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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ホリーホックホーリー㉓

一同は、波間の見取り図を囲んでいる。

以前は学校だったのだから、探せば紙や鉛筆の部類はすぐに見つかった。目を覚ました真司に食事を摂らせた後、適当でいいからと見取り図を書かせたのだが、実家の今井工務店で一通りの大工仕事をこなしてきた真司は、かなり詳細な見取り図を書き上げていた。


「すると、監禁されている人がいるとしたらこの場所以外には無いわけだ。」


真司はコクリと頷いた。

「台所や水回り以外は純和風の作りで、鍵が掛かる部屋は、由稀世さんが使っている部屋とこの部屋しか無いっす。」


「入り口は、まあ当然だが一つだけか…窓はどうなってる?」


「窓は、め殺しで、幅は二メートル位かな。」

「二メートル…でかいな。いざとなりゃ、割ってそっから入るか…」


真司がブンブンと首を振った。

「いやいや、窓が有るのは、天井スレスレで、高さはこんくらいっすよ!」

そう言って、両手で肩幅より狭い長さを示している。


「嵌め殺し?その窓では検査は通らないでしょう?」

西崎が言う。

「そうなんすよ。俺も外観を最初に見た時からおかしいなぁーって、」

「あるいは、申請では居室としていないのかも…」


建築基準法においての“居室”とは、人が常時居ることを想定した部屋の事で、居室として申請するためには、自然採光と自然換気のために、床面積に対してある一定の開口部を設ける事が義務付けられている。


「でも、壁の長さから言ったら八から十畳大は有るんすよ。それに、シャワーとトイレは付いてるって、非居室の申請が通るはずないっす。」

と、真司は口を尖らせた。


「へぇー、じゃ、検査通ってから窓を付け替えたんじゃねぇか?」

と、伯方。


「それもあり得るっす、親父の奴…」


「それにしても随分と手の込んだ事を…」

西崎が上唇に人差し指を当てた。


「ま、その部屋に外から入る事は難しいって事は分かった、別の方法を考えよう。」

と、伯方は、見取り図に顔を近づけた。


「はい、」

と応えたものの。西崎はまだ何かを考えている様子だ。

「…どうしたんですか?」

太郎がそっと聞くと、西崎は口の端を持ち上げるようにして、

「南向きですね…」

と、見取り図の部屋の部分を指で叩いた。


伯方の腹心、下重の携帯がまたメールを着信している。

おそらく、波間の屋敷を監視している伯方の部下だ。

屋敷の様子に動きがないかどうかを見張っていて、定時連絡をしてくるのだ。今回に限っては、不用意に島民が屋敷に近づかないようにするためにも重要な役割である。


「屋敷は、いつも通りです。例の高い窓以外の明かりが点いたみたいです。」


下重の言葉に伯方が頷いた。


「真司。大野が使っている部屋はどこだ?」


「ここっすね。」

玄関から一番遠い北東の角の部屋を指差す。


「入り口に鍵は掛からないって言ったか?」

「そっす。和室で、玄関が一番遠いっすけど、廊下の突き当たりになるんで、これ、」

と、壁を指差した。

「勝手口か、」

「て言うより掃き出し窓っすね。」

「じゃあ、普通にガラス窓だな。」

「うっす、」

「侵入経路が一つできたな。」

「二人は夜、何時頃に寝る?」

「分かんないっすけど、夕食は遅くっても九時には出すから、大野さんはその後風呂入ったりするけど、由稀世さんは、食ったらそのまま部屋にこもりっきりっす。」


「そうか。じゃあ、そうだな。9時以降を目安に動くぞ。」


下重は頷き、指を動かした。


「それにしても、本当にこの家の中に閉じ込められているのかなぁ?」

「ん?」

伯方が聞き返す。


真司が頭の上に両手を組んだ。

「食事の用意してた俺が言うの変なんすけど、俺が寝起きしてたのって、この監禁部屋の隣じゃないっすか。だけど、夜中物音を聞いた事もないし、食器も俺が下げた事もないし、人が居る気配全く感じなかったんすよねー」


「気配が無い・・・」

西崎がおうむ返しに呟き、皆を見渡した。

「多分…設備でしょうね。さっきから不思議だったんです。高峰 由稀世は、主導権を握っているはずなのに、シャワートイレ付きで南向きの、この家の中で一番条件の良い部屋を使ってはいない。

この部屋に防音設備が施されているのに気が付いて、監禁部屋に使うのに都合がいいと思ったのかも知れません。」


「なるほどな〜」

伯方が関心して唸った。

「しかし、」

さらに西崎は続ける。

「そうなると厄介です。中の人に連絡を付けるのが困難になります。」


「そうだなぁ。防音が整ってるとしたら、俺たちが飛び込んで行ったところで、外の騒ぎが聞こえねぇはずだもんなぁ。」


それから、侵入口になりそうな場所の検討を重ねていたが、誰ともなく、もし、高峰 由稀世か大野が反撃して来たら、武器を持っていたら、と言い始めると、一同に重苦しい空気が流れた。

駐在に来てもらったら。という話も出た。田村が島の男達に事情聴取する際、駐在を伴っていなかった事から、高峰 由稀世と結託している心配はないとは思うが、だからといって今更、一から話して信じてもらえるだろうか?


この作戦で誰かが怪我でもしたら、命を失う事でもあったらと思うと、皆で一丸となって頑張ろうとも言い難いのだ。


西崎は立ち上がった。

「ここで、止めたい。という方がいても私はいいと思ってます。

波間の屋敷で捕らえられているとみられる方は、皆さんとは直接的には関係が無い方です。義理を感じる必要はありません。」

そう言って目を伏せる。


ダン!

伯方がテーブルに思い切り手を突き、隣に座っていた太郎を足で避け、西崎ににじり寄る。

「関係が無いだぁー、ここをどこだと思ってる?俺らが住む島だぞ!この島ん中で悪さをされたとなっちゃあ、島全体の沙汰になんだよ!」

と言うと、西崎の胸倉を掴んだ。


掴まれた西崎は怯むどころか伯方を睨み返している。


「なあ?そうだろ?」

伯方は西崎のシャツの前立てをワシ掴みにしたまま部下に聞いた。


コクコク、

部下と真司が頷いた。


伯方が太郎を見る。


「波間は僕の本家です。」

上擦る声で告げる太郎。


そこで、

「僕を仲間外れにしないでしないでください!」

深見が叫ぶと、


ブブブッ、

伯方が噴き出した。

そのせいで伯方の手が緩み、

ゲホッ、ゲホッ、

解放された西崎が咳き込んだ。


「何て馬鹿力だ。まったく!突入する前に命を落とすところでしたよ。」






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