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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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神様の飛び石⑥

翌日の日付が変わる頃、俊樹一行はひた走るバスの中にいた。

あの後、世話をしてくれたシドニー総領事館の書記官や警察関係者と別れ、随分小さくなった俊葵一行は、幸一や葵の体調を考慮し、ズレドボのモーテルにもう一泊のつもりでいた。

しかし、部屋に入るやいなや、西崎に、予定が変わったと呼びつけられて、バスに押し込められたのだった。


「日本のマスコミから問い合わせが来たそうなんです。」

西崎がいつものとり澄ました様子で言った。


「警察にね。それで急遽出発を早めたのよ。幸い、運転手さんがメルボルンまで引き受けてくれたから。thank you.Mr.Gordon.」

井上が声を張り上げる。


くすんだ緑色の柄シャツを着ているような腕を高く振り上げ、その声に応じるゴードンは、Tシャツ一枚の姿で、元気なことこの上ない。


「no worries《全然大丈夫さ》!」


半分夢の中にいる葵が、その声で瞼をピクつかせた。



夜通しを走り抜け、メルボルンの市内に到着したのは、通勤ラッシュの始まった時間帯だった。

大勢の人が歩き、車が走る様子を俊葵は異星人にでもなったような気分で眺める。


ーーそっか、空港に到着したのは夜中で、スレドボに向けて出発したのは夜明け前。明るい時間に日常生活を見るのはこの国に来て初めてなんだ…ーー


イギリス風のクラッシックな建物と現代建築、緑あふれる街並みの中を抜け、バスは近代的な地下駐車場の中に入っていった。

そこにはダークスーツをきっちり着こなした幸一より少し若い男性が待ち構えていた。

幸一がバスを下りると、歩み寄って来て、

「メルボルン総領事の小川です。」と名乗り、「ご子息の事、お悔やみ申し上げます。」と頭を下げた。

「急に無理を言ってすみません。」幸一が疲れを滲ませたしゃがれ声で返すと、総領事は「いえ。頼っていただいてむしろ…」と言い、後ろを振り返る。そこには西崎よりわずかに身長が低い歳若い男が立っていて、「お部屋はお取りしてあります。フロントを通らずそのまま参りましょう。」と言ってエレベーターを指し示した。


案内されてドアを潜ると、寝室が四つもある部屋を用意されていた。

キッチンとそれぞれにバストイレがあるので、ホテルとは少し違うのかも知れない

当然、井上が一人部屋だと思ったが、葵が井上と一緒にいたいと言い出して、俊葵が一人部屋になる。

誰もが食事よりベッドだと思っていたようで、挨拶もそこそこにそれぞれの部屋に入っていった。



ーーメルボルン・・・シドニーでもなく、ゴールドコーストでもなく、どうしてここに…コジオスコ山に行くのなら、シドニーの方が便利だったはず…ーー


ようやくシャワーを浴び、濡れた髪をタオルで拭きながら、俊葵は、ズレドボからここまでのドライブを思い出していた。葵は途中で乗り物酔いを起こしたし、幸一の顔は真っ青だった。


ーーチャーターの小型機を使った可能性もあるって言ってたけどそれにしたって相当揺れるだろう。祐葵の体への負担を考えない父さんじゃないはず…ーー


部屋に備え付けの冷蔵庫を覗く。ミネラルは見当たらない。代わりに見たことのない賑々《にぎにぎ》しいアルミ缶が二本入っている。アルコールでないことを確かめプルを押し込む。炭酸のシュワシュワという音がやけに大きく聞こえた。


俊葵は高さのあるベッドにゴロリと横になる。


ーーオーストラリアに来てからの父さんには違和感しか感じないーー


髪を乾かさなければと思いつつ、瞼が重くなっていく。


ーー俺と葵は、父さんのごく狭い一面しか知らなかったっていうことなのかな…ーー
















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