ホリーホックホーリー㉕
バタン、ガッタン、ガタガタガタ…
ーー嫌な音だ…ーー
立ち上がって、その音の正体を確かめようとするのだが、どうしても体が言うことを聞かない…
ーーああ、耳障りだ…誰か、止めてくれよ・・・ーー
目を開けると、辺りは暗闇だった。座ったままで意識を途切らせていたようだ。首を持ち上げると、真新しい畳の匂いと泥の匂いが鼻を突いた…
はっ、
太郎は、すぐ側の押入れに目を移した。開いた形跡はない。耳を澄ますが、外の風雨が激しくて…
ーー風雨?そうだあの物音!ーー
夢の中でも聞いた音が断続的に聞こえてくる。
「玄関か…変だな。」
押入れの中の大野が気になったが、隙間の多い襖だ。窒息する事はないだろうと、太郎は和室を出た。
廊下を歩く。
誰もまだ戻って来ていないようだ。
「山城さん?」
壁を伝いながら歩いていく。
「山城さん!」
返事がないことを訝しみつつ、台所、トイレ、と一つ一つ見ていった。
浴室の前に来た時、何か固いものを踏みつけてしまった。
「ん?何?」
触るとそれは、
「ロープ⁈」
太郎は玄関に走り込んだ。
ドアが強風を受けてあの不快な音を立てている。開きっぱなしの原因は、またしてもロープだった。
「あーあああー、そんな!」
太郎は叫び、外に飛び出した。
辺りをキョロキョロ見渡すと、庭の脇の木立ちを仕切る竹塀の扉がパタパタと風に揺れ動いている。さっきその扉は閉じていた。ということは、この扉を開けた誰かがいるということだ。
太郎が走り込むと、そこに白いブーツが転がっているのが見えた。さらに近づく。
「山城さん!」
転がっているのはブーツだけではなかった。
由稀世を見張っていたはずの山城が、額から血を流して倒れていたのだ。
「あああ、なんて事…すぐに手当てを、誰か呼んで来ま…」
太郎が道路に走り出ようとすると、山城が太郎の足首を掴んだ。
「え、あ、なん、で…」
「うっ…ゆ、きよは…う、海に…」
ハアハア…
苦しそうに荒い息を吐きながら、右手を上げ、ここに来るときに通って来た道とは別の方向を指差す。
暗闇でよく見えず目を凝らしていると、その時、稲光が光り、さっきは見えなかった、海の方向にわずかに開けた細い道筋のようなものが見えた。
「分かりました。高峰はここを通って行ったんですね。すぐに後を追います。頑張って、気を確かに!」
太郎が早口で言うと、
山城は頷き、
「あ、の、キック、あったら、だい、じょぶ、」
そう言ってにっと口の端を横に伸ばすように笑って見せると、持ち上げていた頭をくたりと地面に落とし、気を失ってしまった。
太郎は拳をグッと握った。
「ごめんなさい。山城さん、一旦助けを呼びますよ。そしたら、高峰の後を追いますから!」
太郎は、正面の道を滑り下りるように駆け出した。
道路には数台の車が到着していた。
「誰か!山城さんが大怪我をして、庭で倒れてます!裏木戸の所です。」
「何だと!」
すぐに伯方が太郎の脇をすり抜け、波間の敷地に戻っていった。
西崎が走り寄って来た。
「山城さんを襲って由稀世は逃げました。海だそうです。僕は後を追います。」
「待って!一人では危険です。」
西崎が鋭く叫んだ。
「それより、今家の中は無人です。大野の見張りをお願いします。」
「待って!」
尚も西崎は追い縋る。
それにも構わず、太郎は浜辺に向かって駆け下りながら叫んだ。
「大丈夫。山城さんに太鼓判を押された武器が有りますから。」




