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沈丁花の咲く家  作者: 新井 逢心 (あらい あいみ)
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ホリーホックホーリー⑲

コクン、

真司の幼い子供のような頷き方に、周りの大人たちは思わず笑顔を見せた。


「真司君。どうして友達を避けていたんだい?」

西崎が尋ねる。


「それは…刑事さんが、

稀世果と関係のあった奴等は全員重要参考人で、其奴そいつらはお互いに自分が逮捕されないようにするために他の奴を陥れようと企んでいる。稀世果と関係があった人間の調査はまだ終わっていなくて、誰がそうなのかはっきり分かっていない。だから、親父が犯人にされてしまわないように、余計なことを言ったり聞いたりしないために、必要最低限の人間としか話してはいけない。って、だから…」


真司が言い終わるや、

「おいおい、」

伯方が声を上げた。


「こっちが聞いてる話と全然違うぜ。

その刑事とやら、漁協関係者にはほとんど事情聴取さえもしに来やがらなかった。

その他の連中、役場の出張所やら農協関係やら勤めてる連中には、背の高い奴で年若い奴を知らないか?って聞きまわるばかりでよ、高峰 稀世果と関係があったのは誰か、なんて聞かれた奴なんか一人もいねぇんだぜ。」


真司が呆気に取られている。

「それって、まるで俊葵のことじゃないっすか、」


伯方が苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。


「真司君、真司君は橋本家に仕掛けていた防犯カメラの話を警察に話した?」

と西崎。


「はい。

週刊誌に書いてる事は間違いだらけだったし、高峰 稀世果にストーカーされてたのは俊葵の方だから、それが証明できれば俊葵の疑いは晴れると思って、」


「それで、その映像を刑事に見せた?」


真司はかぶりを振った。


「なぜ?」


「なぜっていうか…その映像、VHSビデオテープを使うタイプなんすけど、俊葵に、テープは使い回ししないで全部取って置いて欲しいと言われてて、十何本もあるんすよ。センサーが付いてて、動くものがカメラの前に来たら作動するようになってるんで、それでもテープの数抑えられてる方なんすけど、ずっと撮りっ放しで放ったらかしだったから、刑事さんに見せる前に、目を通しとこうと思って、そしたら、何か映ってて、」


「何か?」


「はい。あの家山の上なんで、鳥とかイタチみたいなのとか映ることもあるけど、この場合そんな小動物が映る筈はなくて、」


「と言うのは?」


「実は、稀世果が映ってから、ずっと何ヶ月もカメラが作動してなかったんで、カメラを撤去しようかという話になったんす。でも、まだテープもあったし、稀世果はずる賢いから、カメラの場所を知って、そこに映らないようにして家に近づいているかも知れないと思って、カメラの位置を変えてたっす。頭の上にあったのを、これ位の高さに、」


そう言って真司は自分の胸辺りを手で指し示す。


「そうか、それで何が映っていたのか分かったの?」


コクリ、

「大野さんです。」


あー、はぁー、

誰とも無く、呆れ声が漏れる。


「鍵を何かの器具で開けようとしていたのか、俯いてしばらく何かやってて、やがて消えました。」


「それについて、つまり映像を見せてない事で、刑事には何も言われなかった?」


「いいや。言われるのを待ってたんすよ。むしろ、」


「待ってたの?聞かれるのを?」


真司は頷き、

「だって、俊葵ん家の庭で稀世果を見かけたのも大野さんだし、墓参りのためにあそこにいたって言ってたけど、実際は空き巣紛いのことしてたんすよ。刑事の身内のくせに…まず、それを説明してもらわないとって思うじゃないっすか!」

と、口を尖らせた。


「え、身内って言った?刑事の?」


伯方と太郎が顔を見合わせた。深見はじっと目を閉じたままだ。


「はい。俺二人が話してるのを聞いたんすよ。兄ちゃんって言ってました。」


「刑事って、田村さん?」


コクリ、

真司が頷く。


「田村刑事が大野さんを兄ちゃんって呼んだの?」


「そうっす、」

下らないことを聞くとばかりに真司は口を尖らせたままだ。


「ごめんね真司君。それ、私達にとっては新情報だったんだ。」


真司は目を見開き、それからコクコク頷いた。


「それと、どうして映像に関して田村刑事は何も言わなかったんだろうね。」

西崎が問う。


「多分…ゆうさんが来たから、」


「ゆうさん?」


「ゆうさんは、田村刑事の代わりに来たんだと思います。

田村刑事が次に島に来た時ビデオテープを見せる約束だったんですけど、結局来なくて、それから会ってないっす。」


またもや新情報だ。

息を詰めていた一同が一斉に吐息を漏らす。


じっと話を聞いていた深見が目を開けた。

「ゆうさんの話の前に、聞かせて欲しいんですが、」


真司が頷く。


深見は、大きくにっこりと笑った。

この笑い方に西崎は馴染みがあった。これは職業的なものだ。


深見はさっと口元を引き締める。

「真司君。君は、誰かに脅されたり、縛られたりしていたのではないのかな?」


ブンブン音がしそうに真司は首を横に振った。


「手伝ってただけっす、」


「何を?」


「何ていうか…ゆうさん、怪我をした人を匿ってて、その人は、稀世果が死んだ件の証言をするはずの人なんだけど、ヤバイ人に追われてる人で、それで怪我をしたって、で、その人の世話を手伝って欲しいって、俺に頼んできて、それで手伝ってるっす。」


「で、世話って具体的には、傷の手当てとか?食事?入浴?」


「いや。メッチャ怯えてるらしくって、傷の手当てとかはまだ他の人にはさせられないとかで、俺が手伝ってるのは、決まった時間に部屋の前に食事運んで、空いた食器回収して、」


「君がいなくって、今日の食事の世話はどうなってるんだろう?」


「俺は週末だけっす。週の間は、郵便局の仕事優先にして、って言ってくれてるんで、俺が居ない時は大野さんが見てると思います。」


「ここの場所の事を即メールで知らせようとしたのは、強制されていた訳じゃないんだよね?」

西崎が聞いた。


「はぁ、残業とか、あったら知らせてって言われて、変わった事あったら特に連絡してって、俺がもしヤバイ人に尾けられたりしたら、その人を逃がさないといけないからって、」





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