの高峰 由稀世に監禁されてしまったわけですからそう思うのも無理はありませんね。閉じこめられた原因がそれだけではない。と思う別の理由も教えてもらえますか?」


「写真を撮りました。」

そう言って吉野はぶるっと体を震わせた。


「写真…とても際どい写真なんですね。」


コクリ、吉野は頷いた。


「伊野業議員秘書の高瀬さんと相原参議院議員秘書がホテルのラウンジで密会している写真です。」


ーーそれが何?ーー

伯方と深見と太郎はポカンとしている。


西崎の眉間にさらに深い皺が刻まれる。


「相原衆議院議員と言えば、党の幹事長のポストを争う、橋本先生のライバルです。そう言えば…」


西崎は携帯電話を取り出し、何やら検索を始めた。


「先月の新聞です。」


“LG (Limited Government)の先鋒、東京地検特捜部に任意同行求められる。公職選挙法違反で、”


「LGとは、小さな政府の略称です。小さな政府とは、出来るだけ税金の徴収を小さくし、民間の活動を活発化させ、その代わり政府は必要最低限の組織を運営するだけにしていこうという考え方の事です。

須崎議員は時に過激な言動で、省庁や公的機関の予算の無駄使いを指摘してきました。ここに書いてあるように、LGの先鋒と言っていい政治家です。」


「須崎議員は、当然、予算の削減そのものを訴えていたわけですよね?」

と、深見。


「そうです。」


「つまり、省庁の敵だ。族議員の敵とも言えるな。」

と、伯方。


「ええ。」


「須崎議員の地元は、相原議員と同じ県内ですね。」

深見が言うと、

西崎が目を見張った。

「そうです!」


「橋本先生と伊野業議員の地元は隣り合っている。」


「ええ!そうです。」


「次の選挙では、須崎議員と相原議員の県内は、いわゆる1人区になり、橋本先生と伊野業議員の地元は一つの選挙区になる事が決まっている。

exchange murders《交換殺人》ならぬ、exchange plots《陰謀の交換》ってところですね。」

深見が言った。


「単純に交換ってだけじゃなくて、自分でも手を下すって訳か、恐れ入るぜ、

それにしても、写真だけかい?とったのは、」


コクリ、

吉野は頷いた。


「あんたを取っ捕まえたら、その写真がビンゴだって言ってるようなもんだって、伊野業()()は気がつかなかったのかねぇ。」


「それだけ、伊野業側は焦ってたのかも知れない。」

と太郎。


「そうですね。」


「その写真は取り上げられちまった?」


「それは…」


「まあ、いいや。まだ何にも解決したわけじゃないからな。お守り代わりに持っときなよ。」

伯方がニヤリと笑った。











































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